シュウ「……やはり、カークスはフェイルロードに
牙を剥きましたか」
ルオゾール「左様。
テリウス王子が出奔した後、カークス軍本隊は
ラングラン王都へ侵攻しましたが……」
ルオゾール「マサキ・アンドーや鋼龍戦隊に阻止され
敗走しました」
シュウ「そうですか」
チカ「いや～、ご主人様が予想されていた通りの
展開になりましたねぇ」
サフィーネ「フェイルとカークスがこんなに早く激突するなんて。
シュウ様が見事テリウスを連れ去られた
おかげですわね」
シュウ「私はきっかけの一つを作っただけに過ぎませんよ」
チカ「それにしても、
カークス軍の本隊って結構強いはずなのに……
やけにあっさりと負けちゃいましたね」
シュウ「相手は、私を倒したマサキや鋼龍戦隊ですからね。
仕方ありませんよ」
ルオゾール「あと、カークス軍の助っ人が
途中で彼の下を離れたことも敗因の一つですな」
シュウ「ああ、ヤンロンとリューネ達ですね。
もし、彼らがマサキ達と合流したら、
カークスに勝ち目はないでしょう」
チカ「それ以前に、カークス将軍って無事なんですかね」
ルオゾール「あの男は生きておる。
先程、本人と話をしたのでな」
シュウ「ほう、彼とのパイプがあるのですか」
ルオゾール「ええ。ラングランの混乱を継続させるには
カークスのような人物が打って付けですからな」
ルオゾール「私の方から接触を試みた所、
向こうにとっては渡りに船だったようで……
少々力を貸すことにしました」
サフィーネ「ラングランの将軍が教団に助力を請うなんて……
相当追い詰められているようですわね」
ルオゾール「だが、カークス本人は野望を捨てておらぬ。
多くの兵が投降しておるものの、麾下の者達は
彼に付き従うだろう」
ルオゾール「つまり、この戦いはもう一波乱あるということだ」
シュウ「では、しばらく時間が稼げますね。
ところで……先日、あなたが言っていた地上人の
生け贄と儀式の予行はどうなりました？」
ルオゾール「残念ながら、
彼女では儀式を成功させるまでに至らず……
さらに、ヤンロン達の邪魔も入りましてな」
シュウ「そうですか」
ルオゾール「やはり、ヴォルクルス様への生け贄は
ラングランの王族でなければいけませんな」
シュウ「……トロイアの封印の方は？」
ルオゾール「これからグリモルド山に赴き、事を進めます。
露払いは、シュテドニアスの特殊部隊に
任せております」
チカ「へ～え、シュテドニアスともつながってるんですか」
ルオゾール「うむ、彼らは彼らで巻き返しを図っておるのでな。
私の行動がラングランにさらなる混乱を
呼ぶと判断したようだ」
チカ「なるほど」
シュウ「では、ルオゾール……
私達は準備が整い次第、ティーバに向かいます」
ルオゾール「承知致しました」
（通信が切れる）
ガエン「シュウ……何故、生け贄のことを言わなかった？」
シュウ「おや？
もうあなたがルオゾールに報告したものだと
思っていましたが」
ガエン「……貴様が自分の口で言うかどうか、
確かめるつもりだった」
シュウ「私に対し、疑念を持っているとでも？
教団の不利益になるようなことは
していないつもりですがね」
ガエン（今の所はな……）
シュウ「それに……前にも言った通り、モニカとテリウスを
生け贄にせずとも、ヴォルクルス様のお姿を
あなたにも見せてあげますよ」
シュウ「そう、私達が崇める神……その実体をね」
ガエン「………」
アルバーダ「じゃあ、しばらくの間は
カークス軍やシュテドニアス軍残党との
小競り合いが続くのか」
ヨン「ラングランの情勢は落ち着く方向へ
向かうんでしょうか……」
シュウ「いえ、まだ大きな波乱が起きますよ」
セレーナ「カークスのリベンジ？」
シュウ「それだけではありません。
マサキ・アンドーがあのフェイルロードに
いつまでも従っているとは思えないので」
ヨン「え……？」
アルバーダ「気になるな。
マサキ・アンドーが上に逆らうってのかい？」
