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悩める守人 ~ 第3話 ~

《ユーラシア大陸 中央部(クロガネ)》

[クロガネ 格納庫]

(パーツをいじる音)
カーラ「ラウル、ミズホ。 あたしの機体のギア比のセッティング、終わった?」
ミズホ「ええ。 カーラさんのクセに合わせておきましたから、 反応も上がってるはずですよ」
ラウル「これで的を外したら、パイロットの責任だな」
カーラ「言ってくれるじゃん。 あたし、狙いは外さないよ? 恋のターゲットもね」
ラウル「それって……あれ?」
ユウキ「……?」
カーラ「そう、あれ」
ラウル(装甲値と回避率、高そうだよなぁ)
ユウキ「二人して、何だ?」
ラウル「あ、いやいや! 別に!」
カーラ「まあ、ともかく…… あんた達が整備してくれた機体だもん。 あたしも頑張るよ」
ラウル「じゃ、これで今日の作業は終了っと……。 俺達、サブデッキに行ってくるよ」
ユウキ「またエクサランスの整備か?」
ラウル「ああ。 あれを完成させるのが、 俺達の最大の目的だからな」
ミズホ「じゃあ、カーラさん、ユウキさん。 何かありましたら声をかけて下さいね」
カーラ「あんた達もそうだけど、 ラージにも言っといてね。 あんまり根を詰めすぎるなってさ」
ラウル「それは無理な話だ。 あいつは、自分の興味のあることに取り組んだら 他の物には目もくれない性分だからな」
ミズホ「それで、私達もたまに困ることがあるんです」
カーラ「ふ~ん…… 紅茶にお熱なウチのダーリンみたいなもんかぁ」
ユウキ「……ダージリンならともかく、 ダーリンはよせ」
カーラ「あ……自分で上手いこと言ったなとか 思ったでしょ?」
ユウキ「……そんなことはない」
カーラ「ふ~ん、どうだかね~」
ラウル「……じゃあ、ユウキ、カーラ。 また後でな」
ミズホ「失礼します」
(足音・ラウルとミズホが立ち去る)
ユウキ「ラウル、ミズホ、ラージ……。 彼らと行動を共にするようになって、 結構経つな」
カーラ「メカニックとしての腕は確かよね。 整備や調整作業が楽になったし」
ユウキ「まあ……な」
カーラ「な~んかトゲのある反応…… もしかして、あの3人のこと、 スパイか何かって思ってる?」
ユウキ「そういうわけじゃないが…… ラージの行動には、不審な点が多い」
ユウキ「俺達の機体やダブルGの動力源に示す興味は、 少々常軌を逸していると思う」
カーラ「ラージはメカマンって言うより、 研究者なんだから当然じゃない?」
ユウキ「………」
カーラ「まぁ、あのメガネの奥の目は、 ちょっとフツーじゃない時もあるけどね」
ユウキ「そう考えれば、 あの時、エクサランスと共に 俺達の前へ現れたのも不自然だ」
カーラ「考え過ぎだって。 第一、疑わしい所があるのなら、レーツェルさんが とっくに叩き出しているよ」
ユウキ「それもそうだな……」
カーラ「でも、ワケありなのは確かよね。 いくら自分達で開発してた機体を 完成させたいからって……」
カーラ「いわく付きのこのクロガネに わざわざ乗り込むなんてさ」
ユウキ(エクサランス……。 あの機体には、彼らが必要以上に 情熱を注ぐ何かがあるのか……?)

