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空間の支配者 月へ向かう ~ 第30話 ~

[ガウ=ラ・フューリア 牢獄]

トーヤ(フューリーが異星人だってことは、 もう間違いない……)
トーヤ(だけど、どこから、いつ地球に来たんだ……?  俺の年齢から考えて、17、8年ぐらい前なら……)
トーヤ(あいつらはエアロゲイターどころか、メテオ3よりも 先に俺達の星へ来てたってことになる……)
トーヤ(………)
トーヤ(俺達の星、か……。 半分は地球人じゃないってのにさ……)
メルア「………」
トーヤ(ずっと黙ったままか……無理もない)
トーヤ(俺は父さんがフューリーじゃないかと 思ってたけど、メルアは……)
メルア「トーヤさん……」
トーヤ「何だ?」
メルア「私達がサイトロン・コントロール・システムを 使える理由……それは、半分フューリー人 だからなんですよね、きっと」
トーヤ「……そんなことを考えてたのか」
メルア「お父さんかお母さんのどちらかが…… いえ、お父さんがフューリー人なら、 今まで疑問に思っていたことの説明が付きます」
トーヤ「疑問?」
メルア「お父さんは自分の過去を語りませんでした…… そして、私の健康状態を常に気にしていました……」
トーヤ「親が子供の健康を気にするのって、普通じゃないか」
メルア「物心が付いた時から、 月に一度のペースで精密検査を受けていたんです。 身体が弱いわけじゃなかったのに……」
メルア「あれは……地球とフューリーのハーフである 私のデータを、克明に記録するためだったのかも……」
トーヤ「………」
メルア「トーヤさんは、どうだったんですか?」
トーヤ「そんなことはなかったけど……」
メルア「そうですか……。 私達が地球人とフューリー人のハーフなら、 カティアちゃんとテニアちゃんも……」
トーヤ(だよな、間違いなく……)
(足音)
トーヤ(誰か来た……)
諜士「皇女殿下がお呼びだ。 マスクと拘束具を付けた上で、連行する」
トーヤ「………」

[ガウ=ラ・フューリア 刻旅の杜]