シュウ「有り体に言えば、そうですね」
モニカ「どうしてです？ 彼はあれでも
かなりの正義感ですのよ。お兄様の味方になっても、
敵になるとは思えませんけど……」
シュウ「彼らの正義は一致していませんよ。
それに、フェイルロードには
あまり時間がないでしょうからね」
モニカ「え？ もしかして、シュウ様……
お兄様の身体のことを……？」
シュウ「ええ、感づいていますよ」
テリウス「……どういうことなんだ？」
シュウ「フェイルロードは、王位継承権を得るために
相当な無理をして自分の魔力を強めたはずです」
シュウ「おそらく、
修練を積むだけでなく、特殊な薬物を使用し……
力を維持しているのだと思います」
シュウ「そして、その副作用で彼の身体は限界に近いでしょう。
王座についたとしても、王としての義務を
果たせるかどうか……」
テリウス「そんな……僕は聞かされてなかったぞ。
セニア姉さんも承知していることなのか……？」
モニカ「いえ……。
私はたまたま知ってしまって、
お兄様に固く口止めされたけど……」
シュウ「当然、秘密にするでしょうね。
自分の立場が揺らぎかねない事実ですから」
アルバーダ「話を聞いてりゃ、王様になるには
強い魔力とやらが必要みてえだが……何でだ？」
シュウ「ラングラン国王には“調和の結界”を維持するために
必要な魔力を供給する義務があるのです」
アルバーダ「調和の結界？」
シュウ「ラングランにある調和の塔から、ラ・ギアス全土を
覆っている特殊な結界のことですよ」
シュウ「全世界に向けて魔力を供給すると同時に、
大規模な魔法の使用を制限しています」
アルバーダ「そりゃ、とてつもなく大変な話だな」
ヨン（そこまで大規模な結界が……。
そして、そんなことを可能にする技術と装置が
この世界には存在している……）
ヨン（地上世界と直結していないとは言え、
もし、そういった技術を悪用する者が現れたら……
大きな脅威にもなり得るわ）
シュウ「……そのため、ラングランの王位継承権を得るには、
一定以上の魔力を持ち、それを測定するテストに
合格しなければなりません」
シュウ「不合格であれば、例え嫡子であっても、
継承権は与えられないのです」
エルマ「随分と厳しいんですね……」
アルバーダ「じゃ、モニカ王女とテリウス王子は
そのテストに合格してるってことか」
モニカ「ええ……」
テリウス「……セニア姉さんは不合格だったから、
王位継承権を持っていないけどね」
セレーナ「ん？ ちょっと待ってよ、フェイル王子が
魔力を無理矢理強化したんなら……」
セレーナ「元々、彼はテストに合格するだけの力を
持ってなかったってこと？」
シュウ「ええ、私は昔のフェイルロードを知っていますが……
彼は、魔力テストに一度失敗したのではないかと
思っています」
モニカ「………」
シュウ「そして、自分の身体と引き替えに魔力を強化し、
再度テストに挑んで合格したものの……」
シュウ「それが原因となって何らかのコンプレックスを抱き、
生き急ぎ始めたのではないかと考えています」
アルバーダ「その結果、どうなるってんだよ？」
シュウ「テリウスは私と共にいるわけですから、
フェイルロードはラングランの王位に
つこうとするでしょう」
シュウ「その後、彼の野心次第で、マサキ達魔装機神の操者と
衝突することになるかも知れません」
モニカ「まさか、そんな……」
ヨン「フェイルロード王子の野心とは……？」
テリウス「カークスが言っていた……。
地上人の大量召喚を目論んだのは、
兄さんなんじゃないか……」
テリウス「そして、その戦力を以て、ラ・ギアス全土を
制圧するつもりなのかも知れないって……」
モニカ「えっ……」
アルバーダ「それにしちゃ、俺達を含めて呼び込まれた場所が
バラバラじゃねえか」
アルバーダ「そのせいで、ラングランじゃなく、シュテドニアスや
バゴニアについてる奴だっているしよ」
