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捧げられた生贄 ~ 第5話 ~

[不明 (市街地)]

カイル「……久しぶりだな、セルシア」
セルシア「カイル…… こんな所へ呼び出して、何の用?」
カイル「今、俺はウォン重工業で 例のシステムの開発を行っている」
セルシア「えっ……!?」
カイル「ジジやユルゲン博士と一緒にな」
セルシア「あの2人が生きていたの……!?」
カイル「ああ、俺達と同じくな」
セルシア「それで……私を連れ戻す気?」
カイル「まあ、そんな所だ」
セルシア「今さらあのシステムを 完成させてどうなるの……?」
セルシア「もうDCは存在しない。 エアロゲイターも滅びたわ」
カイル「だが、その後で何が起きたか…… お前も知っているだろう?」
セルシア「もちろんよ。 でも、あのシステムがなくても、 地球人は地球圏を守れるようになった」
カイル「ハッ、馬鹿を言うな。 噂じゃ、こないだ北米を占拠した異星人は、 先遣部隊に過ぎないらしい」
カイル「連中が本腰を入れてきたら、 今度はどうなるかわからないぞ」
セルシア「だけど…… あのシステムで、彼らの侵攻を防げる保証はないわ」
カイル「今のユルゲン博士なら、出来る。 それに、俺達はDC以上の後ろ盾を得た」
カイル「博士の計画が成就すれば、 地球圏の守りはより強固なものとなる」
セルシア「そのために……協力しろと?」
カイル「ああ」
セルシア「でも、私は……」
カイル「セルシア、あの時のことを思い出せ」
カイル「アードラーの策略で プロジェクトは闇に葬り去られた」
カイル「俺達のやってきたことが、 つまらない嫉妬で否定されてしまったんだ」
セルシア「………」
カイル「そして、俺達は戦火の中で それぞれの大切なものを失った」
カイル「俺はプライドを……お前は友人を。 その時の悔しさや悲しさを思い出すんだ」
セルシア「だ、だけど……」
カイル「なら、俺のために力を貸してくれ。 俺達には……いや、俺にはお前が必要なんだ」
セルシア「やめて、カイル。 ……私の下から去っていったのは、あなたなのよ?」
カイル「やり直そう。 俺達も……プロジェクトも」
セルシア「! カイル……」
カイル「頼む。力を貸してくれ」
セルシア「………」
セルシア「……いいわ。 それで……私は何をすればいいの?」
カイルテスラ・ライヒ研究所へ入ってくれ。 入所の手続きは、こちらでしておく。 そして、俺からの指示を待て」
セルシア「わかったわ……」

[不明 (輸送機機内)]

レーツェル「ウォン重工業のゲシュタルト……?」
ギリアム「そう…… 次期主力機トライアルに提出される機体だ。 しかし、その詳細は謎に包まれている」
レーツェル「そんな物のエントリーが、 よく許可されたものだな」
ギリアム「情報規制も異常なまでに厳重だ。 故に軍の担当者とメーカーが癒着していると思われる。 だが、それよりも問題なのは……」
レーツェル「人型機動兵器開発の実績を持たぬ ウォン重工業が、何故トライアルに提出できるような 機体を作り得たのか……だな?」
ギリアム「その通り。 イスルギ重工からの技術提供があったにせよ、 不自然だ」
レーツェル「それで、ギリアム…… 私に聞きたいこととは?」
ギリアム「ゲシュタルトに搭載されているという AMNシステム……それに聞き覚えはないか?」
レーツェル「………」
レーツェル「……かつてのEOTI機関で 開発が進められていた、アーマードモジュールの ネットワークシステムだ」
ギリアム「ならば……DC絡みということにもなるな」
レーツェル「ああ。 AMNシステムは改良を重ね、 『ODEシステム』の礎となったが……」
レーツェル「EOTI機関がDCへ移行した後、 開発が中止され、プロジェクトメンバーも解散した」
ギリアム「プロジェクトの責任者は?」
レーツェル「ヴィルヘルム・V・ユルゲン博士だ」
ギリアム「……今、彼はどこに?」
レーツェル「L5戦役以後、消息不明となっている」
ギリアム「ODEシステム……ユルゲン博士……。 反応が消えたスカルヘッド同様、気になるな」
レーツェル「反応が消えた? どういうことだ?」
ギリアム「イスルギやウォンの説明では、 広範囲ステルスシェードのテストを 行っているからだと言うことらしいが……」
ギリアム「それが事実かどうかは疑わしい」
レーツェル「予防線を張られたか?」
ギリアム「かも知れん。 いずれにせよ、調査すべき対象が増えたようだ」
レーツェル「……その内の一つは減った。 ラウル達のことは、とりあえず心配なかろう」
レーツェル「例え、 彼らが我々に話すことの出来ない事実を 抱えていたとしてもな」
ギリアム(後は……ラウル達次第か)

《地球連邦軍南欧方面軍 アビアノ基地》

[地球連邦軍アビアノ基地]

