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海溝よりの刺客 リュウセイルート ~ 第9話 ~

《ハガネ艦橋》

テツヤ「針路このまま、 強速前進、よーそろ!」
ダイテツ「そろそろ、 八丈島が見える頃だな」
テツヤ「ええ。本艦は、間もなく 伊豆基地の防衛ライン乙を越え、 八丈島海域に入ります」
ダイテツ「敵の動きは?」
リオ「本艦周辺100キロメートルの 範囲内に敵機の反応はありません」
ダイテツ「そうか」
テツヤ「妙ですね。 間髪入れず、九州からの追撃部隊が 来るものだと思っていましたが…」
ダイテツ「大尉、 ここでハガネの潜水艦機能の テストを行うとしよう」
テツヤ「海中に潜るのですか?」
ダイテツ「そうだ。伊豆・小笠原海溝を 伝って、南鳥島海域方面を目指す。 海溝内では深度3000を保て」
テツヤ「なるほど…攻撃型潜水艦の 限界深度は2000程度…」
テツヤ「しかし、外宇宙航行用の 特殊船殻を持つスペースノア級は それ以下の潜行が可能です」
エイタ「深海調査艇でもない限り、 海溝内を潜行するハガネに 近づけないってワケですね」
テツヤ「ああ、そうだっ。 喫水線上の全区、水密閉鎖確認。 全艦、潜水艦行動を取れ」

《ブリーフィングルーム》

リュウセイ(…結局、ハガネが 発進してからクスハに会ってねえ…)
リュウセイ(あいつをハガネから 降ろすのはもう無理みたいだし…。 俺、どうすりゃいいんだ…?)
ジャーダ「何?  この艦は水ン中に潜ってるって?」
ガーネット「あんた、 艦内放送聞いてなかったの?」
ジャーダ「艦内放送?」
ガーネット「あ、ひょっとして… また音楽を聴いてたんでしょ!?」
ジャーダ「いや~、さすがは 万能戦闘母艦。潜航も出来るなんて 大したモンだ。なぁ、リュウセイ」
ガーネット「ごまかさないでよね。 その内、イングラム少佐に 怒られても知らないわよ」
リュウセイ「………」
ジャーダ「ん?  どうしたんだ、リュウセイ。 元気がねえな」
リュウセイ「何でもない」
ジャーダ「それが何でもねえって 面かよ。どれ、悩み事なら、 この俺様が相談に乗ってやる」
ガーネット「恋の悩みなら ジャーダにするだけ無駄よ」
ガーネット「今時、映画でも 出てこないような口説き文句 なんかを教えられるからねえ」
ジャーダ「うるせえな!  それを聞いて喜んでたのは、 どこのどいつだ!」
(扉が開閉する)
クスハ「じゃあ、アヤ大尉… これがコバヤシ博士から預かった お薬です」
アヤ「ありかとう。 ところで、クスハ…あなた、 お父様から何か言われなかった?」
クスハ「いえ…」
アヤ「そう…」
リュウセイ「………」
クスハ「あ、リュウセイ君…」
リュウセイ「お、俺… 格納庫に行かなくちゃ…」
(扉が開閉する・リュウセイが立ち去る)
クスハ「あ……」
アヤ「どうしたの、あの子?」
ジャーダ「さあ…?」
ガーネット(はは~ん、もしかして…)

《ハガネ艦橋》

テツヤ「本艦は 間もなく北緯30度を越えます。 現在深度、3000」
ダイテツ「敵の反応は?」
リオ「依然、 ソーナーに感はありません」
テツヤ「さしものDC戦闘原潜も、 この深度までは到達出来ない ようですね」
エイタ「北緯30度ってことは… この付近が伊豆・小笠原海溝で 一番深い所か」
リオ「へえ、そうなの?」
エイタ「確か、最深度は1万メートルに 近かったはずだ。さしものハガネも そこまで行けば圧壊するかもなあ」
テツヤ「お前達、私語は慎め。 第3級戦闘配備中だぞ」
エイタ「す、すみません」
テツヤ「まったく…。 いくら敵が来ない深海域だと言え、 気がゆるんで…」
(アラート)
リオ「ソーナーに感あり!  こ、これは…魚雷です!!」
テツヤ「な、何!?  こんな深海に魚雷だと…!」
リオ「雷跡6、方位2-8-7!」
ダイテツ「総員、第1種戦闘配置!  機関、第1戦速、雷撃準備!」
テツヤ「了解!  機関、第1戦速、雷撃準備!」
ダイテツ「回避運動を取りつつ、 AT魚雷、1番から4番まで 発射準備!」
テツヤ「了解! 面舵45度!  1番から4番発射管に注水!  ベントオープン、ブロー!」
リオ「魚雷との相対距離、1800!」
ダイテツ「AT魚雷 1番から4番、発射!」
テツヤ「1番から4番、発射!」
(魚雷を発射、アラート消える)
リオ「………」
エイタ「………」
ダイテツ「………」
リオ「!」
リオ「命中5、交差1! 来ます!!」
ダイテツ「急速転舵!!」
テツヤ「間に合いません!!」
(被弾した)