[クロガネ 格納庫]

ラージ「遅かったですね、ラウル、ミズホ」
ラウル「すまない、ラージ。 ちょいとカーラの機体のセッティングに 手間取っちまった」
ラージ「デフォルトの設定は、 僕が済ませておいたはずですが」
ラウル「でも、あいつの場合、 ちょっと圧を低めに設定してやった方が 取り回しが楽だと思ってさ」
ラージ「最低限の職務以上の作業は、必要ありません。 それに裂く時間が惜しいですし」
ラウル「待てよ、ラージ。 今の俺達はこの艦のメカニックだ。 だったら……」
ラージ「意見は後にして下さい。 今は時流エンジンの話をしたいので」
ラウル「……わかったよ」
ミズホ(ラウルさん……)
ラージ「あなた達が来るまでの間に、 新セッティングと初期テストは済ませておきました。 結果はこの通りです」
(モニターオン)
ミズホ「これって…!」
ラウル「時流エンジンの出力比が、 当初の計算通りまで上がってる!  ってことは……」
ラージ「ええ。 時粒子でタイム・タービンを回すという 基本システムは、修復できたといっていいでしょう」
ラウル「なら、 元の世界に戻れるかも知れないんだな!?」
ラージ「短絡的すぎますよ、ラウル。 あくまで修復できたのは、基本システムだけです」
ラウル「でも……」
ラージ「確かに、この状態でも タイム・タービンを『暴走』させれば、 次元転移は可能かもしれません」
ラージ「僕達がフィオナを失い、 この世界へ飛ばされてきた時のように」
ミズホ「それは……」
ラージ「そうです。 僕達が元の世界に戻れる確率は、 限りなく低いでしょう」
ラージ「そんな賭けにもならないような 不確かな方法を試すことに、賛成は出来ませんね」
ミズホ「やっぱり、設備も整っていない この状況じゃ、これが限界なんでしょうか……」
ラウル「あきらめるなよ、ミズホ。 そう簡単にいくなんて思ってないさ」
ラウル「このまま研究を進めて 時流エンジンを完全な物にすれば…… 俺達は俺達の世界に帰れるさ」
ラージ「……楽観的過ぎますね」
ラウル「そう頭から否定するなよ」
ミズホ「あの……やっぱり、クロガネの人達に 全て話して協力してもらいませんか?」
ラージ「それについては、何度も議論した通りです。 時流エンジンの可能性については、我々の内で 秘密にしなくてはなりません」
ラージ「あなたも身を以って知ったはずです。 異なる世界の人間が、出会うことによって 起きた不幸を……」
ミズホ「シャドウミラーのことですね……」
ラージ「そうです。 次元転移機能を有するに至った時流エンジンを、 他人に悪用されるわけにはいきません」
ラウル「確かに、やってる事は正しいかも知れないけど、 隠れてコソコソしているようで 何か後ろめたい気分になるな……」
ラージ「所詮、僕達は異邦人です。 この世界に深く関わる前に、然るべき場所へ 戻る方が賢明です」
ラージ「そのために最低限の研究施設を持ち、 かつ、特定の組織に所属していない このクロガネへ乗り込んだんです」
ラウル「まあ、 確かにラージの言う通りではあるよな……」
ミズホ「………」
ラウル「そういうわけだ、ミズホ。 だけど、落ち込んでちゃダメだ」
ミズホ「はい……」
ラウル「大丈夫だって。 俺達はいつかきっと元の世界に帰れる」
ラウル「そして、その時はエクサランスも 本来の役目……レスキュー用マシンに戻れるさ」
ミズホ「ええ……」
ラージ「では、今日の実験を始めましょう」
ラージ「基本システムの修理が完了したため、 エクサランスの出力は昨日までとは 比べ物にならない程アップしています」
ミズホ「気をつけて下さいね、ラウルさん」
ラウル「任せとけ。 ラージの開発した時流エンジンと ミズホが造ったフレーム……」
ラウル「そして、 パイロットの俺が揃ってのエクサランスだ。 使いこなしてみせるさ!」

[クロガネ 艦長室]

