町に戻ったアンディ達は、傷が癒えるまで休む事にして、冒険者達の宿に部屋を取った。そして鋭気を養おうと言う事になり、ウォーリィがギルガメッシュの酒場に皆で行こうと言い出した。しかしソフィーはカント寺院へ行くからと断り、ジェフはボルタック取引所へ行ってみたいし、それに会いたい人がいるから、後から行くと申し出た。それではしょうがないとアンディ、ビル、ウォーリィ、ケインは既に酒が入ったように盛り上がりながら、ギルガメッシュの酒場へ向かった。

酒場はかきいれ時なので結構混んでいた。

「席はあるかなっと」

ウォーリィは店内を見回している。そんなウォーリィの様子を見た、酒場の親父は奥を指差した。それに気付いたアンディが促す。

「奥の方にあるみたいだ」

四人は酒場の奥へと移動して行った。奥には丁度五人座れる卓が開いていた。席に付くと、酒場の親父にそれぞれ酒と軽い食事を頼んだ。

「やっと人心地ついたってとこかなぁ」

「しかし、ソフィーはカント寺院に行くって言ってたよな。あれでよく息が詰まんねーな」

酒を飲みながらケインが言う。

「やっぱり僧侶(プリースト)ともなると、精神の構造が普通人と違うのかね」

ウォーリィは呆れたように息をつく。

「そんな事はないと思う。戦士(ファイター)盗賊(シーフ)とは気の張り方が違うんだろう。だからあまり疲れないんじゃないか?」

「そんなもんか?」

アンディが言うのに、ウォーリィは何か言い返したそうにしていたが、判らない事を考えてもしょうがないと、ビルが話題を変えた。

「そういやぁ、ジェフは誰に会いに行ったんだ?」

賢者(ネストール)のとこだって、言ってたぜー」

「何か聞きに行ったのかなぁ」

ケインの答えを聞いてビルが呟く。

「さあな。こう言っちゃ何だが、エルフの考える事ってぇのは、ただでさえ分かり難いぜ。魔術師(メイジ)ってだけでも、十分判らないてぇのに」

ウォーリィが肩を竦める。その時、入口の扉が開きジェフが入って来た。

「妙な顔してるなぁ、ジェフ。どうしたんだ?」

ビルが訝しげな顔でジェフに椅子を勧めた。そのジェフは、彼にしては珍しく、首を傾げている。

賢者(ネストール)の所に行った後で、ボルタックの主人に、この鍵の事を聞きに行ったのです。しかし、主人は知らないと言いますし、それならとこの鍵の鑑定を頼みましたら、法外な値を付けられてしまいまして」

「いくらふっかけられた?」

ケインがジェフから、鍵を受け取って聞いた。

「15万金貨(ゴールド)です」

「これの鑑定ってぇのは、そんなに掛かんのか?」

ケインの持っている鍵を見ながら、ウォーリィは鍵にそんな価値があるのか、とでも言いたげである。

「そんだけ重要な品物(アイテム)だって事かなぁ」

ビルはぼんやりとケインが手にしている鍵を見ていた。言ってみれば、何処にでもあるような古びた鍵だ。

「そうでしょう。しかし、それだけの金貨(ゴールド)を集めようと思うと、どれくらい掛かるか判りません」

「鑑定なら、俺がしてやろうか?」

いきなり後ろから太い声が割り込んできた。見れば背が低く、焦茶の肌と真っ白な髪を持った人物だった。胸には復活神カドルトの紋章が緑色で描かれていた。慈善派(グッド)の神官らしい。種族の方はその大きな鼻を見るまでも無く、ノウムだろうと思われる。呆気に取られているアンディ達の顔が目に入ったのか、男は自己紹介を始めた。名はエドモンド・フィードラー。見掛けの通りノウムである。職業(クラス)僧侶(プリースト)では無く司教(ビショップ)だと言う。エドモンドは司教(ビショップ)だけが使える品物鑑定(アイデンティファイ)の呪文で、その鍵も鑑定出来るだろうと、ジェフの話に口を挟んだらしい。

「あの親父は鍵とかの類いは、法外な値を付けると聞いた事があってな。俺達は修行の時に、品物(アイテム)を見分ける特殊な呪文を教わる。だから多分判ると思うぞ。貸してみな」

エドモンドはそう言い、周りの人に聞こえないような小声で付け足す。

「そうそう、この事はボルタックの親父には内緒な」

エドモンドはジェフから鍵を受取り、このうるさい酒場の中で瞑想を始めた。エドモンドの顔が険しくなり、口から呟きがもれると顔を上げた。

「これは青銅製の鍵(キィ・オブ・ブロンズ)だ。しかし未だ探索を始めて間がないように見えるが、良く見付けたな。何年も迷宮内を探索して、未だ見付けられない奴も居るってのに」