シャナ=ミア「……2人のマスクを取りなさい」
諜士「はっ」
トーヤ「ここは……?」
メルア「あれ、何なんでしょう……?」
シャナ=ミア「我々フューリーについて語る前に、刻旅の杜を 見ておいてもらった方がいいと思ったのです」
トーヤ「こくりょのもり……?」
シャナ=ミア「人工冬眠施設のことです。 あの中では、数万の民が千年単位の 冷たい眠りについています」
メルア「人工冬眠……!?」
トーヤ「それに、千年単位って……!」
シャナ=ミア「私達フューリーは遙かな昔、 遠く遠く離れた星系で栄えた帝国でした」
シャナ=ミア「しかし、大災厄により母星と多くの同胞を失い、 かろうじて生き残った者達が超大型宇宙船 ガウ=ラ・フューリアで脱出しました」
シャナ=ミア「そして、宇宙を放浪した末に地球へ辿り着いたのです」
トーヤ「そ、それが千年前……!?」
シャナ=ミア「いえ、もっと昔……数千年前と言っておきましょう」
メルア「じゃあ、あなた達は遙か昔に地球へ来た フューリーの子孫なんですか……?」
シャナ=ミア「さほど世代は重ねておりません。 そこにいるダ=ニーアは、過去の大災厄を 実際に経験しています」
ダ=ニーア「………」
トーヤ「あ、あんた、いったい何歳なんだ……!?」
ダ=ニーア「70は超えておらぬぞ」
トーヤ「えっ!?」
メルア「あ……もしかして、人工冬眠で……」
シャナ=ミア「そう……私達は母星を失った後、 超長期の人工冬眠を繰り返すことによって 幾星霜を凌いできたのです」
トーヤ「な、何で、そんなことを……」
シャナ=ミア「私達自身がいつの日か故郷に還るため…… そして、世代を重ねることによって、 自分達の力や技術が失われぬようにするためです」
トーヤ「だから、どうして……」
シャナ=ミア「全ての発端は、私達の母星に存在していた遺跡、 ル=クク・ヴォーデュ……ヴォーダの門……」
シャナ=ミア「そして、それは地球にも存在しています。 トウ=ヤ、メルア、あなた達も知っているはず…… 災厄をもたらす門のことを……」
トーヤ「ま、まさか!」
メルアクロスゲート……!」
シャナ=ミア「そう……私達は南極氷下にあった ヴォーダの門を封印し、長年監視し続けてきたのです」
シャナ=ミア「かつてフューリーの母星を壊滅させ、 地球にも危機をもたらした ヴァウーラの再来に備えて……」
トーヤ「ヴァウーラ……?」
シャナ=ミアヴォーダの門から現れる破滅の軍勢です。 その姿形は出現する度に異なりますが…… 彼らの目的は常に同じ」
シャナ=ミア「知的生命体の負念を集め…… 無限に広がり続ける宇宙を、無限に原初の闇へと 戻し続けるものを顕現させることです」
トーヤ「そ、それって……ジョッシュさん達が 封印戦争で戦ったルイーナと……」
シャナ=ミア「ええ、同じ存在だと言えましょう」
トーヤ「………」
シャナ=ミア「私達はヴァウーラと戦い、 多くの犠牲を払いながらもフューレイムの加護によって ヴォーダの門の封印に成功しました」
メルア「フューレイム……?」
シャナ=ミア「フューリーの創世神……頭に光輪を頂く巨人の神です」
トーヤ「頭に光輪、巨人って……まるでグランティードだ」
シャナ=ミア「そう…… あれは長きに渡り、我が皇家に代々伝わる物で…… フューレイムの魂が宿っていると言われています」
トーヤ「それって、神話や伝説とかじゃないのか」
シャナ=ミア「玉座機を操れるのは、フューレイムの子と呼ばれる フューリー初代皇帝の血脈に連なる者……」
シャナ=ミア「すなわち、皇家の主と その近衛……聖禁士長を代々務める シューン家の長のみです」
トーヤ「シューンって、父さんの……」
シャナ=ミア「ええ。あなたの本当の名はトウ=ヤ・シューン…… そして、エ=セルダと同じく、玉座機を操れる力と 資格を持っているのです」
トーヤ「………」
メルア「でも、私が乗ってもグランティードは……」
シャナ=ミア「玉座機に選ばれし者が1人乗れば、動かせるのです。 私もそうなのですが、修練を積まねばあれで戦えず…… 真の力を発揮することが出来ません」
トーヤ「修練……? じゃあ、俺が初めて1人で グランティードに乗った時、動かなかったのは…… 未熟だったからなのか」
シャナ=ミア「しかし、あなたはその後の戦いで バスカー・モードを起動させました」
シャナ=ミア「それは、あなたにエ=セルダと同じ…… いえ、彼以上に優れた資質が備わっているという 証左でありましょう」
トーヤ「お、俺が……父さん以上の……?」
ダ=ニーア(半分は地球人だというのに…… 本来ならば、あり得んことだ)
シャナ=ミア「だからこそ、エ=セルダは あなたに玉座機を託したのかも知れません」
トーヤ「もし……もし、グランティードが真の力を発揮したら、 どうなるんだ? 何が起きる?」
シャナ=ミア「………」
シャナ=ミア「……ヴァウーラを退け、ヴォーダの門を 封じることが出来ます。かつて、私の父と エ=セルダはそれを成し遂げました」
トーヤ「!!」
シャナ=ミア「玉座機にそのようなことが出来るのは、 創世神フューレイムが宿っているからだと思います」
トーヤ(父さんが……クロスゲートを封印したなんて……)
シャナ=ミア「先日、ヴォーダの門より放たれた拡散光…… あれが地球に降り注がれた後、各都市に ジェヴィルンが現れました」
トーヤ(それって……ひょっとして、ラマリスのことか)
シャナ=ミアジェヴィルンヴァウーラの関係は まだはっきりしていませんが……ヴォーダの門が 再び開かれる前兆かも知れません」
シャナ=ミア「トウ=ヤ……どうかあなたの力を貸して下さい。 刻旅の杜で眠る我が民と、地球人達のために」
トーヤ「………」
シャナ=ミア「その身体に二つの種族の血が流れるあなたなら…… いえ、あなたこそが、フューリーと地球を 救える者かも知れないのです……!」
トーヤ(二つの種族……地球とフューリー……)
シャナ=ミア「どうか……どうか、トウ=ヤ……」
ダ=ニーア「……皇女殿下、ここまでです。 この場は諜士で固めておるものの、 従士達が事を知れば、騒ぎになります」
シャナ=ミア「ですが……」
ダ=ニーア「いけませぬ。お立場を弁えなさいませ。 大事の前ですぞ」
シャナ=ミア「……わかりました」
ダ=ニーア「諜士よ、この者達を牢へ戻せ」
諜士「はっ」
トーヤ「待ってくれ! まだ聞きたいことがある!  俺達が生まれた本当の理由は何なんだ!?  父さんは何故、ここから出て行ったんだ!?」
ダ=ニーア「疾く連行せよ」
トーヤ「教えてくれ、シャナ=ミア!」
諜士「さあ、来るんだ!」
(足音・諜士とトーヤ達が立ち去る)
シャナ=ミア「………」