ギリアム「……報告は以上だ」
レーツェル「了解した。 こちらでも調査を進めよう」
ギリアム「すまん。 彼らのことは、引き続きそちらに任せる」
レーツェル「ああ」
ギリアム「では、俺は別件調査のために宇宙へ上がる」
レーツェル「……スカルヘッドか」
ギリアム「うむ」
ゼンガー「あれは……本当に存在しているのか?」
ギリアム「ああ。 先の大戦で、インスペクターが プラントとして使用していたらしい」
ギリアム「現在、イスルギとウォンによって 修復が行われているのだが……気になる点があってな」
レーツェル「そうか。 ……例の転移反応については?」
ギリアム「まだ何とも言えん」
ゼンガー「転移反応……?」
ギリアム「……ホワイトスターが転移した前後、 月軌道外宙域で、大規模な転移反応らしきものが 感知された」
ゼンガー「それは本当か?」
ギリアム「俺が直接感知したわけではない。 最近になって、報告書が回ってきた」
ゼンガー「何が転移してきたのだ?」
ギリアム「それはまだわからん。 該当宙域に偵察機を送り込んだが、 今の所は何も見つかっていない」
ゼンガー「………」
ギリアム「インスペクター事件末期には、 他にも怪しげな事象が報告されているが……」
ギリアム「そのほとんどが 誤認やセンサーの誤感知によるものでな。 今回の転移反応もそうかも知れん」
レーツェル「いずれにせよ、 こちらで手伝えることがあったら、連絡してくれ」
ギリアム「了解した。 ……また会おう、レーツェル、ゼンガー」
(通信切れる)
ゼンガー「相変わらず忙しい男だな」
レーツェル「動いていないと 気が済まない性分なのさ」
ゼンガー「それ故に彼らを我らへ託したか」
レーツェル「希望を述べるなら、 そんな敵は存在しない方がいい」
レーツェル「異なる世界への扉…… それを開くテクノロジーは、 今の地球人類にとって過ぎた物だ」
ゼンガー「だからこそ、 それを利用しようとする者が現れる」
レーツェル「そのための防衛策が、我々だ。 そして、黙認する代わりに 『彼ら』には囮となってもらう」
(アラート)
ゼンガー「む……! かかったか?」
レーツェル「獲物は小物か、大物か……。 その目的はこの艦か、それとも……」


第3話
悩める守人

〔戦域:草原〕

(敵機が出現)
レーツェル「構成から見て、 ノイエDCの残党か」
レーツェル「各機は出撃を!  相手の出方によっては応戦する!」
(ダイゼンガー、ユウキ機カーラ機が出撃)
ラウル「ユウキ達が出たか…!」
ラージ「彼らの腕なら、あの程度の戦力に 遅れをとることはないでしょう」
ラウル「ああ……」
ラージ「忘れないで下さい、ラウル。 僕達の目的は、時流エンジンを 完成させること」
ラージ「それが最優先事項……。 もし、僕達が危険にさらされることに なったら……」
ラージ「その時はどうするか、 わかっているでしょうね?」
ラウル「………」
ミズホ「頑張って下さい、皆さん……!  あたし、応援することしか 出来ませんけど……」
カーラ「任しといて、ミズホ!  あんな山賊まがいの部隊なんか、 ソッコーで片付けちゃうから!」
ユウキ「油断するなよ、カーラ。 数では向こうが勝る。守勢に回ると、 要らぬ被害を生む事になるぞ」
ゼンガー「ユウキの言う通りだ。 突貫して、奴らの機先を抑える」
ゼンガー「往くぞ! 我に続けッ!!」
ユウキ「了解!」
カーラ「合点よ、親分!」
カーラ(……どっちかって言うと、 あたし達の方が山賊みたいかも)
(作戦目的表示)

