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邪神解放 ~ 第19話 ~

<味方機が平原を疾走している>

チカ「皆さ~ん、正面に見えますのが グリモルド山でございま~す。あの山は オリハルコニウムの産地として有名で~す」
アルバーダ「ほ~う。それ、うめぇのかよ?」
エルマ「あの、アルバーダさん。 ニウムって付くと、普通は食べ物じゃない ケースの方が多いと思いますけど」
アルバーダ「わかってるよ、そんなこたぁ。 もしかしたら、食い物かも知れねえだろ」
チカ「残念でした。オリハルコニウムは精神感応性を 持った特殊な金属です。魔装機やその武器なんかにも 使われてますねぇ」
サフィーネ「それと、プロポーズ代わりに オリハルコニウムのアクセサリーを プレゼントするのが流行ってるわ」
エルマ「ロマンティックですねぇ」
モニカ「私もシュウ様にオリハルコニウムのリングを プレゼントしたいですわ」
サフィーネ「ちょっと! 抜け駆けする気!?」
モニカ「あら、そんなことを仰っていたら、 恋は成就しませんわ」
アルバーダ「おっ、言うねぇ」
モニカ「それに、もう抜け駆けではありませんし」
セレーナ「まあ、意思表明したもんね」
サフィーネ(うっ……負けてらんないわ)
ヨン「オリハルコニウムのアクセサリーかぁ…… 素敵ですね。お土産に持って帰ろうかな」
セレーナ「意外な所から食い付いてきたわね。 意中の人でもいるの、ヨン?」
ヨン「そ、そ、そんなんじゃないです!  あくまで仕事で、参考用素材として……」
セレーナ「ふ~ん」
シュウ「……オリハルコニウムなら、 あなたがいた部署にもデータが 回って来ているのではありませんか?」
セレーナ(あら、もっと意外な所から食い付きが)
ヨン「え? どういうことです?」
シュウ「あれをSRX計画へ供給したのは、私なのです」
シュウL5戦役前後ならともかく、今なら ゾル・オリハルコニウムの素材として、開発実験団にも オリハルコニウムのデータが存在しているのでは?」
ヨン「あ、いえ、その……私の部隊には……」
シュウ「そうですか。 SRX計画には格別な興味をお持ちだと 思っていましたがね」
ヨン「………」
アルバーダ「つーか、何であんたはオリハルコニウムを SRX計画に渡したんだ?」
シュウ「あの計画の主幹だった人物の動向、 彼が有している技術知識の程度を知るための手段…… 取引材料と言った所でしょうか」
セレーナ(主幹……もしかして、イングラム・プリスケン?)
アルバーダ「それで、効果はあったのかよ?」
シュウ「本当に知りたい情報は得られませんでしたが、 ある程度は。それに、ゾル・オリハルコニウムは SRXの強さの一端を担っていますからね」
シュウ「それで、数々の外敵を退けたのですから…… オリハルコニウムを提供した甲斐はありましたよ」
ヨン(外敵……)
アルバーダ「ところで、 あんたが本当に知りたい情報って、何だ?」
シュウ「覚えがない記憶…… 夢の話とでも言っておきましょうか」
アルバーダ「わけわかんねえな」
シュウ「まったくですね」
チカ「ご主人様、ルオゾール様から指定された 採掘場の入口が見えてきましたよ」
シュウ「わかりました」
エルマ「入口周辺に人型機動兵器による戦闘の形跡が 見受けられます。しかも、割と最近のです」
セレーナ「……先客がいるってこと?」
シュウ「いえ、私達の出迎えですよ。 誰かが気を利かせてくれたのでしょう」
ガエン「………」
アルバーダ(いよいよ、この旅の終着点だな)
アルバーダ(ジェシカ…… 俺はお前の敵を討てるのか、それとも……)