[ガウ=ラ・フューリア 内部(執務室)]

グ=ランドン「そうか、皇女殿下が……」
フー=ルー「時間を掛けて説得するおつもりのようですが…… どうでしょうか」
グ=ランドン「彼奴はエ=セルダの息子だぞ」
フー=ルー「しかし、玉座機の力を引き出しつつあるのは 事実ですわよ」
グ=ランドン「わかっておる。 皇女殿下がそこまで拘るのであれば、 手綱として使えよう」
フー=ルー「どうなさるのです?」
グ=ランドン「彼奴らをフューリー人に…… 私に忠誠を誓う下僕にすれば良いのだ。 サイトロン受容器を埋め込んでな」
フー=ルー「しかし、それでは脳に支障をきたすおそれが……」
グ=ランドン「まずは小娘で試す。 同化計画の実験体として、役に立ってもらう」

[ガウ=ラ・フューリア 内部(諜士の間)]

ダ=ニーア「このままでは、皇女殿下が本気で 鋼龍戦隊と手を結びかねん。 それは何としても避けねばならぬ」
カロ=ラン「グ=ランドンではなく、私へ その話を持ち込まれたのは…… 先手を打ちたいというわけですな」
ダ=ニーア「左様。皇女殿下に内密で事を進めたい」
カロ=ラン「内密……つまり、ラースエイレムを用いよと?」
ダ=ニーア「うむ、騎士には頼めぬことだ。出来るか?」
カロ=ラン「宰士長閣下のご命令とあらば」
ダ=ニーア「まずは紛い物の『鍵』を始末すべきであろう」
カロ=ラン「我が配下からの報告によれば、 彼らは拠点を出て海上を進み、 クロガネに合流したとのこと」
ダ=ニーア「鋼龍戦隊に協力しておる戦艦だったな。 そなたが出るのか?」
カロ=ラン「いえ、他に適任者が…… 彼奴らに並々ならぬ恨みを抱く者がおりますれば」
ダ=ニーア「では、任せたぞ」

《日本 神津島沖(クロガネ)》

[クロガネ ブリッジ]

クルト「レーツェル様、進発準備が整いました」
レーツェル「では、テスラ・ライヒ研究所へ向かってくれ。 極東方面軍の管轄空域内は飛行して構わん」
クルト「はっ」
レーツェル(はたして、例の物を受け取るのが先か、 フューリーとの接触が先か……)
ギリアム「……運次第かも知れん。 彼らはいつ現れてもおかしくないのだから」
レーツェル「私が何を考えているか、よくわかったな」
ギリアム「フッ、長い付き合いなのでな」
レーツェル「では、ブリーフィングを始めよう。 例の2人を呼んでくれ」
ギリアム「本当にいいのだな?」
レーツェル「我が隊は正規軍ではない。 戦力は少しでも多い方が良かろう」
(扉が開く)
ラージ「レーツェルさん、ギリアム少佐、少しお話が」
レーツェル「何かね?」
ラージ「先程、テスラ研にいるフィオナから連絡がありました。 予定を繰り上げ、1時間後に出立するそうです」
ギリアム「調整は完了したのか?」
ラージ「いえ。少しでも時間を短縮するため、 移動中に出来ることはやりますが、 残りは合流後になると」
レーツェル「了解した。 合流ポイントを算出し、彼らに伝えてくれたまえ」
ラージ「わかりました」

[クロガネ ブリーフィング・ルーム]

