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厭客再来 宇宙ルート ~ 第2話 ~

《L1宙域付近(鋼龍戦隊)》

[ハガネ ブリッジ]

アヅキ「タンゴ2、第3デッキに着艦。 PTXチーム、帰艦しました」
ギント「副長。イルムガルド中尉には司令から 急ぎ出頭するよう通達が出ている。 第3デッキに回しておけ」
テツヤ「了解。 イルムガルド中尉に司令からの出頭命令を伝達します」
ギント「アヅキ曹長、 月面に出現したアンノウンに関する新情報は?」
アヅキ「ありません」
テツヤ「艦長、アンノウンと接触する可能性があります。 新編成での慣熟航行は、中断した方がいいのでは ないでしょうか」
ギント「その判断を下すのは、私ではない。 イルムガルド中尉の報告が終わり次第、確認する」
テツヤ「では、せめて、訓練準備を中止し、 第二種戦闘配置命令を……」
ギント「副長」
テツヤ「申し訳ありません。出過ぎた具申でした」
ギント「私への意見は構わん。 お前は前任の艦長だったのだからな」
テツヤ「いえ……事故とは言え、自分の指揮する艦が 前大統領閣下の命を奪ってしまったのです。 妥当以上の処分であると認識しています」
ギント「これまでの戦績あってのことだ。 そして、強大な力を持った鋼龍戦隊を より強固に統制するため……」
ギント「統合参謀本部からマイルズ司令が派遣されたのだ。 そのことを忘れるな」
テツヤ「……はっ」

[ハガネ 格納庫]

リュウセイ「ほ~う、赤いエクスバインもなかなかいいじゃん」
リオ「でしょ?」
マイ「タイプLは、アンテナの形が違うんだ」
リオ「実はあれ、ダミーなの。納期が繰り上げられなかったら 高性能通信モジュールと、エアデータ・センサーの 試作品を取り付ける予定だったんだけど」
アヤ「APT-LINKシステムはどう?」
リオ「イルム中尉によるテストの結果は、良好でした」
イルム「ああ、念動力がない俺でも あのシステムに対応する念動兵器が 使えるようになった」
イルム「もっとも、本物のT-LINKシステム念動力者には敵わんが」
リュウセイ「いや、あれであっさりと Rシリーズ以上の力を発揮されたら、 俺達の立場ってもんが……」
イルム「まあ、乗り越えなきゃならない壁は多いよ。 性能だけでなく、コスト面でもな」
リオ「そうですね……」
リュウセイ「でも、APT-LINKシステムのおかげで 機体乗り換えの幅が広がったよな」
リョウト「うん。エグゼクスバインのT-LINKシステムも 再調整して、イング以外の人でも使えるようにしたし」
リュウセイ「ところでさ、新生PTXチームは グルンガスト改、エクスバイン・タイプR、 エグゼクスバインと青系の機体揃いなのに……」
リュウセイ「リオのタイプLだけ赤いよな」
リオ「まさに紅一点って感じでしょ」
リュウセイ「なるほど、上手いこと言うねえ。 それで、あっちの機体が アシュアリー・クロイツェルの……」
リョウト「うん、ベルゼルートだよ」
リュウセイ「脚が細過ぎる……って言うか、 脛はほとんど板じゃん。あれじゃ、陸戦は無理だろ」
カルヴィナ「だから、何? 空戦用の機体よ。 膝から下はランディング・ギアみたいな物だし」
リュウセイ「えっと、あんたは……」
イルム「ベルゼルートのパイロットだ。 さてと、ホワイト・リンクス。 俺達は戦隊司令の所へ出頭だ」
カルヴィナ「いきなりトップと面会? 予想外の歓待ね」
イルム「まったくだ。晩餐は期待しないでくれよ」
カルヴィナ「わかってるわ。案内して」
(足音・イルムとカルヴィナが立ち去る)
テニア「あの、あたしは……」
リオ「食堂に案内してあげる。 食欲がないかも知れないけど、 何か食べておいた方がいいわ」
リュウセイ「あれ、どうしたんだ、その子?」
リョウト「ああ、彼女もベルゼルートに乗ってたんだ」
リュウセイ「えっ、マジかよ。まだ子供じゃねえか」
テニア「だから、どうだって言うの?  そっちの子だって、あたしと同じぐらいの年じゃない」
マイ「私のことか?」
リュウセイ「あ、いや、別に俺は……」
テニア「子供扱いしないでよ。 それに、あたしは好きでこんな所に……」
(腹の虫がなる)
テニア「あっ……」
リオ「とにかく、食堂へ行きましょっか。 私もおなかが空いたし」
テニア「う、うん……」