〔戦域:グリモルド山採掘場内周辺〕

(湖の中央にナグツァートがいて、周りにヂーヱンが大量に待機している。入口付近で出撃準備)
シュウ「……待たせましたね、ルオゾール」
ルオゾール「いえ。無事のご到着、何よりでございます」
アルバーダ「……あれがルオゾールの機体か。 随分と趣味の悪い魔装機だな」
サフィーネ「魔装機じゃなくて、咒霊機ナグツァートよ。 半分がアストラル界に属しているから、 通常の兵器じゃダメージを与えられないわ」
アルバーダ「マジかよ。半分って、どういうこった?」
ヨン「物理的な攻撃が通用しないということですか?」
サフィーネ「そう考えてもらっていいわ」
ヨン「なら、アストラル界に作用可能な武器であれば、 ダメージを与えられると?」
サフィーネ「勘がいいわね。 その通りだけど、準備に手間が掛かるのよ」
ヨン「あの、参考までにその方法を……」
サフィーネ「ふふっ、ヒ・ミ・ツ」
アルバーダ(そりゃそうだろうな。 この先の展開はだいたい想像できるしよ)
セレーナ「ねえ、ルオゾールの周りにいるのは?  あれも咒霊機?」
サフィーネ「違うわ。靈装機ヂーヱン…… 教団が魔装機より以前に開発した機体よ」
アハマド「靈装機……噂には聞いていたが、実在していたのか」
アルバーダ「あいつらも通常兵器が通用しねえのか?」
シュウ「そういうわけではありませんよ」
ガエン(シュウめ、余計なことを……)
ルオゾール「ガエン、お前のヂーヱンもここに回されて来ておる。 乗り換えるがよい」
ガエン「了解した」
シュウ「……ルオゾール、ここで戦闘があったようですね。 もしや、下の神殿でも?」
ルオゾール「左様で。 解封中、サイバスターめとその一派に 踏み込まれましてな……」
ルオゾール「私はカークス将軍との約束があった故、この場から 離れざるを得ず、顕現なされたヴォルクルス様の分身に 彼奴らを片づけていただこうと思ったのですが……」
シュウ「マサキ達が倒してしまったというわけですね」
ルオゾール「ただ、結果的には彼奴らの目を この地から逸らすことに成功しましたので…… 今現在、邪魔者はおりませぬ」
ルオゾール「いや、一人だけいましたか、そこに」
アハマド「……俺のことか、ルオゾール」
ルオゾール「新参の地上人はともかく、 あなたまで本当にここへ来られるとは…… 少々困りましたな」
ルオゾール「そもそも、あなたはカークス将軍の下へ 馳せ参じなくてよろしいのですか?」
アハマド「貴様がここにいる時点で、 カークスの命運は尽きたのだろうよ」
ルオゾール「察しのいいことで。今頃、フェイルロード王子も 鋼龍戦隊と一戦交えているでしょうから…… ここに彼奴らが踏み込んで来ることはありますまい」
モニカ「……!」
ヨン「それって……」
アルバーダ「シュウが予想した通りの展開になったってことか……」
モニカ(お兄様……)
ルオゾール「早速ですが、シュウ様……儀式を始める前に お力を少々お借りしたいのです」
ルオゾール「ガッデスめがここを立ち去る際、 グラギオスの封紋を使いましたのでな。 それを破らねばなりませんので」
シュウ「わかりました」
ルオゾール「地上人の方々はここでお待ち下さい。 神聖な儀式に信者でない方が立ち会われるのは、 不都合でしてな」
ヨン「え? で、でも……」
シュウ「事が済めば、約束は必ず果たしますよ。 ……あなた達次第ですがね」
セレーナ「……!」
シュウ「では、後ほど」
(ナグツァートと周りのヂーヱン、ネオ・グランゾン、ウィーゾル、ノルス、テリウス機、ガエン機が撤退)
セレーナ「……お目付役はしっかり残していくわけね」
アハマド「ふん、予想通りだ」
セレーナ「で、アル…… あたし達は、いつまで観客席にいるの?」
アルバーダ「ショーが始まるまで待つぜ。 でなきゃ、主役の真意がわからねえからな……」


