第二章 友への想い ~ Proving Grounds of the Mad Over Lord ~

アンディ達は酒場でエドモンドに言われたように、一階の探索をする事にして、迷宮に向かいながら何処を探したら良いかという事を話し合っていた。

「ところで、何処を探したら良いか判るか? ジェフ」

「昨日から考えているのですが、良く判りません。北の方だとは思います」

ジェフは地図(マップ)を見ながら考え込んでいる。

「いーじゃねーか。探すしかねーんだろ?」

「それはそうだけど、見当を付けて行かないと、見付かる物も見付からないじゃないか」

ケインの言い様に、アンディが何時もながら慎重な意見を返す。

「まぁ、北側を探索してみよう。ところで、ジェフ。北側も二つに分かれてたと思ったが、どちらからが良い?」

「あれ? 北西側の地図(マップ)って、出来てたっけか?」

ビルが珍しくジェフに聞いた台詞で思い出したのか、ケインがに尋ねた。

「いいえ。未だです」

「確か……ケインが(トラップ)を開け損なった所だろ? あれの所為で、そのまま帰って来た」

ウォーリィが意地悪そうにケインを見る。

「し、しまった!」

ケインはその視線から逃げるように、アンディの後ろに周り込み、顔だけ出していた。

「あはは、あれはさー……」

「ま、爆裂箱(エクスプロージング・ボックス)じゃなかっただけ、ま、だ、な」

ウォーリィが人の悪い笑みを浮かべ、言葉は辛辣だが、からかう様な軽い調子で言う。ケインとウォーリィは仲が悪いわけではないのだが、すぐに言い争いをする。ウォーリィは他の者には一言で済ます所でも、ケイン相手だと喧嘩になるまで止めない時がある。今回もこのままでは喧嘩になりそうなので、ビルとアンディが止めに入った。そしてとにかく北側の探索をする事にして、まず北西側の一角の地図(マップ)を完成させようという事になったのだった。

西側の一角の探索をソフィーが光明(ミルワ)を掛けながら、くまなく探索したが、何も見付からなかった。それに光明(ミルワ)の効力は余り長続きせずに、光の球が消えてしまう為、何度も立ち止まって、掛け直さなければならなかったのだ。

光明(ミルワ)ってぇのは、あまり長続きしねぇんだな」

西側一角の地図(マップ)が出来上がろうとする時、ウォーリィが珍しく独り言のように呟いた。

「すみません。もう少し精神を鍛えれば、かなり長い間消えない、光の球を造る事が出来る呪文を、使えるようになるのですが」

ウォーリィの呟きが聞こえたのか、ソフィーがすまなさそうにしている。

「ふうん。じゃ、その呪文を使えるようになってからの方が、良いんじゃねぇか? 地図描き(マッピング)は」

喜々としてウォーリィが言う。ウォーリィは探索よりも、戦闘の方が性に合っているらしい。大まかな外郭を把握する為の地図描き(マッピング)をしている時はともかく、隠し扉(シークレット・ドア)を探すような細かい地図描き(マッピング)をしている時は、かなり慎重に進む所為もあって、ウォーリィは始終苛々していて、ケインに食ってかかる率も高い。

「ところでその呪文、後どのくらいすれば、使えるようになると思う?」

アンディが声を掛ける。

「はっきりとした事は判りませんが、そう時間がかかるとは思われません」

「じゃあ、二階に行かねぇか?」

ソフィーの答えを聞きながら、ウォーリィが不敵な笑顔を見せる。

「その方が面白いし」

そしてウォーリィは、皆に聞こえないように付け加えた。

「まぁ、こう何回も呪文を掛けてれば、ソフィーも疲れるだろうしなぁ。二階にでも行こうかぁ」

「その前に、一度町に戻った方が良くないか?」

アンディがビルの呟きを聞いて、少し心配そうにソフィーの顔色を見ている。しかしその手は、何時も腰に差している短刀(ダガー)を無意識に触っていた。

「ソフィーも呪文を掛け続けて疲れたんじゃないかな。ソフィーが疲れてると、癒しの呪文がうまく掛けられないだろうし、そうなると二階では、危ないんじゃないか?」

「私もそう思います。一度町に帰った方が良いでしょう」

アンディの言葉を補足するようにジェフが言う。

「じゃあ、町に帰ろう。そしてソフィーの疲れが取れたらすぐに、二階に行くという事にすれば、ウォーリィも文句ないだろう?」

ビルがウォーリィの不満そうな顔を見ていた。

「ないって事はねぇが、そういう事ならまあ……」

ウォーリィが言葉尻を濁したが、文句は言わなかったので、そのまま町に帰る事にした。


ソフィーの疲れは、町に帰るまでに大分取れた様子だったので、アンディ達は翌日には迷宮の中に入っていた。そして真っ直ぐ地下二階に向かった。西の方は入れない所が多いので、未だ行った事のない、北の方に伸びる通路に進んだ。其処は一本道で、螺旋状の通路になっているようであった。その通路の途中に扉が一つあった。

