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聖十字軍の残身 ~ 第8話 ~

《メキシコ高原》

[DC基地 司令室]

バン「同志よ。 よくぞこのような辺境まで来てくれた」
DC残党兵「いえ。 ビアン総帥のご遺志を継ぐためならば、 ここまでの苦労など」
バン「私は、 新たな秩序を求める諸君らを、 聖十字軍の名において歓迎する」
DC残党兵「ありがとうございます、 バン・バ・チュン大佐」
バン「第一陣の出発はもうすぐだ。 私のライノセラスへの機体搬入後、 艦内で休息を取れ」
DC残党兵「お心遣い、痛み入ります。 ここならば、ついて来てくれた 部下達にも安眠を与えられます」
バン「うむ。 特別に士官用個室を提供する。 合成食品以外の食事も用意させよう」
DC残党兵「何から何まで……。 噂に違わぬお人柄だ。大佐なら、 地球を救える気がします」
バン「いや……全ては、ビアン総帥の ご遺志あってのことだ」
DC残党兵「はっ。 それでは、失礼致します」
(扉が開閉する・DC残党兵が立ち去る)
アーチボルド「ビアン総帥のご遺志などと…… あなたも見かけによらず口の上手な方だ」
バン「何か不服でもあるのか、少佐?」
アーチボルド「いえいえ。 部下をねぎらうのは大事なことです。 我々の食糧が残り少ないとは言えね」
バン「……彼らとの合流に成功すれば、 そのような問題は解決される」
バン「それより、私は連邦の目を かいくぐり、ここまでたどり着いた 同志の労に報いたいのだ」
アーチボルド「まあ、 エルザム・V・ブランシュタインの 料理ほどではないにしろ……」
アーチボルド「彼らにとっては、 久々のまともな食事になるでしょうがね」
バン「エルザム少佐か……。 行方はまだわからんのか?」
バン「あのブランシュタイン家の…… マイヤー総司令の長男である彼が 加われば、兵士の士気も上がる」
アーチボルド「仮に あの男が生きていたとしても、拒否するでしょう」
アーチボルド「そう、この僕がここにいる以上はね」
バン「……」
バン「では、先程の兵達の 機体搬入が済み次第、私は出発する。 後詰めは任せるぞ」
アーチボルド「了解しました」
バン「彼らの…… 『アースクレイドル』からの迎えは 予定通り来ているのか?」
アーチボルド「ええ。8時間後に メキシコ・テビク沖へ到着します」
アーチボルド「無論、彼らに 二心がなければ……の話ですが」
バン「やはり、疑っているのか?」
アーチボルド「当然でしょう。 僕達のスポンサーならともかく……」
アーチボルド「何故に『プロジェクト・アーク』…… 種の保存計画に携わる彼らが僕達に手を貸すのです?」
バン「彼らは元々DCのメンバーだ。 それに、DC戦争後も残存勢力を 率いていたアードラー副総帥に……」
バン「アースクレイドルを 戦力拠点として提供した事実もある」
アーチボルド「その結果、 あの老人は戦死しましたけどね」
バン「……」
アーチボルド「僕が得た情報では、 アースクレイドルの責任者、 ソフィア・ネート博士は……」
アーチボルド「人類同士の争いを 悲観していた人物だと聞いています」
アーチボルド「その証拠に、 彼女は副総帥の戦死後、連邦軍が踏み込む前に……」
アーチボルド「クレイドル内の DC残存戦力を放逐し、地中深くで 未来への人工冬眠に入ったはずです」
アーチボルド「それが何故、 今になって姿を現したのです?」
バン「……アースクレイドルの中で 何かが起きたことは間違いない」
バン「だが、強固な外殻を持った あの巨大地下人工冬眠施設は、 我々にとってこの上ない拠点となる」
アーチボルド「ま、確かに……。 使いようによっては、自給自足が 可能な地下要塞となりますからね」
バン「彼らを心底から信用するつもりはない。 だが、行ってみなければわからぬこともある」
アーチボルド「わかりました。 では、僕達は連邦軍の目を引きつけるため、 しばらく別行動を取ります」
バン「うむ。 アースクレイドルで待っているぞ」

