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夢の途中で ~ 第14話 ~

[不明 (回想)]

アラド(……うう……ここは……?)
アラド(おれ……どうなっちまったんだ?  もしかして、死んじまったのか……?)
アラド(それにしても……腹減った。 死んでもおなかは空くんだなぁ……)
ゼオラ「……アラド……。 ねえ、アラド。起きて」
アラド(ゼオラ……)
ゼオラ「アラド、私達の配属先が決まったわ」
アラド(配属先……? どこだよ?)
ゼオラ「バン・バ・チュン大佐の直轄部隊よ」
アラド(誰だっけ?)
ゼオラ「何言ってんの?  バン大佐はビアン総帥の遺志を継いで DCをまとめようとしている人でしょ」
アラド(……おれ、よく覚えてねえや)
ゼオラ「ねえ、わかってる?  これって、物凄く光栄なことなのよ」
アラド(じゃあ、おれ達…… ようやくアースクレイドルから出られるのか)
ゼオラ「……ね、アラド。私と約束して」
アラド(約束? 何だよ?)
ゼオラ「これから先、何があっても2人で頑張って…… 必ず生き残りましょ」
ゼオラ「そして、 散り散りになったスクールの子達を…… ラト達を捜すの」
アラド(ラト……ラトゥーニ……)
ゼオラ「……オウカ姉様と一緒に…… みんなで暮らせたらいいな……。 今度はスクールとは別の場所で……」
アラド(……ああ、そうだったな……。 それが……お前との約束だった……)
アラド(でも……すまねえ、ゼオラ…。 おれは…………)

[ハガネ 医務室]

アラド「……おれは……」
エクセレン「あら、お目覚めかしらん?」
アラド「!! こ、ここは!?」
イルム「ハガネの医務室だ」
アラド「そ、そうッスか。 おれ、助かったのか。そりゃラッキー」
アラド「……って、敵の艦じゃねえか!!  お、おれはいったい!?」
ラトゥーニ「私達があなたのリオンを回収したの……」
アラド「ラ、ラト!!  うっ! いててててっ!!」
エクセレン「ほら、動いちゃダメダメ。 命に別状はないけど、安静にね」
アラド「で、でも、 おれはあの時、撃墜されて……」
ラトゥーニ「………」
イルム「お前の機体が爆発した時、 上手い具合に胸部ブロックが飛ばされたんだ」
イルム「脱出装置は作動しなかったようだが、 かえってそれが幸いした」
アラド「え? 何で?」
イルム「あのタイミングでコックピットの外へ 放り出されてたら、爆発に巻き込まれて あの世行きだったぜ」
エクセレン「ん~、悪運の強さはキョウスケ並かも」
エクセレン「どう?  お姉さんと組んで脱出ショーとかやってみない?」
アラド「だ、脱出ショー?」
エクセレン「そそ。 ちゃんとバニーちゃんの衣装もあるのよん。 今度、見てみる?」
アラド「喜んで!」
エクセレン「あら、ナイスリアクションね。 でも、そのまま行くとイルム中尉やタスク君みたいに なっちゃうから、気をつけてね」
イルム「どういう意味だ?」
エクセレン「最終的には 女の子のお尻にしかれるってこと」
イルム「俺はしかれてないっての!  自由人だから、基本スタンスは」
エクセレン「どうでしょうかねぇ」
イルム「……ま、冗談はさておき。 伊豆で俺のグルンガストの前に 飛び込んで来たのはお前だろ?」
アラド「う……」
イルム「図星か。 その無鉄砲な所、ラトゥーニとは大違いだな。 戦闘も……まあ、勢い任せというか何というか」
アラド「……おれ、スクールじゃ成績悪かったんで」
ラトゥーニ「……ごめんなさい、アラド……。 私のせいで……」
アラド「え?  じゃあ、あのヒュッケバインに乗ってたのは……」
ラトゥーニ「………」
エクセレン「ちょい待ち、ラトちゃんを 責めちゃダメよん。あなたを回収したのはこの子だし、 目が覚めるまでずっと傍についてたんだから」
アラド「そ、そうだったのか……」
イルム「……エクセレン、 ここは2人だけにしてやろう」
エクセレン「んじゃま、後は若い人同士ってことで」
(扉が開閉する・エクセレンとイルムが立ち去る)
アラド「………」
ラトゥーニ「………」
アラド「それにしても、久しぶりだな、ラト。 お前がスクールを出て以来だよな」
ラトゥーニ「うん……」
アラド「何にせよ、お前が生きてて良かったぜ」
ラトゥーニ「アラドも……」
アラド「あのさ、あいつは……ゼオラはどうなった?」
ラトゥーニ「あの後、潜水艦で撤退したわ。 結局、私達は捕捉できなかったから…… 無事だと思う」
アラド「そうか……なら、良かった」
ラトゥーニ「………」
アラド「そんな顔すんなよ。 色々あったけど、おれもゼオラも無事なんだし。 それにおれ……怒ってねえから。な?」
ラトゥーニ「うん……ありがとう」
アラド「………」
ラトゥーニ「アラド…… あの時、ゼオラを助けようとしたんでしょう?」
アラド「ま、まあな」
ラトゥーニ「そういう所、変わってないよね……」
アラド「え? そ、そうかな?」
ラトゥーニ「うん。 私、アラドが昔のままでいてくれて安心した……」
アラド「カッコ悪いとこ見せちまったけどな。 ……カッコいい所を見せた覚えもないけど」
アラド「でも、お前は変わったよな。 昔は大人しくて、ほとんど喋らなかったし」
アラド「オウカ姉さんやおれ達の前でも あんまり笑わなかった……」
ラトゥーニ(オウカ……姉様……)
アラド「それにさ、その眼鏡……似合ってるぜ」
ラトゥーニ「ありがと……。 大切なお友達からの贈り物なの」
アラド「友達、か。 お前……スクールから離れて、ハガネに乗って 良かったみたいだな」
ラトゥーニ「うん……。 でも、あなたも大切な友達、そして仲間…… 立場が変わっても、それは同じ……」
アラド(仲間……か)
アラド(ゼオラ……おれが死んだって思ってるよな。 あいつのことだから、きっと今頃は……)
アラド(何にせよ、 どうにかしてここから逃げ出さなきゃ……)

