次の日、アンディ達は地下四階に降り、小さな部屋の連なった所にいた。彼らの居る部屋の三方に扉がある。
「此所は前回、青い煙のようなものに追い返された所とは、丁度反対側になります」
ジェフは地図と扉を見ながら言った。
「じゃ、開けるぞ」
ウォーリィが振り返って皆の顔を見た。皆はその声に応えるように、軽く頷く。ウォーリィはそれを見てから、扉を蹴り開けた。其所は、反対側と同じように、床には魔法陣が描かれていた。
「ウォーリィ。気をつけろ」
アンディが思わず声を掛けた。その声を背中ごしに聞きながら、ウォーリィは一歩進んで、魔法陣の中に入った。すると、突然魔法陣が輝き、皆の頭の中に言葉が響いた。
『資格無き者、入る事あたわず。立ち去るが良い』
そして声が消えると同時に、青い煙が何処からとも無く満ちて来る。
「やっぱ、又、青い煙か」
ウォーリィが呟く。しかし、前回とは違うようで、煙を吸い込んでも、意識を失う事はなかったが、アンディ達は、まるで煙に押されるかのように、部屋から追い出されてしまった。
「やっぱり、だめかぁ」
ビルがあっけらかんとした様子で扉を叩く。
「資格無き者、入る事あたわず。立ち去るが良い……」
アンディは頭の中に響いて来た言葉を、呆然とした調子で繰り返した。前回と同様、アンディはかなり怠そうにしている。アンディはあの青い煙に人一倍敏感に反応するようで、今も顔が酷く青褪めていた。更に今回は頭の中に響いてきた、言葉の所為もあるかもしれない。
「資格ってのが何かは判らねぇが、俺達は少なくとも持ってねぇって事か」
「これで、八方塞がりってー事か?」
ウォーリィが呟くように言い、ケインが誰にとも無く、問い掛けるような調子で言う。
「四階から降りられないと言う事だよなぁ」
「……そうでもありません。未だ探索していない場所があります」
ビルの呟きに応えるような間合いで、ジェフが言った。彼は手元の地図を見ている。
「ジェフ?」
「何処だ?」
訝しそうなビルと、勢い込むようなウォーリィの声が重なった。
「以前、地下一階の暗闇の中で見付けた、四つの突起の内の一つを押して行った所です」
何の表情も無く、ジェフが応える。
「四つの突起? ……いきなり龍に会ったとこか?」
「ええ」
ケインの言葉に、ジェフは冷静な声で返した。
「そう言えば、あっちの方は全然行ってなかったなぁ。けど、今日の所は町に帰ろう」
ビルが促すように言い、踵を返した。ウォーリィは始め反対したが、アンディがかなり怠そうにしているのを見て、結局は諦めるしかなかった。
アンディの様子は、町に帰ってもあまり良くはならなかった。カント寺院の司祭に見てもらうと、霊薬の影響を受けているようだと言われた。それにアンディは声ではないが、意志を伝えるものに人一倍反応するらしいともその司祭は言っていた。そしてはっきりした事が判らない為、聖呪文では治しようがなく、ゆっくり身体を休めるしかないだろうとの事だった。その為、ウォーリィが少し文句を言ったが、十日程町で休む事にした。
十日程のんびりしていたお陰か、アンディもすっかり元気になり、一行は、久し振りに迷宮へと潜っていた。今度は暗闇の中にある、四つの突起がある場所から、行く所の探索をすると言う事になった。
「何かありそうな感じ、だよな」
ウォーリィが、嬉しそうな声で言う。
「浮かれていると、危険だろ。ウォーリィ」
「そーそー、何てったって、こないだ、龍に追い返されたとこに行こーってんだぜー」
アンディとケインが、揃って窘めるような口調で言う。
「さぁ、気合いを入れて進もうか」
ビルがあまり気合いの入ってはいない声でそう促した。
以前と同じで一瞬眩暈を感じたと思ったら、周りの様子が変わっていた。
「北に進むのが良いかなぁ?」
何時もの如く、ビルが呟いて、北側に在る扉を開けた。其所は極小さな部屋になっていて、正面に又扉がある。尤も待ち伏せている敵も無く、何の仕掛も無い。
「何か、拍子抜けだな」
ウォーリィが軽口を叩く。そして、その奥にある扉を開ける。開けた所には真っ直ぐ正面に通路が続いていた。前回来た時に、いきなり龍に出会ったのが嘘のように、其所は静まり返り、生き物の気配さえない。そして、その通路の突き当たりにある扉には、金属の板が張り付けてあり、その板には言葉が彫り込まれていた。
「『試験場中央管理施設』この領域は、立ち入り禁止! 入るべからず。……信じねーべきだろーな、やっぱ」
ケインが彫り込まれている文句を読み、嫌そうに言葉を継ぐ。