アラド「皆さん、お久しぶりッス」
アイビス「元気そうだね、アラド。 相変わらず、ご飯、たくさん食べてる?」
アラド「そりゃもう! それが取り得ッスから」
ゼオラ「アラド……無芸大食って言葉、知ってる?」
アラド「無芸ね……。 おれもお前みたいに胸が大きけりゃ、 腹踊りならぬ胸踊りが出来るんだけどなぁ」
アイビス「む、胸踊りって……」
アラド「凄いッスよ。 とぷんとぷんのたゆんたゆんで」
ゼオラ「な、ななな、なに言ってんのよ!  私、そんなことやってないわよっ!!」
ラトゥーニ「ゼオラ……」
ゼオラ「ホントにホント!  絶対にやってないもん!!」
アラド「……やってたら、ちょっとアレだよな~」
(肘鉄)
アラド「いてっ!」
ゼオラ「あんたが言い出したことでしょうがっ!!」
アラド「そ、そうでございますデス」
ゼオラ「私だって、好きでこんな……」
アイビス「そんな…… 世の中にそんな悩みもあるんだ……」
ツグミ「ふふ……そういうのは人それぞれよ、アイビス。 富める者は富める悩み、 貧しき者は貧しき悩みってね」
アイビス「あ、あたしは 別に悩んでなんかいないよ……!」
ツグミ「はいはい、そういうことにしておきましょう」
ブリット「でも、驚いたな。 教導隊が担当するはずだったトライアルに、 俺達とプロジェクトTDまで呼ばれるなんて」
ゼオラ「新型機の模擬戦の相手として、 高機動型のアーマードモジュールと 最新型の特機が必要だったみたいです」
ブリット「それで俺達のグルンガスト参式と アイビスに白羽の矢が立ったのか……」
クスハ「アイビスさんも来るってわかってたら、 洗顔用エッセンスを持って来たのに」
アイビス「そ、それって、もしかして…… チベットでどうとか言ってた……」
クスハ「ええ」
アイビス「いや、あれはちょっと……」
アラド「それにしても、 土壇場で色々決まったみたいッスね」
アラド「おれ達、クスハ少尉達が来るってこと、 ついさっき聞いたんスよ」
クスハ「え? そうなの?」
ゼオラ「はい。 昨日からここに待機させられていて…… 外部と連絡を取っちゃ駄目だって言われて」
アラド「おかげで、ラトは ハガネのリュウセイ少尉と話が出来なくなったもんな」
ラトゥーニ「うん……」
ツグミ「新型機に関することだもの。 色々と機密事項が多いのも仕方ないわね」
アラド「しかし、アイビスさんだけじゃなく、 ツグミさんも呼ばれてたんッスね」
ツグミ「当然よ。 私だってパイロットなんだから」
ラトゥーニ「タカクラチーフは、 システムエンジニアだったはずでは……」
ツグミ「ふふ……実はね。 インスペクター事件の後、アステリオンはね……」
(足音)
ラミア「タカクラチーフ、 それ以上は今は話さないでくれ」
ツグミ「あ、ラミア少尉……」
ゼオラ「どういうことです、少尉?  アステリオンに何か機密事項でも?」
ラミア「ああ。 先程、マウロ・ガット准将から 命令を受けたのだが……」
ラミア「これより、教導隊とグルンガスト参式、 新アステリオンの模擬戦を行うことになった」
アラド「い!? マジッスか!?」
クスハ「じゃあ私達、トライアルで 新型機の相手をする前にラミア少尉達と 戦うんですか?」
ラミア「その通りだ。 よって、事前に互いの機体の情報を交換しないように」
ラミア「私としてもせっかくの機会だ。 訓練として意義のあるものとしたい」
ブリット「それは了解しましたが、 随分と急な決定ですね」
ラミア「どうやら、 トライアル機の到着が遅れているらしい」
ラミア「それを待つ間に マウロ准将は我々の戦技を視察したいそうだ」
アラド「視察ッスか……。 准将もおれ達の腕を疑ってるんだろうなぁ」
アイビス「どういうこと?」
ラトゥーニ「かつての教導隊と比較して、 私達の力量を疑う声が上がっているんです」
アラド「端から見りゃ、子供の集団だもんなぁ。 しかも、おれとゼオラはDC出身だし」
ブリット「つまり、評価試験をするはずの君達が 先に試されるということか……」
ラミア「もっともな話だ。 だが、戦争において名前など何の意味も持たん。 使えるか、使えないかだ」
ラミア「……逆に、 それを証明しさえすれば問題はない」
アラド「まあ、無駄飯食らいって言われないためには 試験ぐらいは仕方ないッスね」
ゼオラ「あなたはホントに 無駄にご飯食べてるけど」
アラド「名実共にってこと? トホホ」
アイビス「……無駄な予算を使っているって 言われてるのは、あたし達も似たようなものだよ」
ツグミ「外宇宙の脅威がリアリティを得た今、 プロジェクトTDは実現不能な夢物語って 一部では言われているらしいの……」
アイビス「フィリオ少佐の話じゃ、 連邦軍からのプロジェクトTDの予算…… また削られてるらしいし……」
クスハ「アイビスさん……」
ツグミ「もしかしたら、プロジェクトTDは 成果物を兵器に応用することでしか その価値を認められないかも知れない……」
アイビス「それでも、あたしは足を止める気はない……。 そのためには……」
ラトゥーニ「この模擬戦は、プロジェクトTDの 研究成果の発表の場とも言えるんですね」
アラド「つまり、教導隊と プロジェクトTDのどちらにも 負けられねえ理由があるってことかぁ」
ブリット「俺達もATXチーム代表として 頑張らなきゃな」
クスハ「ええ」
ラミア「模擬戦の開始は30分後だ。 各自、準備を行ってくれ」
ゼオラ「了解です」
アイビス「ゼオラ、手加減はいらないよ。 模擬戦なんだから、思いっ切りやろうね!」
ゼオラ「はい。 よろしくお願いします、アイビスさん」
(足音・ツグミとラミア以外が立ち去る)
ツグミ「ラミア少尉……」
ラミア「む? ……どうした、タカクラチーフ。 模擬戦のことで、何か質問でも?」
ツグミ「いえ、私が知りたいのは 今回の次期主力量産機のトライアルの経緯です」
ツグミ「私も事前のスペック審査として、 候補機体のデータ比較に参加しました」
ラミア「………」
ツグミ「ケイテン社のプル・トレロを始めとして、 どの機体もまずまずの仕上がりだと思いました」
ツグミ「しかし、最終的に 今回のトライアルに提出されたのは、 ウォン重工業の機体のみ……」
ツグミ「他の機体は、実機を見るまでもないと いうことなのですか?」
ラミア「ウォン重工業の機体のスペックは 優秀なのかも知れんが……」
ラミア「スペックはスペックに過ぎん。 実際のトライアルもせず、候補を一つに絞るなど、 普通は考えられない」
ラミア「……それが普通でない場合を除いてな」
ツグミ「やはり、今回の次期主力機の選定…… 最初から決まっていたことなんでしょうか?」
ラミア「仮にそうだとしても、 我々は与えられた任務を遂行するだけだ」
ラミア「ウォンの機体が次期主力量産機として 相応しくないのなら、そう判断を下せばいい」
ツグミ「わかりました。 私もAXのコックピットから 自分の目で確かめてみます」
ラミア「頼む。 そして同時に、私は教導隊のチーフとしての 任務も果たさせてもらう」
ツグミ「アイビスじゃないですけど、 私も負けるつもりはありませんよ。 プロジェクトTDの夢のためにも」
ラミア「了解した。 互いに全力でなければ意味がない。 期待している」
(通信)
ラミア「ん? これは……」
ツグミ「どうしました?」
ラミア「カイ少佐からのメールだ。 ……目を通してから出る。先に行ってくれ」
ツグミ「はい」