〈2PP〉

ゼンガー「動きを見せんか。妙だな」
ユウキ「様子見……あるいは罠でしょうか?」
ゼンガー「それはレーツェルも 気づいているだろう」
ゼンガー「こちらの手数が少ない以上…… 誘いであろうと、今はそれに乗るしか あるまい」
カーラ「了解!  待たすんならともかく、待ってるのは 性に合わないもんね」
ラージ「……どうやら、 彼らはあのまま突撃するようですね」
ラウル「直衛がいなくても、 クロガネの弾幕をくぐり抜けられる パイロットはそうはいないぜ」
ラージ「それを可能とする者が いたとしたら?」
ラウル「え……?」
ラージ「ミズホ、エクサランスの準備を。 これはひょっとするかも知れませんよ」
ミズホ「は、はい……!」
ラージ「いざとなれば、 僕達は独自の判断で行動します。 その準備をしておきましょう」
ラウル「………」

〈敵機5機以下〉

(警報)
ユウキ「!  この反応……やはり、 後続がいたか!」
レーツェル「各機、各砲、 迎撃態勢を!」
(ガーリオン・カスタム“無明”とガーリオンが出現)
ムラタ「……雌伏の時は あながち無駄ではなかった」
ムラタ「おかげで、幾多の激戦を 生き抜いた強者共と相見えられる」
ムラタ「それが奴らのような獲物なら、 尚更な」
ゼンガー「む!? 奴は……!」
(通信)
ムラタ「聞こえるか、 ゼンガー・ゾンボルト」
ゼンガー「!」
ムラタ「貴様と戦場で出会うのは 初めてだな」
ゼンガー「その機体、 そして獅子王の太刀…… 貴様は!」
ムラタ「リシュウから聞いているだろう?  この俺とガーリオン“無明”に ついてな」
ゼンガー「……!」
ムラタ「ゼンガー…… 艦を斬り得る刀を持つのは、 貴様だけではない」
ムラタ「そのことを教えてやる!」
レーツェル「!  対空砲火、隊長機に集中させろ!  同時に急速回避!」
ムラタ「まずは頭を潰す!!」
(ガーリオン・カスタム“無明”がクロガネに隣接)
【強制戦闘】
ムラタ[シシオウブレード]vsレーツェル[防御]
(クロガネのHP60%に、ガーリオン・カスタム“無明”は西へ移動)
レーツェル「くうっ……!」
ゼンガー「レーツェル!」
レーツェル「何という速さ……!」
ゼンガー「奴め、 俺に踏み込ませる隙を 与えなかった……!」
ユウキ「あの男、何者だ!?」
ムラタ「俺の名はムラタ。 そうだな、ゼンガー・ゾンボルトとは 兄弟弟子の間柄と言えるか」
ユウキ「何っ……!?」
レーツェル(ムラタ…… 旧教導隊のメンバー候補だった男か。 だが、その後は行方知れずと聞いているが)
カーラ「ユウ!  クロガネは機関部に直撃を 食らったみたいだよ!」
ユウキ「艦長の指揮は適切だった。 だが、あの男がそれを上回っていたと いうことか……!」
ムラタ「念押しだ……もう一撃!」

[クロガネ サブデッキ]

(爆発、ゆれ)
ミズホ「きゃあっ!!」
ラウル「まずいぞ! この振動は……!!」
ラージ「どうやら、悪い予感が当たったようですね。 僕としても、あれだけのパイロットがいた事には 素直に驚きますが」
ラウル「……くそっ!  ミズホ、エクサランスを起動させろ!」
ラージ「ラウルの言う通り、脱出を急ぎましょう。 このままでは遠からずクロガネは沈みます」
ラウル「違う! 出撃するんだ!  俺達がクロガネを守るんだ!!」
ラージ「気は確かですか?  この艦が沈もうと僕達に関係は……」
ラウル「無いなんて言うなよ!  今日まで寝食を共にしてきた人達が、 危険にさらされているのを見ていられるか!」
ラウル「フィオナの時のような思いをするのは、 もうたくさんだ!!」
ミズホ「ラウルさん……」