「開けてみようぜ」

今にも扉を蹴飛ばしそうな格好で、ウォーリィが言う。

「まぁ、通路を歩くだけじゃ、何にもならないしなぁ」

ビルの言葉を聞いた途端、ウォーリィが扉を蹴飛ばした。其所は小さな正方形の部屋で、中には小さな物体(スモール・オブジェクト)が山と積まれていた。その小さな物体(スモール・オブジェクト)は、それぞれ動いているようである。

「何だこれ」

ウォーリィがその小さな物体(スモール・オブジェクト)に手を伸ばした。するとこちらが生き物なのが判ったのか、その小さな物体(スモール・オブジェクト)は、ウォーリィに物凄い勢いでぶつかって来たのだ。

「痛ぅ! 何なんだ。こいつらは!」

アンディ達は、何が何だか判らなかったが、とにかく切り掛かる。戦士(ファイター)達が懸命に振るう剣が、少しでも小さな物体(スモール・オブジェクト)に当たると動かなくなるのだが、小さな物体(スモール・オブジェクト)が動くたびに、かなり大きな音が出る。そして、その音に引き付けられるのか、何処からか新たに小さな物体(スモール・オブジェクト)が現れ、際限なく数が増えていった。

「これじゃ、どうしようもねぇ。片付ける数より、増える数の方が多いぜ」

「ジェフ、何とかならないか?」

ウォーリィが珍しく弱音を吐き、アンディが剣を振りながら聞いた。

「その音がしないように、呪文を掛けてみましょう。効くかどうかは判りませんが。……眠れ。動きを止め、我が言の葉のままに。誘眠(カティノ)

ジェフの気合いの籠った声が聞こえたかと思うと、小さな物体(スモール・オブジェクト)の半分が動かなくなった。その間にアンディ達の剣で、動いている小さな物体(スモール・オブジェクト)を叩き切り、後の半分も動き出す前に剣で切り裂いた。

「しかし、何だったんだろうなぁ。これは」

「クリーピングコインと呼ばれている物ではないでしょうか。その昔、呪文の媒体として、造り出された物と言われていたと思いますわ」

ソフィーはジェフの顔を見ていた。

「ソフィーが言ったように、多分これはクリーピングコインでしょう。秘呪文で造られた生物で、知能等は持ちません。これは、聖呪文や妖呪文では無く秘呪文、それも予言に関する呪文に使われる事が多いと聞いています。しかしこの迷宮では、こんな物まで人を襲って来ますか。ワードナの呪力がどれ程の物かが判る気がします」

一つ頷いて、感心したようにジェフが説明する。

「ジェフ、この壊れた硬貨、値打ちあんのかなー」

ケインは部屋の隅にあった宝箱を開けてから、クリーピングコインの残骸を、興味深げにそっと触っている。

「壊れた今となっては価値は無いと思います。ケインの言いたい事も判りますが、持って帰っても何の役にも立たないでしょう」

「残念だな。こんだけありゃ、一財産だと思ったんだがなー」

ケインが未だ未練があるように、横目でクリーピングコインの残骸を見ている。それは、始め見た時の輝きも失せ、少しでも触れば、砂のように崩れてしまいそうにも感じられた。

「それより、先に進もうぜ」

ウォーリィが皆を急かすように言った。

アンディ達はそのまま通路を進み、途中で僧侶(プリースト)と出会った。紋章を見るとどうも大地神ニルダの僧侶(プリースト)らしいので、こちらが神妙にしていると、その僧侶(プリースト)はいきなり攻撃を掛けてきた。幸い長杖(スタッフ)での攻撃の上、動きも早くは無かったので、誰も傷付いたりはしなかったが、殆ど不意打ちのような攻撃を受けたのに怒ったウォーリィが、その僧侶(プリースト)を切り倒した。アンディ達は知らなかったのだが、この迷宮内には邪悪や金等に見入られ、復活神カドルトや大地神ニルダへの信仰を無くしてしまった僧侶(プリースト)司教(ビショップ)が、かなりの数でうろついているのだ。信仰を無くしても、呪文が使えなくなる事もないし、紋章を捨てる事もないようで、この迷宮内で、冒険者達を襲っては、私腹を肥やしているのだ。

通路は螺旋状に長く続いていて、途中に扉は無かった。そして突き当たりには、下りの階段があった。

「降りてみようぜ」

いつもの気軽さでウォーリィが言う。

「でも、エドモンドさんが『三つ目の鍵があれば、三階の回転床(ターン・フロア)が回らなくなるらしい』と言ってただろう? 三つ目の鍵を見付けてからの方が、良いんじゃないか? どう思う、ビル」

