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彗星、遥か遠く アビアノ基地に残る ~ 第28話 ~

〈エキドナ機撃墜〉

エキドナ「……ヴィンデル様が おっしゃった通り、さらに 力をつけてきているようだな」
エキドナ「だが、 こちらの目的はすでに果たした。 ……後退する」
(敵機が全て撤退)
エイタ「敵機の反応、消えました!」
テツヤ「エイタ、シロガネの行方は!?」
エイタ「だ、駄目です!  完全にロストしました!」
テツヤ「なっ……!」
ダイテツ「全機に一度帰艦命令を出せ。 補給作業終了後、再発進…… シロガネの捜索任務に就かせろ」
テツヤ「りょ、了解です……」

《アースクレイドル》

[アースクレイドル 内部]

リー(……この私が むざむざ敵に捕まるとは……)
リー(しかも、シロガネごと……!  このまま生き恥をさらすぐらいなら、 いっそのこと……)
(扉が開閉する)
ヴィンデル「……貴様がシロガネ艦長、 リー・リンジュンか」
リー「……私はお前達の 捕虜になどなるつもりはない」
リー「情報を聞き出そうとしても無駄だ。 さっさと殺すがいい」
レモン「まあまあ、そう突っ張らないで。 私達が欲しいのは捕虜じゃなくて、 スペースノア級を運用できる優秀な男」
リー「まさか、降れというのか?  この私に!?」
ヴィンデル「そうだ。無駄死にをすることもあるまい。 貴様に志あらば、新たな目的と戦場…そして、 戦う意味を与えてやろう……」
リー「何……? 貴様は……?」
ヴィンデル「私はヴィンデル…… ヴィンデル・マウザー大佐だ」

[アースクレイドル内部]

バン「そうか、シロガネをな。 ともかく、任務ご苦労だった…… スレイ・プレスティ少尉」
スレイ「はっ」
バン「それで、以後の処遇だが……」
スレイ「……バン大佐、僣越ながら 自分の希望を述べさせていただいても よろしいでしょうか」
バン「何だ?」
スレイ「ノイエDCが 北米のインスペクターを討つ時が来たら……」
スレイ「是非、 自分をその攻撃部隊にお加え下さい。 それも……最前線の」
バン「良かろう……覚えておく」
スレイ「ありがとうございます」
スレイ「……」
スレイ(待っていて下さい、兄様……。 兄様は必ず私が助け出します……)
スレイ(そのためなら私は……汚名にも耐え、 どんな手段も辞さないつもりです……)
スレイ(だから……あと少し……あと少しだけ 待っていて下さい……)

《地中海上空(ハガネ)》

[ハガネ ブリッジ]

エイタ「……艦長、アステリオンが帰艦しました」
エイタ「これで捜索に出た機体が 全て戻ってきたことになります」
ダイテツ「……結果は?」
エイタ「シロガネ……そして、カリオンを 発見することは出来なかったそうです」
ダイテツ「そうか……」
テツヤ「……」
ダイテツ「これ以上、 敵の勢力圏近くに止まるのは危険だ。 一度本艦は後退する」
テツヤ「は、はい……」
テツヤ「……」
テツヤ(リー……死ぬなよ……)

[ハガネ 食堂]

ツグミ「また落ち込んでるの?」
アイビス「……見ての通りです……」
ツグミ「ほらほら……顔を上げて。 あなたのためにトレーニングメニューを 作ってみたのよ」
アイビス「え……?  タカクラチーフがですか?」
ツグミ「実はね…… TDの時からトレーニングメニューは フィリオと私が作っていたのよ」
アイビス「知らなかった……。 チーフはシステムエンジニアだと 思ってたから……」
ツグミ「私だってTDに参加した以上、 宇宙飛行士としての基礎過程はクリアしたわよ」
ツグミ「もっとも、私の専攻は ナビゲーターだったから…… あなた達とは別コースだったけどね」
ツグミ「でも、実技はともかく 理論とコーチングは自信あるわよ」
アイビス「そうだったんですか……。 まさか、チーフがあたし達の教官だったなんて……」
ツグミ「このメニューは あなたが出撃した際のバトルデータを 分析して作ったものだから……」
ツグミ「TDの時よりも より実践的で、よりあなた個人に 即したものになっているわ」
アイビス「じゃあ、あたし…… 強くなれるんですか?」
ツグミ「それはあなた次第ね」
アイビス「あたし、やります!  強くなれるんなら何だって!」
ツグミ「……何でも?」
アイビス「はい!」
ツグミ「じゃあ、 一つだけお願いがあるんだけど」
アイビス「あ……あの…… もしかして、服のことですか……?」
ツグミ「え……?」
アイビス「チーフの趣味は…… 女の子にフリフリの格好を させることだって聞いたことが……」
ツグミ「……間違ってはいないけど、 私だって着せる相手は選ぶわよ。 似合う似合わないを考えてね」
アイビス「嬉しいような…… 悲しいような……」
ツグミ「心配しないの、アイビス。 あなたは確かに落ち込みやすくて 緊張に弱くて、口下手で……」
ツグミ「人見知りで、世間知らずで 照れ屋で、堅物で、子供っぽくて 凹凸少なめのスタイルで………」
アイビス「え……ええ……!?」
ツグミ「でも、誰にも負けないものを 持っているわ」
アイビス「それって……?」
ツグミ「ナイショよ。 ……それよりも私のお願い……」
ツグミ「今日から、私のことはツグミって呼んで」
アイビス「え……!?」
ツグミ「今までは システム開発チームのチーフと テストパイロットだけど……」
ツグミ「フィリオとスレイが帰ってくるまでは、 私達二人がプロジェクトTD……」
ツグミ「私達はお互いを パートナーと認め合い、助け合って 頑張っていかなくちゃ」
アイビス「タカクラチーフ……」
ツグミ「そうじゃないでしょ?」
アイビス「は、はい……ツグミ……!」
ツグミ「ちょっと堅いけど、 まあ良しとしましょう。 改めてよろしくね、アイビス」
アイビス「こっちこそ……ツグミ」
ツグミ「……」
ツグミ「アイビス……宇宙を飛びたい?」
アイビス「もちろん!」
ツグミ「失敗した時は……?」
アイビス「何度でも挑戦する……。 決してあきらめずに……!」
ツグミ「その気持ちを忘れないでね。 あなたはきっと強くなるわ」
アイビス「了解!」
ツグミ(フィリオ……私にも 少しずつだけどわかってきたわ。 あなたがアイビスを選んだわけが……)
ツグミ(私はあなたを待ちます……。 アイビスと二人で少しずつ夢を育てながら……)


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