「よろしかったら、一緒に飲みませんか? お話もお聞きしたいのですが」

エドモンドが鍵を返しながら、アンディ達の顔を見るので、皆の顔を一応見回してから、ビルが柔らかい声で申し出た。

「良いのか。じゃ遠慮なく」

エドモンドは、自分の座っていた椅子と杯を、卓の側迄持って来た。

エドモンドは魔術師(メイジ)僧侶(プリースト)から職業変更(クラス・チェンジ)したのでは無く、訓練場で登録した時から、司教(ビショップ)職業(クラス)にあった。そういう者達に共通して言える事だが、かなり経験を積んだらしいのに、呪文を使うのは、余り得意ではないと言う。長い間探索をしてきたのだが、迷宮内で探索をするよりも、町で布教する方が性にあっているように思えて、迷宮に入るのをやめ、布教をしながら、探索をしていた頃をしのんで酒を飲み、冒険者達の話を聞いて回るという生活をしている。尤も修行だけは、今も続けているとは言っていた。今日も、酒を飲みながら、面白そうな話はないかと冒険者達の話を、聞くとはなしに聞いてると、ジェフの声が耳に入ったのだった。元来喋るのが好きな方で、直ぐに他人の話に口を突っ込む癖がある。しばらくは、自己紹介とエドモンドの冒険談を、それぞれが相槌を打ちながら聞いていた。

「そう言えば、えらく強い幽霊(ゴースト)にも会ったんです。エドモンドさん、そいつが何者か知りませんか?」

冒険談に不死者(アンデッド)が出て来た所為で、一階での出来事を思い出した、アンディが、思い切って聞いてみた。

「一階でえらく強い幽霊(ゴースト)ねえ……。それってマーフィーズ・ゴーストじゃないか? ポール・マーフィーって大君主(オーバー・ロード)の御学友だそうだが、何時も普通の町人と、同じような格好で現れると言われてる」

「そうだったっかな。何しろ強かったとしか覚えてないよ、俺は」

アンディが肩を竦めた。倒せるのかという疑問と戦いながらの戦闘だったので、アンディには、相手の装備を覚えているだけの余裕がなかったのだ。

「少なくとも、鎧なんかは着けてなかったぜー、あのゆーれー」

戦いに加わっていなかった所為か、ケインが言い、ウォーリィがエドモンドに話の続きを促すように質問した。

「で、そのポール・マーフィーってのは、どうしてこの迷宮に幽霊(ゴースト)となって出て来るんだ? それに、そういう言い方をすんなら、冒険者に倒されても成仏できねぇで、何度でも出てくるって事だろ? 何か恨みでもあるんじゃねぇの?」

「そこら辺は判らないが、噂によるとあのワードナの迷宮に、普段着のまま迷い込んで―考えてみると無謀だよな―フラックとか言う魔物に殺されたと言う。この時に半殺しの目に会ってから殺されたらしく、えらく強い恨みを残したらしい。尤も身体は石にされて、今でも迷宮の中に残っているとも言われてるな。だから成仏出来ないんだと。そう言えば、迷宮の奥にはこのフラックという奴が、今でも冒険者を待ち伏せしていると言う噂もあったな」

そこまで話してエドモンドは立ち上がった。

「じゃ、俺はこれで失礼する。まあ、また会いたくなったら、この酒場に来れば良い。昼間は布教や修行をしてるが、夜は大体此処にいる。出来ればもう少し経ってから、探索の話をしに来てくれないか。布教の方が向いているとは言え、未だ探索の事も忘れられなくてな」

そう言ってから、エドモンドはやけに真面目な表情になった。

「そなた達が幸運であり、そなた達にカドルト神の加護あらん事を」

そう付け加えてエドモンドは去って行った。

「なかなか面白そうな人だなぁ」

「ああ。良い人と会えたよな」

それから五人は探索の事には、一切触れずに陽気に酒を飲んだ。


盆を持った親父が近付いて来て、閉店の時間だと言う。周りにも客は余りいなくなっていた。

「もう、そんな時間なんだ。じゃ宿に帰って休もうぜ」

ウォーリィが軽い物腰で立ち上がる。それなりに飲んでいるはずなのに、呂律も、足腰もしっかりしたものだった。

「ソフィーはもう帰ってるだろうなぁ。そうだ、あの幽霊(ゴースト)の話とフラックとか言ったっけ? あの魔物の話。ソフィーに話しといてくれないか、ジェフ」

「判りました」

そう答えたジェフも、かなりの量の酒を飲んだはずだが、酔ったような素振りは露程も見せない。そして、アンディ達はそろって酒場を出た。

一方、ソフィーは、皆と別れてからカント寺院へ行き、『礼拝の間』で祈りを捧げていた。この探索の無事を感謝し、次の探索への(カドルト)の祝福を祈っていたのだ。そこにこの寺院で、最高司祭の手伝いをしている高司祭が来て、ソフィーの傍らで祈り終わるのを待っていた。ポーグロムのカント寺院では、例え最高司祭でも、他人の祈りを邪魔してはいけない事になっている。これは今の最高司祭が、前任の最高司祭と変わった時に決めたもので、この二年の間に全ての信者に行き渡った決まり事である。今の最高司祭はほんの二年前に、前任の最高司祭と変わったばかりで、未だ若いのだが、その信仰心の厚さと人柄の温厚さは、前任の最高司祭にも勝っているであろうとの、もっぱらの評判だった。