[地球連邦軍アビアノ基地]

ラミア(シークレットコードを使うとは、 こちらの状況に気を遣ってのことか?  ……それとも……)
(データ送信)
ラミア「!」
ラミア(トライアル機が自爆…… 延期上申は却下……何か裏があるのは確実…… 情報を収集せよ……)
ラミア(監視されている可能性あり……十分留意せよ)
ラミア(……なるほど。 外部とも接触禁止命令が出た理由…… これで見えてきたか)


第5話
捧げられた生贄

〔戦域:アビアノ基地周辺〕

(教導隊メンバーは出撃済み)
アラド「威勢よくタンカを切ったは いいけど、相手はアステリオンと グルンガスト参式だろ」
アラド「ぶっちゃけ厳しいよな~。 ビルガーとかファルケンを使わせて 欲しかったぜ」
ゼオラ「文句を言わないの。 私達教導隊の目的は戦技の研究……」
ゼオラ「あらゆる状況下での戦闘データを 練成することなんだから」
ゼオラ「軍全体の基本フォーマットとして 使用される以上、量産機のデータでなきゃ 意味ないじゃない」
ラミア「フッ、模範的な回答だ。 量産機を如何に効率的に運用するか、 軍隊の戦力向上はそこに尽きる」
ラトゥーニ「私達の データが、その礎になる……。 やりがいのあることだと思う」
アラド(ううっ、みんなして 難しい話してくれちゃってさぁ)
アラド(黒一点ってのは 立場が弱いよなぁ、トホホ)
ラミア「む…… ブルックリン少尉達の準備が 整ったようだな」
(GバイソンとGラプターが出撃)
ゼオラ「あら、参式じゃなくて、 GラプターとGバイソンなのね」
アラド「分離して戦う所を見るのは、 初めてのような気がするなぁ」
ブリット「参式の1号機は 龍虎王と虎龍王に取り込まれたし、 2号機は分離出来ない仕様だったからね」
クスハ「そろそろアイビスさんの方も 出てくるわ」
(アステリオンAXが出撃)
ラトゥーニ「あれがアステリオン……?  形が違う……」
ツグミ「こちらはプロジェクトTD所属、 アステリオンAX、コンディションは オールグリーンです」
ゼオラ「タカクラチーフ……!  本当にチーフがパイロットなんですか?」
ツグミ「そうよ。このAXは複座で メインパイロットはアイビス、 サブパイロットを私が務めるの」
アラド「そのアステリオン、 オノでも装備してるんスか?」
アイビス「アックスじゃなくて アクスだよ、アラド」
アイビス「AXはADVANCED-Xの 略で、プロジェクトTDが次のステップに 進むための実験機なんだよ」
ツグミ「凄いのよ、AXは。従来の機体では 主にテスラ・ドライブで浮遊し、通常 エンジンで機動を行っていたけど……」
ツグミ「AXは 完全にテスラ・ドライブのみで 機体の機動制御を行うんだから」
ラトゥーニ「確かに、通常エンジンの 並列使用を取り止めれば、機体重量は 軽減されますが……」
アイビス「うん……。 スピードは大幅にアップしたけど、 その分、操縦は格段に難しくなったよ」
アイビス「おかげで索敵や システムチェックは、サブパイロットの ツグミに任せっきりなんだ」
ゼオラ「あのアステリオンが さらなる高機動と運動性を 手に入れたなんて……」
アラド「あ、相手したくねえなぁ」
ラミア「戦場では敵の性能は選べん。 格上と戦う訓練だと思えばいい」
アラド「りょ、了解ッス」
ラミア「さて、模擬戦の形式だが、 同時に二つのフィールドを使用する」
ラミア「Nフィールドは、僚機との コンビネーションを重視した戦闘だ」
ラミア「ブルックリン少尉とクスハ少尉、 ゼオラとアラドで組み、 模擬戦を行ってもらう」
ゼオラ「了解です。 ……行くわよ、アラド。 集中しなさいね」
アラド「おう! 伊達に教導隊の飯を たらふく食ってんじゃないってこと、 見せてやるぜ!」
(アラド機、ゼオラ機が南東へ移動)
ブリット「俺達も負けていられない……」
ブリット「向こうが教導隊のプライドを もって挑んで来るなら、こっちは ATXチームの誇りを懸ける!」
クスハ「ええ。 頑張りましょう、ブリット君」
(GラプターとGバイソンも南東へ移動)
ラミア「Sフィールドでは、 私とラトゥーニ少尉でアイビス達を 迎え撃つ」
ラミア「2対1の戦いになるが、 そちらは個人用にチューンされた カスタム機だ」
ラミア「数のハンディキャップはないと 考えていいだろう」
ラミア「それぐらいでなければ、 カスタム機に存在意義などない。 ……わかっているな?」
アイビス「は、はい!」
ツグミ「アイビス、気合で負けちゃ駄目よ。 このアステリオンAXは……」
アイビス「わかってる」
アイビス「あたしやツグミ、 フィリオ少佐、TDのメンバーみんなの 希望を背負ってるんだからね」
ツグミ「よろしい!  ナビゲーションは私に任せて、 操縦に集中してね」
アイビス「頼りにしてるよ、ツグミ」
ラミア(やりがい、誇り、夢……か。 どれも戦争には不要なものだ)
ラミア(だが、それを信じる若い世代を、 戦争をするためだけに造られたモノが 指揮する……)
ラミア(フッ…… アクセル隊長が見たら、 こんな私を笑うだろうか)
(ガーリオン、ビルトラプター、アステリオンAXが北西へ移動)
マウロ「これでいいのだな、 リック・ウォン?」
リック「感謝致します、准将。 これでミロンガは、より完成度を 高めるでしょう」
スタッフ「ルー主任、 データ収集の準備が完了しました」
ジジ「ご苦労様。 Nフィールドの連携戦闘、 Sフィールドの高機動戦闘……」
ジジ「どちらも有効なデータになるわ」
ジジ(ふふ……000、待っていなさい。 これであなたはさらなる力を 得ることになる……)
ジジ(そして、 それは『001』へ受け継がれるのよ)
ラミア「エレープ1より各機へ。 これより状況を開始する。 訓練だと思って気を抜かんようにな」
ラミア(カイ少佐のメールの件もある。 このまま終わるとも考えにくい……)
アラド「了解!  行くッスよ、ブリットさん!  クスハさん!」
ブリット「来い、アラド!  俺とクスハのコンビネーションを 見せてやる!」
アイビス「ラトゥーニ!  他はともかく、高機動戦闘なら 負けないよ!」
ラトゥーニ「プロジェクトTDの 機動マニューバー、見せてもらいます」
(作戦目的表示)

