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狼達との邂逅 ~ 第5話 ~

《北米地区 コロラド》

[テスラ・ライヒ研究所 超機人ケージ]

エリ「え……?  アースクレイドルへ戻れなくなった?」
ソフィア「ええ。 事後処理はミタール・ザパト博士のチームが 単独で担当することになったわ」
ソフィア「今思えば、あの後すぐに 彼が私をこのテスラ・ライヒ研究所へ 向かわせたのは……」
ソフィア「私をアースクレイドルから 完全に引き離すための策だったのね」
ジョナサン「ミタール・ザパトか……。 噂ではツェントル・プロジェクトとやらの 主幹を務めているらしいが」
エリ「ツェントル・プロジェクト?」
ジョナサン「連邦軍の管轄下で 進められている計画らしいんだが、 詳細はわからない」
ジョナサン「メンバーの大半が 非EOTI機関、非DCの人間で 占められているようなのでね……伝手がない」
ジョナサン「だから、こっちに情報が入ってこないんだ。 ウチからの引き抜きもやってないし……」
ジョナサンマオ・インダストリーイスルギ重工の関係者や出身者も ほとんどいないんじゃないか?」
エリ「そうなのですか……」
ジョナサン「アンザイ博士の知り合いの中で、 そっちに引っ張られたと思われる人間は?」
エリ「いえ、いません」
ジョナサン「ふむ……あからさまな秘密主義が 気になるがね、今回の処置は軍上層部からの 正式な命令なんだろう?」
ソフィア「ええ……」
ジョナサン「なら、今の所は調べようがないな」
エリ「アースクレイドルで いったい何をやっているのかしら……?」
ソフィア「……ザパト博士の狙いは クレイドルの中枢コンピューター・メイガスと マシンセルかも知れない」
ジョナサン「だが、 その二つは機能を停止しているんだろう?」
ソフィア「……はい。 ゼンガー・ゾンボルト少佐や クロガネの皆さんの手によって」
ジョナサン「ツェントル・プロジェクトの 動向については、折を見てギリアム少佐に 尋ねてみよう」
ソフィア「お願いします」
エリ「ソフィア……これからどうするの?」
ソフィア「手元にあるアースクレイドル関連の データを再検討して、プロジェクト・アークの 見直し作業を続けるわ……」
ソフィア「先行きがどうなるかわからないけど、 月にはクレイドルがもう1基あるし…… 何かの役に立てれば」
ジョナサン「そういうことなら、 引き続きテスラ研に居てもらって構わないよ」
ソフィア「よろしいのですか?」
ジョナサン「その代わりと言っては何だが、 今度二人で食事を……」
エリ「……カザハラ所長」
ジョナサン「ゴホン。 ともかく、次の行き先が決まるまで ここに居てくれたまえ」
ソフィア「はい、ありがとうございます」
エリ「ねえ、ソフィア。 合間を見てでいいのだけど… 私の仕事を手伝ってもらえないかしら?」
ソフィア「もしかして、超機人関連の?」
エリ「ええ。 インスペクター事件が終わってから、 彼らは見ての通り休眠状態にあるの」
エリ「パイロットのブルックリン・ ラックフィールド少尉やクスハ・ミズハ少尉の 意向もあって……」
エリ「龍王機と虎王機を休ませるために 解析作業を中断していたのだけど、 少し様子が変なのよ」
ソフィア「変?」
エリ「眠っているというより、 仮死状態に近いのかも知れない。 もしかしたら、このまま目覚めない可能性も……」
ソフィア「……」
エリ「だから、ブルックリン少尉とクスハ少尉の 了承を得てから、解析作業を再開しようと 思っているの」
エリ「そこで、あなたがアドバイザーになってくれると 助かるのだけど……」
ソフィア「よくてよ。 ……私とあなたは大学の同期だもの。力になるわ」
エリ「ありがとう、ソフィア」
ジョナサン「君達二人が同じ大学の出身だということは 知っていたが……専攻分野が違うだろう。 どこで知り合ったんだ?」
エリ「私達、探検同好会に所属していたんです」
ジョナサン「探検?」
ソフィア「ええ。色々な洞窟や廃墟へ行きました」
エリ「サバイバル訓練とかもやったわね」
ソフィア「そうそう、あの時は大変だったわ。 雨に降られて、泥だらけになって」
ジョナサン(……その頃から バイタリティがあったんだな、この二人は)

《地球連邦軍南欧方面軍 アビアノ基地》

[アビアノ基地内]