[ハガネ 艦長室]

イルム「身体検査の結果、 筋肉増強剤や精神高揚剤など 薬物投与の痕跡が発見されました」
ダイテツ「やはりな」
イルム「注目すべき点は肉体の頑強さ…… 見た目の年齢とは不釣り合いです。 それに、傷の回復力も常人より速いようです」
カイ「運だけで助かったわけではないと言うことか」
イルム「ええ。 何らかの肉体強化措置を受けているでしょうね」
テツヤ「記憶操作や精神操作は?」
イルム「それもおそらくは。 もっとも、話した限りでは普通の子供でしたが」
カイ「ジャーダやガーネットと出会ったばかりの ラトゥーニは、重度の自閉症や対人恐怖症だった そうだが……」
イルム「見たまんまなのか、 牙を隠し持っているのかわかりませんが……」
イルム「心理面での調査は専門家に…… 機会があれば、ラーダに頼んだ方がいいでしょう」
ダイテツ「アラド・バランガから DC残党の情報は得られそうか?」
イルム「あまり期待できませんね。 彼が持つ情報が本物である保証はありませんし…… 立場も末端の兵士でしょうから」
ダイテツ「そうか……」
テツヤ「艦長、以後の彼の処置は?」
ダイテツ「捕虜として艦内に拘置する。 伊豆へ連れ帰り、その後は……」
(通信)
エイタ「艦長、伊豆基地のレイカー司令より 通信が入っています」
ダイテツ「わかった。こちらへ回してくれ」
エイタ「了解です」
(通信、切替)
レイカー「レイカーだ。 ダイテツ、次の任務を伝える」
レイカー「お前達は伊豆へ戻らず、そのままインドと アラビア半島を経由してエチオピアへ向かい、 第23混成機動師団と合流してくれ」
ダイテツ「では、 いよいよアースクレイドルを攻めるのだな?」
レイカー「ああ。 わが軍はアフリカ方面軍を中心とし、 アフリカ地区のDC残党掃討作戦を展開する」
レイカー「作戦名は『キルモール』だ。 詳細については、この後で送る命令書を見てくれ。 ハガネの戦果を期待しているぞ」
ダイテツ「了解した」
レイカー「では、以上だ。また連絡する」
(通信切れる)
ダイテツ「テツヤ大尉、命令書の確認を」
テツヤ「はっ。 アラド・バランガについては?」
ダイテツ「伊豆へは戻れなくなったからな。 しばらくの間、艦内に拘留しておく。 監視をつけておけ」
テツヤ「了解です」
カイ「………」

《テスラ・ライヒ研究所》

[テスラ・ライヒ研究所]