[DC戦艦 ブリッジ]

DC残党兵「少佐、お茶をお持ち致しました」
アーチボルド「おや、もうそんな時間ですか」
DC残党兵「はっ」
アーチボルド「ところで、 バン大佐のライノセラスは?」
DC残党兵「すでにこのエリアからの 離脱に成功しています」
アーチボルド「結構」
アーチボルド(新たな総帥の器か否か、 お手並み拝見と行きましょうか、 バン・バ・チュン大佐)
DC残党兵「少佐、『ローズ』より 暗号電文あり。補給物資は予定通り こちらへ輸送するとのことです」
アーチボルド「相変わらず、 彼女のやることにはそつがありませんね」
アーチボルド(さて、お嬢様は今度は どんなお宝が欲しいのやら……)
DC残党兵「……シロガネ、 第一警戒網を高度700で通過。 約30分後にこちらと接触します」
アーチボルド「来ましたね。 では、丁重に出迎えましょうか…… ユウキ君、カーラ君」
カーラ「わかったよ」
ユウキ「……」
カーラ「どうしたの、ユウ?」
ユウキ「少佐、アースクレイドルの連中の申し出を 受けるという話は本当なのですか?」
アーチボルド「……ああ、そこの君。 ユウキ君にも紅茶を頼みます」
DC残党兵「はっ」
ユウキ「少佐……!」
アーチボルド「君もこの時間の お茶は欠かさないのでしょう?」
アーチボルド「どうです?  このアッサムティーは入手に苦労しただけあって、 なかなかの物ですよ」
ユウキ「結構です。それより……」
アーチボルド「バン大佐の判断に 疑問があるのは僕も同じですが……」
アーチボルド「君達は黙って 僕の命令に従っていればいいんです。 あ、でも、助言は歓迎しますよ?」
ユウキ「……では、少佐。 ティーカップは紅茶を注ぐ前に 温めておくことをお勧めします」
アーチボルド「ほう、それで?」
ユウキ「駐留地で新鮮な水を得たとは言え、 ここの水質は硬水。 茶葉からの抽出力がやや低いのです」
カーラ(あ~あ、始まっちゃった。 ユウは紅茶のことになると、 ホントうるさいんだから)
ユウキ「……にも関わらず、『ポットのための一杯』を 余分に急須へいれるのを忘れています」
アーチボルド「なるほど。 勉強になりましたよ、ユウキ君」
ユウキ「最後に一つ。何故、 この時期にアッサムティーを?」
アーチボルド「ああ、 僕はこの紅茶が好きなんですよ。 ……血の色に似ていますからね」
ユウキ「……では、出撃します」
アーチボルド「頑張って下さい。 僕達の理想のために、ね」
ユウキ(よく言う……)

[DC戦艦 格納庫]

(アラート)
DC残党兵アーマードモジュール隊、発進急げ!  繰り返す! アーマードモジュール隊、発進急げ!」
カーラ「ねえ、ユウ! 待ちなよ、 パートナーを置いてく気?」
ユウキ「誰がパートナーだ」
カーラ「あたしに決まってんじゃん」
ユウキ「……」
カーラ「なに怒ってんの?  そんなに紅茶のいれ方が 気に入らなかったの?」
ユウキ「違う。 何故、この艦から降りなかった?  バン大佐の許可は得ていたんだぞ」
カーラ「だって、ここまで ユウ達と関わった上に抜けたら、 無事じゃ済まないでしょ?」
ユウキ「大佐はそんな人じゃない」
カーラ「ううん。 あいつはあたしを殺すよ、絶対」
ユウキ「あいつ?  もしかして、アーチボルド少佐のことか?」
カーラ「うん。 英国貴族の末裔だか何だか 知れないけど、本当は……」
ユウキ「そこまでにしておけ」
カーラ「あ、もしかして、あたしのこと 心配してくれてるんだ?」
ユウキ「どうしてそうなる?  ……まったく、今回が最後の チャンスだったというのに」
カーラ「だから、言ったじゃん。 あの時、ユウに助けてもらった恩もあるし……」
カーラ「あんたのこと、気に入っちゃったって」
ユウキ「嘘をつくな。 お前の目的は……復讐のはずだ」
カーラ「なに言ってんの。 今時、そんなの流行らないよ」
ユウキ「それ以外の目的があって、 俺達と共に戦っていると言うのか?」
カーラ「……」
ユウキ「まあいい。出撃するぞ」
カーラ「うん」
カーラ(……でも、ユウ。 さっきの言葉、嘘じゃないんだよ)