[ハガネ 戦隊司令公室]

イルム「イルムガルド・カザハラ中尉、 カルヴィナ・クーランジュ元少尉と共に 出頭致しました」
カルヴィナ「……敬礼はしないわよ」
マイルズ「イルムガルド中尉…… 何のために彼女を連れて来たのかね」
イルム「え? 司令から出頭命令が出ていたのですが……」
マイルズ「そもそもの話だ。 君はカルヴィナ・クーランジュ元少尉を 本艦に連行すべきではなかった」
イルム「ですが、不法戦闘行為を見逃すわけにはいきません。 事情聴取なり、査問なりが必要かと」
マイルズ「その通りだ。 しかし、その戦闘が行われたのはどこだ?  これは月面管区司令部が判断すべき問題である」
マイルズ「たまたま慣熟航行で宇宙に上がってきた一戦隊が 関与すべき案件ではない。君はカルヴィナ元少尉を 月面管区に引き渡すべきだったのだ」
マイルズ「いや、そもそも、現場へ急行する前に 私の判断を仰ぐべきだった。にも関わらず、 君は独断で行動し、こちらへの報告を怠った」
イルム(緊急事態に対する現場判断…… なんて言うと、長引きそうだな)
カルヴィナ(これは……ガチガチの堅物ね)
マイルズ「だが、結果としてカルヴィナ・クーランジュ元少尉を 本艦に収容することになった以上、仕方がない。 私の方で月面管区及び統合参謀本部に報告しておいた」
マイルズ「上からの正式な決定が出るまで、 元少尉には居住ブロック内でのみ 行動の自由を認める」
カルヴィナ「戦闘区画に入るなってこと?  冗談じゃないわ。あの連中が現れたら、 ベルゼルートで出るわよ」
マイルズ「冗談ではないだと? それはこちらの話だ。 民間人の人型機動兵器による不法戦闘を 許可するわけにはいかん」
マイルズ「先の戦闘では正当防衛であったと見なされる 可能性があるが、今後は看過するわけにはいかん」
マイルズ「いずれ行われるであろう査問まで ベルゼルートと、君に同行していた民間人の少女も 我々の管轄下に置かれる。そう理解したまえ」
カルヴィナ「そんな、そっちの都合で……!」
マイルズ「犯罪者扱い、そして身柄を拘束されないだけでも マシだと思って欲しいものだな」
カルヴィナ「………」
マイルズ「では、イルムガルド中尉。 カルヴィナ・クーランジュ元少尉を 居住ブロックへ連行したまえ」
イルム「はっ」

[ハガネ 食堂]

カルヴィナ「……名高い鋼龍戦隊は、 もっとフランクな雰囲気かと思っていたわ」
イルム「ま、この間まではそうだったんだけどな。 さて、ここが食堂だ。戦闘艦にしては 充実してると思うぜ」
カルヴィナ「あまり興味がないわ。 必要カロリーが摂取できれば、それでいい」
イルム「ストイックだねぇ……」
テニア「……あ、カルヴィナ」
イルム「おう、ここにいたのか……って、何だ?  その皿……そんなに食べたのか、お前達で?」
マイ「ううん、フェステニアだけ」
イルム「マジかよ。 大人の男でも、その量は一人じゃ無理だぜ」
テニア「実は、その……おなかがとっても空いてて……」
リオ「気にしなくていいのよ。ねえ、リョウト君?」
リョウト「う、うん」
リョウト(もしかして、毎回これぐらい食べるのかな……?)
リュウセイ「で、イルム中尉、どうだったんスか?」
イルム「あの司令公室へ呼び出されて、 褒められるわけないだろ。 そもそも論を展開されたよ」
リュウセイ「あ~、やっぱり。 俺もこないだ、小一時間説教されたもんなあ。 ターゲット・ドローンを壊し過ぎちまった件で」
リュウセイ「一回、ライとガチでやり合って欲しいぜ。 あいつも口が立つからさ」
マイ「そもそも、ライディースは 司令に怒られるようなことをしないと思う……」
リュウセイ「うっ……」
イルム「隊長としての立場ないねえ、俺」
テニア「……ねえ、これからあたしはどうなるの?」
カルヴィナ「お偉いさんの判断待ちよ」
テニア「そう……」
リオ「フェステニア、この艦にいる間はゆっくり休んで」
テニア「ありがとう。それと、テニアでいいよ。 父さんと母さんは、そう呼んでたから」
イルム「じゃあ、カルヴィナは?  カリンと呼べばいいのか?」
カルヴィナ「ッ!?」
イルム「な、何だよ?」
カルヴィナ「……その呼び方は止めて。絶対に」
イルム「ああ……わかった」
イルム(やれやれ、こっちも根が深そうだな……)
(アラート)
テツヤ「副長より総員に告ぐ。 本艦前方に所属不明機の集団を発見した。 総員、訓練準備を中止し、第一種戦闘配置」
カルヴィナ「所属不明機? まさか……!」
イルム「落ち着け。俺達は出撃だが、お前はここを動くなよ」
カルヴィナ「でも、あいつらだったら止めさせないわ。 あたしはベルゼルートに乗る」
テニア「カルヴィナ……」
イルム「気持ちはわからんでもないがな、 軽はずみなことはしないでくれ。 投獄されたりしたら、目的から遠ざかるだけだぜ」
カルヴィナ「……!」
イルム「どうした?」
カルヴィナ「何でもない」
カルヴィナ(昔、アリーにも似たようなことを言われた……)
カルヴィナ(……見透かされたかな)