ジョナサン「ようこそ、テスラ研へ。 というより、お帰り……フィリオ」
フィリオ「ご無沙汰しています、カザハラ博士。 僕がEOTI機関へ行って以来になりますね……」
ジョナサン「まあ、そう緊張するな。 ここは君にとって学舎だったんだ。 そんな顔はしなくていい」
フィリオ「ありがとう……ございます」
ジョナサン(……。 まだ彼はリオンシリーズを設計した自分を 責めているのか……?)
(扉が開閉する)
リシュウ「ふ~っ、やれやれ。 また刀身の形状固定に失敗したわい」
ジョナサン「リシュウ先生」
リシュウ「ジョナサン。 あの新型斬艦刀の刀身な、固形にするわけには いかんか? その方が楽なんじゃが」
ジョナサン「う~ん……。 零式斬艦刀以上の切れ味と、取り回しの良さを 要求されたのは先生ですよ?」
リシュウ「それはそうじゃが、 今のままでは刀身固定時間に問題が……」
フィリオ「………」
ジョナサン「ああ、すまない、フィリオ。 思わず話し込んでしまった」
フィリオ「ふふ…… そういう所は相変わらずですね、博士」
リシュウ「客人かの?」
ジョナサン「先生、おととい言ったでしょう。 プロジェクトTDのフィリオ・プレスティですよ」
リシュウ「おうおう。 すまんの、最近物覚えが悪くてな」
リシュウ「ワシはリシュウ・トウゴウじゃ。 見ての通りの爺で、ここの顧問をやっておる」
フィリオ「ご高名は聞き及んでおります。 グルンガストシリーズの剣撃モーションは、 先生の剣技が基になったものだとか」
リシュウ「時代じゃよ。侍が鋼の馬に乗るのなら、 それが振るう剣も相応のものとなる」
ジョナサン「リシュウ先生の一番弟子は、 まさに鋼の侍を地でいく男ですからな」
フィリオ「元特殊戦技教導隊の ゼンガー・ゾンボルト少佐ですね。 剣撃戦にかけては右に出る者がいないという……」
リシュウ「何の何の。 ワシから見れば、まだまだ青いわい」
フィリオ「今、彼とエル……エルザムはどこに?」
ジョナサン「さあなぁ。 エルザム少佐の方からはたまに連絡が来るが」
フィリオ「そうですか……」
リシュウ「おぬし、エルザムと知り合いかの?」
フィリオ「ええ。幼馴染みなんです」
リシュウ「ほほう、そうじゃったか」
ジョナサン「で、フィリオ。 君のハートを射止めたキュートな女神は?」
フィリオ「タカクラチーフなら、TDのパイロット達と 機体の搬入作業に立ち会っています」
ジョナサン「そうか。 銀河を翔ぶ天使達にも早く会いたいものだねぇ」
フィリオ「その前に……お願いがあるのですが」
ジョナサン「……何かな?」

[テスラ・ライヒ研究所 シミュレータルーム]

(機械の停止)
ツグミ「プログラム終了。 各パイロットはシミュレーターから降りて下さい」
(扉が開閉する)
アイビス「はぁ……はぁ……」
クスハ「大丈夫ですか、アイビスさん……」
アイビス「う、うん……」
スレイ「無様だな。 この程度の訓練でここまで醜態をさらすとは」
ツグミ「スレイとアイビスの対戦は スレイの20戦全勝……」
ツグミ「スレイとアイビスの連携戦闘による 対クスハ戦はクスハの10戦7勝……」
スレイ「敗因はお前が私の足を引っ張り、 その隙をクスハに突かれたからだ」
アイビス「言われなくてもわかってるよ……」
スレイ「ふん。これではTDの恥をさらすだけだ」
クスハ「あ、あの、スレイさん。 アイビスさんは頑張っていると思います……」
スレイ「クスハ……言っておくぞ。 この戦績は、あくまでアイビスとの 連係の結果に過ぎん」
スレイL5戦役を戦い抜いたお前の実力は 評価する。だが、単独での戦闘なら負ける気はしない」
クスハ「スレイさん……」
スレイ「……タカクラチーフ、 訓練プログラムの変更を希望する」
スレイ「明日からは連係戦闘の時間を 私とクスハの対戦に当ててもらいたい」
ツグミ「プログラムは フィリオ少佐との検討の上で決めています。 私の一存で変更は承認できません」
アイビス「でも、タカクラチーフ…… テスラ研に来てからあたし達、 戦闘訓練ばかりだけど……」
アイビス「これって……やっぱり あたし達も前線へ配属になるということですか?」
ツグミ「私も詳細を知らされていません。 ……ですが、そうなった場合も連邦の管轄にある以上、 TDに拒否権はないでしょう」
ツグミ「アイビス……あなた個人は その決定を拒否することは出来ますが、 それはTDの脱退を意味します」
アイビス「………」
スレイ「フン……どうやら、この前の戦いは 勢いに任せてのものだったらしいな。 正気に戻ったら怖気づいたか」
スレイ「力が伴わないからそうなる。 死にたくないのなら、腕を上げるのだな」
ツグミ「スレイの言う通りよ。 アイビス……状況を理解してね」
アイビス「はい……」
クスハ「………」