アンディが少しきつい声でウォーリィに言い、確認を取るようにビルに問い掛けた。

「そうだなぁ、ジェフはどう思う?」

ビルはどちらとも付かない顔付きで、ジェフに話を振った。

「まだ三階に行くのは、早いと思います。ただ闇雲に進んでいれば良い、というものでもありません。私達は迷宮の探索をして、生きて町に帰らなければならないのですから」

ウォーリィの無謀さには、良い加減嫌気がさしているジェフが、少し強い調子で答える。

「それを『探索』と言うのですわ」

そして諭すような口調で、ソフィーが付け加えた。ジェフとソフィーの言葉を聞いて、何故かアンディの表情が曇り、彼の茶色の瞳には辛そうな色が見えた。そして、その右手は腰の短刀(ダガー)を無意識に探っていたが、その事に気付いた者はいなかった。

「そうだよなぁ」

ビルが呟くように言ってから宣言する。

「とにかく引き返そう」

アンディ達は螺旋状の通路を引き返した。そして二階の探索をしながら、かなりの敵と戦った。アンディ、ビル、ウォーリィの三人も少なからず傷を負い、ソフィーの呪文でも、治す事が出来なくなっていた。

「ソフィーも疲れてきたようだし、これで今回は帰ろう」

「俺は、まだ、やれるぜ」

ビルの言葉を聞いたウォーリィが、その黒い瞳に強い輝きを込めて応える。しかしそのウォーリィも、どれも軽傷ではあるが数多くの傷を負い、少し息が荒くなっていた。

「ジェフも疲れているようだし、帰った方が良いと思う。それに、戦士(ファイター)だけじゃ、あのクリーピングコインのような敵に会ったら、心許無いだろう?」

アンディはウォーリィに反対する。アンディ自身は、傷は少ないのだが、息が大分乱れてきていた。アンディの剣技は、よく動くのが特徴のようなものなので、他の二人よりどうしても運動量が多くなってしまう。達人と呼ばれる程の者ならばそうでもないのだろうが、アンディの腕では未だ無駄な動きが多くなってしまうので、どうしてもビルやウォーリィより消耗が激しい。

「ウォーリィのその元気は、町に帰る迄に会う敵に対して、使って欲しいものです」

ジェフはこれ以上奥に行くのは絶対反対だ、と言わんばかりの表情を見せていた。ジェフも殆ど限界まで呪文を使っていた。酷く身体が怠いし、呪文書の表紙に輝いている力石(パワー・ストーン)の輝きも殆ど見られなくなっている。これ以上呪文を唱えられる自信はない。

「ウォーリィが元気なのは認めよう。けどなぁ、正直、俺も疲れた。早く町に帰って、酒でも飲みたいよ」

ビルがウォーリィの肩を叩く。尤もそういうビルは、傍目には一番元気にも見えなくはない。傷も少ないし、呼吸もかなり落ち着いている。

「ま、俺だけ元気でもしょうがねぇか」

ウォーリィはしょうがないなという顔で、踵を返した。

町で十分休養を取ってから、アンディ達は迷宮へ入った。翌日になって呪文書を確かめて判った事だが、ソフィーとジェフは、それぞれ新しい呪文を使えるようになっていた。しかし、長い間消えない光の呪文(恒光(ロミルワ))は、未だ使いこなすには力が足りないらしく、呪文書には現れなかった。ジェフとソフィーが、それぞれ賢者(ネストール)と高司祭に、呪文の使い方を教えてもらってから、アンディ達は迷宮の地下二階へと進んで行った。


地下二階の南東にある部屋を探索している時、ウォーリィが寄り掛かった壁がいきなり開いた。どうも隠し扉(シークレット・ドア)だったようだ。少し広めの正方形の部屋で、特に変わった所があるようには見えなかった。

「変だな。隠し扉(シークレット・ドア)で隠されている部屋だというのに、敵もいないし、何もないなんて」

アンディがぼんやりと部屋を見回す。何かを探すと言うより、雰囲気を感じ取ろうとしているようだ。

「あの角、何か変な感じしねぇか?」

ウォーリィが部屋の一角を指差して言う。何時もなら部屋に何も見当たらないと、一番に出て行くウォーリィにしては珍しい。

「俺もそー思う。ソフィー、わりーけど、明り灯してくんねーか?」

こちらも珍しくウォーリィに賛成した、ケインが声を掛ける。ソフィーはケインに頷くと、光明(ミルワ)を唱えた。するとウォーリィの言った部屋の角、一寸見には壁に見える所に、扉があった。

「又、隠し扉(シークレット・ドア)か。開けるぞ」

宣言してからアンディが扉を開けた。左には扉、右には通路が在った。

「とりあえず、通路を進もうかぁ」

ビルが呟き、通路を進み出す。アンディ達もそれに続いた。途中二つ程扉が在り、通路は丁字路に突き当たった。左の通路の地面近くに、小さな看板が、間を開けていくつか在った。一つ目には『地下迷宮の暗闇は・・・』と書いてある。