「これが以前ジェフが言っていた、『中央管理施設』と言う所かな?」
「そうとしか、考えらんねぇよな」
アンディが誰にとも無く問い掛け、ウォーリィが応えた。ビルはその言葉に頷きを返し、ソフィーとジェフも異存はないようだった。
「開けるぞ」
そしてウォーリィが一応声を掛けてから、その扉を蹴り開けた。左右に道が広がっていて、正面には扉があった。六人が入ると同時に、ウォーリィが蹴り開けた扉が、いきなり音を立てて閉まり、大きな警報の音が聞こえて来た。警報が鳴り止むと、今度は耳が痛くなるような静けさが満ちる。そして何が起きるのかと身構えていたアンディ達の耳に、唸るような音が微かに聞こえてきた。しかもその音は段々と大きくなっている。
「面倒な事になったみたいだな」
「望む所だ」
囁くようなアンディの声に、ウォーリィの少し弾んだような声が返る。そして、そのウォーリィの声に応えるかのように、蠅が大群で襲って来た。
「何だこれ」
「剣だけじゃ、対処しきれん。ジェフ頼むぞ」
ケインが間抜けた声を上げている間に、ビルはジェフに声を掛けてから、蠅に切り掛かって行った。ウォーリィとアンディも懸命に剣を振るっている。敵が小さいので、なかなか当たらないように見えるが、それでも確実に数が減っていた。ジェフは何時もと同じく誘眠を唱えたが、誘眠には強い体質なのか、二、三匹の蠅を眠らせるに止まった。
「火の風よ、我の前に現われ、遠く広がらん。大炎!」
少し嫌そうな顔でジェフが次に唱えたのは、炎を呼ぶ呪文だった。あまり威力はないが、蠅には十分だったようで、呪文によって広がった炎に巻かれた蠅は、一瞬で燃え尽きた。そのジェフの呪文につられた訳ではないだろうが、うまく呪文の炎を逃れた蠅の中で少し大きめな数匹が、いきなり炎を吐いた。小さな蠅の吐く炎なので、大した威力はないのだが、戦士達を驚かすには十分だった。
「火? 何で?」
アンディが混乱したような声で呟いている。尤も剣の方は止まってはいない。そしてそれなりに時間は掛かったし、手の甲や頬等を少し焼かれもしたが、何とか蠅を退治する事ができた。
「何だったんだろうな、これ」
「ジェフの呪文に、つられたって事はねぇよな」
アンディが少し気味が悪そうな顔で言い、ウォーリィが、珍しく攻撃系の呪文使ったジェフに、ちょっかいを掛ける。
「呪文につられると言う事はないと思います。多分、呪文によって変えられていたのでしょう。そうですね、名前を付けるなら、ドラゴンフライと言うところでしょうか」
ジェフが何も言わないので、ソフィーが執り成すように言う。
「蜻蛉?」
ソフィーの言葉に、ケインが訝しそうな声で聞き返す。西の方の言葉で蜻蛉の事をドラゴンフライと言うのだ。
「いえ。蜻蛉と言う意味ではありません。炎を吐くので、龍のような蠅と言う意味ですわ」
「うまい事言うなぁ」
「それよか、進もうぜ」
ビルの呟きを聞きながら、ウォーリィが促した。蠅から受けた傷も大した事はないので、彼等はそのまま右の道を奥迄進んだ。その南側に扉があり、又扉に金属の板が貼ってあり、その板に言葉が彫ってある。
「『魔物配備中央施設』か」
「此処かね、七人の腕の立つ奴等が居るってーとこは」
彫ってある言葉を読んだアンディを見ながら、ケインが誰にとも無く問い掛けた。
「そうでしょう」
「んじゃあ、気合い入れて、一発……」
ケインの言葉にジェフが応え、ウォーリィは元気良く自分の顔を叩いた。
「少し待って下さい。私達の防護力を下げる呪文を掛けておきます」
「何で、今迄掛けなかったんだ?」
ケインが不思議そうに尋ねた。
「治療系の呪文への影響が、大き過ぎるからですわ。ですが、今回は多分……」
「防護力を下げる方が重要になる?」
アンディが言葉を継ぐ。
「ええ、おそらくは。……我が神カドルトよ、我らが周りに見えざる楯を造り、我に仇なすものより、我らを救い給え。常に御力が我らを包まん事を。大楯!」
「開けるぞ」
ウォーリィが扉を開けると、そこには七つの人影があった。二人は鎧、二人は法衣を着ていて、二人は明らかに聖職者だった。残る一人は奇妙な衣を着ている。聖職者と法衣を着た者達は、少し後ろに下がっていた。そして七人共、こちらの出方を伺っているのか、体勢を整えるだけで襲っては来ない。
「俺達は、あの奇妙な衣を着てる奴を先に片付ける」
ビルがアンディとウォーリィに目配せをしながら言う。
「ビル?」
ウォーリィが訝しげに名を呼んだ。