〈vs アラド〉

[ブリット]

アラド「得意の剣術も戦闘機じゃ 宝の持ち腐れッスね、少尉!」
ブリット「手に刃は無くとも心にある!  闘志という俺の剣を受けてみろ!」
アラド「な……なんかカッコいい」

[クスハ]

アラド「あれだけデカい的なら、 外しゃしねえ!」
クスハ「フィールドを 上手く使わなきゃ……!」

[撃墜]

アラド「やっぱり、厳しかった~」
ブリット「いや、お前がビルガーに 乗ってたら、負けていたのは こっちだったかも知れない」
アラド「でも、 機体性能に頼るなって、カイ少佐から 説教食らうのは間違いないッス」
アラド「アラド機、 これにてお役御免ッス」
(アラド機が撤退)

〈vs ゼオラ〉

[ブリット]

ゼオラ「空中戦なら、負けません!」
ブリット「こっちも…… 結果を出してみせる!」

[クスハ]

ゼオラ「向こうは空を飛べない……!  こっちが有利のはず!」
クスハ「あの子の動きを読まなきゃ、 やられちゃう……!」

[撃墜]

ゼオラ「戦車で あそこまで戦えるなんて……!」
クスハ「ううん、こっちも危ない所だった」
ゼオラ「それでも負けは負けです……」
クスハ「そ、そんなに落ち込まないで。 ゼオラはよく頑張ってたわ」
ゼオラ「少尉、 またお手合わせをお願いします」
クスハ「訓練としてなら、喜んで。 私も、もっと練習しておくから」
ゼオラ「ありがとうございます。 では、ゼオラ機……後退します」
(ゼオラ機が撤退)

〈vs ラミア〉

[アイビス]

ツグミ「気をつけて、アイビス!  ラミア少尉ならガーリオンの力を 120%引き出すことができるわ!」
アイビス「わかっている!  だから、こっちもAXの力を引き出して みせる!」
ラミア「いい気迫だ。 だが、それは同時に気負いにもなる。 気をつけることだな」

[撃墜]

ラミア「……見事だ、アイビス。 また操縦技術に磨きをかけたようだな」
アイビス「い、いえ!  それはAXの性能がよかっただけで……」
ラミア「それを使えるか使えないかは パイロットの技量だ。 もっと自分に自信を持て」
アイビス「は、はい!  ありがとうございます!」
ラミア「これで私は撃墜扱いだ。 戦場から一時離脱する」
(ガーリオンが撤退)

〈vs ラトゥーニ〉

[アイビス]

ラトゥーニ「アステリオンAX…… 最高速度はアステリオンの 120%以上……」
ツグミ「さすがね、ラトゥーニ。 AXの性能を的確に分析している」
ラトゥーニ「最高速度では劣っても、 迎撃は可能のはず」
アイビス「負けないよ、ラトゥーニ!  あたし達だってAXの力を認めて もらわなくちゃならないんだから!」

[撃墜]

ラトゥーニ「……アステリオンAX…… 想像以上の仕上がりだった……」
ツグミ「ふふ……プロジェクトTDの 最終機体はもっと凄いわよ」
ラトゥーニ「今のお二人なら、 使いこなせると思います。 ……では、私は離脱します」
(ビルトラプターが撤退)