ラミア「……お待ちしておりました、少佐」
カイ「話はラーダから聞いている。 わざわざすまんな、アビアノまで」
ラミア「いえ。インジリスクと同様の事件が、 また起きる可能性もありますので」
カイ「そう何度もあんなことがあっちゃ敵わんよ。 ……ところで、改型は?」
ラミア「昨日、3機とも当基地へ到着し…… 第23格納庫内にて機動セッティング中です」
ラミア「なお、オルレアンからの伝達事項では、 F2Wビームキャノンを2挺……用意しまくった とのことのようなのです」
カイ「1挺足らんな。 では、クライウルブズに回してやれ」
ラミア「よろしいのですか?」
カイ「俺の機体はダブル・バックラー仕様だからな。 長物は持ってきた奴を使うさ」
ラミア「了解です。 クライウルブズからはパイロットが2名、 機体を受領するために来ていますが……」
ラミア「少佐もすぐに改型を?」
カイ「ああ。 後で土産物を買う時間が欲しいんでな」

[アビアノ基地 格納庫]

ヒューゴ「これが 量産型ゲシュペンストMk-II改……」
アルベロ「堅実的な改造機だな。 骨太な感じが気に入った」
ヒューゴ「ゲシュペンストを 使い続けてきた我々にとっては 使い易そうな機体ですね」
アルベロ「ああ。 スペックノートを見る限りでは、 操縦感覚もそう変わるまい」
ヒューゴ「……ところで、隊長。 本当に自分がこの新型へ乗っていいんでしょうか?」
アルベロ「適性検査で俺とお前が 改型のパイロットに選ばれたのだ」
ヒューゴ「しかし、自分は……」
アルベロ「マオ社は意図的に戦闘時間が 長い者と短い者を選んだようだが……」
アルベロ「サバイバビリティと実戦での機体損耗率も 基準になっていたと聞く」
ヒューゴ「自分の場合は……逃げ足の速さが 評価されたということですか」
アルベロ「そう卑下するな。 マオ社の判断は的確だ。自信を持て」
ヒューゴ「ですが、イーサン少尉達の手前もあり……」
アルベロ「……単に戦闘能力が高いだけの者なら、 他の部隊にいくらでもいる」
アルベロ「しかし、クライウルブズに要求されるのは 任務の完遂と死地からの生還だ」
アルベロ「死は他人にとって何らかの意味を 与える場合もあるだろう。だが、自分自身にとっては 無意味だ。己の死から学び得ることは何もない」
アルベロ「任務を成し遂げ、生に執着する。 それらは常に均衡でなければならない」
ヒューゴ「……」
アルベロ「お前はまだ経験が少ない上に 荒削りな部分も多いが…… バランスを保てる素質がある」
ヒューゴ「フォリアもそうでありましょうか?」
アルベロ「……ああ。 だが、己自身の結果に執着する傾向がある」
ヒューゴ「……隊長は何故、彼をクライウルブズに?」
アルベロ「俺自身の均衡を保つためだ。 戦場における血縁関係は、マイナス要素と なることが多々ある……」
アルベロ「互いにそれを乗り越え、 兵士に徹することが出来るかどうか」
アルベロ「修練だよ。 奴も……俺も未熟なのでな」
ヒューゴ「そんな……隊長程の人が」
アルベロ「買い被るな。 現に俺は、ホワイトスターの作戦で失敗を犯している」
ヒューゴ「自分は、あの時の隊長の判断が 誤っていたとは思っておりません」
ヒューゴ「ザパト博士やワン博士からの要請に 問題があると……」
アルベロ「そこまでだ、ヒューゴ。 俺達の目的は、彼らの真意を探ることではない」
ヒューゴ「……はっ」
(扉が開閉する)
カイ「……お久しぶりです、アルベロ・エスト少佐」
アルベロ「カイ……カイ・キタムラか」
カイ「DC戦争の最中にお会いした時以来ですね」
アルベロ「……ああ」
アルベロ(こうやって実際に会うのはな)
ラミア「…………」
ラミア(クライウルブズ隊隊長、アルベロ・エスト。 ……彼の立場は“こちら側”でも同じか)
アルベロ「彼女は?」
カイ「自分の部下です」
アルベロ「なら、特殊戦技教導隊のメンバーか」
ラミア「はっ。 ラミア・ラブレス少尉でござんすのよ。 ……お控えなすって」
アルベロ「む? 今、なんと?」
ラミア(しまった…… 少佐が普段気にしないので、油断した……!)
カイ「方言ですよ、少佐。 ……ラミア・ラブレス。腕は確かです」
アルベロ「すまんな、少し驚いただけだ。 俺の部下も紹介しよう」
ヒューゴ「ヒューゴ・メディオ准尉であります」
カイ「では、君が改型3号機のパイロットか」
ヒューゴ「はっ。 伝説の旧教導隊メンバーとお会い出来て 光栄です、カイ・キタムラ少佐」
カイ「よしてくれ。 俺は他の連中ほど濃くはない」
ヒューゴ(……そ、そうかな)
カイ「ともかく、改型の開発プランには俺も関わった。 ゲシュペンスト乗りによるゲシュペンスト乗りのための 機体に仕上げたつもりだ。巧く使ってやってくれ」
ヒューゴ「了解です」
アルベロ「ところで、カイ少佐。 こちらは出来るだけ早くフィッティングを 済ませたいと思っている」
アルベロ「慣らしを兼ねて、 そちらと軽く模擬戦を行いたいのだが……どうだ?」
カイ「望む所です。 早速、準備に取りかかりましょう」