「あれは……多分、かなり高位の忍者だ。今の俺達が、一人で太刀打ち出来る相手じゃない」
アンディが奇妙な衣を着ている者に鋭い視線を向け、剣を構えながらウォーリィに応える。ウォーリィは納得が行ったのか、剣を構え直した。
「聖職者は任せて下さい」
「法衣を着た者達の呪文は封じて見せますわ」
ジェフが珍しく声を掛け、ソフィーも珍しく鋭い視線を相手に向けていた。
「鎧着た奴への牽制くれーしか出来ねーぜ」
ケインも小さな声で言い、軽く顎を引いて、珍しく短剣を構えた。
それらを聞いていたかのように、相手はこちらの話が終ると同時に仕掛けて来た。
「行くぞ」
ビルが気合いの籠った声で叫び、戦士達は奇妙な衣を着た人物に飛び掛かって行く。
「我が神カドルトよ、かの者達の音を消し、言の葉の力を失わせ給え……」
「炎をも凍らす氷の風よあれ。氷の風を荒れ狂わせ、嵐とせよ。かの場にいるもの全てを凍らすごとく……」
ソフィーとジェフの栄唱が重なり、二人のエルフの声はさながら合唱しているように、辺りに響き渡っていた。
そして、奇妙な衣を着た者は、素早い動きで戦士達を翻弄したが、三対一では分が悪く、ビルの攻撃を利用したアンディの攻撃を躱し切れずに、よろめいた所にウォーリィが止めを指した。
「静寂!」
「氷嵐!」
ソフィーとジェフの呪文が完成し、それぞれの気合いの籠った声が響くとほぼ同時に、法衣を着た者達の唱えていた呪文の栄唱が聞こえなくなった。ソフィーの唱えた静寂によって声を封じられたのだ。そして、聖職者達は凍り付き、氷の彫像のようになっていた。鎧を着た者達はケインの牽制と、部屋に入る前にソフィーが掛けた呪文のお陰で、アンディ達に傷を負わせる事が出来ない。
戦士達は、奇妙な衣を着た者を倒した後、直ぐに次の相手に向かっていく。ウォーリィとアンディが鎧を着た者達に、ビルは法衣を着た者達に。ビルが法衣を着た者達に向かったのは、静寂の効果が消え、彼等が呪文を唱えられるようになれば、死亡する者が出る可能性があるからだ。自分達に静寂の呪文が掛かったと判ると直ぐに、法衣を着た者達は精神集中して、呪文を破ろうとしている。しかし、結局はビルが呪文を破られる前に止めを刺し、その間にアンディとウォーリィも、ぞれぞれの相手を倒していた。
「ふー……」
「何とかなったなぁ」
珍しく戦闘に関与した所為か、ケインが詰めていた息を吐き出し、七人の者達が守っていた宝箱を調べ始めた。そしてビルは、何時もののんびりとした口調で言い、剣を鞘に収めた。
「粉になった……すごい呪文だな」
アンディが、何気なく凍っている聖職者達に触った刹那、氷の像のようだった聖職者達が崩れて、氷の粉になって部屋に拡散してしまったのだ。
「妖呪文というのは、こういう呪文体系ですが、あまり使いたくはありません」
「え?」
とても嫌そうな顔をしたジェフに、アンディが不思議そうな顔を向けた。
「破壊するだけで、何も生み出さない」
「生み出しはしねぇが、守る事はできるだろ?」
ウォーリィがいきなりジェフの後ろから声を掛けた。アンディは何と応えて良いのか判らない様子で、ジェフとウォーリィを見ている。
「ええ、判っています。そうであるからこそ、私は此所にいるのですから……」
ジェフは何故か、胸を軽く押さえながら応えた。苦しそうなのではなく、お守りに触ってるという感じだった。ジェフの首元を良く見ると、鈍く銀色に光る鎖が掛かっている。その先に何か掛けてあるのだろう。
「おーい、宝箱開けたんだけど……ちょっと、来てくんねーか?」
何時もなら、中身を持って来るケインが皆を呼んだ。
「どうしたぁ?」
ビルが宝箱とケインを見ながら問い掛けた。
「んー、こんなんが入ってたんだけど……」
そう言いながらケインは宝箱の中を見せる。中には棒杖に薬瓶、それに指輪が入っていた。そしてその指輪からは、今迄に無く奇妙な感じを受けた。
「何だと、思う?」
ケインが指輪を指しながら、皆の顔を見回す。
「何か、禍々しいものを感じますね」
「この指輪だけは、置いて行った方が良いでしょう」
ケインの問いに、ソフィーとジェフが、それぞれ思う事を口にする。
「俺も、そう思う。何だか、この指輪は危険な感じがするんだよなぁ」
ビルが小さく呟いた。
「ちょっと、惜しいよーな気もすんだ」
「諦めた方が良いだろう。関わると、命を脅かされそうな気がする……」
ケインの残念そうな言い様に、アンディが独言のように呟いた。
「ケインには未練があるかもしれんが、これは此所に置いて行こう」