[シロガネ ブリッジ]

(爆発・振動)
一般兵「右舷第12ブロックに被弾!  損傷軽微!」
リー「右舷対空機銃、 上方に弾幕を展開せよ」
(アラート)
一般兵「12時方向に 大型熱源反応あり!  ライノセラス級、機影1!」
リー「本命…… いや、1隻なら後詰めか」
リー(ケネスが得た情報は我々を誘き寄せるエサ…… どうやら、DC残党に一杯食わされたようだな)
リー(ならば、 その代償を支払わせてやる……!)
一般兵「艦長! 敵砲台は 沈黙しましたが、若干の歩兵戦力が 森林地帯へ逃げ込みました!」
リー「敵に降伏の意思なしと判断する!  気化燃料機雷を投下し、森林ごと 奴らを焼き払え!」

[シロガネ 格納庫]

(爆発)
ブリット「くっ! まだ地球人同士で 戦わなきゃならないなんて……。 これじゃ、DC戦争の時と同じだ」
エクセレン「しょうがないんじゃない?  向こうには向こうの正義ってものが あるんだから」
ブリット「正義って……!  いつエアロゲイターがやって来るか わからないんですよ!?」
ラミア(エアロゲイター?)
ブリット「内乱なんかやってて、 奴らにその隙を突かれでもしたら、 今度は……!」
エクセレン「ん~、DCの残党さんは 私達がアテにならないんでしょ。 あるいは…別の目的があるか、ね」
ブリット「別の目的って……。 まさか、この期に及んで?」
ラミア「…ブルックリン少尉、一つお聞きして よろしかったりしてございますか?」
ブリット「何ですか?」
ラミア「エアロゲイターとは、 いったい?」
ブリット「この間、地球圏を 襲撃した異星人のことですけど…… 知らなかったんですか?」
エクセレン「変ねえ。 大統領ちゃんの『東京宣言』… テレビとかで大々的に放送してたじゃない」
ラミア「え…? あ、あの…あまりそういう物は 見たり見なかったりなのでございましたのですのよ。 おほほほ…」
キョウスケ「……」
ラミア(……うかつな質問だったか)
ラミア(だが、エアロゲイター…… 私のデータにある異星人の コードネームとは違うな)
一般兵「ブリッジよりATXチームへ!  PT降下、30秒前!」
キョウスケ「アサルト1、了解。 ……みんな、出番が来たぞ」
ラミア「追撃ではなく、撃破命令…… 敵は逃げる気がないようでございましょうかしらね」
エクセレン「つまり… 私達はハズレを引かされたってこと?」
キョウスケ「…おそらく。いつものことだがな」