第2話
厭客再来

〔戦域:宇宙空間〕

(南東端にハガネがいる)
エイタ「目標群の識別、終了!  ゾヴォークの機動兵器です!」
マイルズ「何だと!?」
ギント「……副長、ゾヴォークは封印戦争後、 地球圏への不介入を決定したはずだな?」
テツヤ「はっ。非公式ではありますが、我々はその件を ゾヴォーク枢密院特使のメキボス・ボルクェーデから 直接聞きました」
マイルズ「連中は我々を欺いたのだよ。 異星人を信用するから、こういうことになる」
エイタ「目標群、加速! まもなくレンジ2!」
ギント「……司令、ご指示を」
テツヤ(この情況でも艦長は司令にいちいち確認するのか)
マイルズ「我らで迂闊に戦端を開くわけにはいかん。 ここはいったん撤退して、統合参謀本部の 指示を仰がねば……」
テツヤ(そんな悠長なことを……!)
(ハガネにアラート)
エイタ「目標群、接近! レンジ2!」
(北西側に敵機が出現)
テツヤ「艦長!」
ギント「司令の命令を待て」
テツヤ「……!」
エイタ(早く迎撃命令を出さないと、ヤバいって!)
マイルズ「艦長、直ちに戦域から離脱しろ。 ただし、目標群との交戦は禁ずる」
ギント「善処しますが、艦に損傷を受ける可能性が大です。 今後の行動に支障が出かねませんが、よろしいか?」
マイルズ「む……。 ならば、やむを得ん。迎撃を許可する」
ギント「了解。 針路このまま、両舷前進第一戦速。 短SAM発射後、各機発進。目標群を迎撃せよ」
テツヤ(……艦長は司令の命令を 鵜呑みにしているわけではないのか)
(R-GUNパワード、R-1、R-2、R-3、ART-1が出撃、出撃準備)
リュウセイ「……発進命令が出るまで、妙に時間が掛かったな」
アヤ「そうね。前はこんなことなかったのに」
イルム「あの3人の微妙な関係のせいだな」
リョウト「そんなことを言って、大丈夫なんですか?」
イルム「ああ、誰だか特定してないし」
リオ「それにしても、ゾヴォークが また襲ってくるなんて……メキボスが 言っていたことは、嘘だったんでしょうか」
イルム「枢密院の意向とは関係なしに動く連中もいるだろう。 例えば、ゼゼーナンの後ろ盾だった戦争商人の ゴライクンルとかな」
ライ「今度は彼らが侵略戦争を仕掛けてくると?」
イルム「いや、侵略とは限らないぜ。 こないだの大戦じゃ、クロスゲートを 手に入れようとした連中もいたんだから」
ヴィレッタ「私語はそこまでになさい。 散開し、敵機を迎撃する」
ライ「了解」
(作戦目的表示)

〈vs バイオロイド兵〉

[リュウセイ]

リュウセイ「ゾヴォークめ、いつになったら 地球から完全に手を引くんだよ!」

[ライ]

ライ(今度はゾヴォークも迂闊に戦端を開くわけには いかないはず……イルム中尉が言った通り、 ゴライクンルなのか?)

[アヤ]

アヤ「封印戦争が終わって、 それほど時間が経っていないというのに……」

[ヴィレッタ]

ヴィレッタ(敵の狙いが私達なら、転移戦法を仕掛けてきても おかしくないが……)

[マイ]

マイ(またゾヴォークとの戦争が始まるのか……?)