ビルが皆の顔を見てから言った。
「それより、この部屋の捜索をしようぜ。『魔物配備中央施設』ってんだ。それなりのもんがあんじゃねぇか?」
ウォーリィが気分を変えたように促した。
少し広い長方形の部屋は、東側と南側に一つずつ扉があった。そして、アンディ達は南側にある扉を開く事にした。
扉を開けたアンディ達が部屋に入ると、左の壁にある滑り戸が閉まり、青白く光った。いち早く気が付いたケインは、その扉を開けようとしたが、結局開ける事は出来なかった。その部屋の丁度真ん中には、大きな机があり、招集の為の護符や占いの水晶球等の、支配と知識の工芸品の残骸が乗っていた。
「残念ながら、直せるような状態ではありません。元は、かなり強力な呪文を込められた品物だったのでしょうから、普通の品物より丈夫だったでしょうに」
ジェフは少し残念そうに、卓上の割れた水晶球を撫でていた。
ジェフが卓上の水晶球から手を放すと同時に、部屋の反対にある扉が、入る事を誘うように、明るく橙色に光った。アンディ達も吸い寄せられるように、その扉に近付いて行った。少し扉に近付いてから、ケインが振り向いて見ると、入ってきた扉は消えていた。
アンディ達は扉を開け、次の部屋に入った。その部屋は、先程の部屋と同じくらいの大きさだったが、中央に鎧を着て、左手を大きな楯に置いている、黄金で出来た君主の像があった。アンディ達がその君主の像を取り囲むように動くと、いきなり今入ってきた扉が、大きな音をたてて閉まり、一層明るく橙色に輝いて、扉自体が消えてしまった。しかし同時に部屋の右の壁に、突然扉が現れて青白く光る。
「この黄金の君主の像には、何か意味があるんだろうか」
アンディは君主の像を眺めている。
「この像を調べてみよう」
ビルが皆の顔を見回しながら言う。他の者達も反対する理由も無いので、皆でその像を調べる事にした。
「此所の紋章の中に隠すよーに、鍵みてーな模様があるぜ」
楯を調べていたケインが、皆に言う。
「鍵? 鍵穴があるんじゃなくてか?」
アンディが不思議そうに問い返した。
「この大きさだと、二階で見付けた奴と同じくれーか」
「では、鍵としてではなく、蛙の彫像や熊の彫像と同じように、その模様に鍵をはめてみるのも良いかもしれません」
ケインの応えを聞いたジェフが言う。
「そうだなぁ」
「じゃ、はめんぜ」
のんびりとしたビルの応えに、ケインが皆の顔を一度見回してから、鍵をはめた。すると、その君主の像が深みのある、威厳に満ちた声で喋り出した。尤もそれは肉声ではなく、頭の中に直接響くようなものだった。
『おめでとう、勇敢なる冒険者達よ。今こそ、諸君等は我が望みを成しとげ、自らこれからの探索が可能となる事を示したのだ。数年前、邪悪な魔術師ワードナに、ある護符を盗まれた。ワードナは、今、諸君の足の下の迷宮に居る。この護符こそ、今我々が必要としている物だ。諸君等の任務は、邪悪な魔術師を退治し、神秘の護符と呼ばれるこの護符を探し出し、取り戻す事である。今日の諸君の成果に、我が大君主トレボーの名において、青い綬を与えよう。これはこの階にある昇降機の使用許可証である。これ無しではワードナの居場所に行く事はできない。しかし、このまま直接、ワードナに会う事が出来たとしても、倒す事は適うまい。邪悪な魔術師は全ての妖呪文を使う事が出来る。そして秘呪文、更には聖呪文迄も使う事が出来ると言う。また、様々な怪物を召喚して下僕としている。その中には悪魔すら含まれると言う。そして我々の援護もこの階より下には届かん。よって、この階より下はどうなっているのか、我々にすら判っていない。今迄の迷宮と同じと思っていては、使命を成し遂げる事は出来ないだろう。先ず技を磨き、それから挑戦する事だ。最後になったが、この青い綬を受けとった経緯は、他人に話してはならん。自分達でこの過程を見付けねば、何の意味もないのだからな。さあ、行け。そしてくれぐれも急いで、任務を遂行せよ。諸君等に神の導きがある事を祈っておるぞ』
言い終わると同時に、像の右手が青白く光り、像の右手の上には青い綬がどこからとも無く現れていた。
「青い品物、だな」
青い綬を手にとったアンディが、疲れたような、呆然としたような調子で呟いた。
「ところで、『えれべいたぁ』ってぇのは何なんだ?」
「あの言葉の調子だと、何等かの移動装置でしょう。私達が使って来た、四つの突起を押す事により、移動させる装置かもしれません」
酷く疲れたような顔をしたジェフが応える。