「これだけじゃ何の事か判んねーな、後の奴も読んで見よーぜ」

ケインが先に進み看板を読む。

「灯りが無い時には・・・、気を付けよ、さもなくば・・・? どーなるってーんだ?」

疑問を口にしながら先に進んだ。

「うぁお!」

ケインが悲鳴を上げる。落し穴(ピット)に落ちてしまったのだ。

「ちくしょう、(トラップ)だったのか。この迷宮の看板にはろくなのがねぇな」

ウォーリィが悪態をつく。落し穴(ピット)に落ちた所為で、かなりの傷を負ったので、一行は一度町に帰る事にした。勿論、ウォーリィが文句を言ったが、この状態で何回も二階で戦闘をする訳にも行かず、結局他の者達から猛反対を受け、ウォーリィも引き下がらざるをえなかったのである。

そんな事が在った後、何回か地下二階と町を往復して、ソフィーは恒光(ロミルワ)の呪文をやっと使えるようになった。

迷宮の入口に向かいながら、アンディ達は何となく、和やかな雰囲気の中にいた。

「ソフィーも恒光(ロミルワ)の呪文を使えるよーになったし、これから迷宮の探索も楽になるなー」

その雰囲気の所為か、ケインが楽しそうにウォーリィに話しかけている。

「その様子では、十年掛けたとしても、この迷宮の探索は終わらんぞ」

迷宮の入口の横に何時も座っている、かの屈強そうなドワーフがのっそりと顔を上げ、言うだけ言って、すぐに元の姿勢に戻った。

「おい、おっさん! 何だっていっつも、俺の癇に触る事ばっかりゆーんだよ!」

ケインが喧嘩腰で話しかけたが、ドワーフは身動き一つせずに座っている。

「おい、おっさん!」

今にも胸ぐらを掴み掛かりそうな調子で、ケインが詰め寄る。ケインは何時もこのドワーフには良い顔をしない。その何時も感じている不満が爆発してしまったようだ。

「その辺でやめとけよ」

「だけどよー、アンディ。俺はこのおっさんの言動は、嫌味としか思えねーんだ」

肩を掴まれたケインが、ドワーフに向けていたよりは、穏やかな視線をアンディに向けて言う。尤も、不機嫌さは隠しようがない。

「そうは言っても、此所で喧嘩してもしょうがないだろ? 俺達の目的は迷宮の探索で、迷宮の入口で喧嘩する事じゃないんだから。此所で怪我でもしたら、馬鹿らしいじゃないか」

「そーだけどさ……」

渋るケインをアンディとビルで納得させ、アンディ達は迷宮に入って行った。その間、かのドワーフは、それこそ身動き一つしなかった。


迷宮に入って直ぐ、ソフィーが呪文を唱える為に立ち止まった。

我が神カドルトよ、この暗闇を退ける明るい光りを灯し給え。光は彼方にあり、光は更に増されん。恒光(ロミルワ)

ソフィーの少し高い声が辺りに響くと、光明(ミルワ)を唱えた時と同じように、手の上に、ソフィーの手のひら程の光の球が浮かび上がり、迷宮の中を照らし始めた。

「この光の球は、一度出来ると、町に戻るか暗闇(ダーク・ゾーン)に入るかしなければ、永遠に灯っている事が出来るそうです。町に戻ると陽や月の光に溶かされてしまうのだと、高司祭様がおっしゃっていましたわ」

「ふーん。まあ、これでソフィーも呪文掛け通しで、疲れねーですむんだ」

ソフィーの説明を聞いて、ケインが言う。

「探索に行こうぜ。北の方だろ」

ウォーリィが元気良く歩き出す。皆との話し合いで、三つ目の鍵が見付かる迄地下三階には降りられないので、ウォーリィは早く鍵を見付けたいようだった。


北東にある一角の通路で、前回来た時には、ただの通路に見えた所に、扉が二つ並んでいた。

「こんな所に隠し扉(シークレット・ドア)があったのか。気が付かなかったな」

「さぁて、右と左。どちらの扉に入るかなぁ?」

アンディの感心したような声を聞きながら、例によってビルが呟いて、左側、つまり通路の奥側にある扉を開けた。其処には角と長い牙を持った、雄豚の銀色の像が置かれていた。像の横の壁には、通りすがりの冒険者が書き残して行ったのか、消えかけた文字が刻まれていた。