新しい松明(トーチ)が燃え尽きてしまうくらいの時が経った頃、やっと祈りが終った。その時、ソフィーは側にまるで控えるかのように座っている、高司祭に初めて気が付いた。祈りに集中していた所為で、側に人がいる事に今まで気付かなかったのだ。

「高司祭様、何か私めに御用でしょうか」

「最高司祭様がそなたは十分な経験も積んで、力が増しているとおおせられてな。呪文書に新しい呪文も現れたであろうから、それらの呪文の使い方を教え申せとの事だ」

高司祭は何でも無い事のように言い、立ち上がる。

術者が持っている呪文書には、始めから全ての呪文が書かれている。しかし所持者の力が、呪文を操れるような力を呪文書に送らなければ、どんな呪文が書かれてあるのかすら判らない。充分な力を送れば、呪文書に書かれてある呪文が、浮き出て来るのだ。そして、一度浮き出た呪文は、消える事はない。しかし、呪文書には名称と栄唱が浮き出るだけであって、正確な使い方までは判らない。この為、術者は新しい呪文が浮かび上がると、呪文の効力を知っている者達に聞く事となる。これは僧侶(プリースト)達が使う聖呪文も、魔術師(メイジ)達が使う妖呪文も同じであり、聖呪文は所属している寺院の高司祭等から、妖呪文は賢人(セイジ)賢者(ネストール)から教わる。

「謹んでお受けいたします」

「ではこちらに参られよ」

その高司祭は『礼拝の間』の奥へとソフィーを導いた。其所には『授呪の間』と呼ばれる小さな部屋があり、部屋の壁は書で埋まっていた。部屋の中央に机があり、普通の呪文書よりも、かなり厚い書が一冊乗っている。『祈りの書』と呼ばれるその書は、全ての聖呪文の栄唱と、その効果が書かれている。高司祭ともなると、この書を見なくても呪文の説明など可能なはずなのに、呪文の説明はこの部屋で、そして呪文を教える者は必ずこの書を開き、内容を確認しながら行う取り決めになっている。

高司祭は慣例通り、『祈りの書』を見ながら、ソフィーに呪文の使い方を説明していった。

アンディ達はそれぞれ町で充分に休み、例のごとく、入口であのドワーフに嫌味を言われながら迷宮に入った。

アンディの提案で、一行は暗闇(ダーク・ゾーン)の探索をする事にした。ジェフが地図(マップ)を描き難いと零していたが、あんな看板があるのに嘘だったのでは、何か秘密があると思うのが当然である。この暗闇(ダーク・ゾーン)の中では、光明(ミルワ)の光も辺りを照らさずに、闇の中へ溶けていった。そういう訳でジェフが明瞭(デュマピック)を使いながら地図(マップ)を描き、その結果かなり細長い空間だという事が判った。その一番奥にある小さな空間にだけは、発光苔が生えていて、そこには突起(ボタン)が四つあった。

「A~D、突起(ボタン)を押して下さいかぁ。どうする?」

ビルが呟き、珍しく皆の意見を求めた。

「A、B、C、Dの四つ。Dを押してみようぜ」

ウォーリィが突起(ボタン)を押すと、突起(ボタン)は抵抗も無く壁に沈んだ。アンディ達は一瞬眩暈を感じ、それが治まってから辺りを見回すと、暗闇(ダーク・ゾーン)が何処にも見えない。驚いている内にどうやら移動(ワープ)してしまったようだが、此処にも先程と同じような突起(ボタン)が四つある。しかし、此処でぼけっと立っていても仕方がないので、少し歩いてみようかと歩き出したその時、大きな生き物が襲い掛かってきた。

「あれは! (ドラゴン)です! 噂より小さいようですが、今の私達が勝てる相手ではありません! 此処は退却して下さい!」

ジェフが何時に無く慌てて言った。ジェフの様子が何時もと余りにも違うので、今回はウォーリィも文句を言わずに退却した。(ドラゴン)は腹が減っている訳では無いらしく、追って来ようとはしなかった。

「少なくとも此処は、今の私達が来ても良い所ではありません。早々に戻りましょう。あの四つの突起(ボタン)を押せば、元の場所に帰れると思います」

皆が一息ついた頃、ジェフが言った。幾分早口で言うジェフを、アンディは珍しいものを見るような目で見ていた。こんなに慌てるジェフは初めて見る。何時も冷静で、おっとりとも見えるジェフが何故、とその瞳は言っているようだ。