「全ての妖呪文が使えるってー奴は、どんだけつえーんだ?」
「少なくとも、今の私達では太刀打ちは出来ないでしょう。妖呪文最高の攻撃呪文は普通の者なら、一瞬で焼き尽くされてしまうと言われます。精神も肉体も、かなり鍛えないと、その熱気に耐えられないでしょうし、その熱気に耐えられなければ、勝ち目はないでしょう」
ケインの疑問に、ジェフは疲労の所為か、囁くような小さな声で応えた。
「一度町に戻りましょう。このまま探索を続けるのは危険ですわ」
今直ぐにでも飛び出して行きそうなウォーリィを見て、ソフィーが穏やかながらも反論を許さない調子で言う。ウォーリィはソフィーの珍しい言い様と、アンディ、ジェフの酷く疲れた様子に、反論をする事が出来ないようだった。
結局、それ以上の探索はせずに、突起を押して移動する装置を使って町に戻ってきた。
町に戻って、ソフィーはいつもの通り、皆と別れて感謝の祈りを捧げにカント寺院に向かった。
「ソフィア・ヘンドリー。ガスティブ高司祭がお呼びです。お部屋の方へ伺って下さい」
何時もの通り『礼拝の間』へ向かおうとしたソフィーに、司祭が声を掛けてきた。
「承知いたしました。ありがとうごさいます」
ソフィーは少し訝しそうな表情を見せたが、丁寧に礼を言って曾祖父であるガスティブの部屋に向かう。司祭達が呪文を掛ける『儀式の間』、儀式を待っている者達を寝かせてある『安置の間』、そして復活神カドルトの像がある『礼拝の間』を通り過ぎて、寺院の奥まった所にある扉をソフィーが開いた。そこには廊下があり、別の棟へと続いている。司祭や高司祭達の部屋は寺院とは別の棟にあるのだ。
「お祖父様。ソフィアです」
その棟の中でも、かなり奥まった所にある部屋の扉を軽く叩き、部屋の中に声を掛ける。正確に言えば、ガスティブは曾祖父にあたるのだが、ソフィーは何時も『お祖父様』と呼んでいる。
「入りなさい」
かなり掠れてはいるが、意志の強そうな声がソフィーに応えた。
「失礼いたします」
部屋の中にいたのは、かなり高齢のエルフだった。彼はその生きて来た年輪を、顔に刻み込まれたかのように、顔中を皺で覆っていた。
「ソフィア。探索の方はどうだね?」
ソフィーを座らせてから、ガスティブは切り出した。その表情にはかなり疲れが見える。
「青い綬を見付けました」
「ふむ。では、目的も判ったな?」
ガスティブは尋ねると言うより、確認する調子で言う。しかし、ソフィーもそれに驚く事も無く応える。
「はい」
「お前は、どう思っている? 可能と思うか?」
ガスティブはソフィーの目を覗き込むように尋ねた。
「判りませんわ。少なくとも今は無理でしょう。もう少し経験を積めば、何とかなるかもしれませんが」
「そうか……、なるべく早く、ワードナから神秘の護符を取り戻さねばならん」
「何故、護符を取り戻さなければならないのですか?」
「あの護符の力は計り知れない。ワードナのような野心家に持たせるには危険すぎるのじゃ。あのトレボー城の下の迷宮も、神秘の護符の力を使って作られたとも言われる。実際、人の力だけで作れるような迷宮ではない事は確かじゃな」
ガスティブは深い溜め息をついてから続けた。
「……このままでは、何時迄持つか判らんのじゃ。儂もエルマーも老いたのでな」
「……そんなに、状況は悪いのですか?」
疲れの見える祖父に、心配そうな顔でソフィーが聞いた。
「そも、人が神秘の護符の力に、対抗しよう等と言うのが、間違っておるのじゃよ。今は未だワードナも全ての力を使えないらしく、儂と賢者になったばかりの頃のエルマーが張った二重の結界も、何とかもっておるようではある。ワードナが召喚したと言われる古の魔物達が、迷宮から出て来たとの報告は未だ無い。そして、悪魔達が迷宮の中を彷徨っているとの噂もないしの」
「お祖父様。前からお聞きしたいと思っていたのですが、何故賢者エルマー殿は、最高司祭ではない、お祖父様に助力を頼まれたのですか?」
ソフィーは、祖父の力を正当に評価している。だからこそ、何故賢者は神官として最高の力を持っている訳ではない祖父の力を、借りる事にしたのか不思議に思っていたのだ。最高司祭の方が、大きな力を貸せるはずだし、その方が、強力な結界を張る事が出来るだろう。
「儂がエルフじゃからじゃよ。力を貸すのも借りるのも、同族の方が負担が少なくてすむのじゃ。かなり、強力な結界を張らなければならなかったからの、少しくらい力が弱くても、負担が軽い方が良かったのじゃ。エルフの中では、儂が一番力を持っておったからな」
