back index next


違えた道 ヒリュウ改に立ち寄らない ~ 第16話 ~

《神聖ラングラン王国 ラングラン州 王都》

[ハガネ ブリーフィング・ルーム]

セニア「……トロイアへ派遣された部隊の目的は、 グリモルド山のヴォルクルス神殿の 封鎖じゃなかったわ」
ライ「なら、そのままシュテドニアスへ 侵攻するために……?」
セニア「ええ。 それに、兄さんは直属の部隊を引き連れ、 バルディアのナゴール湾へ向かうつもりよ」
テツヤ「今のラングランに、シュテドニアスとの 全面戦争をやる余裕があるようには見えんが……」
テュッティ「……その通りです。 いまだに投降していないカークス軍残党もいますし、 ラングラン各地の混迷は続いています」
セニア「当然、シュテドニアス側も報復に出るでしょうし…… 混乱に乗じて、逃亡中のカークス本人が 動きを見せるかも知れない」
セニア「それにルオゾール達が絡みでもしたら、 足をすくわれかねないわ」
マサキ「何があったか知らねえが、焦り過ぎなんだ、殿下は。 ここでシュテドニアスに仕掛けたって、誰も得しねえ」
イルム「ラングラン軍が一つにまとまってるなら、ともかく…… 下手すりゃ、ほころびがある所を敵に突かれて、 崩壊しかねないぜ」
エクセレン「勝機とか今後の展望とか、どうなってるのかしらん」
ライ「もしや、フェイル殿下はデュラクシールや 魔装機神による特化戦力で、シュテドニアスとの 短期決戦を画策しているのではないか?」
セニア「それは……あり得るわね……」
マサキ「………」
テツヤ「そして、我々の戦力も その中に含まれているとしたら……」
アヤ「マサキ、フェイル殿下は私達の処遇について 何か言っていたの?」
マサキ「いや……」
テュッティ「私達の申し入れに対して、 後ほど返答するとは言われているけれど……」
(通信)
アヅキ「艦長、フェイルロード陛下より通信が入っています。 魔装機神操者にも同席を願いたいとのことです」
マサキ「!」
テツヤ「こちらに回してくれ」
アヅキ「了解しました」
(通信がつながる)
フェイル「……マサキ、テュッティ、 連絡が遅れてすまなかったな」
マサキ「フェイル……殿下……」
フェイル「君達の言い分はわかっている。 だが、これは既に決定されたことなのだ」
テュッティ「本気でシュテドニアスとの戦争を 望んでいらっしゃるのですか?」
フェイル「そう、私はこれまでの戦いを経て、気づいたのだ。 これ以上の戦乱はラ・ギアス全土を統一することでしか 収めることは出来ないと」
マサキ「今のラングランはガタガタなんだぞ。 そんな状態でシュテドニアスと戦ったら、 先に参っちまうのは、こっちの方だ」
フェイル「それはわかっているよ、マサキ。 たが、彼らは我々に対し、不信感を強めている」
フェイル「そして、力を蓄え、再び我が国に侵攻してくる。 そうなってからでは遅い。シュテドニアスが退いた 今こそが絶好の機会なのだ」
フェイル「そこで、君達の魔装機神魔装機の力を 借りたいと思っている」
マサキ「………」
テツヤ「………」
ライ(やはり、電撃作戦によって敵中枢を叩く気なのか……)
マサキ「……魔装機神操者として、 その協力要請は受けられねえな」
マサキ「理由は、あんたのやり方が…… シュテドニアスとの戦争が、ラ・ギアスに 平和をもたらすとは思えねえからだ」
フェイル「マサキ、小手先で誤魔化してみた所で 真の平和は訪れん。根本的な改革が必要なのだよ」
マサキ「力でしか問題を解決できないなんてのは、 二流の政治家の発言だぜ。あんたは第二の カークスになるつもりか?」
フェイル「……その通りかも知れん。 だが、私は自分の信じた道を歩む」
フェイル「後世、この決断が悪行として非難されるかも 知れないが……それを恐れたりはしない。 今、この時に出来るだけのことをやるしかないのだ」
セニア「……兄さん、何をそんなに焦っているの?  そして、その決断の根拠は何?  もしかして、デュラクシール?」
フェイル「たった1機の魔装機で戦局を大きく変えられるとは 思っていない。だが、今という時しか、 私は大事を成し遂げられぬのだ」
セニア「………」
マサキ「ラングランだけでなく、ラ・ギアス全土を 戦火に巻き込むことになってもか?」
フェイル「そうだ。今のラ・ギアスには強大な権力と 抑止力が必要……誰かが劇薬としての役目を 果たさねば、戦乱が収まることはない」
フェイル「だから、君達には大局的な物の見方をした上で、 私の決断に賛同して欲しい」
マサキ「おかしい……おかしいぜ、フェイル殿下。 あんた、いつからそんな風になっちまったんだ?  どうして、そんなに権力を欲しがる?」
フェイル「私が最終的に欲しているのは権力ではない…… ラ・ギアスに平穏をもたらすための秩序だよ」
マサキ「そいつを得る方法に問題があると言ってる。 だから、今のあんたに力を貸す気はねえ。 俺は抜けさせてもらうぜ」
フェイル「テュッティ、ミオ……君達もそうか?」
ミオ「あたしはマサキと同意見…… ようやく終わりそうな戦争を 蒸し返そうだなんて……」
テュッティ「……考えさせて下さい」
フェイル「わかった……強制はしない。 ……それと、テツヤ・オノデラ中佐」
テツヤ「何でしょう?」
フェイル「明後日、セブ神殿で地上送還の準備が整います。 あなた方はそちらへ向かって下さい」
テツヤ「……わかりました」
フェイル「また、今までご協力いただいたことに対し、 改めて感謝の意を表明致します。 それでは」
(通信が切れる)
テツヤ「………」
セニア(兄さん……)
ヴィレッタ「……フェイル陛下の意志は固いようね」
マサキ「くそっ、何でこんなことに……!」
ミオ「これからどうするの、マサキ?」
マサキ「そんなこと、俺に言われたってわからねえよ……!」
プレシア「お兄ちゃん……」
テュッティ「ともかく、ハガネをセブ神殿へ案内しましょう。 これ以上、みんなを巻き込むわけにはいかないわ」
マサキ「あ、ああ……」
エクセレン「……ここで帰っちゃうのは、何か気が引けるけどね」
リオ「そうですね…… 泥試合になるのがわかってて、見過ごすなんて……」
イルム「だが、ここいらが引き際じゃないか?  フェイル陛下も、俺達に協力を要請しなかったからな」
アヤ「でも、誰かが陛下を止めないと…… マサキ達がやってきたことが無意味になるわ」
マサキ「………」
アヤ「艦長はどうお考えなんです?」
テツヤ「……今までフェイルロード陛下と幾度か 話をした上での所見だが……短絡的な結論を 出す方ではないと思っている」
テツヤ「それに、急激な力の行使は強い反発を生む。 DC戦争の時、我々がビアン・ゾルダークに 立ち向かっていったようにな」
テツヤ「フェイルロード陛下もそのことは承知しているはずだ。 にも関わらず、事を急くということは…… 陛下自身に何らかの理由があるのかもな」
テツヤ「個人的には、それが知りたい。 奇縁とは言え、共に戦った間柄として」
マサキ「殿下の心変わりの理由か……」
テツヤ「だが、我々には地上での責務がある。 ヒリュウ改と共に自分達の世界へ戻らねばならない。 すまんが、マサキ……セブ神殿への案内を頼めるか」
マサキ「ああ、わかったぜ……」