[テスラ・ライヒ研究所 トレーニングルーム]

クスハ「はい、アイビスさん。 チーズケーキとアイスミルクティーです」
アイビス「ありがとう、クスハ。 汗をかいた後は甘いものが一番だよ」
クスハ「これで元気出して下さいね」
アイビス「……それにしても、 ここってトレーニング器機が妙に充実してるね」
クスハ「はい、私が揃えたんです。 福利厚生の充実運動をやらせてもらっているので」
アイビス「ふーん、そんなことまで……。 ああ、前に看護兵をやってたって言ってたよね」
クスハ「それもありますけど…… ここのスタッフは運動不足の人が多いから、 健康面にも注意してあげないと」
アイビス「じゃ、健康グッズが多いのもその一環なんだ」
クスハ「ええ、趣味と実益を兼ねて。 昨日、通販で届いたばかりの新品もあるんですよ。 ほら」
アイビス(な、何? この匂い……!?)
クスハ「無重力栽培のハーブを、チベットの高地民族に 伝わる製法で精製した洗顔用エッセンスです。 お料理にも使えます」
アイビス「へ、へえ……。 何だかすごく効果がありそうだね……」
クスハ「一つ持っていきます?  まとめ買いしたから、たくさんあるんですよ」
アイビス「え、遠慮しとくよ。 それより、そのエッセンス……ミルクティーに 入れてないよね……?」
クスハ「あ……ごめんなさい、気がづかなくて。 すぐに入れてきますね」
アイビス「いいよ、いいよ! お気遣いなく!」
クスハ「……でも、すごいんですね、 プロジェクトTDのパイロットの人って」
アイビス「え……?」
クスハ「あんなに激しい訓練プログラムの後で すぐ物を食べられるなんて。私、まだ目と胃が ぐるぐる回ってるみたいです」
アイビス「甘いもの食べるの…… あたしの特技みたいなものだから……」
クスハ「アイビスさん……スイーツを食べてる時、 本当に幸せそうな顔してますもんね」
アイビス「幸せな顔か……。 本当にそうなのかな……」
クスハ「え?」
アイビス「ねえ、クスハ…… ケーキ食べ終わったら、そのエキスパンダーを 借りていいかな?」
アイビス「さっきの訓練でわかったんだ。 あたしの操縦のブレは、コントロールスティクの ホールドが甘かったんだって……」
アイビス「だから、 少しトレーニングしようと思って……」
クスハ「良かったら、持って行って下さい。 それ、私物ですから」
アイビス「え? でも、それじゃ……」
クスハ「気にしないで下さい。 筋力トレーニングのために買った物じゃ ありませんから」
アイビス「じゃあ、何のために?」
クスハ「あ、あの……ええっと……」
クスハ「……バストの形を…… その……良くしたいな……と思って」
アイビス「あはははははは!  何それ!?」
クスハ「お、おかしいですか?」
アイビス「だって、 グルンガストみたいな特機に乗ってた パイロットがそんなことを言うんだもの」
クスハ「は、はあ」
アイビス「あたし…… ずっとDCにいたからよくわからないけど、 普通の女の子ってそういう風なんだ……」
クスハ「スレイさんやタカクラチーフとは そういう話はしないんですか?」
アイビス「二人とはずっと一緒だけど、 そういう雰囲気じゃないし……」
アイビス「あ……でも、 二人と仲が悪いわけじゃないよ!」
アイビス「スレイの口が悪いのは あれはあたしがヘタクソだからで……」
アイビス「タカクラチーフも一見冷たいけど、 それはあたしを心配してのことだし……」
クスハ「仲間……なんですね?」
アイビス「うん…… あたし達は同じ夢で結ばれているからね」
クスハ「いいですね、そういうの。 私も仲間や友達に支えられて、 今日まで何とかやってこられました」
アイビス「……クスハはスカウトされる形で パイロットになったんだよね?」
クスハ「はい。色々あって……」
アイビス「ねえ…… クスハは戦うことにためらいはないの?」
クスハ「……ありますよ。 でも、自分で決めたことだから……」
アイビス「そう……あたしは駄目だ……」
クスハ「……!」
アイビス「あたし……生きていくために あまり考えずにDCに入隊して……」
アイビス「そこで適正があるってことで 教官に推薦されて、プロジェクトTDに 参加したんだけど……」
クスハ「じゃあ、フイリオ少佐とはその時に……」
アイビス「フィリオは、 何も持ってなかったあたしに飛ぶことの素晴らしさと 宇宙の広さを教えてくれた」
アイビス「あたしがカリオンに乗るのは 戦うためじゃない……夢をかなえるためなのに……」
クスハ(アイビスさん……)
(通信)
クスハ「あ、はい……クスハです」
ジョナサン「レディのお茶会中にすまん。 次の訓練のことで打ち合わせをしたい。 アイビスと一緒に管制室まで来てくれないか?」
クスハ「わかりました」
アイビス(次の訓練のことか……。 何か特殊なプログラムでも組んだのかな……)