第8話
聖十字軍の残身

〔戦域:山岳荒地〕

(敵は出撃済み。シロガネが出現)
リー「こちら、リーだ。 戦況から判断して、敵集団を オトリと断定する」
リー「よって、作戦を変更…… パーソナルトルーパー隊は エリア内の敵機を掃討せよ」
キョウスケ「了解」
エクセレン「ここで得点を稼いで、 本命を逃しちゃった埋め合わせを しようってことかしらん?」
リー「何だと?」
エクセレン「いやん、聞こえちゃったりしたり しなかったりでございましちゃいます のこと?」
リー「エクセレン・ブロウニング、 貴様……!」
ラミア(真似される方はいい迷惑だが)
ラミア(…それにそこまでひどくはない)
キョウスケ「こちらアサルト1。 艦長、出撃許可を」
リー「む……。よかろう、出ろ」
(出撃準備後、全機が出撃)
ブリット(敵は撤退する素振りも 見せない……あくまでも戦う気か)
アーチボルド「ほう……。 ここを突破せず、僕達の相手を してくれるみたいですね」
アーチボルド「臨機応変な判断をする 優秀な艦長のようですが……」
アーチボルド「それだけに 今後も僕の策に乗ってくれる ことでしょう」
エクセレン「ねえ、キョウスケ。 あの戦闘機と戦車、どこ製の奴?  識別コード、ないんだけど」
キョウスケ「…たしかにないな。 DC残党が開発したものか……?」
ラミア(あの機体は……)
(中央の戦闘機を指す)
ラミア(FI社の戦闘機、 ソルプレッサ……)
(南側の戦車を指す)
ラミア(そして…… Z&R社のホバータンク、 フュルギアか)
ラミア(だが、あの二人が 知らないところを見ると、 こちらには……)
アーチボルド「各機へ。相手は あのATXチームです。まともに 相手をするとただではすみません」
アーチボルド「適当なタイミングで 合流ポイントへ向かって下さい」
ユウキ「了解。攻撃を開始する」
(通信)
ブリット「待て! お前達も東京宣言を 聞いただろう! 今は地球人同士で 戦っている場合じゃないんだぞ!」
エクセレン「ブ、ブリット君?」
ラミア(通常周波数で敵へ通信だと?  正気か?)
アーチボルド「おやおや、若い…… それに熱いですねえ」
ブリット「俺達の敵は同じはずだ!  こんな所で戦力を消耗するなんて、 無意味だ!」
ブリット「あんた達も 地球圏のことを考えているのなら、 すぐにこの戦いをやめろ!」
アーチボルド「フッ…… 真顔でああいうことを言える人間が まだいるとはね」
アーチボルド「ですが、 あの手の類は無視をするに……」
(通信)
ユウキ「連邦のパイロット。 一つ言っておくぞ」
アーチボルド(ユウキ君?  やれやれ、君も律儀ですねえ)
ユウキ「お前達では 地球圏を守ることなど出来ん」
ブリット「何!?」
ユウキL5戦役は 運で勝利を得たようなもの……」
ユウキ「お前達連邦軍の対応の 遅さ故に、犠牲となった者達の 存在を知らぬわけではあるまい?」
カーラ(ユウ……)
ブリット「だから、 あの後、俺達は……!」
ユウキ「手段や方法の問題じゃない。 お前達では無理だと言ってる」
ブリット「!」
ユウキ「次の戦いはもう始まっている。 俺達がここで相見えたようにな」
ブリット「だからと言って、また新たな 犠牲を生み出す気かよ!?」
ユウキ「犠牲は……俺達で充分だ」
ブリット「な……に!?」
(作戦目的表示)

〈vs ユウキ〉

[キョウスケ]

ユウキ「ATXチーム…… その実力、見せてもらうぞ」
キョウスケ「見たければ好きにしろ。 だが、逃がしはしない」

[エクセレン]

エクセレン「さあってと、色男ちゃん?  ブリット君だけじゃなくて、私の相手も してみない?」
ユウキ(何だ、この女……!?)