〈敵機全滅〉

エイタ「戦域内の敵機反応、全て消失!」
ギント「全周警戒を厳となせ。機動部隊各機を帰艦させろ」
マイルズ「アヅキ曹長、統合参謀本部との回線を開け」
アヅキ「了解です」

《L1宙域付近(鋼龍戦隊)》

[ハガネ ブリッジ]

マイルズ「……以上が、戦闘の概要です」
ダニエル「情況は把握した。 君の判断で戦端を開いたことについて、 責を問うつもりはない」
マイルズ「ありがとうございます」
ダニエル「それで……敵は確かにゾヴォークであったのだな」
マイルズ「回収した敵機の残骸を調べたところ、 簡易検査ではありますが、封印戦争で確認された 彼らの機動兵器に酷似しております」
マイルズ「もっとも、該当兵器を入手した別勢力の 欺瞞である可能性までは否定できません」
ダニエル「了解した。 ゾヴォークへの問い合わせなり、抗議なりは 連邦政府から行われることになるだろう」
マイルズ「では、我々は慣熟航行を続行します」
ダニエル「いや、鋼龍戦隊はクロスゲートへ向かい、 監視艦隊と合流してくれ。これはゾヴォーク関連と 思しき敵対勢力に対する、念のための措置だ」
マイルズ「了解です。 今後、ゾヴォーク戦力と接触した場合は いかが致しましょう?」
ダニエル「臨機応変に対処してくれたまえ。 他に何か質問は?」
マイルズ「いえ、ありません」
ダニエル「では、以上だ」
(通信が切れる)
マイルズ「……艦長、聞いての通りだ。 これより本艦はクロスゲート宙域へ向かう」
ギント「了解です」
マイルズ「考えてみれば、運のいい男だな、君は」
ギント「………」
マイルズ「先の戦役で乗艦を失った君の前に、 不祥事で艦長が降格となった 大型戦闘母艦があった……」
マイルズ「こんな奇跡でもなければ、 もう君は艦を任されることもなく、 辺境の小基地へ赴任していたかも知れない」
ギント「……司令のご配慮には感謝しております」
マイルズ「うむ、それでいい」
マイルズ(……鋼龍戦隊を預かった以上、現場判断で 非常事態に対処するのも必然ということか)
マイルズ(ならば、扱いこなしてみせよう。 そうしてこそ、私の力量を統合参謀本部の 主流派に示すことが出来るというものだ……)

[ハガネ 食堂]

リュウセイ「えっ、今からクロスゲートへ行くのか?」
アヤ「ええ、理由は聞いてないけど」
ライ封印戦争終盤、ゴライクンルは独自に動き、 クロスゲートの掌握を目論みました。 それと似たケースが起きると想定したのでは?」
リュウセイ「あいつら、空間転移戦法が使えるんだぜ。 その気になりゃ、ダイレクトにクロスゲートへ 仕掛けてくるんじゃね?」
ライ「何らかの理由があって不可能なのか、 あえてその手を使わないのか……」
リュウセイ「う~ん、腑に落ちねえな。 ゾヴォークのふりをした別の敵だったりして」
ライ「そんなことは……」
ライ(いや、あり得るか)
イルム「何にせよ、危険区域に放り込まれるのは、 鋼龍戦隊の宿命だ。統合参謀本部直属になった 今じゃ、尚更な」
リュウセイ「マイルズ司令の得点稼ぎのために?」
アヤ「リュウ、そういうこと言っちゃ駄目よ」
(扉が開く)
カルヴィナ「イルムガルド・カザハラ中尉」
イルム「ああ、イルムでいいよ」
カルヴィナ「じゃあ、イルム中尉。お願いがあるんだけど」
イルム「デートの誘いは断らないぜ?」
カルヴィナ「ベルゼルートを起動させたいの。 もちろん、外に出るつもりはないわ。 監視付きで結構」
イルム「完全スルーかよ。まあ、それはおいといて。 目的を聞かせてくれ」
カルヴィナ「起動させられるかどうか、試したいのよ」
リュウセイ「へ?  じゃあ、月でPTXチームと出会う前は どうやって動かしたんだよ?」
カルヴィナ「あの時はアシュアリー・クロイツェル内で、 外部スターターがあったから」
イルム「他の場所で、 あんただけで起動させたことはないのか?」
カルヴィナ「そうよ。だから、試したいの」
カルヴィナ(今後のためにね……)

REPORT
機体『アルブレード・カスタム』を入手しました。
機体『アーマリオン』を入手しました。
機体『F-32Vシュヴェールト改』を入手しました。


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