「その前に、此処は何処なのか調べてくれないか? ジェフ」

そう言うビルに判りましたと答えて、ジェフは栄唱を始めた。

定められし所、今我にその場を明かせ。明瞭(デュマピック) ……! 此所は四階です。一般に下の階の方が敵が強いと言われていますから、今の私達の実力では敵に勝つどころか、餌にされてしまうでしょう」

「今度来たら、皆俺が倒してやるぞ!」

ジェフの言葉を聞いて、ウォーリィが悔しそうに怒鳴った。

「けれど、どの突起(ボタン)を押せば帰れるのでしょうか」

ソフィーが心配そうにしている。

「A~Dの突起(ボタン)があって、Dが四階ならAが一階を指すでしょう」

そうジェフが言うので、ケインがAと書いてある突起(ボタン)を押すと、又一瞬だけ眩暈を感じ、我に返ると一行は、暗闇(ダーク・ゾーン)の見える所にいた。

「この様子だと、一階に戻ってきたんじゃないか? ビル」

ウォーリィが回りに忙しなく視線を向ける。先程のように(ドラゴン)に奇襲でもされては適わない。

「そうだとは思うがなぁ……ジェフ、確認してくれないか?」

辺りを見回しながら言うビルに、頷きを返してジェフは呪文を唱えた。

「間違いなく一階にいます。とにかく、この暗闇(ダーク・ゾーン)の中の探索を終わらせてしまいましょう」

呪文を唱え終わったジェフがほっとしたように言い、アンディ達を促した。彼等は壁にぶつかりながら、暗闇(ダーク・ゾーン)の中の探索を続けた。暗闇(ダーク・ゾーン)の中は壁も無い、歪な形の大きい一つの部屋のような作りになっていたが、一つだけ小部屋があった。そして、暗闇(ダーク・ゾーン)の探索の最後にアンディ達は、その部屋の中に入った。

部屋の中は怪しげな光が灯っていて、真ん中に長い法衣(ローブ)を着た小柄な男がいた。そして、アンディ達が部屋に入るなり振り返り、叫んだ。

「異邦人達よ、去れ!」

その男は手を振り奇妙な言葉を発した。

ミームアリフ・ペーイレーザンメ ミームアリフ・ヘーアー・ミームアリフ ダールイ・レーザンメ・ミームアリフター!

男の気合いの入った声を、聞いたと思った途端、アンディ達は全員が意識を失った。


アンディ達の意識が戻った時、彼等は町の入口に倒れていた。

「どーなってんだ?」

ケインが不思議そうにしている。

「あの男の人は、私達を町へと瞬間移動(テレポート)させる呪文を使ったのでしょうか。私はあのような呪文は、聞いた事はないのですが」

「あれは、真呪文の一種だと思います」

ソフィーが問い掛けるように言い、ジェフは少し疲れたような様子で、頭を振りながら応えた。

「かと言って、このまま宿に行くのもしゃくだし、もう一度迷宮へ行くか」

ウォーリィが言いながら、迷宮の方へと歩き出す。ビルも珍しく何も言わずにウォーリィに続き、アンディもビルの後に続く。

「あの親父に計られたよーで面白くねーな」

ケインもウォーリィ達に続き、一人疲れたような表情のジェフは、それでも何も言おうとせずに付いて行く。

薬石(ディオス)の呪文を掛けましょうか」

「いえ、大丈夫です。未ださっきの呪文の衝撃から、抜け出ていないだけですから。多分、歩いているうちに回復します」

ソフィーがそっと言うのに、ジェフは少し疲れたような様子でそう答える。そして、ジェフはソフィーの後にゆっくりと付いて行った。


先程の探索で暗闇(ダーク・ゾーン)の中は、ほぼ全容が判ったので、未だ行った事が無い、一番奥の一角を探索する事にした。此処は細長い通路と、小さな部屋が固まっている所である。注意深く回りを見ながら進んだけれども、途中盗賊(シーフ)の一味や、オーク、コボルドの一団に会った他は何もなかった。要するに、普通の空間だったのである。一回りした頃にジェフが、一応地図(マップ)が完成しましたと言った。アンディ達は町に帰って休憩してから、地下二階に行く事にした。

町で充分休憩した後、アンディ達は地下二階にいた。階段を降りている時に、何かがジェフの癇に触ったので、階段の位置を確認すると、移動させられたらしく、一階の地図(マップ)で言えば真ん中辺りにいる事が判った。

「さあて、頑張るとするか。敵も強力になってくるって噂だしな」

「ウォーリィは呑気だな。これからどうなるか判らないのに」

ウォーリィの言い様に、アンディが呆れたような声を出す。ある程度の緊張感は大切だが、ウォーリィは緊張感が少し足りないし、アンディは未だに、緊張しすぎるぐらいに、緊張してしまう。