〈敵機全滅〉

マウロ「フン…… 若造共め、口ほどでもない。教導隊を 名乗っておきながら、このザマとはな」
リック(結果は教導隊の敗北だったが、 原因は機体の性能差による所が大きい)
リック(そんなことも見抜けんとはな。 もっとも、我々にとってはその方が 都合がいい)
ジジ「どう?  必要なデータは集まったかしら?」
スタッフ「はい。どちらの部隊とも、 前の大戦を戦い抜いただけのことは あります」
スタッフ「先程の模擬戦で 補充されたデータによって……」
スタッフ「000の連携戦闘、 高機動戦闘は、ほぼ完成したと 言えます」
ジジ「では、 これでトライアルで負ける要素は 限りなくゼロに近くなったわね」
ジジ(もっとも、万一のための切り札も 用意してあるけど……)
(教導隊機が出撃し、ブリット達も基地の前へ集合する)
ラミア「こちらの完敗だったな」
ツグミ「いえ…… 総合的なパイロットの技量においては、 むしろ教導隊側の方が上でした」
ツグミ「勝負をわけたのは、機体の性能差と 時の運といったところでしょう」
アラド「んじゃ、お偉いさんも おれ達の実力を認めてくれたかな」
ゼオラ「そうだといいけれど……」
ラミア「……戦争は結果がすべてだ。 過程を論じたところで意味はない。 機体性能や運不運、すべて含めてな」
ラミア「だが、巡ってきた運を活かし、 機体性能を引き出せるかはパイロット 次第だ。……各自、それを忘れるな」
ゼオラ「はい」
(ガーリオンに通信)
マウロ「無駄話はそこまでだ。 どうも貴様らは真剣さが足りん」
ラミア「マウロ・ガット准将……」
マウロ「特に、教導隊の4名には 落胆されられた。今回の結果は、貴様らの 甘えが招いたものと思え」
ラミア「……はっ」
アラド(やっぱ、そういう評価か……)
ツグミ(あの人……どこを見ていたの?  彼らは機体の設定値以上の性能を 引き出していたのに……)
マウロ「まあいい。 続いて、次期主力量産機の 評価試験を開始する」
(ミロンガが出撃)
ラミア「来たか」
クスハ「あれがトライアル機……」
ツグミ「こちらにデータが来たわ」
ツグミ「ウォン重工業の 人型機動兵器ゲシュタルト…… VTX-000『ミロンガ』よ」
ラトゥーニ「ミロンガ……」
アラド「ひょっとして、 透明になったりすんのかな?」
ゼオラ「え? 何のこと?」
アラド「あ、いや、こっちの話。 それにしても面構えが悪役っぽいなぁ」
ラトゥーニ「うん……どこか不気味……」
ツグミ「N102-3型の テスラ・ドライブを積んだ 汎用人型機動兵器……」
ツグミ「接近戦、射撃戦のバランスに 優れ、専用のオプション兵器も 幾つか持ってるみたいよ」
アイビス「理想的な量産機だね。 けど、スピードじゃ負けないよ」
ツグミ「くれぐれも慎重にね、アイビス。 AXはまだ試験段階なんだから」
ツグミ「機体強度に問題が残っている以上、 絶対に無理はしないでね」
アイビス「わかってるよ。 でも、AXを乗りこなさなきゃ、 その先には到底たどり着けない……」
アイビス「だから、あたし…… 絶対に負けないよ」
ラミア「エレープ1より各機へ。 模擬戦だが、油断はするな。 ……イレギュラーは付き物だ」
アラド「了解ッス」
ラミア「それから ブルックリン少尉、クスハ少尉は 参式に合体。状況開始まで待機だ」
ブリット「わかりました。 ……クスハ、いいな?」
クスハ「ええ」
ブリット「じゃあ、行くぞ。 TCモード起動。 ガイダンス・リンク、開始」
クスハ「リンク、確認」
ブリット「参式、合体!」
(GラプターとGバイソンが合体してグルンガスト参式が出現)
スタッフ「向こうの準備も整ったようです」
ジジ「手加減して勝てる相手ではないわ。 システムのリンクレベルは、 7にセットしなさい」
スタッフ「了解です」
(ミロンガに『集中』『加速』『ひらめき』がかかる)
マウロ「双方とも、準備はいいな?  では、カウントダウンを開始する」
ジジ「5秒前……4……」
アイビス「………」
ブリット「………」
ラミア「………」
ジジ「3……2……1……0」
マウロ「模擬戦……状況を開始せよ」
ラミア(カイ少佐のメールの件もある。 イレギュラー……起こらなければ、 それに越したことはないが……)
(作戦目的表示)

〈初戦闘〉

[ラミア]

ラミア(何だ? この違和感は。 あまりにも無駄のない…… 無機質な動きだ)
ラミア(違和感というよりは…… 共感と言った方がいいかもしれない。 この機体……有人機ではない……?)

[ブリット]

ブリット「動きは向こうの方が格段に上……!  肉を切らせて骨を断つしかない!」

[アラド]

アラド「こいつ、マジで速い!  動きがよく見えねえ!」
アラド「ホントに 消えてんじゃねえだろうな!?」

[ゼオラ]

ゼオラ「さすがに高性能ね……!  でも、負けてられない!」
ゼオラ「機体の性能だけで 勝敗が決まるわけじゃないんだから!」

[アイビス]

ツグミ(もし、ミロンガがスペック通りの 性能を発揮したら、中のパイロットは……)
アイビス「どうしたの、ツグミ!?  ぼうっとしてるとやられちゃうよ!」
ツグミ「気をつけて、アイビス!  この機体……私達が考えている以上に 危険なものかもしれない!」

[ラトゥーニ]

ラトゥーニ(現行機の水準を越える性能……。 確かに、この機体が採用されれば 戦力になる)
ラトゥーニ(でも、 あんな機体を扱えるパイロットは……)