〔戦域:草原〕

レーツェル「回頭急げ!  次が来るぞ!」
ムラタ「遅いわ!」
(エクサランス・ストライカーが出撃)
ラウル「やらせるかよ!!」
ムラタ「ぬ!? 奴は!?」
(ガーリオン・カスタム“無明”がクロガネに近付こうとする途中でエクサランスが隣接)
【強制戦闘】
ラウル[キガント・クラッシャーアーム]vsムラタ[攻撃不能]
(ガーリオン・カスタム“無明”のHP80%に)
ムラタ「チッ、ぬかった!」
(ガーリオン・カスタム“無明”がガーリオンの所まで後退)
ユウキ「ラウル、お前か!?」
ラウル「ああ、そうだ!  俺とエクサランスが助太刀する!」
カーラ「けど、あんた達は……!」
ラウル「心配は要らない!  このストライカー・フレームのパワーなら、 遅れはとらない!」
ミズホ「ラウルさん……」
ラウル「聞こえるか、ミズホ。 ……お前は嫌がるかも知れないけど、 俺はエクサランスで戦う」
ラウル「戦うことで誰かを守れるなら それもエクサランスの役目…… 人命救助だ!」
ミズホ「戦うことで守れる命……」
ゼンガー「ラウル・グレーデン…… その意気や良し。我らの後ろは任せるぞ」
ラウル「はい!」
ムラタ「ふふふ…… 刀の錆となる人機が増えただけのこと」
ムラタ「そう、 斬り甲斐のある木偶が…… 俺の楽しみがな!」
カーラ「あ、あいつ、何を!?」
ユウキ「奴は自分の快楽のために 刀を振るうのか……!」
ラウル「あいつとあいつの機体が 人の命を奪う者なら、俺とエクサランスは 命を守る者だ!!」
ムラタ「吠えたな、小僧」
ラウル「来い! 俺が相手になってやる!」
ムラタ「フン……後悔するぞ」
ラージ「………」
(作戦目的表示)

〈vs ムラタ〉

[ユウキ]

ユウキ「自らの快楽のため、 戦争に加担するとは!」
ムラタ「間違えるなよ、小僧。 戦争ではない……戦(いくさ)だ」
ユウキ「何……!?」
ムラタ「軍の勝ち負けなど関係ない。 俺は戦場にて己の剣を極める……」
ムラタ「眼前に立つ者を、 全て斬り捨てることによってな!」

[カーラ]

ムラタ「相手が女子供でも容赦はせん!  死して肉塊となれば、 皆同じだからな!」
カーラ「この悪趣味オヤジ!  人殺しを楽しむような奴は、 許さないよっ!!」

[ゼンガー]

ムラタ「ゼンガー…… 貴様と刃を交えるのを 待ち望んでいたぞ!」
ゼンガー「己の快楽のために 剣を振るうとは!  師匠の教えを忘れたか!」
ムラタ「所詮、俺は人機斬り!  貴様やリシュウのような 大義や題目など不要!」
ムラタ「ただひたすらに 修羅の道を往くだけよ!!」

[レーツェル]

レーツェル(奴の狙いは何だ?  このクロガネか、それとも……)

[ラウル]

ムラタ「フン、 こやつが例のターゲットだな」
ラウル「お前…… エクサランスを狙ってきたのか!?」
ムラタ「それに答える必要はない!」

[HP30%以下]

ムラタ「……依頼は既に果たした。 ここいらが潮時か」
ラウル「依頼……だと!?」
ムラタ「……ゼンガー・ゾンボルト」
ゼンガー「……!」
ムラタ「貴様との勝負は、いずれまた。 ……さらばだ!」
(ガーリオン・カスタム“無明”が撤退)
ゼンガー「逃がさん!」
レーツェル「待て、ゼンガー。 本艦は機関部を損傷している。 深追いは禁物だ」
ゼンガー「……承知」