第9話
海溝よりの刺客

〔戦域:日本海溝北緯30度付近深海〕

(アラート)
テツヤ「被害状況を報告しろ!」
エイタ「魚雷は右舷後部に命中!  テスラ・ドライブに異常発生!」
テツヤ「何っ!?」
リオ「後部第8 第11ブロックに浸水!」
(被弾、アラート消える)
テツヤ「何だ!?」
エイタ「テ、テスラ・ドライブの 出力異常により、艦が沈降します!」
テツヤ「予備ツリムタンクを 使用して、深度を保て!」
エイタ「りょ、了解!」
リオ「ソーナーに感あり!  艦前方に何かがいます!!」
テツヤ「!」
(敵機を指す)
リオ「データ照合終了!  DCの戦闘原潜です!」
ダイテツ「どうやら、ワシらは 待ち伏せされていたようだな」
テツヤ(くっ…!  まさか、奴らの潜水艦が この深度まで潜れるとは…)
テツヤ(それに、こんな深海では パーソナルトルーパーを 出撃させられない…)
テツヤ(ここで本艦に何かあれば、 海溝へ沈んで圧壊か…!)
ダイテツ「総員へ! これより、 この深海域を強行突破する!」
テツヤ「艦長、敵艦を 撃滅するのではないのですか!?」
ダイテツ「大尉…ワシらの最終目的地は 遥か彼方のアイドネウス島だ」
ダイテツ「補給手段が 確保されていない現状で 戦闘は極力避けねばならん」
テツヤ「わかりました…。では、 本艦をこの位置まで移動させれば よろしいですね?」
(戦闘海域の南端を指す)
ダイテツ「うむ。第二戦速、前進!」
(出撃準備、出撃数は0)

〈2PP〉

リュウセイ「イルム中尉、俺達は 出撃しなくてもいいのかよ?」
イルム「何言ってんだ。こんな所へ PTで飛び出してみろ。あっと 言う間に水圧でペシャンコだぞ」
リュウセイ「そ、そうか…」
イルム「だから、 今回は艦長やテツヤ大尉達に 任せて、大人しくしてろ」
(爆発音、左の敵艦が揺れる)
リュウセイ「な、何だ!?」
エイタ「テスラ・ドライブに さらなる異常発生!  出力が調整出来ません!!」
テツヤ「何だと!?」
エイタ「こ、このままでは艦が 強制沈降します! ツリムタンクでは 深度が調整出来ません!!」
テツヤ「うぬっ…!」
ダイテツ「補機ロケット エンジンクラスター点火!  急速浮上! 艦の深度を保て!」
テツヤ「りょ、了解!」
エイタ「何てこった、 こいつはヤバいよ…!」
リオ「どうしたの!?」
エイタ「テスラ・ドライブの異常で 重力制御が上手くいってない!」
エイタ「そのおかげで、艦が 自然沈降どころか、強制的に 海溝深部へ沈んでる…!」
リオ「ホントなの!?」
エイタ「ああ。今は 補助エンジンとツリムタンクで 何とか深度を保ってるけど…」
エイタ「グズグズしてたら、 海溝の底へ沈んで圧壊する!」
リオ「そ、そんな!」
テツヤ「エイタ、本艦が現在の 深度を保てる限界時間は!?」
エイタ「あと4分です!」
テツヤ「何だと…!」
ダイテツ「よし…それまでに 加速必要水域を確保し、オーバー ブーストを使って浮上する!」
テツヤ「オーバーブーストを!?  あれは大気圏離脱時や 非常時に使うものですが…!」
ダイテツ「大尉、今がその非常時だ」
テツヤ「!」
ダイテツ「いいか、 何としても限界時間までに…」
(戦闘海域の東端を指す)
ダイテツ「本艦を このポイントまでたどり着かせろ!」
テツヤ「了解!」