レーツェル「……以上が我々を取り巻く情況だ。 そこで、君達に協力してもらいたいと考えている」
ジーク「本気かよ」
サリー「ガディソード軍は地球軍と敵対しているのに……」
レーツェル「この艦のクルーの大半は、 かつて反体制側に与していてな。 しかも、敵として戦った者もいる」
アルフィミィ「その通りですの」
アクセル「………」
ジーク「だが、正規の地球軍人もいるじゃねえか」
ギリアム「私は指揮官であるレーツェルの判断に 従うつもりだが」
ジーク「……一つ聞きたい。あんた達の目的は何だ?」
レーツェル「しばらくの間、鋼龍戦隊と行動を共にしたことで 理解してもらえていると思うが」
ジーク「ふん……俺達を囮にするか、 もう一度ラブルパイラへ行くことになった時、 水先案内をさせる気なんだろう?」
ギリアム「囮というのなら、それは我々全員に当てはまる。 そのためにアリアードなど一部の機体を除き、 海上を飛行させてクロガネと合流したのだからな」
アクセル(妙な指示だと思ったが、そういうことか)
ギリアム「水先案内の件は否定できないが…… ラブルパイラへ赴くことがあっても、 出来うる限り戦闘は避けたいと思っている」
ジーク「ヘルルーガとゴライクンルに そんな気はないだろうさ」
ギリアム「ならば、実力を以て障害を排除するしかあるまい」
ジーク「バイオロイドならともかく、 身内と戦うのは御免だが……ヴォート騎長には 直接聞きてえことが山ほどある」
ジーク「それに、ヘルルーガとラットマの連中を 野放しにする気はねえ」
レーツェル「ギリアムが言った通り、我々を狙う敵は多いぞ」
ジーク「こんなとんでもねえ星で野垂れ死んでたまるか。 攻めてくる奴らは迎え撃つ」
サリー「あ、あの……私も協力しますが、 お願いしたいことがあるんです」
レーツェル「何だ?」
サリー「監視が付くのは仕方ないと思いますが、 軟禁は解除してもらえませんか」
レーツェル「いいだろう。フェアリ・クリビアも含めてな」
サリー「ありがとうございます!」

[クロガネ 格納庫]

フェアリ「なるほど、そういうことだったの……」
アケミ「これでしばらくの間、 窮屈な思いをせずに済むわね、フェアリさん」
フェアリ「ええ……」
サリー「それじゃ、私……ここの整備員さんに ヴァーガのレクチャーをしなくちゃならないから」
アキミ「あ、あのさ」
サリー「何?」
アキミ「良かったら、後で艦内を案内しようか?」
サリー「そうね……時間があったら、お願いするわ。 それじゃね」
(足音・サリーが立ち去る)
アケミ「案内って……私達もクロガネに乗ったばかりなのに」
アキミ「う、うるさいな。スペースノア級なんだから、 中はハガネとだいたい同じだろ」
(足音)
ジンプウ「さあ、休憩は終わりだ。 もう一頑張りして、ハイパー・ブラスト・ソードを 使えるようにするぞ」
アキミ「わかったぜ」
フェアリ「あの……ジンプウさん。お願いしたいことがあります」
ジンプウ「何でえ?」
フェアリ「私もジークやサリーと同じように戦いたいと思います。 アリアードを使うことは出来ませんか?」
ジンプウ「はあ!?」
アキミ「な、何言ってんだよ、フェアリさん!?」
フェアリ「私もパイロットとして訓練を受けているわ」
アケミ「だ、だからって……」
ジンプウ「お前さん、 本職は偉い奴のボディーガードだったんだろ?」
フェアリ「お願いです。 当事者の1人として、見ているだけなんて嫌…… 私もヴォートに直接聞きたいことがあるんです」
ジンプウ「けどよ、さすがにアリアードは……」
アケミ「そうよ。もし、あれを奪われちゃったら、 元も子もないじゃない」
フェアリ「だったら、空いている機体を……」
ジンプウ「いや、その……困ったな」
アキミ「……フェアリさん、本気で言ってるんだな?」
フェアリ「ええ、もちろん」
アキミ「なあ、ジンプウさん、アケミ。 セイバーブースターのコックピットに 乗ってもらうってのはどうかな」
アケミ「ええっ!?」
ジンプウ「おいおい、お前さんまで何を言い出しやがる」
アキミ「でも、フェアリさんを1人で パーソナルトルーパーやアーマードモジュールに 乗せるより遙かにましだろ」
アキミ「それに、セイバーブースターに乗って、 ダメージ・コントロールや索敵の補佐を やってもらえると助かるし」
アケミ「だけど、そんなの……」
フェアリ「お願い、私にやらせて、アケミ。 足手まといにはならないわ」
アケミ「う、う~ん……」
フェアリ「私は自分の目で真実を確かめたいの。 そのためにラブルパイラから脱走したのだから」
フェアリ「そして、出来ることなら ガディソードと地球の戦いを止めたい」
アケミ「……わかったわ、フェアリさん」
ジンプウ「仕方ねえな……上に話してみるか」

《太平洋 海中(クロガネ)》

[クロガネ ブリッジ]

クルト「レーツェル様、まもなく合流ポイントです」
レーツェル「了解した。 総員に第一種戦闘配置命令を出した後、浮上せよ」
クルト「はっ」

ベルゼルート・ブリガンディのサブパイロットは
カティア テニア


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