〈敵機3機撃墜〉

リック「ぬう…… また撃墜されただと…!?」
マウロ「どういうことだ、これは?」
リック「……わかっております。 少々お待ちを。現場へ指示を 与えますので……」
ジジ「……レベル7のミロンガを 落とすとはね。さすがだわ」
スタッフ「どうします、主任?  社長から、あらゆる手段を使ってでも 結果を出せとの指示が出ていますが……」
ジジ「では、 ODEシステムを起動させるわ」
スタッフ「よろしいのですか?  社長はミロンガにあれが搭載されて いることをご存じではありません」
ジジ「彼は あらゆる手段を使ってでも、と言った。 ならば、それに従いましょう」
スタッフ「……了解です」
アラド「くっ! 今の所は優勢だけど、 あいつらメチャはええ~!」
ラトゥーニ「運動性は フェアリオン並かも」
ゼオラ「あんな動きで 中のパイロットは大丈夫なの……!?」
アイビス「どんなGキャンセラーでも あれだけの機動のG全てを 相殺するなんて無理だよ……!」
ツグミ「向こうには 私達の知らないような装備が あるということなの……?」
ジジ「残るミロンガのODEシステムを SAモードで起動。最悪、ターゲットは 破壊してもかまわないわ」
ジジ「ただし、 テストパイロットのモニターは中止。 余計なデータを残さないように」
スタッフ「了解です。 センサー類の不調ということに しておきます」
(ミロンガに少し長いデータ送信)
アイビス「ミロンガが動きを止めた……?」
ラトゥーニ「マシントラブル……?」
(ミロンガに『必中』『ひらめき』『集中』『鉄壁』『ど根性』がかかり、アステリオンAXに隣接)
アイビス「くっ!  な、何なの、いったい!?」
ツグミ「ミロンガのスピード、 25%アップ! 追いきれない!」
ゼオラ「そこまで運動性が上がるなんて…… 何かのブーストなの!?」
アイビス「それに…… あの機体、こっちを完全に 破壊しようとしていた……!?」
ラミア(起こったか……イレギュラー。 いや、むしろ予定されていたことか?)
(通信)
ラミア「エレープ1よりCCへ。 状況の説明を求む」
マウロ「その必要はない。 状況を続行せよ」
ラミア「………」
ラミア(なるほど、 我々は生贄に選ばれたということか。 ……だが、そうはいかん)
ラミア「エレープ1より各機へ。 ミロンガの連係を崩す。 1機に攻撃を集中させる……!」
ゼオラ「りょ、了解です!」
(作戦目的表示)

〈初戦闘〉

[ラミア]

ラミア「この機体速度、 そして無機質な戦闘パターン…… やはり人間が動かしているとは思えん」

[ブリット]

ブリット「あの状態から さらにスピードアップするなんて!  どうなっているんだ!?」

[アラド]

アラド「くそっ!  あいつ、どんな裏技を使ってやがんだ!?」

[ゼオラ]

ゼオラ「コックピットを狙ってきてる……!  これも准将の指示だと言うの!?」

[アイビス]

ツグミ「あり得ないわ……!  こんなスピードじゃ、中の パイロットは……」
アイビス「相手がどんな手段を使っていようと 負けるわけにはいかない!」
アイビス「向こうが 本気でこっちを潰す気だとしても、 AXとプロジェクトTDは守ってみせる!」

[ラトゥーニ]

ラトゥーニ「さっきまでの戦闘データが まるで役に立たない……!」
ラトゥーニ「あの機体の モーションパターン……リアルタイムで 更新されている……!?」

〈敵機1機を撃墜〉

アラド「ちっ!  あいつら、いきなり強くなりやがって!」
アイビス「このままじゃ、 こっちが保たない……!」
アラド「何か上手い手はないんスか!?」
ラミア「……ミロンガの動きには 一定のパターンがある。 それも各機共通だ」
アイビス「なら、そのパターンをつけば 相手より先に動けるんですか!?」
ラミア「……ただし、 ミロンガ以上に速く動ければ、だ」
アラド「無理! 無理ッス!!」
アイビス「………」
ラミア「ならば、 次の方法を考えるしかない」
ラミア「動作をパターン化できる…… その理由は、向こうが我々の 動きを予測しているからだろう」
ラトゥーニ「しかも、 対処策まで講じられている……」
ラミア「それを崩すには、 相手の予測を上回る行動をとる…… つまりは意表を突くしかあるまい」
アラド「意表を突くって…… お尻ペンペンしてみるとか!?」
ゼオラ「敵に後ろを見せてどうすんのよ!」
ラトゥーニ「不用意な動きをすれば、 ミロンガのスピードの餌食になるわ」
ブリット「……ラミア少尉…… 意表を突きさえすればいいんですね?」
ラミア「ああ」
ブリット「なら、自分に任せて下さい」
クスハ「ブリット君……!」
ブリット「参式のスピードじゃ、 接近するまでにミロンガの的に なってしまうかも知れないが……」
ブリット「念動フィールドで 何とかしのぎきる。協力してくれ、 クスハ」
クスハ「わ、わかったわ」
アラド「その前に、 おれ達が囮役になるッス!」
ゼオラ「量産型のMk-IIじゃ、 ミロンガの動きにはついていけませんが、 牽制ぐらいなら!」
ラトゥーニ「対象を分散させれば、 そちらが集中攻撃を受けずに済みます」
ブリット「わかった。頼むぞ!」
ラミア「相変わらず、無謀な作戦だな、 ブルックリン少尉」
ブリット「……そう思います。 でも、自分もATXチームの端くれ。 これくらいのことは……!」
ラミア「フッ、私も元アサルト4だ。 無謀だとか、無茶だからといって、 別に止めはしない」
ラミア「……うまくやれ、 ブルックリン・ラックフィールド」
ブリット「了解っ……!」
ツグミ「アイビス……!」
アイビス「言われなくてもわかってる!  あたし達もやろう!」
ラミア「よし、各機は陣形を立て直せ」
(味方機が北西へ移動、ミロンガが2機追ってくる)
ラミア「攻撃開始……ッ!」
(グルンガスト参式以外の各機が無秩序に動き、ミロンガがその動きにつられる)
ラトゥーニ「ミロンガの動きが 乱れた……!」
ブリット「そこだぁぁっ!!」
(西側のミロンガにグンルガスト参式が隣接)
クスハ「ブリット君!」
ブリット「今だ!」
(グルンガスト参式が分離し、GラプターとGバイソンでTwinUnitになる)
【強制戦闘】
ブリット[オメガ・ビーム]、クスハ[ドリルブーストナックル]vs連邦兵[防御]
(ミロンガが南へ飛ばされる)
ブリット「どうだ!  分離攻撃のデータは持ってないだろう!」
ブリット「俺達も 初めて試してみたんだからな!」
クスハ「ブリット君、再合体を!  最後は参式で!」
ブリット「ああ!」
(GラプターとGバイソンがグルンガスト参式に合体し、ミロンガに隣接)
【強制戦闘】
ブリット[オメガ・ブラスター]vs連邦兵[攻撃不能]
(ミロンガを撃墜)
アラド「やったぜ、あの二人!」
ゼオラ「いけない! もう一機が!!」
(南に移動したもう1機のミロンガがグルンガスト参式に隣接)
ラミア「いかん……!  回避しろッ! ブルックリン!」
ブリット「くっ、体勢が整わない!!  このままでは!」
アイビス「ツグミ! やるよ!!」
ツグミ「やるって……まさか!?」
アイビス「あのミロンガ以上のスピードで、 あいつらのデータにない攻撃……!  迷っている時間なんてない!」
アイビス「いくよ!  マニューバーGRaMDs!!」
(アステリオンAXがミロンガに隣接)
【強制戦闘】
アイビス[マニューバーGRaMDs]vs連邦兵[攻撃不能]
(ミロンガを撃墜するが爆煙のみで爆発しない)
アイビス「やった……やったよ、ツグミ!  できたよ、GRaM系のマニューバーが!」
ツグミ「ふう……ぶっつけ本番だったけど 何とか形になったわね」
ラトゥーニ「マニューバーRaMVs以上の 難易度……あれがGRaM系の マニューバー……」
(アステリオンAXに爆煙)
アイビス「こ、これは!?」
ツグミ「エンジンブロー!?  今のAXの機体強度じゃGRaMDsは 無理だったの!?」
アイビス「くっ! お、落ちる!!」
(アステリオンAXが東へ移動し、爆煙後、着地する)
アラド「アイビスさん!」
クスハ「応答してください、アイビスさん!  ツグミさん!」
アイビス「う、うう…… ツグミ、大丈夫……?」
ツグミ「な、何とか……。 でも、アステリオンは……」
(アステリオンAXが攻撃したミロンガがアステリオンAXに接近)
ゼオラ「そんな!」
アラド「あいつ、まだ動けるのかよ!!」
アイビス「う、撃たれる!?」
(ミロンガに警報の後、システムダウン、着地し行動不能に)
アイビス「動きが……止まった……?」
ラトゥーニ「マシン…… いえ、システムのトラブル?」
ゼオラ「こちらを 本気で狙ったかと思えば、 突然動きを止めた……」
アラド「いったい何なんだ、あいつはよ!?」
ツグミ「ウォン重工業のゲシュタルト…… あんな機体が主力機になったら……」
ラミア(とりあえずは終わったか……)
ラミア(だが、 本当に生贄にしたかったのは我々か?  ……それとも……)