第19話
邪神解放

〔戦域:ヴォルクルス神殿周辺〕

(奥の祭壇にナグツァートがいる)
ルオゾール「……さて、準備が整いましたな」
(祭壇下にネオ・グランゾン、ヴィーゾル、ノルス、少し後ろにガディフォール(テリウス機)がいる)
シュウ「ええ、始めましょうか」
(通路の端にヂーヱンに乗ったガエンがいる)
ガエン「待て、シュウ」
シュウ「………」
ルオゾール「ガエン、余計な口を挟むでない」
ガエン「いや、ここで言っておかねばならないことがある。 シュウは、モニカ王女とテリウス王子を 生け贄としてヴォルクルス様に捧げぬつもりだ」
ルオゾール「何と……誠でございますか、シュウ様?」
シュウ「ええ、彼らを生け贄にする必要はありません」
ルオゾール「それでは、儀式の確実性が……」
シュウ「モニカとテリウスの魔装機があれば、 形式的な手順で大丈夫です。 既に、その確証は得ています」
ガエン「それを信じろと言うのか?」
シュウ「やはり、私に翻意があると疑っているのですね」
ガエン「そうだ」
シュウ「では、どうすれば得心が行くのです?  私の目的がヴォルクルス様の復活であることは、 再三述べたでしょう?」
ガエン「ならば、問おう。 ヴォルクルス様が顕現なされた後、 貴様はどうする気だ?」
シュウ「………」
ガエン「あの時、貴様は躊躇することなく、 ヴォルクルス様の分身を手に掛けた。 それが俺の疑心を確実なものにしたのだ」
シュウ「あそこで死んでしまっては、ここで 復活の儀式を執り行うことが出来ませんからね。 やむを得ない措置でした」
ガエン「そもそも、貴様が咒文を間違わなければ……」
シュウ「あの行為が教団への反逆だと言うのなら、 私達に対して暗殺者が……あなたと同じ立場の者が 差し向けられていますよ」
ガエン「………」
シュウ「しかし、そのようなことはありませんでした。 つまり、あのお方は私の判断を 容認して下さったのですよ」
ルオゾール「その通りだ、ガエン。 それ以上の罵詈雑言は、私が許さぬ」
ガエン「……!」
ルオゾール「お前は知らぬことだろうが、 グランゾンにはヴォルクルス様の覊絏がある」
ルオゾール「そして、そのおかげでシュウ様は ネオ・グランゾンという新たな力を 手に入れられたのだ」
シュウ「………」
ルオゾール「覊絏こそがシュウ様のヴォルクルス様に対する 忠誠心の証……加えて延べれば、そもそも叛意ある者が 大司教の座に就くことなど出来ぬ」
ガエン「しかし……!」
ルオゾール「私はシュウ様を信じておる。故に、蘇生の術を施した。 お前こそ、疑心を抱き続けるのであれば……」
ルオゾール「それは教団に対する翻意…… いや、ヴォルクルス様への反逆と認識されようぞ」
ガエン「う……」
ルオゾール「背信者の汚名を着せられたくなくば、 口を噤み、下がりおれ」
ガエン「………」
ルオゾール「では、シュウ様……儀式を始めましょうぞ」
シュウ「わかりました。では、モニカ……祭壇へ」
モニカ「はい」
(ノルスが祭壇の上へ上がる)
ルオゾール「続いて、シュウ様……断章の第四段を」
シュウ「『全てに平等なるは、死と破壊……  万物は無から生じ、無へと還る』」
ルオゾール「そして、生け贄に刃を」
(ネオ・グランゾンがグランワームソードを上へ向ける)
シュウ「心配はいりませんよ、モニカ。 あなた自身をこの刃で貫くわけではありませんから」
モニカ「はい、シュウ様……痛くしないで下さいね」
サフィーネ「あらあら、ガキねぇ。 私なんて、痛いのも好きよ♥ それに、最初は痛くても、その内にそれが……」
ルオゾール「茶々を入れるでない。さあ、シュウ様」
シュウ「モニカ……ヴォルクルス様の復活には、 信頼していた者に裏切られた絶望と悲しみの 感情が必要なのです」
モニカ「………」
テリウス「クリストフ、まさか……!?」
シュウ「わかりますか?  信じていたものが崩れ去る時の絶望感……」
モニカ「……構いませんわ、シュウ様。 私の命は、シュウ様のものです」
ルオゾール「よくぞ仰いました、モニカ様。 シュウ様、ヴォルクルス様の確実なご復活には やはり、生け贄が必要……」
ルオゾール「さあ、モニカ様のお命を我らの神に捧げなされ」
(ネオ・グランゾンが剣先をノルスに向ける)
シュウ「………」
テリウス「ク、クリストフッ!!」
シュウ「私の望み……その成就の時が来ました」

〔戦域:グリモルド山採掘場内周辺〕

ヴォルクルス教徒「……頃合いだな……」
ヴォルクルス教徒「うむ……」
エルマ「セレーナさん、ヂーヱンが動き出しました」
セレーナ「開幕のベルが鳴ったわね。どうする、アル?」
アルバーダ「シュウは俺達次第だと言った。 つまり、メイン・イベントを観るなら、 チケットを自腹で買って来いってこった」
セレーナ「そうね」
アルバーダ「地上への土産話に、邪神の面を拝みに行くとしようぜ」
セレーナ「撮影に成功すれば、その手のマニアが喜びそうね」
ヨン「私も行きます……!」
ヨン(シラカワ博士と一緒に地上へ戻らなければ、 マスターから与えられた任務を果たせないもの……)
アハマド「俺もここまで来て、引き返すつもりはない。 最後まで付き合ってやろう」
セレーナ「じゃ、満場一致ってことで」
ヴォルクルス教徒「ルオゾール様のご命令だ…… お前達にはここで死んでもらう……」
セレーナ「別に驚かないわよ。歓迎ムードじゃなかったからね」
アルバーダ「ここまで来て、メイン・イベントを見逃してたまるか!  前座は引っ込んでやがれ!」
(作戦目的表示)

〈敵機全滅〉

エルマ「現戦域内の敵機反応、全て消えました!」
セレーナ「いよいよクライマックスね……!」
アルバーダ「ああ。みんな、心の準備はいいな?」
アハマド「ふん、言われるまでもない」
ヨン「私も……既に覚悟は決めています」
アルバーダ「よし、神殿へ突入するぞ!」


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