[ラミア]

ユウキ「正確な動きだな。 しかし、それだけに予測しやすい」
ラミア(コンタクトは……なしか)

[ブリット]

ブリット「犠牲は自分達だけで充分だと 言ったな? どういう意味だ!?」
ユウキ「それを教える必要はない。 だが、己の無力さを思い知って もらおう……!」

[HP70%以下]

ユウキ「噂に違わぬ実力だな、 ATXチーム……!」
アーチボルド「ユウキ君、 そろそろ僕達の露払いを お願いします」
ユウキ「了解。 先に合流ポイントへ向かう」
(ユウキ機が撤退)

〈vs カーラ〉

[キョウスケ]

カーラ「わわっ!  こいつ、もしかして隊長機!?」
キョウスケ「動きがまだ素人だな。 しかし、容赦はせん……!」

[エクセレン]

カーラ「いい動きしてんじゃん!  ダンスのセンス、あるかもよ!」
エクセレン「あら~、 割とノリノリの子じゃなぁい?」

[ラミア]

カーラ「何、こいつ……?  妙に機械的って言うか、何て言うか」
ラミア「この連中は……違うな」

[ブリット]

ブリット「異星人が 地球を狙っているんだぞ!  戦う相手を間違えるな!」
カーラ「なに言ってんの!」
カーラ「あんた達が もうちょっとしっかりしてたら、 こんな事にはならなかったんだよ!」
ブリット「……!!」

[HP70%以下]

カーラ「や、やっぱ強いね……!」
アーチボルド「カーラ君、 合流ポイントの警戒をお願いします。 先に行って下さい」
カーラ「わ、わかったよ!」
(カーラ機が撤退)

〈vs アーチボルド〉

[キョウスケ]

アーチボルド「ふふふ、 またお会いしましたねえ、ナンブ君」
キョウスケ「……!」
アーチボルド「やっぱり、あなた達とは 長い付き合いになりそうですね」

[エクセレン]

アーチボルド「どうもあなた達とは ご縁があるようですねえ」
エクセレン「ん~、 少なくとも良縁じゃないわね」

[ラミア]

ラミア「思ったより抵抗が弱い…… やはり、彼らは?」
アーチボルド「フフフ、もうしばらく 僕達に付き合ってもらいますよ」

[ブリット]

ブリット「今すぐ兵を退かせろ!  こんな戦い、無意味だ!」
アーチボルド「それは あなたの勝手な理屈でしょう?  僕には関係ありませんねえ」

[リー]

リー「あの艦を逃がすな!  ここで仕留めるぞ!」
アーチボルド「フフフ、 仕事熱心な艦長さんですねえ…… それだけに助かりますよ」

[HP70%以下]

『資金5200』を入手した。
アーチボルド「では、 僕達も行くとしますか」
アーチボルド「艦をオートモードへ。 後は手はず通りに」
(ガーリオンとリオン・タイプFが複数出現)
リー「フン、最後のあがきか」
アーチボルド「全機、 ブースト・ドライブ。 ……では、ごきげんよう」
(ライノセラス以外が撤退)
ブリット「何!?」
キョウスケ「艦を捨てた?」
リー「こしゃくな! 追撃を!」
ラミア「待て、あれは……!」
(ライノセラスがシロガネへ向かって移動)
リー「特攻する気か!?」
リー「艦回頭、面舵!  前部砲塔、一斉射撃!  PT各機、援護しろ!」
(ライノセラスに何回か爆煙後、爆発)
一般兵「ライノセラス級、撃沈!」
リー「逃げた敵機は?」
一般兵「すでにこのエリアから 離脱しています。現在、衛星との リンクによる追尾中」
リー「フン……。残党ごときが 戦艦一隻をああもあっさりと 犠牲にするとはな」
リー「よし、PT各機を回収。 本艦は逃亡した敵機を追撃する」

《メキシコ西海岸(DC戦艦)》

[DC戦艦 ブリッジ]