「アンディの神経が(こま)か過ぎんだ。そう思わねぇか? ケイン」

「そうだぜー。もっと、ず太く生きなきゃな」

ケインがアンディの肩を、軽く叩きながら応えた。敵との戦闘に入ると、そうでも無いのだが、探索中は、アンディの肩には力が入り過ぎているようだった。こんな調子でよく、練習の通りに剣が振れると、ウォーリィはいつも不思議に思う。戦闘中のアンディは、本当に適度な緊張感に包まれる。それが、探索中はなぜ、あんなに肩に力が入ってしまうのだろう。

「さぁ、何が待ち受けるかは判らないが、行こう」

ビルがのんびりと促す。その言葉を聞きながら、ソフィーは見慣れない小さな瓶を撫でていた。

下って来た階段から少し北に行くと、扉があり左側に通路が伸びていた。

「どっちにするかなぁ」

例のごとくビルが呟く。

「左の方が面白そうだぜ。左にしよう」

ウォーリィが勝手に決めて、左の方に行ってしまった。別に反対する理由も無いので、アンディ達もウォーリィを追った。少し行くと右側に扉があり、通路は左に曲がっていた。ウォーリィは、アンディ達が追い付いて来たのを確認すると、右側にある扉を開けた。部屋に入るなり、天井から銀色の霧が降りて来た。霧の動きが止まったと思うと、突然大きな悪魔(デーモン)の姿が現れ、アンディ達は恐怖に震えて飛び出した。

「ぶるる。何だったんだ? ありゃー」

ケインが扉を恐る恐る振り返る。

「銀色の霧に、何か仕掛(トラップ)があったようですね。闘争心を、恐怖心に変える働きを持ったものだったのではないでしょうか。私達は入ってはいけない場所に、入ってしまったのだと思いますわ」

ソフィーはウォーリィの様子を見ていた。何時もなら真っ先に攻撃を仕掛けるであろうウォーリィが、一番に飛び出したのだ。部屋から出ると霧の効果も無くなったらしく、ウォーリィも何時もの調子に戻っていた。

「とにかく別の所を見てみようぜ」

「そうしよう。こうしていてもしょうがないしなぁ」

今度はビルを先頭に歩き出した。左に続く通路を少し行くと、正面に扉があり、通路の方は左に曲がって直ぐ、突き当たりになっていた。

「また悪魔(デーモン)が出る、てのは無しにしてもらいたいなぁ」

ビルが呟き、扉を開けると今度は部屋が青銅(ブロンズ)色の煙で満たされ、視界が遮られたが、悪魔(デーモン)等は出ては来なかった。何も出て来ないのであればと、ウォーリィが奥に行こうとしたが、どうしても足を進められなかった。ケインはさっさと扉を開けて、元来た通路の方へ出て行ってしまっている。

「奥に行けないなら、しかたないなぁ」

ビルが呟きながら、外に出るとケインが、扉を見て変な顔をしていた。

「どうした?」

「此処に青銅(ブロンズ)色の鍵穴があんだ。今調べたんだが、普通の鍵穴じゃねーし、第一、この迷宮の他の扉に、鍵穴なんか付いてた事もねーしな……」

不思議そうなビルに、ケインは針金を弄びながら答えた。

青銅(ブロンズ)色? あの青銅製の鍵(キィ・オブ・ブロンズ)を、差し込んでみても、良いかもなぁ」

ビルは呟き、アンディとウォーリィは鍵穴を見ている。

「そーだな」

ケインがビルの呟きに答えるように言い、青銅製の鍵(キィ・オブ・ブロンズ)をその鍵穴に差し込み右へ回した。鍵が開くような軽い音がして、奥では一瞬、小さな物がぶつかるような音がした。

「入ってみようぜ」

ウォーリィが言いながら扉を潜った。今度は煙が出て来るような様子は無い。そこは、長細い小さな部屋で、奥には扉が一つあった。その扉を開けると、不気味な人型生物(ウィアード・ヒューマノイド)が、泥のような物(スライム)の中に立っていた。

「何だあれは……」

「とにかく、あの不気味な人型生物(ウィアード・ヒューマノイド)には解呪(ディスペル)が効くだろう。ソフィー頼む」

ビルが言い戦士(ファイター)達は、泥のような物(スライム)の方へ飛び掛かって行く。ソフィーの解呪(ディスペル)が効いて人型生物(ヒューマノイド)は土に帰った。しかし、泥のような物(スライム)の方はなかなか攻撃が効かない上、少しぐらい傷を負わせても応えた様子がない。戦士(ファイター)達が苦戦しているのを見て、ジェフが滅多に使わない小炎(ハリト)の呪文で援護したが、泥のような物(スライム)は弱るだけで、結局倒す事は出来なかった。そして、泥のような物(スライム)の攻撃を避けそこなったアンディは、傷の所為だけではなく、かなり苦しそうに剣を振るっていた。