「こりゃ、何て読むんだろうなぁ。ジェフ、判るか?」

壁の横の文字を見てから、ビルが振り向き、ジェフを見る。ジェフはビルと位置を交替して、消えかけた文字を覗き込んだ。

「良く、判りません。これはエルフ語のようですが……。えーっと……銀……左…二……悪魔(デーモン)………幽霊(ゴースト)……だけです、かろうじて読めるのは」

「銀? あの部屋の事かな? 銀色の霧の降ってきた。しかし、左、二と言うのは何だろう」

アンディがジェフに聞くと、ジェフは首を横に振った。伝言は酷く掠れていて、判別できた所も辛うじて読めた程度なのだ。前後の繋がり等、推し量りようもない。

「単純に、鍵穴に鍵をさして、左に二回まわす、という事ではないでしょうか」

ソフィーが遠慮がちに口を挟んだ。何等かの答えが得られなければ、皆が動こうとしない事を見越して、一つの考えを述べてみたのだ。

「像の周りを探してみましょう。きっと鍵が見付かります」

ソフィーの答えを聞いて、ジェフが提案した途端、ケインが鍵を見付けたと持ってきた。他の皆が考えに沈んでいる間、ケインは盗賊(シーフ)らしく、像の調査をしていたようだ。ケインは忍び足はあまり上手ではないが、調査や鍵開けに関して、他の盗賊(シーフ)達と比べて、引けを取る事はあまりない。

「さすが盗賊(シーフ)だな。こういう時は、何処を探したら良いか判ってる」

「まー、俺様にかかりゃ、ざーっとこんなもんよ」

アンディの誉めように、ケインは得意気な顔をする。

「けどよ、これが探してた鍵か?」

ウォーリィがケインから鍵を受け取り弄んでいる。青銅製の鍵(キィ・オブ・ブロンズ)よりも若干大きいその鍵は、見た目よりもずっと重い。

「ええ。多分、銀製の鍵(キィ・オブ・シルバー)でしょう」

「像の周りには、それらしい品物(アイテム)は他にないようだしなぁ。さぁて、鍵も見付かった事だし、銀の霧の降りて来た部屋へ行こう」

ビルは皆を促した。ウォーリィが珍しく、神妙な顔をして付いて行く。以前行った時は、銀の霧の中にいた悪魔(デーモン)に驚かされ、ウォーリィが一番に部屋から飛び出た。皆の前では強がっているが、あの時の感覚がまだ身体に残っていて、思い出すだけで、身体が竦みそうになってしまうのだ。

「鑑定してもらわずに、このまま持って行ったので大丈夫かな?」

ビルの後について行きながら、アンディがジェフに聞く。

「さあ、どうでしょう? ただ、青銅製の鍵(キィ・オブ・ブロンズ)の事から考えて、ボルタックの主人は、法外な鑑定料を要求すると思われます」

「このまま行くしかないと?」

悪魔(デーモン)等にそう何回も、脅かされたくはありませんが」

ジェフは軽く、肩を竦めた。ウォーリィ程ではないにしろ、ジェフもアンディも悪魔(デーモン)に驚いて、部屋から飛び出たのだ。尤も、あの銀の霧に何等かの細工がしてあったのだろうとも思うが、身体が竦むような恐怖等、何度も味わいたいものではない。

「脅された時考えりゃ、いーんじゃねーの?」

アンディとジェフの会話が聞こえたのか、ケインが声を掛けてきた。


途中で魔術師(メイジ)やクリーピングクラウドと戦ったりしたが、傷を負う事はなく、あの銀の霧の降ってきた部屋の前に着いた。前に来た時は気が付かなかったが、銀色の鍵穴のようなものが扉に付いていた。

「じゃあ、ソフィーが言ったように、左に二回まわしてから、入ってみようぜ」

ウォーリィが言い、ケインが銀製の鍵(キィ・オブ・シルバー)を鍵穴に入れ、左に二回まわし、扉から離れる。

「さぁ。開けるぞ」

ケインが離れたのを見てから、皆に声を掛けビルが扉を開いた。今回は銀の霧が降ってくる事もなく、アンディ達は部屋に入る事ができた。

「正体が判ってりゃー、司教(ビショップ)とかに鑑定してもらわねーでもいーんだ」

ケインは心底感心したという顔をしている。

「の、ようだな。心配して損した」

ウォーリィは、気が抜けたような顔をしていた。そして皆はそれぞれ、部屋のあちこちを見ている。まるで部屋の何処かに隠れている、悪魔(デーモン)幽霊(ゴースト)を見付け出そうとしているかのようだった。

「奥へ行ってみようぜ」

あまりにも皆が動かないので、ウォーリィが痺れをきらして促した。短い通路のような、部屋のような場所を通り抜けると、長い通路に三つ扉がある場所に行き当たった。

「どの扉がいいかなぁ?」

ビルが呟きながら左の扉を開けた。其処も短い通路になっていて、反対側に扉がある。その扉を開けると、小さな部屋になっていた。部屋の真ん中に小さい台座があり、その上に熊を象った像があった。そして像の後ろには、『俺は何百万も奴等を殺したぞ!』と書かれていた。