[テスラ・ライヒ研究所 管制室]

クスハ「え?  リシュウ先生も訓練に参加するんですか?」
リシュウ「そうじゃ、グルンガスト2号機でな」
クスハ(先生が機体に乗るなんて初耳だけど…… 大丈夫なのかしら?)
アイビス「………」
リシュウ「この老いぼれに特機が扱えるのか…… とか言いたげな顔じゃのう」
アイビス「い、いえ、そんな……!」
リシュウ「心配せんでいい。 ワシは立会人みたいなもんでのう。 機体制御はTC-OS任せじゃ」
アイビス「あ……それなら……」
リシュウ「何じゃ?」
アイビス「い、いえ、何でもないです!」
スレイ「………」
フィリオ「どうしたんだい、スレイ?  何か疑問でもあるのかい?」
スレイ「少佐、実戦に近いデータということは 実弾を使用するということでしょうか?」
アイビス「!」
フィリオ「……その通りだ」
ツグミ「え……!」
スレイ「望むところです。 所詮、シミュレーションはシミュレーション……。 緊張感のない訓練で実力は向上しませんから」
アイビス「………」
フィリオ「タカクラチーフ、 君には現場でオペレートを担当してもらう」
ツグミ「私も戦闘に参加するのですか?」
フィリオ「場合によっては、そうなる」
ツグミ「……わかりました」
クスハ「タカクラチーフも アーマードモジュールの操縦が出来るんですか?」
ツグミ「大丈夫ですよ。 最低限の訓練は受けていますから」
ジョナサン「まあ、そう心配しなくてもいい。 あくまで訓練の一環だからな」
フィリオ「訓練は1700から開始する。 各自は30分前にブリーフィングルームへ 集合してくれ」
ツグミ「了解です」
アイビス(実弾を使った訓練……。 あたしに出来るんだろうか……)


第14話
夢の途中で

〔戦域:テスラ・ライヒ研究所周辺〕

フィリオ「CCより各機へ。 事前に話した通り、ターゲットは 実弾を装填している」
アイビス「………」
フィリオ「威力は弱めてあるが、 当たり所が悪ければ致命傷に なりかねない。油断をしないように」
スレイ「………」
フィリオ「各機は連係を取り、 全てのターゲットを5分以内に 破壊してくれ」
アイビス「5分……」
スレイ「集中しろ、アイビス。 お前のミス一つで、このミッションは 失敗になる」
スレイ「お前は私のサポートに回れ。 万が一、私が敵を撃ちもらすことが あったら、それを狙うんだ」
アイビス「う、うん……了解!」
ツグミ「私は ここでオペレートを行います」
リシュウ「ワシは何もせんからの。 頑張れよ、嬢ちゃん達」
クスハ「でも、先生…… どうしてグルンガストに?」
リシュウ「む……。 まあ、ちと思う所があっての。 リハビリみたいなもんじゃ」
クスハ「リハビリ?」
リシュウ「ああ、いやいや。 ワシにこんな物は扱えん。 歳も歳じゃしのう」
リシュウ「ここでおぬしらの訓練を 見物させてもらうわい」
クスハ「はい……」
ツグミ「所要時間は5分を想定して いますが、私の計算では4分で 遂行可能のはずです」
アイビス「え……!?」
スレイ「……面白い。4分だな?」
ツグミ「ええ。期待するわ、スレイ」
フィリオ「各機、準備はいいね?  それではスタートだ」
アイビス「やるんだ……!  やってみせるしかないんだ!」
(作戦目的表示)