そうこうして、かなり時間は掛かったが、アンディ達は泥のような物(スライム)を倒す事が出来た。

「おい、大丈夫か? アンディ」

ウォーリィが声を掛ける。

「あ、あ。……大…丈夫…だ……」

「あまり大丈夫そうじゃないなぁ。ソフィー、何とかならないか?」

言葉とは裏腹に苦しそうにしている、アンディの様子を見て、ビルがソフィーの顔を見る。

「これは……。あの泥のような物(スライム)には毒が含まれていた様ですね。アンディ、この瓶の中身を飲んで下さい。それで大丈夫ですわ」

アンディは差し出された、小さな瓶の中身を何とか飲み干した。すると今まで息をするのも辛かったのが、嘘のように楽になった。

「ありがとう、ソフィー。楽になった。ところでこれは?」

解毒薬(ポーション・オブ・ラテュモフィス)ですわ。ボルタック取引所にあったので、二つ程買っておいたのです。聖呪文には、解毒(ラテュモフィス)の呪文があると言われていますが、私は未だ使えませんので……」

ソフィーは自分の力が足りない為に、霊薬(エリクサ)に頼らなければならない事を恥じるように顔を伏せた。

アンディはソフィーに任せておけば良いと思っているのか、ケインは宝箱の(トラップ)を外していた。

「なあ、こいつらが持っていた、宝箱に入ってたんだが」

そう言いながらケインが剣を持って来た。

長剣(ロング・ソード)のようだなぁ。しかし何か変じゃないか?」

ビルが剣を受け取る。

「そいつは帰ってから、ボルタックの親父に、鑑定してもらう事にして、此処の探索をしようぜ」

ウォーリィが何かいないか、という顔で辺りを見回す。そこはかなり広い空間が広がっていて、突き当たりには扉が一つあり、両側に通路がある。その広い空間を、隈無く探索していると、奥まった所に、小さい銀色に輝く円盤に乗ている、赤と青の外套を羽織った、蛙の像があった。像は金属製の筈なのだが、不思議にも生命を持っているかのように、前足を左右に振り、甲高い耳障りな音を発して踊っている。

「なんだろうなぁ、これは」

気味悪そうにビルが呟き、何気なく動かした手が軽く像に触れた。すると今まで踊っていた像が、いきなり動きを止めた。

「何だ?」

「止まったな。この像、取れんのか?」

ケインが像に触れ、台座を調べ始めた。針金などを背負袋(バック・パック)から出し、何となく楽しそうに、像のまわりを動きまわっていた。

「取れたか?」

暫くして像に手をかけたケインを見たビルが、少し不気味そうな表情で問い掛けた。

「ああ、取れた。しかし何の役に立つんだろーな、これ」

ケインが手の中の像を調べるように見ている。その横でビルは、未だ気味悪そうな顔をしていた。

「こんな所に置いてるからには、大切な物なんだろう?」

アンディも興味深そうに像を見ていた。

「多分これは蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)でしょう」

蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)?」

アンディはジェフの顔を不思議そうに見た。

「何なんだ? その蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)とやらは」

ビルも側に寄ってきて彫像を見る。

「私も名称しか知りません」

ジェフが素っ気なく言う。町で色々な情報を集めていた時に、聞きかじっただけなのだ。その時は自分に関係があるとも思えなかったので、聞き流した。

「とにかく、持って帰って、それからだろ。此処の探索も終わった事だし、他へ行こうぜ」

少し苛立ったような声でウォーリィが促す。アンディ達はその場を離れ、再び迷宮の探索を始めた。青銅(ブロンズ)色の鍵穴のある所から、正面の通路を少し戻ると、左に扉があり、扉の奥には通路があった。その奥に伸びた通路の途中には右側に扉があり、扉の正面には通路が伸びている。

「扉を開けるかなぁ、通路を行くか?」

「この扉、開けてみようぜ」

ビルが呟き、通路を歩き出そうとする横で、ウォーリィが扉を叩いていた。

「そうだなぁ、開けてみるか」

ビルが扉を開けると、ごく小さな部屋になっていて、奥に扉があったが、ウォーリィが蹴飛ばしても、ケインが体当たりしても、その扉は開けられなかった。

「開かねーな。けど、鍵が掛かってる訳じゃねーみてーだぜ」

ケインが扉を調べながら言う。

「此処に、小さな穴があります。丁度、先程見付けた彫像と、同じくらいの大きさです」

横でケインの様子を見ていたジェフが扉を撫でている。

「その蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)を入れてみるとか」

アンディも顔を寄せて、穴を覗き込んだ。

「……合わねーな。少なくとも、この像を入れるんじゃなさそーだ」

「あの銀の霧が降りてきた所の奥に、何かあるかもなぁ」

ケインはいかにも残念そうに言い、ビルがぼんやりと呟いた。

「一度、町に帰って情報を集めてみないか?」

「その方が、結果的に早く、迷宮の奥に進めるかもしれません」

アンディが提案し、ジェフが同意した。ウォーリィは何も言わないが、まだ迷宮の探索をしたいような素振りを見せている。

「まぁ、あまり欲張る事もないだろう。一度町に帰ろうか」

ビルが皆を見回してから宣言し、アンディ達は町に帰る事にした。

町に帰ってきた一行は、その足でボルタック取引所に出向き、迷宮内で見付けた剣を、鑑定してくれるように主人に頼んだ。尤も、剣は何の変哲もない長剣(ロング・ソード)だった。像については、ボルタックの主人は何も知らないと言い、商売物にならない為、興味が無いとも言っていた。