「奴等って何だろうな」

「さあ。オークか何かかな? だけど熊がオークなんかを、何百万も殺さないだろうし……何だろう」

ケインの独り言にアンディが応えを返す。

「この像、動かせんのか?」

いきなりウォーリィが像を持ち上げた。

「けっこう軽いな」

「不用心だな、ウォーリィ。(トラップ)があったら、どうするつもりだったんだ?」

像を弄んでいるウォーリィに、一寸嫌そうな顔をしながら、アンディが声を掛ける。

「しかしこれなのかね、かの噂の像は」

ケインが調べようとするかのように、像を上から見たり、下から見たりしている。尤も、司教(ビショップ)ではないケインに、鑑定できる訳はない。

「この様子だと、これは熊の彫像(スタチュー・オブ・ベア)でしょう。はっきりした事は、鑑定してもらわないと判りませんが」

ジェフが少し嫌そうな顔をしている。ボルタックの主人に吹っ掛けられた、鑑定料の事を思い出したのだろう。

「別に無理して、鑑定する事ねーだろ? 鍵の例もあんだし」

「あの穴のある扉のとこへ、行ってみようぜ。そうすりゃあ、判るんじゃねぇか?」

ケインが自分の持ち金を確認し、ウォーリィは焦れったそうにしている。

「あれは何処だったっけなぁ。ジェフ、判るか?」

「ええ、判ります。行きますか?」

「行かいでか!」

ジェフの言い様に、噛み付くようなウォーリィの声が返る。そして、アンディ達は三つ目の鍵を求めて、探索を開始した。

一行は通路を大分戻り、問題の部屋の前に立った。

「開けば良いなぁ」

ビルが言いながら扉を開け、ケインが壁の穴に熊の彫像(スタチュー・オブ・ベア)を押し込むと、今迄どうやっても、開こうとはしなかった扉が音も無く開いた。ウォーリィを先頭に扉を潜ると、其処も前の部屋と同じような造りの部屋があった。部屋の中は何故か、数多くの蜂が飛んでいるような音がしている。そして、正面にある扉の隣には先程の物と、同じくらいの小さな穴があった。其処に蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)を押し込むと音が止み、部屋の中に静寂が訪れた。扉が動かなかったので、ウォーリィが扉を開けると、其処は暗闇(ダーク・ゾーン)になっていた。

「ふうん。此処も彫像を入れたんで良かったのかぁ」

「通れるなら良いじゃねぇか。さっさと進もうぜ」

ウォーリィはビルの呟いた事はどうでも良い、という感じである。実際、ビルが呟きを漏らす時は、応えが返る事を期待している訳ではなく、考えている事が思わず口を付いて出ているだけなのだ。

「また暗闇(ダーク・ゾーン)ですか。此処に入ると地図(マップ)がうまく描けませんし、疲れますし、私としては歓迎したくありません」

「へえ、ジェフでも苦手な物ってあるんだ」

何だか楽しそうなウォーリィの声がする。ウォーリィの悪い癖で、どうも、人がうろたえるのを見るのが好きなようだ。しかしこの癖の所為で喧嘩になる事は少ない。今も一言だけで気がすんだのか、それ以上言葉を継ごうとはしないからだ。但し例外的に、ケインを相手にする時は、二言、三言続けてしまう所為か、直ぐに喧嘩になってしまう。

「私も人ですから、苦手なものもかなりあります」

「そーは言ってもさ、此所を探索しねーと先に進めねーだろ?」

ケインが慰めるように、ジェフの肩を叩いたが、ジェフは応えない。

「ジェフ、地図描き(マッピング)は任せるぞ」

ジェフが応えないので、ビルが労るような響きを含んだ、信頼に満ちた声を掛けた。

暗闇(ダーク・ゾーン)の中を探索してみると、正方形の空間になっている事が判った。そして、中には一方通行の壁(ワン・ウェイ・ウォール)があったりもしたが、この暗闇(ダーク・ゾーン)の中心に、ほんの小さな部屋があった。その部屋の中にだけは発光苔があり、見た事のあるような青銅(ブロンズ)製の像が縞瑪瑙の台座に乗っている。そして台座には、不自然な傷跡があった。

「何か見た事ある像だなー。何処で見たんだっけ?」

ケインが不思議そうに像を見ながら言う。

青銅製の鍵(キィ・オブ・ブロンズ)があった所じゃないかな?」

アンディも像を不思議そうに見ている。ビルもアンディの隣で像を見ながら、考え込んでいた。

「一階に飛ばされたかなぁ? すまんが、ジェフ。確認してくれないか」

判りました。定められし所、今我にその場を明かせ。明瞭(デュマピック) ……。私達は二階の暗闇(ダーク・ゾーン)の中に、間違いなく居るようです」

ビルに軽く頷きを返してから、ジェフは呪文を唱え、答えた。

「そうか。じゃあ、あれとは違う像なんだなぁ。そうと判れば、この辺り探してみよう」

ビルが声を掛けた。ケインは既に像を調べていたが、アンディとソフィーは、像を見ながら何やら考え込んでいる。ウォーリィはそんなケインやアンディ達を、見るともなしに見ていた。ビルの声が聞こえたのか、ウォーリィ達も像の周りを調べ始めた。