「そうだったのですか。……お祖父様、これからどうなるのでしょうか」
俯いていた顔を上げたソフィーが問うと言うより、確認を取るような調子で尋ねた。
「それは、儂にも、トレボー王にも判ってはおらぬ。勿論ワードナにもな。一つだけ言えるのは、ワードナが神秘の護符の力を使いこなす前に、ワードナから神秘の護符を取り戻さねばならぬと言う事じゃ。ワードナも今でこそ、『邪悪な』と呼ばれ、軽く見られておるようじゃが、その昔は並ぶ者とてない、優秀な魔術師じゃった。何時、神秘の護符の秘密を解明してもおかしくはないのじゃ。ソフィア、くれぐれも頼んだぞ」
ガスティブは言い終わって、深く椅子に腰をかけなおした。
「はい」
溜め息を付くように言うガスティブに、深々と頭を下げながらソフィーは応え、部屋から出た。
ソフィーは『礼拝の間』へ向かいながら、祖父の話を思い出していた。
「お祖父様の言う事も判らないではないのだけれど、今の私達が力不足なのは、火を見るより明らかだわ。そうかと言ってゆっくりと、経験を積んでいれば良い訳でもない……」
ソフィーは独言ち、何時も持っている呪文書を開いた。彼女の呪文書は、未だ全ての頁が埋まってはいない。それはジェフも同じ事で、この呪文書が埋まらなければ、ワードナと戦っても互角にも持ち込めないだろう。しばらく考え込んでいたソフィーは、『礼拝の間』へ入って行き、何時も祈っている時間の三倍くらいの間、一心に祈りを捧げていた。
一方、皆と別れたジェフは、何処か沈んだ面持ちで、賢者の所に来ていた。
「ジェフリー・スペンサー。どうかしたのかね?」
何時もと雰囲気が違うのに気が付いたのか、賢者は突然声を掛けてきた。
「いいえ。ただ、今日初めて、氷嵐の呪文を使ったものですから」
「ふむ。お主が氷嵐を使わねばならぬような相手か。『魔物配備中央施設』の中に入ったな」
賢者の瞳が、鋭く光った。
「はい」
「それで?」
「君主の像を見付けました」
促されて、ジェフは結果を口にする。
「像の謎は解いたのかね?」
「はい」
「では、どうすべきか判るであろう?」
諭すような口調で賢者が問い掛けた。
「ですが、今の私達では、明らかに力不足です。地下五階に降りて、探索をして大丈夫なのかも判らない、弱小者でしかないです」
「お主は狂王の黄金像の言葉を考え過ぎておるようじゃな」
「狂王の黄金像? あの君主の像の事ですか?」
ジェフは聞き慣れない言葉に、話の腰を折るのを承知で問い掛けてみた。
「そうじゃ。あれは、儂が作った物じゃが、血気にはやる冒険者達を諫める為の物じゃ。お主はどうかな。ジェフリー・スペンサー」
面白がっているような感じを少し含んだ声で、賢者が尋ねた。
「私は臆病な者です。本来ならば、迷宮の探索などするはずのない」
「ならば、聞くが良い。あの迷宮には、二重の結界が張ってある。どちらの結界も儂と、ガスティブ高司祭とで張ったものじゃ。一つ目は迷宮の入口と町の間にあり、魔物には通り抜けられん。二つ目は四階と五階の間にある。この結界は古の魔物、もしくはそれらと同等の魔物が、通り抜けられぬようにしてある。そして古の魔物と何とか対等に戦えるくらいの力を持つ者にしか、狂王の黄金像は持っている物を渡さん。あの謎を解いたのならば、己で考え、その目で見、そして身体で感じて来る事じゃ、古の魔物の力をな。そうしてこそ、道は開かれる」
「古の魔物と戦えとおっしゃるのですか」
「仲間の所に戻る事じゃ。今はな」
賢者はジェフの問いには応えず、促すように一つ頷いた。ジェフは皆に会う事にして、賢者に丁寧に挨拶をした後、ギルガメッシュの酒場に向かった。しかし皆に会う前に、考えなければならない事が、多すぎるようにも思う。狂王の黄金像の言葉、賢者の言葉、そして自分達のこれからの事など。自然ジェフの歩みは、ゆっくりとしたものになった。
ギルガメッシュの酒場では、何時も通り、アンディ、ウォーリィ、ビル、ケインが杯を片手に話していた。
「昇降機の使用許可証かー」
「それでも、直ぐにワードナを倒す事は出来ないと」
しみじみ言うケインに、アンディが応えた。
「フレイムさんが言っていた『上の方の階と、下の方の階の支配者が別々にいる』ってのは本当だったんだなぁ」
ビルが杯を空けながら、呟いた。
「ああ。『悪名高きワードナの迷宮、探索の意味を知ってる者もなし』か」
何時かウォーリィら聞いた言葉を、アンディが繰り返した。
「探索の意味は判ったよな」