[地球連邦軍アビアノ基地]

オペレーター「ミロンガ各機の収容作業、終了しました」
マウロ「パイロットはどうなった?」
オペレーター「……全員、死亡しています」
マウロ「何だと……!?  リック・ウォン、これが貴様の言う結果か!?」
リック「……問題点はVTX-001で改善します」
マウロ「搭乗者が死亡するような機体が 使い物になるのか……!?」
リック「ですが、他社の候補機と圧倒的な性能差を誇り、 歴戦のパイロットの駆る最新型の機体を 追い詰めたのは事実です」
リック「それで上層部も納得するでしょう」
マウロ「パイロット死亡の件が、 公にならなければの話だがな」
リック「001の採用はミツコ・イスルギ社長と あの方の意向でもあります」
マウロ「だが、 彼らは今回露呈した新たな問題点を知らん」
リック「情報は隠蔽すべきでしょうね」
マウロ「私にその片棒を担げと?」
リック「ここまでくれば一蓮托生ですよ、 マウロ准将……」
マウロ「フン……次期主力機のお披露目は、 予定通り伊豆で行う」
マウロ「それまでに問題点を確実に改善し、 001に反映させろ」
(扉が開閉する・マウロが立ち去る)
リック「………」
リック(問題なのは機体ではない……。 ジジ・ルー……あの女かも知れん……)

[トライアル場]