取引所を出たアンディ達は、ギルガメッシュの酒場で、エドモンドに会う事にした。あのエドモンドなら、何か知っているだろうと思ったからである。ソフィーは相変わらず、カント寺院へ行きたいと言ったのだが、探索の謎についての情報を聞きに行くのだからと―半ば無理やり―皆と一緒に酒場に来ていた。ただ、ジェフは人に会うので、酒場には後で顔を出しますから、と言って早々に皆と別れて行ってしまった。


酒場に着いてからしばらくは、エドモンドにも会えず、ただ酒を飲むだけとなった。エドモンドは未だ布教しているのか、酒場には見当たらなかったのだ。

酒場にいる冒険者の話を、聞くともなしに聞きながら、アンディ達はジェフとエドモンドが来るのを待っていた。

「ああ、皆さん。少し情報を聞いてきました」

かなり経ってからジェフが酒場に入ってきた。

「まめな奴」

ウォーリィが、ジェフには聞こえないような小さな声で言う。ウォーリィは強い敵と戦っていれば良いと言う感じで、迷宮の謎を解く事に関しては、あまり乗り気ではない。

「私達は今迄何の当てもなく、迷宮の探索をしてきましたが、当面の目標が出来ました。一つは迷宮内では珍しく、七人で組んでいる、かなり腕の立つ者達と戦い、勝つ自信を付ける事です。そして、『中央管理施設(コントロール・センター)』と呼ばれる場所を見付ける事。更に六つの品物(アイテム)を手に入れる事の三つです」

「まあ、自信の方は迷宮の中で戦っていりゃあ、自然に付くし、迷宮の中を隈無く探しゃ『中央管理施設(コントロール・センター)』とか言う所も見付かるな。しかし、その品物(アイテム)を手に入れる、てぇのはどういう事なんだ?」

ウォーリィが不思議そうに聞く。

「これは一種の通行証みたいな物で、その品物(アイテム)が無いと入れない所が、あるそうです。その品物(アイテム)の内、三つは鍵だと言う事ですが、後の三つはどんな形をしているのか、またどんな物なのかも、判ら無いと言っていました。ただ、少なくとも、鍵の形はしていないそうです」

「三つの鍵の内の一つが、この間見付けた青銅製の鍵(キィ・オブ・ブロンズ)かなぁ」

ビルが呟く。

「私もそうだと思います。青銅(ブロンズ)色の鍵穴のついた扉のある部屋に入る為に、あの鍵が必要だったのですから」

「じゃ、あの悪魔(デーモン)の出てきた部屋も、何か鍵みてぇなのを持ってりゃあ、あの霧が降りて来ねぇように出来んのか?」

ウォーリィが腹立たしそうに言う。銀の霧に翻弄されたことが、余程、悔しかったのだろう。

「多分、そうでしょう」

「そんで、その他の三つの内の一つてーのが、あの蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)じゃねーか?」

ケインがウォーリィの顔を、意地悪そうに見ながら言う。からくりを解くことについて、何時も文句を言うウォーリィをやり込めると思ったのか、ケインは皮肉っぽい笑顔を見せた。

「ええ、私もそう思います」

「酒場で、なに深刻そうに話してるんだ?」

そこまで話した時、突然アンディの後ろから太い声が割り込んで来た。

「エドモンドさん!」

声に驚いたアンディが叫んで、弾かれたように振り向いた。

「元気に迷宮探索をしているようだな。ところで、此処座っても良いか?」

エドモンドが笑顔で話し掛ける。

「えぇ、どうぞどうぞ」

「この方ですか? ずいぶん親しいようですけれど」

ビルがエドモンドと話している時、ソフィーが隣に座っているアンディに、不思議そうな顔を向けた。

「そう。彼が司教(ビショップ)のエドモンドさん」

答えたアンディの声が聞こえたのか、アンディ達の方を向いたエドモンドに、ソフィーが会釈する。

「そちらの女性は誰なんだい? この間は居なかっただろ」

「ソフィア・ヘンドリーと申す、僧侶(プリースト)です。ソフィーとお呼び下さい」

エドモンドの問い掛けに、ソフィーは微笑みを返した。

「こないだは寺院に行ってたんだよな、確か」

「熱心な信者なんだな、ソフィーさんは」

ソフィーの不満そうな心を読んだように、エドモンドが柔らかく微笑んだ。

「それで、何、深刻そうに話してたんだ?」

「迷宮で見付けた彫像の事についてなんですが……何か知りませんか?」

ビルがエドモンドの顔色を伺うようにしている。

「彫像? どんな奴だ?」

エドモンドの問いに、ケインが何も言わずに持っていた彫像を差し出した。

「ふうん。蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)か……。これも部屋に入るのに、必要な品物(アイテム)だったと思うが……、ところで、鍵は幾つ持ってるんだ?」