〔戦域:山岳の谷間〕

(アンジュルグと量産型ゲシュペンストMk-II改(カイ機)が出現)
ラミア「演習地区へ到達」
カイ「コンディション・グリーン。 サーボの回り方がいい感じだし、 ソールのグリップも上々」
ラミア「こちらから見る限り、 四肢の挙動が、より自然になって いるようですが……」
カイ「ああ、 可動範囲が広くなったからな」
ラミア「フレームの剛性も向上しちゃって おりましたのですのかね?」
カイ「その分、サーボモーターの負荷が 多少気になる所だが……」
カイ「少数生産を想定している機体だから、 あまり贅沢は言えん。最初から極端な チューンを施すつもりもなかったしな」
ラミア「なるほど…… 機体性能は、各部ハードポイントへ 装着するオプションで出す、と?」
カイ「いずれな。 だから、そのためにも他部隊による ケーススタディが必要なのだ」
(量産型ゲシュペンストMk-II改(アルベロ機)と量産型ゲシュペンストMk-II改(ヒューゴ機)が出現)
アルベロ「ふむ……違和感はないな。 ノーマルタイプの延長線上で扱える。 ……そちらはどうだ、ヒューゴ?」
ヒューゴ「思ったより振り回せそうです。 それに、量産型ヒュッケバインより 重心が低くて安定感がある……」
ヒューゴ「個人的には いい機体だと思います」
アルベロ「だが、 ヒュッケバインの軽やかさに慣れた パイロットには扱いにくいだろう」
アルベロ「こいつを乗りこなすには 腕が必要……エース用の機体だな」
ヒューゴ(エース……か。 俺は隊長やカイ少佐のような パイロットになれるんだろうか)
アルベロ「関節可動範囲を再確認しておけ。 相手は教導隊……片方は特機だ」
アルベロ「下手を打てば、折角の新型が 工場へ送り返されることになる。 ……俺達の任務を忘れるなよ」
ヒューゴ「はっ……」
ヒューゴ(今までのように遠巻きではなく、 直接データを取る格好の機会だと 言うことか)
ヒューゴ(だが、相手が相手だ。 全力でかからなきゃ、やられちまう)
ラミア(ほう…… アルベロ・エストは当然として、 部下の男も……悪くない挙動だ)
ラミア「ヒューゴ・メディオ准尉…… いい腕をしているようですね」
カイ「ああ……アルベロ少佐に よく仕込まれているようだ」
ラミア「……そのアルベロ少佐ですが」
カイ「何だ?」
ラミア「カイ少佐と、アルベロ少佐…… いつから仲良しちゃんになっちゃられ ましたりしたのですか?」
カイ「彼と知り合ったのは前の教導隊が 解散した後だ。モーション・データ構築 関連の仕事を何度か共にしたことがある」
ラミア(なるほど、それでか……)
カイ「俺達が作り上げたTC-OSの モーション・データは、どちらかと言えば 単体運用や2機連携用のものが多くてな」
カイ「無論、 部隊運用のデータも作っていたが、 その最中で教導隊は解散してしまった」
カイ「で、その後を かつてイルムがいたPTXチームや……」
カイ「アルベロ少佐のクライウルブズを 始めとするいくつかの部隊が受け継ぎ、 データをブラッシュアップして行ったのだ」
ラミア「なるほど」
(アルベロ機に通信)
アルベロ「む? これは……」
ヒューゴ「どうしたんです、隊長?」
アルベロ「Pモードに切り替えろ」
ヒューゴ「はっ」
(ヒューゴ機に通信)
アルベロ「ヒューゴ、 フォリアのチームが敵性攻撃機に 襲撃されているとの連絡が入った」
ヒューゴ「!」
アルベロ「護衛していた輸送機が不時着し、 苦戦しているようだ」
アルベロ「戦闘地区には 飛ばせばギリギリで到達できる。 お前はここに残れ」
ヒューゴ「いえ、自分も行きます」
アルベロ「慣らしが完全に終わっていない 状態で戦闘を行うのは危険だ」
ヒューゴ「多少の無茶は承知の上です。 使いこなしてみせます、この改型を」
アルベロ「……いいだろう」
(アルベロ機に通信、アルベロ機、ヒューゴ機がカイ機の方を見る)
アルベロ「カイ少佐、 模擬戦は中止にさせてくれ。 こちらに急用が出来た」
カイ「急用?」
アルベロ「俺の部下が敵性攻撃機と戦闘中だ。 今から救援に向かう」
カイ「では、自分達も同行しましょう。 機体のこともあります。頭数は 多い方が良いかと」
アルベロ(……この男に 俺達とツェントル・プロジェクトの 関係を知られるわけにはいかん)
アルベロ(だが、優先すべきは 情報の隠蔽より積み荷の確保か……)
アルベロ「了解した。頼む」
カイ「はっ」