「腕が立つ奴等が、なんで『狂王の試練場』って呼んでんのかもな」
「あれを手に入れる過程を考えれば、当然の名称か」
ウォーリィに応えるように、アンディが言う。
「そーいえば、この頃、エドモンドさんに会わねーな。どーしてんだろ」
「アンディの昔話を聞いた後くれぇか。会わなくなったのは」
「そーだな。血が騒ぎ出して、冒険にでも出ちまったのかもなー」
ウォーリィが呟くように言うのを聞いて、ケインが酒場の中を見回した。ケインの表情は、少し寂しそうだった。
「それより、これからどうする? 今迄のような感覚で探索をしていてはいけないと、フレイムさんも、あの君主の像も言っていただろう?」
他の三人の顔を見回して、アンディが問う。
「ふむ。そうは言ってもなぁ、どうしようもないと思うぞ」
アンディの問いに、ビルが困惑したような表情で応えた。
「取り敢えず、地下五階に降りて見る。それから考えるってぇのは?」
「戦闘を一度する度に、町に戻ると決めて、探索をしてみるのも良いかもしれません」
ウォーリィのなかなか無謀な考えに応えたのは、何時の間にか皆の後ろに立っていた、何時も慎重な意見を言うジェフだった。
「ジェフ?」
いきなり過激な意見を言ったジェフを、訝しげにアンディが見上げた。
「いくら先が見えない、今迄と違うと言われても、どう違うのかも判らないのでは、どうしようもありません。ですからどのくらいの力があれば大丈夫なのか、体感するのも悪くはないと思うのです。それと、推測でしかないのですが、ワードナは多分、迷宮の最深部に居るでしょう。そして、ワードナを恐れる弱い魔物達は、ワードナからなるべく離れようとすると思うのです」
ジェフは空いている席に腰を下ろした。
「つまり、地下五階にいる魔物はそんなに強くない、と思っているわけだ、ジェフは」
「あまり、強力な根拠ではないのですが」
アンディが確認を取るように言うのに、ジェフは軽く肩を竦めた。
「さっき、一度戦う度に町に戻るとか言ってたよな。そりゃどうしてだ?」
「探索をするのに、こちらの体制を万全にしておきたいと言う事です。いざとなれば、私やソフィーの呪文も、後の事を考えず使わなければならないでしょう。そんな戦闘を何回も続けていたのでは、帰って来れ無くなってしまいます」
ウォーリィの問いに、ジェフは何時もの冷静な声で応えた。
「なるほど」
「それに、あまりゆっくり探索をしている訳にも、いかないようですわ」
アンディが応えるのと同時に、鈴のような綺麗な女性の声が掛かった。
「ソフィー?」
珍しくこのギルガメッシュの酒場で、アンディ達六人が揃った。
「先程、私の曾祖父に逢って来たのですが、状況は多分あの君主の像、つまりトレボー王が思っているより悪いようです」
「大君主が思っているより悪い?」
言葉尻を捕らえたアンディが聞き返した。
「ええ。あのワードナの迷宮には二重に結界が張ってあります。一つ目は迷宮から魔物が出ないように。そしてもう一つは、悪魔等が上の方の階に上って来ないように。そして、曾祖父はその結界がいつ破られるか判らないと言っていたのです」
ソフィーの言葉に、ジェフが驚いた表情を見せた。賢者からは結界が危ない等、聞かなかった所為だろう。
「なぁ、ジェフ。一つ聞くが、五階より下に、通行証を必要とするような場所があると思うか?」
ビルが突然ジェフに問い掛ける。その瞳は何時に無く深い色を見せていた。
「噂では、集めなければならない品物は六つと言われています。この噂は信じても良いと思います。ワードナの部屋に行く為に、何かあるかもしれませんが、そう沢山あるとは思いません。地下四階迄にあった、あの品物等は、大君主トレボーが仕掛けた物でしょう。それに、多分そう細かい仕掛は、掛けられなかったのではないかと思います」
ジェフがビルを真っ直ぐ見ながら応えた。
「呪文の力が強すぎて?」
「ええ。言ってしまえばそうです。建物を壊してしまうような、一種の暴走をしたような力に、細かい調整は出来ないでしょう」
アンディの問いに、ジェフは迷いなく応え、言葉を継ぐ。
「そして、ワードナは迷宮の改良をするより、神秘の護符の力を解明する方を優先させているでしょう。迷宮の守りは、召喚した魔物達に任せれば良いのですから」
「なるほどなぁ」
「つまり俺達は、迷宮を細かく地図描きするより、魔物退治して、力を付けてった方が良いって事だよな」
ビルはのんびりと相槌を打ち、ウォーリィが敵に挑戦するような顔で、ジェフを見る。今迄、何かと先に進もうとする自分を押さえられていたのが、気に入らないのだろう。