〈敵機全滅〉

レーツェル「今日の敵は 偶発的な遭遇ではなく、クロガネを 意図的に狙ってきたか」
ゼンガー「………」
ゼンガー(ガーリオン“無明”…… そして、ムラタ……か)
カーラ「仕掛けてくるのも 速かったけど、逃げ足はそれ以上だね」
ユウキ「あれほどの男が DCにいたとはな……」
カーラ「けど、アースクレイドルじゃ 見かけなかったね。前のDCには いたの?」
ユウキ「いや……知らんな」
カーラ「あいつら、 あたし達を粛清しに来たのかな」
ユウキ「だが、 連中はDCやノイエDCの名を 出していなかった」
ユウキ「クロガネの存在自体を 疎ましく思う者か、あるいは自分の物に しようとする者か……」
ラウル(まさか……)
カーラ「お疲れ、ラウル。 あんたのおかげで助かったよ」
ラウル「あ、うん……。 出たトコ勝負だったけど、 何とかな」
レーツェル「各機、帰還してくれ。 クロガネは現空域より離脱する」
ゼンガー「承知した」
(味方機が全機撤退)
???(デスピニス)「………」
???(デスピニス)「任務完了。 もう一つの『鍵』を見つけました……」
???(デスピニス)「あの方に報告しなくては。 私達のお母さんに……」

《ユーラシア大陸 中央部(クロガネ)》

[クロガネ ブリッジ]

レーツェル「よくやってくれた、ラウル・グレーデン。 独断とは言え、君には感謝している」
ラウル「当然のことをしたまでです。 俺だって、この艦のクルーなんですから」
ラージ「………」
カーラ「何よ、ラージ。 あんた、ラウルがやったことに文句あるの?」
ラージ「いえ、不満はありません。 結果論ですが、ラウルの判断は正しかった……」
ラージ「ただし、今回に限ってですが」
カーラ(う~ん、もう。イヤミ君なんだから)
ユウキ「そう言えば、ミズホはどうした?  ブリッジには来ていないみたいだが」
ラウル「エクサランスの整備をしてるよ。 やっぱり、今のあれを戦闘で使ったことに 傷ついたみたいだ……」
レーツェル「そうか。 出来れば、今後を鑑みてエクサランスを 以前のように戦力へ組み込みたいのだが……」
レーツェル「無理強いをするわけにはいかんか」
ラウル「いえ……。 これからは俺とエクサランスも戦います」
ラージ「ラウル……!」
ラウル「ここしばらくの間、 クロガネと行動を共にしてわかりました。 まだこの世界の戦いは終わってないことが」
ラウル「だから、俺も戦います。 自分と仲間、そして多くの人達の命を守るために」
レーツェル「そうか……。 ミズホ・サイキのことはどうする気だ?」
ラウル「戦うこともレスキューです。 本当は残念なことかも知れませんが……」
ゼンガー「……活人剣、か」
カーラ「何なんですか、それ?」
ゼンガー「禅の言葉だ。以前、師匠から聞いた」
ゼンガー「人を斬ると同時に人を生かす。 殺人刀と活人剣……相反するように見えるが、 双方そろって剣の道の極意でもある」
カーラ「セツニントーにカツジンケンか…… 何となくわかるような気がするな」
ラウル「その言葉……ミズホにも伝えます。 ありがとうございました、ゼンガー少佐」
ゼンガー「俺も修行中の身。礼には及ばん」
レーツェル「では、以後エクサランスは……」
ラージ「待って下さい。 その件は保留にさせていだたきます」
ラウル「ラージ……!」
ラージ「ラウル、事はあなた個人の問題ではありません。 この件については、ミズホを交えて決めるべきです」
レーツェル「……わかった。 私から参戦を強制するつもりはない」
レーツェル「だが、こちらの申し出を受け入れて くれるのであれば、正式にクロガネの予算や資材で 機体を改良することを認めよう」
レーツェル「それは、 君にとっても悪い話ではないだろう?」
ラージ「……僕の一存では決められません。 では、失礼します」
ラウル「お、おい! 待てよ、ラージ!  待てったら!」
(扉が開閉する・ラージとラウルが立ち去る)
カーラ「……おいしい話なのに、 断るなんて変なの」
カーラ「なんか必要以上に エクサランスのことをガードしてるみたい」
レーツェル「彼らにとって、 あの機体は兵器以上の意味があるのだろうな」
ユウキ(艦長はラウル達とエクサランスについて 何か知っているのか……?)
ユウキ(そして、それを知りつつ、 彼らを泳がせているとしたら……)
レーツェル「ユウキ、疑心は暗鬼を生ずる。 必要以上に気を張る必要はない」
ユウキ「……了解」
カーラ「ねえ、ユウ。お茶にしようよ。 とっておきのGTO何とかをいれてよ」
ユウキ「FTGFOP……最高級のダージリンだ。 それにあれは、補給でテスラ研へ立ち寄った時、 タカクラチーフに全て譲った」
カーラ「えーっ!?  大事な紅茶を全部あげちゃったの!?」
カーラ「もしかして、ユウ…… あの人に何か弱みでも握られてんの?」
ユウキ「そういうわけではないが……」
カーラ「答えられないなら、いいよ。 愛し合う二人の間に、言葉なんて要らないから!」
ユウキ(耐えろ、ユウキ……。 ここで余計なことを言えば、こいつを調子付かせる いつものパターンにはまる……)
ユウキ(そして、『茶を濁す』という行為は、 俺のプライドが許さん……)
カーラ「じゃあ、ダージリン…… あたしのために美味しいダーリンを淹れてね♥」
ユウキ「自らまいた種だ……。 今日だけは、その駄洒落にも付き合ってやる」