〈敵機全滅〉

オペレーター「ターゲット、全機破壊」
ジョナサン「ほほう。 やるじゃないか、君の天使達は」
フィリオ「ええ、操縦能力に関しては。 でも、実弾を使っているとは言え、 所詮訓練です」
ジョナサン「では?」
フィリオ「はい……予定通りに」
アイビス「やった……!  やったよ、あたし達!」
スレイ「はしゃぐな、アイビス。 私がいる限り、当然だ」
リシュウ(……そろそろかの)
フィリオ「CCより各機へ。 続いてミッション2に移る」
(グルンガスト2号機の周りにM-ADATSが出現)
ツグミ(変ね……。 事前に聞いていた数じゃないわ)
フィリオ「各機へ。 次のターゲットには……」
(グルンガスト2号機に鈍い警報)
リシュウ「む!?」
(グルンガスト2号機が震える、ショートする)
リシュウ「な、何じゃ!?  グルンガストが!」
クスハ「先生!?」
(グルンガスト2号機が少し動く)
リシュウ「い、いかん!  機体が勝手に動きおる!」
クスハ「ええっ!?」
(ショートしたような後、M-ADATSが全機震える)
アイビス「!?」
リシュウ「ええい、 何がどうなっておるんじゃ!?」
(アラート)
オペレーター「グルンガスト2号機、 ターゲット全機、制御不能!」
ジョナサン「原因は何だ!?」
フィリオ「考えられることとしては 制御データのバグです」
フィリオ「しかし、2号機を含む全機が 暴走するなんて……!」
ジョナサン「まさか、ウィルスか!?」
ツグミ「こちらでも原因を……」
(ガーリオンの傍に爆煙)
ツグミ「きゃああっ!!」
アイビス「タカクラチーフ!」
スレイ「仕掛けてきた!?」
クスハ「………」
アイビス「こ、これじゃ、 正真正銘の実戦……!」
ジョナサン「緊急停止コードは!?  リセットも効かないのか!?」
オペレーター「は、はい!」
スレイ「ど、 どうすればいいんだ……!?」
クスハ「戦うしかありません……!」
アイビス「クスハ!?」
クスハ「私達で2号機と ターゲットを止めるんです!」
ツグミ「で、でも、リシュウ先生が!」
リシュウ「ワシのことは心配いらん。 こいつは頑丈だ。関節を壊して、 動きを止めてくれい!」
スレイ「兄様、 何とかならないのですか!?」
フィリオ「こちらでも対策を講じる。 だが、クスハ君が言った通り、 2号機とターゲットを止めてくれ」
アイビス「そ、そんな……!」
ツグミ「ターゲットは 私達を敵だと認識している!  これでは実戦と同じだわ!」
スレイ「……覚悟を決めろ。 どうやら、やるしかないようだ……!」
アイビス「う、うう……!」
ツグミ「わ、私も……!?」
クスハ「タカクラチーフは 無理をせず、支援に回って下さい!」
クスハ「アイビスさんとスレイさんは 砲台を! 先生のグルンガストは 私が止めますっ!」
アイビス「そ、そんなことを 言われても……!」
(アイビスに『脱力』)
ツグミ「じ、実戦なんて……!」
(ツグミに『脱力』、作戦目的表示)

〈ツグミが戦闘〉

ツグミ「こ、これが実戦……!  少しでも気を抜けば、待っているのは 死……!!」

〈2 NEXT PP or 敵6機撃墜〉

アイビス「………」
ツグミ「………」
クスハ「二人共、どうしたんです!?」
スレイ「放っておけ、クスハ。 あの二人には実戦は無理だ」
クスハ「でも、この状況で 気持ちが負けていたら!」
スレイ「あの二人が役に立たないなら、 私達でやるまでだ」
アイビス「スレイ、あんた……」
スレイ「私は プロジェクトTDのナンバー01だ。 敗北は許されない!」
アイビス「でも、あたしは…… 実戦なんて……!」
クスハ「……アイビスさん、 私だって戦うのは怖いんです」
アイビス「え?」
クスハ「それに、戦うのは辛い……。 でも、私には守りたい人達や 守りたいものがあるんです」
アイビス「クスハ……」
クスハ「思い出して下さい!  フィリオ少佐が教えてくれたものを、 アイビスさんの夢を!」
クスハ「それこそが、あなたの 守りたいものじゃないんですか!?」
アイビス「!」
クスハ「だから、戦って下さい!  プロジェクトTDのために!  自分の夢のために!」
アイビス「………」
アイビス「……わかったよ、クスハ」
ツグミ「アイビス……」
アイビス「タカクラチーフ…… あたし、やるよ。 だから、フォローして」
ツグミ「アイビス、あなた……」
アイビス「あたし、嫌だよ……。 銀河を見る前に、こんな所で 終わっちゃうなんて……」
アイビス「だから、戦うよ!  チーフとスレイとあたしで、 夢をかなえるために!」
ツグミ(フィリオの夢……私の夢……。 それがプロジェクトTD……)
スレイ「アイビス、動きを止めるな!  グルンガストが来るぞ!」
リシュウ「逃げるんじゃ、 アイビス!」
(グルンガスト2号機がアイビス機に隣接)
アイビス「!」
ツグミ「アイビス、 マニューバーパターン17の45!!」
アイビス「りょ、了解!!」
【強制戦闘】
HAI[計都羅睺剣]vsアイビス[ソニック・カッター]
(カリオンに現在のHPの10%のダメージ、グルンガスト2号機に爆煙)
アイビス「やった!」
スレイ「へたくそ! マニューバー パターン17の45を使って、 なぜ回避出来ない!」
アイビス「大丈夫!  まだあたしもカリオンも飛べる!」
ツグミ「ダメージチェックは こちらでします! アイビスは 戦闘に集中して下さい!」
アイビス「了解!  行こう、スレイ、クスハ!」
スレイ「フン、 お前に言われるまでもない!」
(味方全員に『気迫』)
クスハ「先生、大丈夫ですか!?」
リシュウ「お、おう、今の所はな。 速くこいつを止めてくれい!」
クスハ「わかりました!」