クエルボ「お待ちしておりました、 アーチボルド・グリムズ少佐」
アーチボルド「定刻通りの出迎えとは…… アースクレイドルの方々は、以外に律儀なようですね」
クエルボ「どういう意味です?」
アーチボルド「いえいえ、 バン大佐はともかく、僕達のような敗残兵は……」
アーチボルド「いつぞやの アードラー・コッホ副総帥のように 見捨てられるのではないかと思っていましてね」
クエルボ「……」
アーチボルド「これは失敬。 では早速、潜水艦への機体搬入を。 シロガネも追ってくるでしょうから」
クエルボ「わかりました」
アーチボルド「ところで、セロ博士…… バン大佐の部隊は?」
クエルボ「すでに潜水艦艦隊と合流し、 このメキシコ西海岸から離脱しています」
アーチボルド「結構」
クエルボ「それと、 アースクレイドルからASRSと 補充兵を運んできました」
アーチボルド「アスレス?」
クエルボ「アースクレイドルで 開発された高性能ECMです」
クエルボ「現時点の連邦軍のレーダー・システムでは ASRS搭載機の探知が非常に困難です」
アーチボルド「ほう……。 それで、補充兵とは?」
クエルボ「アースクレイドルで 特殊訓練を受けたパイロットです。 後ほどご紹介します」
アーチボルド「わかりました。 では、僕達はシロガネを引きつけつつ ハワイを目指します」
クエルボ「ハワイ……ですか?」
アーチボルド「ええ。 ある情報筋によると、あそこのヒッカム基地に……」
アーチボルド「マオ社の 新型のパーソナルトルーパーが 運び込まれたらしいのです」
アーチボルド「僕達は、 それをいただきに行くんですよ」

《メキシコ高原(シロガネ)》

[シロガネ ブリッジ]

ケネス「不穏分子の首領格を ことごとく取り逃がしたようだな。 リー・リンジュン中佐」
リー「……ここは彼らを泳がせた方が 後々有利かと思われます」
ケネス「フン、言い訳か?」
リー(偽情報をつかまされておいて、よく言う。 責任を私になすりつける気だろうが、そうはいかん)
リー「敵の重要拠点を制圧したのは事実です。 逃亡した敵は、補給のため近隣のアジトを 利用する確率が高い」
リー「むしろ、南太平洋に散らばる 反連邦組織や、彼らに同調する勢力を 一掃する好機となります」
ケネス「では、逃亡中の敵の動向は 把握できていると言うのだな?」
リー「無論です。 直接の勝敗が戦闘行動の全てではありません」
リー「最終的に敵勢力を駆逐し、 全域に安定したミリタリーバランスを 構築できれば良いのです」
ケネス「さすがは、 士官学校を主席で卒業した逸材だ。 頭以上に舌もよく回る」
リー(フン、皮肉だけは人並みに吐けるらしいな)
ケネス「では、引き続きシロガネには DC残存勢力と関連組織の追跡、調査を命じる」
リー「了解です」
ケネス「すでに、極東方面軍の ハガネも同様の任務で動いている」
リー(! ハカネだと……?)
ケネス「ワシとしても、 レイカーの極東方面軍にこれ以上 大きな顔をされるわけにはいかん」
ケネス「もし、 ハガネに出し抜かれるようなことが あった場合はわかっているな?」
リー「はっ」
ケネス「……貴様の働き次第では、 かねてからの要望通り、統合参謀本部への 異動の推薦をしてやってもよい」
ケネス「だから、 くれぐれもワシの顔に泥を塗るような 真似をするな」
ケネス「いつまでも、 その艦長席に座っていたくなければな」
リー「はっ」
ケネス「では、以上だ」
(通信切れる)
リー(俗物め。我々の戦績で 量産型ヒュッケバインMk-II強奪の 件を帳消しにするつもりか)
リー(この期に及んで己の利権を 第一に考えるようでは、DC残党共に あしらわれて当然だ)
リー(奴のような男のおかげで、 軍全体が腐っていく。 ……いや、もう腐り始めている)
リー「……オペレーター、ケネス少将の コードを使い、軍の試験機・新型機の テスト関連の情報を洗い出せ」
一般兵「はっ!」
リー(……ケネス少将、 貴様が心配することはない。 私はハガネなどに遅れはとらん)
リー(そう…… テツヤ・オノデラが乗り込んでいる あの艦などにはな)

[シロガネ ブリーフィングルーム]