「これかな、此所に隠してある品物(アイテム)は」

しばらく皆で像を調べていたら、ケインが小さな金色の鍵を持って来た。

「これなんじゃないか? しかし他の二つより、かなり小さいなぁ」

「他に鍵のようなもんは、見付かんねぇぜ」

ビルの呟きが聞こえたように、ウォーリィが答える。

「動かせる彫像のような物もないようだし」

「彫像は二つ見付けましたから、私達が此所で探さなければならないのは、鍵だと思います。もう一つの正体不明の品物(アイテム)は、もっと迷宮の奥へ行かなければ、手に入れる事は出来ないでしょう」

アンディの言い様に、ジェフが説明するような調子で答える。

「じゃあ、金貨(ゴールド)ためて、ボルタックの親父に鑑定してもらうかー? どんだけかかんか知んねーけど」

「そうだなぁ。どちらにしろ、一度町に戻ろう。このまま三階に行く訳にもいかないしなぁ」

ケインが嫌そうな顔をするのを見てから、ビルが宣言した。

「充分休息したら、直ぐ三階に降りてみようぜ」

ウォーリィも疲れが出たのか、町に帰る事には賛成のようだ。

「装備を整えなおした方が、良いかもしれません」

引き返しながら、ジェフが誰にとも無く言った。

町に帰ったアンディ達は、その足でボルタック取引所へ向かった。

「もっと早く、買いかえたら良かったかなぁ」

「そうだな、金はあるんだし」

ビルの呟きを聞きながら、ウォーリィが自分の装備を見て呆れている。

ボルタック取引所は、ボルタックと言う名のドワーフが経営している。ドワーフというのは、種族的に金が好きであり、このボルタックも例に漏れず金好きであった。また、ドワーフはエルフとは、一般的に仲が悪いと言われている。その所為かソフィーとジェフは、この主人に対してあまり良い顔はしない。尤も、ジェフは鑑定料の事もあるからだろう。しかし、ボルタックは、エルフだろうと悪い顔はしない。自分の店のお客は皆同じように扱う。ボルタックにとっての敵は、金を持っていないのに、店に入って来る者と、値切ろうとする者のようである。

「いらっしゃいまし、旦那方。それに御婦人。どんな御用ですか?」

ボルタック取引所の扉を開けると、所狭しと並べられた品物(アイテム)の奥から、声が掛かった。

「鎧を見せて欲しい」

「このような感じの鎧で、よろしゅうございますか? こちらの剣士の方々には、板金の鎧(プレイト・メイル)か、+1の板金の鎧(プレイト・メイル)がよろしいでしょう。この+1の板金の鎧(プレイト・メイル)は、今、標準的な大きさの物が一揃いしか、在庫はございませんが。それに、そちらのお方には+1の革の鎧(レザー・アーマー)を、こちらの御婦人には、+1の胸当て(ブレスト・プレイト)などいかがです?」

主人は、板金の鎧(プレイト・メイル)を二揃いと、+1の板金の鎧(プレイト・メイル)を一揃い、+1の革の鎧(レザー・アーマー)、+1の胸当て(ブレスト・プレイト)を、それぞれ一着づつ出してきた。

「こちらの+1の板金の鎧(プレイト・メイル)は普通の鉄ではなく、少し真銀(ミスリル)の混じった合金で作られているので、防護力(アーマー・クラス)はなかなかのものになっておりますよ。お値段も、それなりのものになっていますがね。それから+1の胸当て(ブレスト・プレイト)は、胸当て(ブレスト・プレイト)の表面に硬化の呪文を刻み付けて、防護力(アーマー・クラス)を下げたものです。それにこちらの+1の革の鎧(レザー・アーマー)は、革の鎧(レザー・アーマー)の表面に、霊薬(エリクサ)を塗って、革を石のように硬くしたものです。ですから防護力(アーマー・クラス)が下がってはいますが、重さは若干、軽くなっています」

ボルタックの主人が言う霊薬(エリクサ)とは、薬草(ハーブ)等を特殊な方法で、調合した物を指し、薬草(ハーブ)の効き目を強くした物や、全く別の効き目を持つ物が存在する。またこの店で売っている、解毒薬(ポーション・オブ・ラテュモフィス)治療薬(ポーション・オブ・ディオス)等の薬瓶類も、霊薬(エリクサ)であって、神官達が呪文の力を込めた魔法の品物(マジック・アイテム)ではない。

「ふうん。で、幾らなんだ?」

ウォーリィが聞く。

「+1の板金の鎧(プレイト・メイル)、+1の革の鎧(レザー・アーマー)、+1の胸当て(ブレスト・プレイト)も1500金貨(ゴールド)になります。板金の鎧(プレイト・メイル)の方は750金貨(ゴールド)です」