第16話
違えた道

〔戦域:王都からセブ神殿途中の草原〕

(ハガネが出現)
エイタ「艦長! 0時方向、レンジ3に動体反応多数!」
テツヤ「敵か!?」
テュッティ「この邪悪な気配は……!」
(デモンゴーレムが大量に出現後、ナグツァートが出現)
マサキ「ナグツァート! ルオゾールの野郎か!」
ルオゾール「ここでお会いしたのも何かの縁です。 しばらくの間、相手をしていただきましょうか」
マサキ「ちっ、こんな時に! 艦長、出撃するぜ!」
(出撃準備)
ルオゾール「……一つお聞きしますが、 何故、あなた方はフェイルロード陛下の 軍勢に加わらないのですか?」
マサキ「てめえにそんなことを教える義理はねえ!」
ルオゾール「そうですか……。 あなた方がフェイル軍に加わらないのなら、 私達にとっては都合がいいですな」
リオ「それ、どういうこと!?」
ルオゾール「ラングラン、シュテドニアスの両軍が 決定打に欠けた戦力で交戦すれば、 程なく膠着状態に陥るでしょう」
ルオゾール「そして、それはラングランにさらなる混乱を招き…… 私達は行動し易くなります」
マサキ「……!」
ルオゾール「つまり、フェイルロード陛下の行いは、 間接的にヴォルクルス様の復活を 幇助していると申し上げてよろしいかと」
テュッティ「そんなこと……!」
ルオゾール「誰も陛下を止められぬのでしたら、尚更よし。 結果的に、我らの悲願成就の日が近づきますな」
マサキ「………」
ルオゾール「では、行きますぞ。 邪魔者の数は、少しでも減らしておきたいので」
マサキ「うるせえ!  邪魔してきたのは、てめえの方だろうが!」
ルオゾール(……地上人の部隊を合流させると カークス将軍が不利になりますからな。 ここで彼らの足止めをしておきませんと)
(作戦目的表示)