ゼオラ「え? ツグミさん達はテスラ研へ 戻られるんですか?」
ツグミ「ええ……。AXの修理をしなきゃいけないし、 プロジェクトTDのプログラムも残っているしね」
アラド「それにしても凄かったッスね、 ミロンガを撃墜した最後の攻撃!  こうガーッと飛んでいってグワーッと急旋回して……」
アイビス「あれはマニューバーGRaMDs……。 GRaM系マニューバーの基本だよ」
ゼオラ「GRaMDs……?  前のアステリオンでやっていたRaMVsとは 違うんですか?」
アイビス「うん……GRaMは グラヴィティコントロール・ラピッド・ アクセラレーションの略……」
アイビス「つまり、テスラ・ドライブによる 重力制御応用の急加速突撃なんだ」
ツグミ「GRaM系のマニューバーは、 テスラ・ドライブを完全に制御できて 初めて完成するマニューバーなの」
アイビス「プロジェクトTDのパイロットには 必須となるテクニックだから、あたしも インスペクター事件の後、ずっと練習していたんだ」
ツグミ「もっとも、アイビスが 実機で成功したのは今日が初めてだけどね」
アラド「じゃあ、一歩間違えれば……」
ツグミ「機体が空中分解するか、 地面に叩きつけられていたわね」
ブリット「そんな危険を冒すなんて……」
アイビス「あの場では、GRaMDsをやるしか なかったからね……」
アイビス「それに結局、墜落しちゃったから やっぱり成功とは言えないよ」
ツグミ「今のAXの機体強度じゃ、あれが限界……。 テスラ研に戻って、データの見直しをしなくちゃ」
ラミア「そうか。 タカクラチーフには、ミロンガのデータ解析を してほしかったが……」
(足音)
ジジ「……その必要はありません。 ミロンガの問題点は既に解決されつつあります」
クスハ「え?」
ジジ「私はジジ・ルー。 ウォン重工業のシステムエンジニアで、 ミロンガの開発担当者です」
ツグミ(ジジ・ルー…… どこかで聞いたことがあるような……)
アイビス「……ジジさん、 あなたに聞きたいことがあるんですが……」
ジジ「何でしょう?」
アイビス「ミロンガのテストパイロットは どうなったんです?」
ジジ「どうなったと言いますと?」
アイビス「あたしは、これでも アストロノーツとしての訓練を受けてきています。 だから、わかるんです」
アイビス「あのミロンガのスピードじゃ、 操縦しているパイロットが無事ではすまないことが」
ジジ「ご心配なく。 彼らには何の問題もありません」
ブリット(信じられない……。 どういう鍛え方をしているんだ?)
アイビス「本当にですか……?」
ジジ「ええ。 嘘をつく必要などありませんし」
ツグミ「なら、ミロンガには余程優秀な Gキャンセラーが搭載されているようですね」
ジジ「何か不審な点でも?」
ツグミ「……いえ」
ジジ「ともかく、結果はご覧の通り……。 最終的に敗れはしましたが、模擬戦では あなた達の機体と互角以上に戦いました」
ジジ「そして、軍上層部もそのことを評価しています」
ラトゥーニ「では、トライアルの結果は?」
ジジ「私共のミロンガの後継機が 次期主力量産機の内定を受けました」
ブリット「後継機……?」
クスハ「ミロンガが採用されるんじゃないんですか?」
ジジ「ええ。平行して開発が進められている VTX-001『バルトール』が、 連邦軍の次期主力機として選ばれたのです」
ラトゥーニ「バルトール……」
ラミア「ほう…… すでに後継機まで開発されていたとは、 随分と気が早い話だな」
ジジ「私共にとっては、 社運を賭けたプロジェクトですから。 先を見越して開発を進めておりました」
ラミア「だが、今回のトライアルに提出されていない バルトールが、次期主力機として選ばれた点…… 不自然に感じるが?」
ジジ「ミロンガとバルトールは形状が違えど、 コンセプトや基本構造は同じ……」
ジジ「故に、ミロンガの評価は バルトールにもあてはまります」
ブリット「そんな……」
アラド「じゃ、何でバルトールをトライアルに 出さなかったんスか?」
ジジ「ロールアウトが間に合わなかったのです。 そのため、止むを得ず、試作機である ミロンガを提出しました」
ラミア「……そのバルトールの状況は?」
ジジ「現在、最終調整中です。 そして……完成次第、あなた方教導隊へ 配備されることになるでしょう」
ラミア「ありがたい話だ。 あれで本当に、パイロットが無事ならば、な。 ……バルトールに関するデータはこちらにも?」
ジジ「無論です。 ……では、私はこれで」
(足音・ジジが立ち去る)
ゼオラ「ラミア少尉、今の話は……」
ラミア「……始めから、そのバルトールとやらの 採用が決まっていた、と考えるのが自然だな」
ツグミ「それで 他の候補機の評価試験を行わなかったのかしら……」
アラド「もしかして、おれ達…… 出来レースの手伝いをしたんですか?」
ラミア「おそらくは。 すまんが、タカクラチーフ……」
ツグミ「ええ……テスラ研に帰ってから 私の方でもミロンガやバルトールについて 調べてみます」
ラミア「頼む。 ……鬼が出るか、蛇が出るかはわからんが、 捨て置くわけにもいくまい」
ブリット「どうにもキナ臭い話ですね」
ブリット「……それにしても、少尉」
ラミア「なんだ? ブルックリン少尉。 私の顔に何か付いているか?」
ブリット「いえ…… 今日の少尉は、いつもと違う感じがするので…… 理由はわかりませんけど」
ラミア「……敬語を使っていないからな」
アラド「ああ、なるほど!  『捨て置いたりしちゃったりはいくまいのですぅ!』 ……じゃ、締まらないッスからね!」
ラミア「アラド曹長、あとで私の所へ来るように」
アラド「うへぇ。 とりあえず、鬼が出ちまったかぁ~」

[地球連邦軍アビアノ基地]

スタッフ「……大連の工場では、 先行量産型の生産ラインが いつでも稼動可能な状態になっています」
ジジ「ヘルゲートの方は?」
スタッフ「データが揃い次第、稼動できます」
リック「………」
ジジ「社長……お聞きの通り、計画は順調です」
リック「……ジジ、聞きたいことがある」
ジジ「何でしょう?」
リック「お前の本当の目的は何だ?」
ジジ「もちろん、バルトールを完成させることです」
リック「それだけではあるまい?」
ジジ「以前にも申し上げたはず……。 私は、日の目を見ることがなかったプロジェクトを 完遂させたいのです」
リック「……ならば、ミロンガの仕様書を再提出しろ。 そして、問題点の改善を急げ。 イスルギや軍上層部に真相を知られる前に、だ」
ジジ「わかりました」
リック「……私と私の会社がなければ、 お前達のプロジェクトは闇に葬られたままだった。 そのことを忘れるなよ」
(扉が開閉する・リックが立ち去る)
スタッフ「ルー主任……」
ジジ「……私達の計画の進捗状況は?」
スタッフ「そちらも順調です。 特別仕様のバルトールは、明後日に 完成する予定です」
ジジ「そう……まったくもって順調ね」
スタッフ「実行はいつなのです?」
ジジ「お披露目当日よ。 そして……その後、バルトールが この星を護る新たな力となる」
ジジ「ユルゲン博士の狙い通りに……ふふふふ……」

《ヘルゲート》

[ヘルゲート内部]

ロレンツォ「ユルゲン博士、これはどういうことだ?  何故、バルトールが……!」
ユルゲン「全ては……私の計画通りだ」
ロレンツォ「貴様……!」
ユルゲン「中佐…… 私の協力者に会いたいと言っていたな?」
ロレンツォ「!?」
ユルゲン「案内しよう……“彼女”の下へ」
ロレンツォ「何!?  ヘルゲートの内部にいるのか!?」
ユルゲン「そうだ。 さあ、行こう……」
ユルゲン「そして、ODEシステムと共に 地球圏の守護者となるのだ……」
(長い銃声)
ユルゲン「ぐっ!!」
ロレンツォ「ユルゲン……貴様は!!」
ユルゲン「ロレンツォ…… 私を殺せば……止まらなくなるぞ……!」
ユルゲン「全てがな…!!」
ロレンツォ「……!!」


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