〈vs グルンガスト2号機〉

[クスハ]

クスハ「先生!  少しだけ我慢して下さい!」
リシュウ「む……!  おぬしの場合は程々に、な」

[アイビス]

アイビス「くっ!  特機とやり合うことになるなんて!」
リシュウ「怯えてはならん!  己の意志を、夢を叶えるという 意志を貫き通せ!」

[スレイ]

スレイ「グルンガスト…… 相手にとって不足なしと言いたい ところだが……!」
リシュウ「戦場を甘く見るでない!  板子一枚、その下は死じゃぞ!」

[HP20%以下]

(機体が震え、停止)
リシュウ「ふう……やれやれ。 こやつめ、ようやく止まりおった」
クスハ「先生、お怪我は!?」
リシュウ「大丈夫じゃ。 伊達に毎日鍛えとらんわい」
リシュウ「それより、 他の機体も止めてくれい」
クスハ「わかりました!」

〈敵機全滅〉

オペレーター「2号機を含む 全てのターゲット、活動を 停止しました」
ジョナサン「ふうう……。 一時はどうなることかと思ったよ」
リシュウ「ワシも寿命が20分ぐらい 縮んだわい」
ジョナサン「先生、 それは短すぎやしませんか?」
リシュウ「そうか? ま、何にせよ これにて一件落着。印籠は出んがの。 ふぉっふぉっふぉっふぉっ」
フィリオ(よくやったよ、みんな……)
ツグミ「それで少佐、 暴走の原因は判明したんですか?」
フィリオ「残念ながら不明だ。 この件については、追って調査を 続けよう」
ツグミ「………」
フィリオ「………」
ツグミ「……わかりました。 このまま帰投します」
クスハ「お疲れ様です、 アイビスさん」
アイビス「ありがとう、クスハ。 あたし、あんたの言葉で……」
(アイビス機に爆煙)
アイビス「うわっ!」
クスハ「アイビスさん!」
アイビス「ダ、ダメージが 今になって……!?」
(アイビス機に爆煙、北側へ移動)
スレイ「脱出しろ、アイビス!」
アイビス「だ、駄目!  間に合わない!!」
フィリオ「アイビス!」
(アイビス機が爆発)

[テスラ・ライヒ研究所 医務室]

クスハ「……よかったですね、アイビスさん。 骨折もなく、軽症ですんで」
アイビス「墜落は TDの訓練でも何度か経験しているからね。 ……情けないけど、脱出のコツもつかんでいるよ」
スレイ「確かにな。 見事な墜ち方だったぞ、アイビス」
スレイ「まるで……流星のようだった」
クスハ「そんな……」
アイビス「いいんだよ、クスハ。 スレイはあれで心配してくれて、 見舞いに来てくれているんだから」
スレイ「ナンバー04と言えど、 お前がいなくては私の訓練も滞るからな」
スレイ「早くケガを治せ。 今日の戦闘で得た連係データを カリオンに反映させたい」
アイビス「……スレイ、 あんたは戦うことにためらいはないの……?」
スレイ「ない……と言えば嘘になる」
スレイ「だが、 私にはそれを超えてやらなくてはならないことがある。 それだけのことだ」
スレイ(そう……全ては兄様のために……)
アイビス「うん……」
スレイ「ではクスハ、後は頼んだぞ」
クスハ「はい」
(扉が開閉する・スレイが立ち去る)
クスハ「あ……アイビスさん、 腕の包帯、結びなおしますね」
アイビス「うまいもんだね、クスハ。 さすがは元看護兵だ」
クスハ「いえ……。 これからも頑張って下さいね、アイビスさん」
アイビス「うん……。スレイもタカクラチーフも 自分の夢に向かって進んで戦いを乗り越えようと しているんだ……」
アイビス「あたしも頑張らなくちゃ」
クスハ「その意気です」
アイビス「さ……包帯が結べたら、 タカクラチーフのお見舞いのケーキ、食べようよ」
アイビス「あ……スレイは帰っちゃったから、 二人で山分けだね」
クスハ「ふふ……スレイさんは残念でしたね」