「そう言う言い方もできるかもしれません。ただ、過信は禁物です。この酒場の様子を良く見れば判りますが、古参と言われていた者達、それも豪気な者達程、少なくなっていると思いませんか」
「自分達の力を過信した結果と言いてぇのか?」
ウォーリィが不機嫌そうに言う。
「一概に言えないのかもしれませんが、少なくともあの君主の像、正式には、狂王の黄金像と言うのだそうですが。あの像が語った言葉を忘れてはならないと思います」
「君主の像の語った言葉?」
諭すように言ったジェフに、アンディが聞き返した。
「つまり、ワードナに会う為には、様々な怪物と戦わなければならないと言う事です。そしてその中には悪魔すら含まれると。賢者が言うには、古の魔物を召喚したらしいと言う事ですが」
「古の魔物? もしかして、巨人族とか獣人とかか?」
アンディが驚きの表情を隠そうともせずに尋ねた。古の魔物に関する事は伝承の中の事だとばかり思っていて、実際に存在するとは思っていなかったのだ。尤も、ワードナが迷宮に放つ前は、本当に伝承の中だけに存在するものだったとも言える。
「ええ。それにあのワードナの事ですから、不死者の中でも最強と言われている、バンパイア。それに、そのバンパイアさえ従える、バンパイアロード等までもいると考えた方が良いでしょう」
ワードナは迷宮を造る直前、不死者の作り方、つまり死霊術を研究していた節があるのだ。尤も、不死者も古の魔物とも言われるから、それらを召喚できるのならば、作り出すよりも、召喚する方がずっとたやすい。
「バンパイアにしろ、バンパイアロードにしろ、結局は不死者なんだろう? それなら、ソフィーの解呪で何とかなるんじゃないのか?」
アンディはソフィーに、少し不思議そうな顔を向けた。
「私の力が充分であれば、ですわ。地下一階で幽霊と戦った時の事を覚えていますか? アンディ。あの時、私の力が不十分で、解呪は効きませんでした」
「あのマーフィーズ・ゴーストと戦った時の事だよな。てー事は……」
ソフィーの答えに、ケインは言葉尻を濁した。
「どちらにせよ、私達が力をつけるしかない。と言う事です。そして、力を付ける為に一番なのは、多くの敵と戦う事です。……私としてはあまり歓迎したい事態ではないのですが」
ジェフはいかにも不本意だと言いたげな顔をしていた。
「それでも、迷宮内で戦っていくしかねぇってんだろ」
「ええ、そうです。賢者の所から此所に来る迄、色々と考えてみたのですが、これより有効な考えは浮かびませんでした」
何時もより強い光を瞳に宿したウォーリィに、ジェフは少し困惑したような表情で応えた。
「なら、考えるこたねぇだろ」
「そうだな。覚悟を決めないといけない」
ウォーリィの言い様に、アンディが瞳に何時に無く鋭い光を湛えて、自分に言い聞かすような調子で言う。
「皆、それで良いんだな」
ビルが確認を取るように、皆の顔を見回した。そして、五人はそれぞれ無言で頷く。
「なら、十日後に地下五階に降りる事にしよう」
皆の頷きを確認して、ビルが宣言した。
「何で、十日後なんだ。そんなに間を開けんのか?」
「疲れを取ってからの方が良い。今日の戦闘はかなり消耗したしなぁ。多分あんな戦闘を、何度も繰り返さなければ、ならないんだろうからな。今日は、心行くまで飲むぞ」
「親父、取り敢えず糖酒の瓶を二瓶くれ。それと杯をもー二つ」
珍しいビルの言葉に、ケインが乗り、主人に声を掛けた。ケインが注文した糖酒は、火酒の中でも最高級のものだ。火酒は洽酒と呼ばれる、発酵させただけの酒を蒸留して作る。蒸留によって不純物が取り除かれる所為で、火酒は洽酒とは比べ物にならない程強い。慣れない者が飲むと、酔いが回り過ぎて、あの世迄連れて行かれてしまうとも言われていて、冒険者達が飲む事は少ない。このギルガメッシュの酒場でも、需要が少ない為、あまり在庫は無いはずだが、主人は嫌な顔一つせず、独特の酒瓶を持って来た。そして何時もなら洽酒である地酒しか飲まないアンディ、ジェフ、そしてソフィー迄が、糖酒を飲む事に同意した。
「じゃあ、探索の成功を祈って、乾杯!」
皆に杯が渡ったのを確認して、ウォーリィが言い、自分の杯を干した。
「乾杯」
アンディ、ジェフ、ソフィーも少し緊張したような表情で、それぞれ杯を空けた。
彼ら三人の飲み方は、糖酒の味を楽しむと言うより、これからの探索に向けての覚悟を決める為の儀式のようだった。