第5話
狼達との邂逅

〔戦域:草原〕

(北西にレイディバードが着地していて、側にフォリア機がいる)
フォリア(チッ、 フォーメーションを分散させたのが 裏目に出たか……!)
フォリア(2番機と3番機は 何とか逃がせたが、こっちにあれだけの 戦力を差し向けてくるとは……)
(東側のランドリオンを指す)
フォリア(やはり、 あの連中は1番機の積み荷が 何なのか知っているとしか……)
(フォリア機に通信)
フォリア「! これは!?」
(アルベロ機、ヒューゴ機、カイ機、アンジュルグが出現)
アルベロ「ウルフ9、無事か?」
フォリア「隊長!」
アルベロ「俺達で敵を引きつける。 お前は輸送機の防衛に専念しろ」
フォリア「専念……!?」
アルベロ「命令を復唱しろ、ウルフ9」
フォリア「了解……!  ウルフ9、輸送機を防衛します」
アルベロ「……ウルフ8、 お前はウルフ9のカバーを」
ヒューゴ「了解。 ……フォリア、そっちに行くまで 保たせろよ」
フォリア「……ああ」
フォリア(親父の奴、 ヒューゴには新型を与えて……)
ヒューゴ「フォリア……」
フォリア「何でもない。 それより、大物を連れてきてるじゃないか」
ヒューゴ「特殊戦技教導隊だ。 成り行きで手伝ってもらうことになってな」
フォリア(今回は正々堂々と 観戦できるってことか)
フォリア(だが、これで益々おいしい所を 持っていかれるわけにはいかなくなったぜ)
ラミア「敵機はノイエDCの残党と見て、 間違いないようですね」
カイ「だが、 今の彼らにこんな所へあれだけの戦力を 投入する余裕があるとは思えん」
ラミア「別の後ろ盾がいると?」
カイ「そう考えるのが妥当だな」
カイ(ドナが言っていた 新しいパトロンか、それとも……)
ラミア「どうあれ、輸送機の積み荷…… 余程のお宝ちゃんがザックザクのようで ございましちゃうのでしょう」
カイ「ああ。 DC残党にとっての宝、となると……」
アルベロ「ウルフ1よりゴースト1へ。 フォワードは俺が務める。援護を頼むぞ」
カイ「了解」
(作戦目的表示)

〈初戦闘〉

[ラミア]

ラミア(ノイエDC、か。 シャドウミラー隊は消えたというのに、 こいつらはまだ消えん)
ラミア(……いや、 シャドウミラーはまだ私がいる。 これも……因果か)

[カイ]

カイ「モーション・データの トランスプラントは完璧…… 反応も上々」
カイ「オルレアンの連中は、 いい仕事をしてくれた!」

[アルベロ]

アルベロ(輸送機が襲撃されるとはな……。 情報が軍外部に漏れているのか?)
アルベロ(だとしたら、誰の仕業だ?)

[ヒューゴ]

ヒューゴ「実戦で慣らしをやる羽目に なるとはな……!」
ヒューゴ「だが、自分で言い出したことだ。 やってみせる!」

フォリアが敵機全滅前に
移動しなかった 移動した


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