シュウ「今回の地上人召喚事件には、何らかの事故的な
要因があったと思っています。おそらく、
召喚者にとっても予想外の事態だったのでしょう」
シュウ「もっとも、そのおかげでラングランを中心とした
地域に混乱が生じましたし……」
シュウ「ラングラン前国王アルザールの死によって、
調和の結界は消滅したままになっています」
モニカ（……お父様……）
シュウ「つまり、今は私達ヴォルクルス教団にとって
動き易い状況だということですよ」
アルバーダ「で、次は？ いよいよ本命か？」
テリウス「本命？ 何のことだ？」
シュウ「ヴォルクルス様の復活ですよ」
テリウス「え……？ 本気なのか？
だいたい、ヴォルクルスなんて本当に……」
シュウ「存在しています。
私自身、そのお力を身近に感じていますからね」
テリウス「………」
シュウ「そして、テリウス、モニカ……
あなた達にはヴォルクルス様の復活の儀式に
協力してもらいます」
モニカ「ええ……私の決意は変わっておりませんわ」
テリウス「協力って……何をするんだ？」
シュウ「復活の儀式の際に、
あなたとモニカの魔力が必要となるのです」
テリウス「……僕の魔力なんて、
君やフェイル兄さんに比べれば
大したことないよ」
シュウ「そうですか？
私はともかく、フェイルロードより
あなたの方が魔力の素質は高いですよ」
シュウ「現に、影縛りを自力で解いたではありませんか」
テリウス「そう言って……
僕や姉さんをヴォルクルスへの
生け贄か何かにする気じゃないのか？」
アルバーダ（おっ、突っ込みやがったな）
シュウ「モニカにも言いましたが、
そのようなことはしませんよ」
アルバーダ「……じゃあ、俺達はどうなんだ？」
シュウ「同じですよ。私が本懐を遂げた暁には、
あなた達を地上へ帰すと約束しましたからね」
アルバーダ（ヴォルクルスごとっていう
オチじゃねえだろうな）
アルバーダ（ま……そうなったら、そうなったで
俺がやることは一つだ）
シュウ「……どうです、テリウス？」
テリウス「………」
シュウ「怖いのですか？」
テリウス「そりゃね。
でも、何だろうな……少しワクワクするような……
そんな気もする」
セレーナ（へえ……
意外に肝っ玉が据わってるのかもね、この王子様）
テリウス「クリストフ、僕は君についていくと決めたんだ……
君がすることを見届けてやる」
シュウ「いいでしょう。
では、あなたにやってもらうことがあります。
ガディフォールに乗って下さい」
テリウス「え？ どうしてさ？」
シュウ「今から特訓を行うのですよ」
テリウス「と、特訓……！？」
シュウ「あなたには魔力の素質があるとは言え、
私が必要とするレベルには達していませんからね」
シュウ「あと、魔装機の扱いに習熟してもらう必要もあります。
ティーバまで何事もなく辿り着けるとは
限りませんので」
ガエン（……本当にそれだけか？）
アルバーダ「よし、特訓なら任せろ。俺の得意分野だ。
と言っても、魔力は専門外だが、それ以外なら
ビシバシ鍛えてやるぜ」
テリウス「よしてくれ、僕は君みたいな肉体派じゃないんだ」
エルマ「それに、アルバーダさんの教育を受けると
味の好みまで変わりかねませんからね」
アルバーダ「それが何だってんだ？」
エルマ「Ｂ級グルメ好きの王子様って、どうかと思いますよ」
アルバーダ「庶民的でいいじゃねえか。
じゃあ、まず筋トレから始めてみようか」
テリウス「えええ……」
シュウ「そこまでの時間はありませんよ。
テリウス、ガディフォールに乗りなさい」
テリウス「わ、わかったよ……」
（北東端にガディフォールが出現、北東端で出撃準備）
シュウ「では、サフィーネ……準備を」
サフィーネ「わかりました。デモンゴーレムを出しますわ」
（デモンゴーレムが大量に出現）
テリウス「まさか、あいつらを僕一人だけで……！？」
シュウ「いえ、まずは私達が手本を見せます。