「それだと鎧を買っただけで、金がなくなっちまうか。鎧だけじゃ無く、(ヘルム)も欲しいんだけどな」

ウォーリィの台詞を聞いて、主人は(ヘルム)を三つ出してきた。それを見てアンディが主人に声を掛ける。

「親父、俺はいらない」

「どうしてだ?」

アンディの声にウォーリィが反応する。

「兜は好きじゃないんだ。視界を遮られるからな」

「ふうん、そんなもんか」

「……それに、あんな思いをするのは、もう沢山だ」

アンディが殆ど声を出さずに呟きながら、腰に差している短刀(ダガー)を、無意識に弄んでいた。他の者には判らなかったようだが、流石に盗賊(シーフ)であるケインには、アンディの呟きが聞こえたようだった。

「じゃあ、アンディが+1の板金の鎧(プレイト・メイル)を買うと良い。俺とウォーリィは(ヘルム)板金の鎧(プレイト・メイル)を買う事にするよ。それで良いだろう? ウォーリィ」

「良いぜ」

「この鎧、幾ら位になるかな?」

ビルが自分の鎖の鎧(チェイン・メイル)を指差しながら主人に聞く。

「うーん、痛んでるねぇ……。売値の三割でどうです?」

主人が鎧を叩いたり、撫でたりしながら言う。

「ああ、それで良い」

ビルが鎧を渡しながら言う。

「あの二人の鎧も、それくらいで引き取ってくれないか?」

それを見て、ビルが、アンディとウォーリィを指差し声をかける。

「よろしゅうございますよ」

主人は鎧を十分見比べてから、笑顔で答えた。

「親父、俺にはその+1の革の鎧(レザー・アーマー)をくれ。それとこれ引き取ってくれよな」

ケインが身に付けている革の鎧(レザー・アーマー)を主人に渡す。

「これも売価の三割と言う事で、よろしいですね?」

「ああ」

「あの、私には解毒薬(ポーション・オブ・ラテュモフィス)を二瓶下さい。鎧はいりません」

結局アンディは+1の板金の鎧(プレイト・メイル)を、ウォーリィとビルが板金の鎧(プレイト・メイル)(ヘルム)を、ケインが+1の革の鎧(レザー・アーマー)を買い、ソフィーが解毒薬(ポーション・オブ・ラテュモフィス)を二瓶買った。ジェフは鎧を買う必要がない(魔術師(メイジ)の戒律の所為で鎧を着けたり、短刀(ダガー)以外の刃物を装備すると、呪文の効果を引き出す事が出来なくなる)ので、宝石の護符(アムレット・オブ・ジュエルズ)を買おうと思ったのだが、金貨(ゴールド)が足りないので諦めた。

それぞれの買い物を終えて、ボルタック取引所を出て、何時ものように酒場に飲みに行こうと言う事になった。

何でもない事を言い合いながら、ギルガメッシュの酒場に向かって歩いていた。しかしアンディだけは、何時も腰に差している短刀(ダガー)を弄びながら、何やら考え込んでいた。

「俺、先に宿に帰るよ」

突然、アンディが皆に声を掛けた。

「どうかしたのか」

ウォーリィが不思議そうな顔をする。

「いや、ちょっと疲れたみたいだ」

「どーしたんだよ、アンディ」

気怠そうに頭を振るアンディの肩を、ケインが叩いた。

「大丈夫か?」

ビルは悩み事でもあるのか、と言うような顔をしている。

「ああ」

「明日、迷宮に入ってもか?」

ウォーリィがアンディの肩に手を置く。

「多分な。じゃ」

アンディは軽く左手を上げ、宿の方へ歩き出した。


ギルガメッシュの酒場は相変わらず混みあっていて、酒と肉の焼ける匂いが充満していた。

「アンディはどうしたってぇんだ」

席に落ち着くなり、ウォーリィが言った。ソフィーは相変わらずカント寺院へ、ジェフも賢者(ネストール)の所へ行ってしまって此所にはいない。

「疲れたって、顔じゃなかったようだがなぁ」

ビルが目の前の杯を見ながら呟いた。

「何かやな事でも思い出したかな? ボルタックで変な事言ってたしなー」

ビルの呟きに反応したケインが、遠くを見るような表情で言う。

「変な事?」

「ああ、『あんな事はもう沢山だ』てさ、呟きつーより、溜息に声が付いたって感じだったけどな」

「何時だ?」

ウォーリィが酒を飲みながら聞く。

(ヘルム)の話をしてた時、だった、かな?」

「……そう言や、あの辺りから変な感じだった」

ウォーリィが、ボルタックでの出来事を思い出しながら言う。

「ん、アンディらしくねーなーとか思った」

「まぁ、良いじゃないか。アンディは話したくなさそうだし」

ケインも口を添えたが、ビルが話を打ち切ろうと口を挟んだ。

「聞いてみてー気もすんだけど」

「その気になったら、アンディから話すだろ?」

ケインが言うのに、ビルが聞き返した。

「そーだよな……」

「まあ、良いじゃねぇか、明るく飲もうぜ」

ウォーリィの一言でアンディの話を終え、迷宮内の話等をしながら、飲み出した。しかし、何故かウォーリィを含め、明るいと言うには程遠い、重い雰囲気にしかならなかった。

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