〈デモンゴーレムを15機以上撃墜〉

ルオゾール「……さて、そろそろいいでしょう。 ランドール殿、またどこかでお会い致しましょう」
(ナグツァートが撤退)
マサキ「待ちやがれ、ルオゾール!」
テュッティ「ここで深追いは禁物よ、マサキ!  残ったデモンゴーレムを片づけましょう!」
マサキ「くっ……! わかったぜ!」

〈敵機全滅〉

エイタ「デモンゴーレムの反応、全て消えました!」
テツヤ「よし、対地対空警戒を厳となせ。 各機を帰艦させろ」
アヅキ「了解です」

[ハガネ ブリーフィング・ルーム]

テュッティ「……懸念していたことが、実際に起きたわね」
フレキ「ええ。ルオゾールは、現在の情勢を 好機と見なしていました」
セニア「今回はデモンゴーレムで済んだけど、 あれがヴォルクルスの分身だったら……」
マサキ「……認めたくはねえが、 ルオゾールの言うことは、もっともだ」
ミオ「え?」
マサキ「フェイル殿下の動きは、混乱の源になってる。 そして、そこに付け込んでくる奴もいる……」
マサキ「ルオゾールだけじゃねえ、下手すりゃカークスも。 やっぱり、今、殿下を止めなきゃならねえ」
アイビス「でも、どうやって?」
ツグミ「フェイル陛下は部隊を引き連れて、 ナゴール湾に向かっているんでしょう?」
マサキ「今からサイバスターで追いかける。 そして、もう一度……殿下と話してみる」
ライ「それでも向こうが引き下がらなかったら、 どうするつもりだ?」
マサキ「そん時は……力ずくでも殿下を止めるぜ」
プレシア「お、お兄ちゃん……」
テュッティ「……本気なのね、マサキ?」
マサキ「ああ。世界存続の危機に際しては、全てを捨てて 立ち向かえ……俺に魔装機神操者の義務を教えて くれたのは、フェイル殿下自身だからな」
テュッティ「……そういうことなら、私も行くわ。 ただし、殿下と戦うためでなく…… 話し合って、戦争を止めるために」
マサキ「俺だって、そのつもりさ」
ミオ「あたしも行くよ。まだ間に合うと思うし」
セニア「………」
マサキ「セニア、お前はこのままハガネに乗って、 セブ神殿へ向かってくれ」
セニア「ううん、あたしも一緒に行くわ。 兄さんの考えは間違ってると思うし…… 心変わりした理由を知りたいから……」
トールス「マサキ殿、私もお供致します」
ゴルド「無論、それがしも」
プレシア「あたしも行くよ、お兄ちゃん。 ミオさんが言った通り、まだ殿下を 止められると思うから……」
マサキ「わかった」
アヤ「……あなた達だけで行くつもりなの?」
マサキ「ああ……これは、俺達の問題だからな」
(扉が開閉する)
テツヤ「……ハガネも同行するぞ、マサキ」
マサキ「艦長……!」
テュッティ「皆さんは、 ようやく地上へ戻れるようになったのです。 これ以上、ご迷惑をお掛けするのは……」
テツヤ「送還の準備が整うのは、明後日だ。 つまり、俺達には時間がある。地上へ戻る前に まだ出来ることがあるのではないか……」
テツヤ「俺はそう考えた。 一時とは言え、ラングランに平和をもたらすためにも 戦ってきたつもりだからな」
テツヤ「それに、この世界の情勢に関わってしまった以上、 事の顛末を見届ける義務があるとも思っている」
マサキ「艦長……」
エクセレン「立つ鳥跡を濁さずって言うし、 私は艦長の判断に賛成よん」
イルム「ま、乗りかかった船だしな」
ライ「俺も行こう」
マサキ「……お前は真っ先に反対すると思ってたがな」
ライ「過去に似たような経験がある……。 もっとも、その場には居合わせなかったし、 この手で止めることは出来なかったがな」
アヤ(お父様の……マイヤー総司令のことね……)
ユウキ「………」
カーラ「ユウは反対なの?」
ユウキ「これ以上の干渉は危険だと思うが…… 俺達の存在が抑止力になるのであれば、 やむを得んか」
テツヤ「今回の件に関して、強制をするつもりはない。 各自に判断の時間を与える。よく考えてくれ」


back index next