[クロガネ 格納庫]

(部品をいじる音、モニターオン)
ミズホ「お疲れ様、エクサランス。 これでフレームのダメージは全部修理したよ」
ミズホ「ありがとうね、 ラウルとクロガネとみんなを守ってくれて……」
ミズホ「でも……」
(足音)
ラージ「心配は要りませんよ、ミズホ。 エクサランスは二度と出撃する事はありませんから」
ミズホ「ラージさん……」
(速い足音)
ラウル「勝手に決めるなよ、ラージ!」
ラージ「勝手に決めたのはあなたですよ、ラウル。 僕達のすべきことを忘れたのですか?」
ラウル「それはわかっている!  だけど、俺は我慢できないんだ……」
ラウル「仲間が目の前で死んでいくのを 見るのは……!」
ラージ「……では、聞きます。 時流エンジンが誰かの手に渡り、 前回のような戦争が起きればどうなるのです?」
ラージ「その時は何千、何万という人間が 危険にさらされるんですよ」
ラウル「そんなことは俺がさせない!  父さんやフィオナ、俺達の夢である時流エンジンを 悪用する者がいたら、俺が許さない!」
ラウル「そんな奴が現れたら、 俺とエクサランスがそいつを倒す!」
ラージ「あきれましたね。 そんな単純な方法で、時流エンジンの秘密を 守れると思っているのですか?」
ラージ「それに、甘いです。 結局、あなたは目の前の小事で 次元転移の危険さを見失っていますよ」
ラウル「何っ!」
ミズホ「もうやめて下さい!!」
ラウル「ミズホ……」
ミズホ「ラージさん…… あたしはラウルさんに賛成します。 エクサランスで戦いましょう」
ラージ「……!」
ラウル「いいのか、ミズホ?」
ミズホ「……エクサランスが戦いに使われるのは、 悲しいですけど……」
ミズホ「あたし……ラウルさんが言っていた 戦うこともレスキューだって言葉…… 間違ってないと思うんです」
ラウル「……ありがとう、ミズホ」
ラージ「………」
ラウル「これで2対1……多数決だ。 エクサランスの実戦投入は、 俺達の総意ってことでいいな?」
ラージ「………」
ラージ「……わかりました。 確かに艦長の提案は、時流エンジンの完成に プラスとなりますしね」
ラージ「ですが、忘れないで下さい。 僕達の最優先事項は、時流エンジンの完成と 次元転移機能の秘匿です」
ラージ「もし、その障害となる事態が発生した時は、 何があっても僕は先の事項を優先します」
ラウル「……わかった」
ミズホ「ラウルさん…… あたし、頑張ってエクサランスを整備します」
ミズホ「ラウルさんと時流エンジンを守るっていう レスキューのために」
ラウル「ありがとう、ミズホ。 俺達のエクサランスをちゃんと活人剣にしような」
ミズホ「活人剣?」
ラウル「ゼンガー少佐に教えてもらった言葉だ。 後で教えてやるよ」
ミズホ「はい……是非、聞かせて下さい」
(足音・ラウルとミズホが立ち去る)
ラージ(このままでは…… 大規模な戦争が起きるかも知れない……)
ラージ(その前に、 何としても時流エンジンを完成させなくては……)