エドモンドは問い掛けながら、ケインから受け取った彫像を卓の中央に置いた。

「一つです」

エドモンドの質問には、アンディが応えた。

「ふん。お前ら二階を探索する前に、一階の探索をし直せ。二階で、追い出された部屋があっただろ? 其処に入るのに必要な鍵が一階に隠してあるらしいぞ」

「じゃ、あの悪魔(デーモン)が出て来た部屋に入るのには、鍵が必要だったんだ」

エドモンドの言葉を聞いて、ウォーリィが決め付けた。

「鍵じゃなくて、彫像の方かもしれないが。……その悪魔(デーモン)の出てきた部屋ってのは、どんなだった?」

「えっと、銀の霧が降りて来た部屋だろ?」

ケインが言いながら、ウォーリィの顔を意地悪そうに見ている。

「其処だったら、銀製の鍵(キィ・オブ・シルバー)が必要なんじゃないかと思う。大体仕掛(トラップ)に引っ掛かると、必要な品物(アイテム)の見当が付くようになってるらしいからな」

「じゃあ、あの小さな穴のあった扉は、どうやったら開くんだろう」

エドモンドの答えを聞いて、アンディが小さな声で、自分に問い掛けるように言った。

「小さな、穴?」

「この彫像くらいの穴が側にある扉です。尤も、この彫像は入りませんでしたけど」

アンディが卓の上にある蛙の彫像(スタチュー・オブ・フロッグ)を撫でながら答えた。

「銀の霧の降る部屋の奥に、何かあるんだろう。多分だけどな」

エドモンドは遠い目をして呟いた。


この日は、ジェフも何故か良く喋り―飲み過ぎという事ではないらしいが―、エドモンドの話と総合するとかなりの情報になった。

整理すると地下一階に鍵が二つ、地下二階には彫像が二つ隠されている。そして、彫像のある場所に行くのに、二つの鍵が必要で、地下二階には、三つ目の鍵が隠されているらしい。そして六つめの品物(アイテム)を手にいれる為に、『中央管理施設(コントロール・センター)』を探し、腕の立つ七人の者達を倒す必要があり、かなり経験を積んだ者達が挑んだのだが、それでも返り討ちにあった者ばかり、という事だった。それと面白い事に、三つ目の鍵は使い道が判らないとの事であった。

「その三つ目の鍵、何て呼ばれてるかは知りませんが、どうして使い道が判らないんです?」

アンディがエドモンドの顔を見た。

「ただ単にその鍵を使わなければ入れない、と言う所が今まで見付かっていない、という事らしいな。俺の聞いたとこでは、少なくとも三階には、そのような所はないらしい。尤もこれは噂だが、持っているだけで三階にある回転床(ターン・フロア)が、回転しなくなるという話もある」

「持っているだけで良いのですか?」

不思議そうにアンディが問い掛けた。持っているだけで効果を発揮するということは、それなりに強力な魔法の品物(マジック・アイテム)なのだろうが、そんな強力な品物(アイテム)が幾つもあるものなのだろうか。

「そう言われているな。何処かに鍵穴だけがあって、其処に鍵を差し込むと仕掛(トラップ)と言う仕掛(トラップ)全てが作動しなくなるなんて噂もあるが、そんな事は有り得んだろう。まあ、これも確かめた奴はいないみたいだけどな。更に言えば、迷宮内の何処かにある『宝物庫(トレジャー・リポジトリィ)』の鍵だとかいう噂もあったな」

「『宝物庫(トレジャー・リポジトリィ)』?」

「ああ。中に何があるのか、そもそも、何処にあるかも知られてないが、迷宮内に『宝物庫(トレジャー・リポジトリィ)』があって、えらいお宝が眠ってる、なんて噂もある。あくまで噂の域を出ないがな」

目を輝かせたケインにそう答えると、エドモンドは何時ものように、アンディ達にカドルト神の加護がある事を祈ってから、ソフィーに柔らかな笑顔を向けた。


エドモンドが居なくなってからは、何を話すでもなく皆でただ杯を傾けていた。

「さて、俺達もそろそろお開きにしよう。そろそろ閉店らしいしな」

端の方の椅子を片付け始めた酒場の主人を見たビルが、宣言するように言う。

「そうだな……」

「今日の話は、もう少し深く考える必要がありそうですわね」

「考えんのは苦手だよ。ジェフにまかすさ」

ソフィーの言に、ウォーリィがかなり酔った様子で陽気に言う。

「もう少し考えをまとめた方が良いでしょう」

ジェフは、労りを込めてウォーリィに微笑みかけた。

「とにかく明日さ。考えんのも、迷宮に入んのも」

ケインが言い、アンディ達はギルガメッシュの酒場を出た。

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