エクセレン「じゃ、今回も営倉入りは免れたってわけ?  意外と運が続いてるじゃない?」
ブリット「でも、 処分は作戦が終了次第、 決定されるそうです」
エクセレン「あの艦長さん、 根に持つタイプみたいだものねえ」
ラミア「命令に違反したのだから、 当然だと思うですわ」
エクセレン「あらら。 ラミアちゃん、ツッコミきついわねえ。あと喋りも」
ラミア「ブルックリン少尉、何故、 戦闘中に敵とあのような交信を?」
ブリット「……自分でも 馬鹿な真似をしたということはわかっています」
ブリット「でも、 また無関係な人間がDC戦争のような 戦いに巻き込まれるかと思うと……」
エクセレン(そっか……ブリット君はともかく、 クスハちゃんはそうだったものね……)
ラミア「兵士は命令や任務が全て。 それが理解できなければ、 あの敵パイロットの言葉通りになる」
キョウスケ「…その通りだ。 うかつな行為だったな、ブリット」
ブリット「キョウスケ中尉……」
ラミア(ベーオウルフが 私の意見に賛同するとはな)
キョウスケ「あのパイロットが言っていたことには 一理ある」
ブリット「……」
キョウスケ「連邦政府と連邦軍がその構造ゆえ、 本質的にぜい弱なのは事実だ」
キョウスケ「だが、一兵士に過ぎないおれ達でも、 やり方次第で戦いを最小限にすることは 不可能ではない…おれはそう思っている」
ブリット「は……はい」
ラミア「…個人的な判断を優先させ、命令違反を犯す… そんなことが許されるとでもいうのか?」
キョウスケ「それを判断するのも兵士… 人間ということだ」
キョウスケ「命令通りのことをやらせたいなら、 ロボットにでもやらせておけばいい」
エクセレン「要は、思考停止しちゃいけないってことよ。 いろいろと考えて、ベストの選択をすればいいわけ」
ラミア(…くだらん。この程度か、ベーオウルフ。 任務に疑いを持って兵士が務まるものか)
(扉が開閉する)
エクセレン「あ、艦長さん」
リー「さん、は余計だ」
エクセレン(あらら、 いちいち細かいことで)
リー「ちょうどいい、 全体ミーティングの前に、貴様らへ 本艦の新たな目的地を教えておく」
キョウスケ「新たな目的地……。 どこなのです?」
リー「ハワイだ」
エクセレン「わお!  もしかして、ワイキキビーチで ワイウキバケーション?」
リー「ワイウキだと?」
ブリット(ワイワイウキウキで ワイウキ……かな?)
エクセレン「実は こんなこともあろうかと、 水着を持って来てるの!」
ブリット「み、水着?」
エクセレン「そそ。 前に伊豆でも着た極・ハ・イ・レ・グ♥」
ブリット「きょ、極!?」
エクセレン「ものすごすぎて、こんなん 着てたら捕まるわよ、絶対」
ブリット「じゃあ着れないじゃないですか!」
キョウスケ「黙っていろ、二人共。 ……艦長、何故ハワイへ?」
リー「ヒッカム基地で 新型ハーソナルトルーパーの テストが行われるからだ」
ラミア(新型……)
キョウスケ「なるほど。 量産型のヒュッケバイン同様… 次に奴らが狙うのは、その新型と?」
リー「そうだ。 先程の敵部隊は太平洋側へ抜けた。 故に、海路でハワイを目指す可能性が高い」
エクセレン「可能性ねえ…。 ここんとこ、引きが悪いからどうかと思うけど…」
リー「何か言ったか? 少尉」
エクセレン「いえいえ、お気になさらず」
リー「フン……。 様々なデータを検証し、計算した上で 私が下した判断だ。間違いはない」
ラミア(随分な自信だが……)
ラミア(この男の読みが外れても、 新型機を見られるチャンスはあるか)
ラミア(それに そろそろ次の指示が来る頃だ)


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