〈3PP〉

テツヤ「…前方の敵艦は こちらを待ちぶせしているのか…?」
エイタ「そうみたいですね…」
ダイテツ「…本艦を だ補するつもりかも知れん。 油断をするな!」

〈敵機全滅〉

リオ「敵艦の全滅を確認!」
ダイテツ「よし…目標点まで 移動し、オーバーブーストを 使って浮上するぞ!」

《ハガネ艦橋》

リオ「浮上完了。 周囲に敵影はありません」
テツヤ「やれやれ、 何とか助かったか…」
エイタ「しかし… さすがですね、艦長は」
エイタ「大気圏離脱時用の オーバーブーストを海中で しかもあんな状況下で使うなんて」
テツヤ「…あの人は昔、 外宇宙探査航行艦ヒリュウの 艦長を務めていたからな」
テツヤ「ああいう時の臨機応変な 判断はさすがだよ。ま、その反面、 かなりの無茶もする人だけどな」
エイタ「は、はあ…」
ダイテツ「大尉、微速前進で 南鳥島へ向かう。その間に テスラ・ドライブの修理を急げ」
テツヤ「了解です、艦長」

《艦内個室》

ガーネット「どうやら、ハガネは 無事に海の上へ出たみたいね」
クスハ「ええ…。 ところで、ガーネットさん。 私にお話って…何ですか?」
ガーネット「聞いたわよ…あんたって、 リュウセイの幼なじみなんだって?」
クスハ「はい」
ガーネット「ふ~ん…。 ところで、あんた…あの子のことが 好きなんでしょ?」
クスハ「え?  そ、そんなことないです…」
ガーネット「で、どうなの?」
クスハ「どうなのって…別に何も。 リュウセイ君は女の子に 興味がないみたいで…」
ガーネット「まあ、確かに。 ロボット一筋だからね、あの子は」
クスハ「それに、 何だか話しかけづらくて…」
ガーネット「なるほど。要は、 久々に会って…話すきっかけが なかなかつかめないってワケね」
クスハ「え、ええ…」
ガーネット「わかったわ。 あたしが何とかしてあげる」
クスハ「え? な、何とかって…?」
ガーネット「いいから、 あたしに任せといて!」

《ハガネ格納庫》

イルム「オオミヤ博士、 ヒュッケバイン009のチェック、 終わったぜ」
ロバート「ああ、ご苦労さん」
(扉が開閉する)
リュウセイ「ん? このPTは…」
イルム「昔、 俺がイングラム少佐のPTXチームに いた頃、乗っていた機体さ」
リュウセイ「PTXチームって… 確か、SRXチームの前にあった PTの特殊部隊だったっけ」
イルム「ああ。 今は解散しているがな」
ロバート「ところで、イルム中尉… 009の調子はどうだった?」
イルム「前の時より良くなっていたが… やっぱり、こいつじゃ008Lを 越えられないな」
ロバート「それを言わないでくれ。 あれとは動力源が違うんだ」
イルム「わかってるよ。 とりあえず、次に敵が襲って来たら こいつを使ってみるわ」
ロバート「ああ」
リュウセイ「なあ、ロブ。動力源が 違うって…どういうこった?」
ロバート「そうか…。 お前は知らなかったんだな」
リュウセイ「?」
ロバート「…ヒュッケバインは 全部で3機が作られていてな。 内、1機が009…」
ロバート「残りが008Lと 008R。で、2機の008と 009じゃ動力源が違うんだ」
リュウセイ「動力源が違うって…。 008は通常のエンジンを 積んでなかったのかよ?」
ロバート「ああ、そうだ…」
ロバート「ヒュッケバイン008Lと 008Rは初のEOT搭載型 パーソナルトルーパーでな…」
ロバート「その2機には 『ブラックホール・エンジン』という 動力源が組み込まれていた」
リュウセイ「ブラックホール・ エンジン? 何か名前を 聞いただけでヤバそうな感じが…」
イルム「そう…実際、ヤバかったのさ」
イルム「ヒュッケバイン008Rの ブラックホール・エンジンは 実験中に突如暴走し…」
イルム「基地一つを吹っ飛ばした。 で、その時に居合わせた奴の中で 生き残ったのは俺とハミル博士…」
イルム「それに…ライだ」
リュウセイ「! ライが!?」
イルム「ああ。 奴はヒュッケバイン008Rの テストパイロットだったのさ」
リュウセイ「……!」
イルム「ブラックホール・ エンジン暴走事故のおかげで ライは左手を失い…」
リュウセイ「左手を…!?」
イルム「ヒュッケバインには バニシング・トルーパーっていう 不名誉なアダ名がついた」
リュウセイ「………」
イルム「…お前、あいつから この話を聞いてなかったのか?」
リュウセイ「あ、ああ…」
イルム「フッ、あいつらしいな」
リュウセイ「………」
イルム「何にせよ、ブラックホール・ エンジンっていう異星人の技術は 俺達にゃ荷が重かったのさ」
リュウセイ(ライに… そんな過去があったなんて…)

『ヒュッケバイン009』を入手した


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