《スカルヘッド》

[スカルヘッド内部]

ロレンツォ「……そうか。 ターゲットを見つけたか」
ムラタ「ああ、読みが当たった。 それに、久々に手応えのある戦いだった」
ロレンツォ「雌伏の時に耐えてこその話だ」
ムラタ「しかし……あの小娘はいったい何者だ?  スクールの出身者とは思えんが」
ロレンツォ「博士の協力者……その配下の者らしい。 私もそれ以上のことは知らん」
ムラタ「ならば、今回の依頼は奴からのものか」
ロレンツォ「ああ。 あのターゲットは、後継機の開発に 必要なものだと聞いている」
ムラタ「解せんな。 それならば、見つけるだけでなく…… 手に入れろという指示が来るはずだ」
ロレンツォ「それは私も疑問に思っている。 が、今後のことを踏まえて、博士の望みも 聞いてやらねばならん」
ムラタ「取り引きということか。まあいい」
ムラタ「ところで、 ようやく見つけたスカルヘッドの 居心地はどうだ?」
ロレンツォ「『ヘルゲート』だよ」
ムラタ「何?」
ロレンツォ「堕落した連邦の者共を 地獄へ誘うための門……すなわち、ヘルゲートだ。 今後はそう呼称する」
ムラタ「そうか。 で、どうなのだ? そのヘルゲートの居心地は」
ロレンツォ「なかなかのものだ。 準備も着々と進んでいる……」
ロレンツォ「新型の生産が完了すれば、 我々の計画は次の段階へ移ることになる」
ロレンツォ「ムラタよ、 以後はカイル・ビーンと行動を共にし、 任務を遂行せよ」
ムラタ「了解した」
(通信切れる)
ロレンツォ(……バン大佐が死んだ今、 私が散らばった同志達をまとめねばならん……)
ロレンツォ(このヘルゲートを 新たなDCの拠点とし、ビアン総帥の悲願を……)
(扉が開閉する)
???(ユルゲン)「………」
ロレンツォ「博士……」
???(ユルゲン)「私の協力者が礼を言っていました…… そして……今後もよろしく頼むと」
ロレンツォ「いつになったら 私はその協力者とやらに会えるのだ?」
???(ユルゲン)「まもなく……です。 それまでは……どうかイスルギ社長にもご内密に……」
???(ユルゲン)「でなければ……ゲシュタルトは あなた達のものにはなりません……」
ロレンツォ「………」
ロレンツォ「……例のシステムは大丈夫だろうな?  あの時のような事故は御免被るぞ」
???(ユルゲン)「ご安心を……。 協力者のおかげで完全なものとなりました……」
???(ユルゲン)「私も…… ここへ来た甲斐がありましたよ……」


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