そこでよく見ておいて下さい」
テリウス「……わかったよ」
ヨン「お手本って……何か緊張しますね」
ガエン「ふん……
デモンゴーレムなど、瞬く間に片づけてやる」
セレーナ「それじゃ、手本にならないんじゃない？」
アルバーダ「ああ。
程々にしとかねえと、かえってやる気をなくすぜ」
アルバーダ「昔のセレーナみてえに、悔しさをバネにして
頑張るタイプじゃねえだろうからな」
セレーナ「私の場合は、
コーチがスパルタだったからってこともあるけど」
アルバーダ「ん？ 優しく教えたつもりだったんだけどな」
セレーナ「並の人間じゃ、一日ともたないわよ」
サフィーネ「あら、いいじゃない。
私は責められるのも、けなされるのも好きよ♥」
ヨン「サフィーネさんは、ご自身に厳しいんですね……」
セレーナ「ヨン、そういう意味じゃないから」
シュウ「……では、始めましょう。
なお、グラビトロンカノンのようなＭＡＰＷは
使用禁止とします。手本になりませんからね」
アルバーダ「わかった。じゃあ、授業開始といくか！」
（作戦目的表示）
アルバーダ「……ま、ざっとこんなもんか」
シュウ「では、皆さんは下がってください」
モニカ「はい。テリウス、頑張るのよ」
（グランゾン、テリウス機以外が撤退。グランゾンがテリウス機の方を向く）
シュウ「テリウス……次はあなたの番ですよ」
テリウス「デモンゴーレムの数は、少なめにしてくれないか？」
シュウ「それでは特訓の意味がありませんよ」
（池の北側にデモンゴーレムが出現）
テリウス「うっ……！」
シュウ「あのデモンゴーレムをあなた一人で倒して下さい。
言っておきますが、私達は一切手伝いませんからね」
（グランゾンが撤退）
テリウス「じょ、冗談だろ？
僕の身に何かあったら、どうするんだ……」
テリウス「いや、クリストフは冗談を言うような男じゃない……
やるしかない、か……！」
（作戦目的表示）
テリウス「やってやるさ……！
僕は僕の道を行くって、決めたんだ……！」
テリウス「ようやく、半分……！ やり遂げてやるさ……！」
テリウス「よ、よし……全部倒したぞ……！」
（北東端にグランゾンが出現）
シュウ「よく頑張りましたね、テリウス。
これであなたの魔力は相当な物になりましたよ。
ほら、感じませんか？」
テリウス「……言われてみれば、
何だか力が湧いてきたような気がする……」
シュウ「嘘ですよ。
そんなにすぐ感じられるものではありません」
テリウス「なっ、僕を騙したのか！？」
シュウ「とんでもない。
感じられないだけで、確実にあなたの魔力や
プラーナはレベルアップしていますよ」
シュウ「それに、自信がついたでしょう？」
テリウス「そうだな……ありがとう、クリストフ」
シュウ「礼など必要ありませんよ。
あなたには後で働いていただかなくては
なりませんからね」
テリウス「君のために……だろ？
それでもやっぱり、僕に力をくれたのは事実だよ。
ありがとう」
サフィーネ「あらあら、疲れた顔しちゃって」
テリウス「……そりゃ、疲れるさ」
アルバーダ「よう、シュウ。王子様の特訓は、あれで終わりか？」
シュウ「あなたはどう思います？」
アルバーダ「俺に聞くのかよ。
ま、元々魔装機操縦の訓練を受けてたとは言え、
いい筋をしてるんじゃねえの」
シュウ「ガエン、あなたは？
同じ機体に乗っている者として、どうです？」
ガエン「魔力はともかく……
魔装機の方は操縦さえ出来れば、充分だろう」
ガエン「なのに、戦闘訓練を施して
何をさせるつもりなのだ？」
シュウ「言ったでしょう？
ティーバまでの道中が安全だという
保証はないのです」
シュウ「万一の場合、テリウスには自分で自分の身を
守ってもらわねばなりませんからね」
ガエン「俺には他の目的があるように思えるがな」
テリウス「……どういうことなんだ、クリストフ？」
シュウ「他意はありませんよ。
さあ、次の目的地……ティーバの神殿へ
向かいましょう」