[テスラ・ライヒ研究所 管制室]

ツグミ「……暴走の原因に関するレポートが まとまりました」
ジョナサン「ふむ。 では、かいつまんで聞かせてくれたまえ」
ツグミ「犯人……つまり、今回の事件を仕組んだ人間は、 テスラ研のホストコンピュータに侵入し、私達の プログラムを一瞬の内に書き換えています」
ジョナサン「ハッカーとしては超一流だな。 ウチにスカウトしたいぐらいだ」
ツグミ「その必要はないでしょう」
ジョナサン「……ほう」
ツグミ「そして、再犯もあり得ないと考えます」
フィリオ「どうしてそう思うんだい?」
ツグミ「犯人が望んだ結果を得たからです」
ジョナサン「ふうむ……。 まるで犯人を知っているかのような口ぶりだねぇ」
ツグミ「いえ、私には見当がつきません」
フィリオ「別の質問をするよ、タカクラチーフ。 君にとって初めての実戦だったけど それについては?」
ツグミ「……怖かったです……」
ツグミ「でも、スレイやアイビスは いずれ前線に立つことになるのですね……?」
フィリオ「……おそらくは」
ツグミ「ならば、私も私のやり方で戦います。 ……彼女達はプロジェクトTDの大事な パイロットですから」
ツグミ「その彼女達が生き残るために 私達も最善を尽くしましょう、少佐」
フィリオ「ああ……」
ツグミ「……では、カザハラ博士。 犯人の追及についてはお任せします」
ジョナサン「わかった」
ツグミ「これから、カリオンの修理に立ち会ってきます。 ……失礼します」
(扉が開閉する・ツグミが立ち去る)
リシュウ「……どうやら、彼女はお見通しのようじゃ。 ジョナサン、おぬしのやり方があざと過ぎたのかのう」
ジョナサン「いえいえ。 先生の演技に少々問題があったんですよ」
リシュウ「馬鹿言え。 表彰されてもいいぐらいじゃ」
ジョナサン「いやいや。別に理由があったとは言え、 先生がグルンガストに乗っている時点で 無理がありましたな」
リシュウ「む……。そこを突かれると痛いわい」
フィリオ「……まあ、彼女がデータを調べれば、 遅かれ早かれこういう結果になりましたよ」
ジョナサン「だが、収穫はあった」
フィリオ「ええ……。 昨日までの彼女達は自分を取り巻く世界に対して、 あまりに無知でした」
フィリオ「結果として、アイビスは戦いに怯え、 スレイはただ命令のまま戦い、ツグミは 自分と戦いに距離を置いていました」
ジョナサン「だから、 君は彼女達にリアリティを与えようとした」
フィリオ「……彼女達に理解してもらいたかったんです。 TDのゴールにたどり着くためには 多くの試練が待ち受けていること……」
フィリオ「そして、その一つとして 戦いも避けて通れないことであることを」
リシュウ「だが、ワシの目から見ても いささか荒療治じゃったの」
リシュウ「もし、アイビスが大怪我を負っていたら、 どうするつもりじゃった?」
フィリオ「……その時にはアイビスには 銀河を飛ぶ夢をあきらめてもらいます……」
ジョナサン「フィリオ……」
フィリオ「彼女の腕は未熟です。 このままでは、彼女は自分の夢を果たす前に 命を落とすことになるでしょう……」
フィリオ「だから、彼女にはそれを乗り越えるだけの 強い意志を思い出してもらいたかったんです」
ジョナサン「君の覚悟はわかったよ、 フィリオ……」
フィリオ「カザハラ博士…… 僕は科学者として自分のやってきたことに 疑問を持っています……」
フィリオ「だからこそ、僕は 彼女達に戦いを乗り越えて、夢にたどり着いて 欲しいんです……」
リシュウ「そのためには、もう少し嬢ちゃん達を 鍛えてやらにゃいかんじゃろうな」
フィリオ「ええ……。 生きてさえいれば……命と情熱さえあれば、 夢を果たすことは出来るでしょうから」
ジョナサン「………」
フィリオ「カザハラ博士、リシュウ先生…… 僕にもしものことがあったら、その時は 彼女達をお願いします」
ジョナサン「そんな願いは聞けんな。 フィリオ……君自身もまだ夢の途中なんだから」
リシュウ「そうじゃ。 ワシらは協力は惜しまんが、それは おぬしをゴールに辿り着かせるためでもある」
フィリオ「ありがとうございます……」
ジョナサン「夢の途中にいるのは人類も同じだ。 そのために我々は新たな戦いを乗り越えねばならない」
フィリオ「はい」
ジョナサン「我々も急ごう。 未来を担う者達のために……」


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