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テリウスの決意 ~ 第15話 ~

《神聖ラングラン王国 バルディア州 マニファーク市(ソディウム級移動要塞)》

[カークス軍 ソディウム級移動要塞 ブリッジ]

カークス「お久しぶりですな、フェイル殿下。 そろそろ私めの軍との同盟をお考えになる頃かと思い、 ご連絡致しました」
フェイル「……いいタイミングだった、カークス将軍。 本来ならば、正式に会談をもちたい所だが、 そうも言っておられぬからな」
フェイル「今、最優先すべきは、一刻も早くこの国から シュテドニアス軍を追い出すことだ。 これに異存はあるまい」
カークス「………」
フェイル「どうだ、同盟の話を受けてもらえぬか?」
カークス「さて、いかがしたものでしょうな……。 確かに、私もかつてはラングラン王国の禄を食んだ身。 この国を救いたいという気持ちも同じ」
カークス「しかしながら、ラングランが本当の危機に 見舞われていたあの時、殿下はどちらに おいででしたかな?」
フェイル「………」
カークス「ラングランの中枢が消滅した時、 血を流してこの国を守るべく戦ったのは……」
カークス「僭越ながら、この私と同志達ではありませぬか?」
ノボス「カークス! 貴様、殿下の御前で言葉が過ぎるぞ!」
カークス「はて? 何が?」
ノボス「貴様……!」
カークス「私はすでに旧ラングランと関係のない身。 今更上辺だけ飾りたてた所で何になりましょうや。 違いますかな?」
フェイル「……では、貴公は同盟を結ぶ意志がないと 言うのだな?」
カークス「いえいえ。 私はただ、シュテドニアスを撃退した後の ラングランの行く末を憂いているだけに過ぎませぬ」
フェイル「貴公の独立を認めよとでも言うつもりか、 カークス?」
カークス「まさか、そのような畏れ多いことを考えるなど……。 私は、ラングランを平和な国に戻したいだけなのです」
カークス「しかしながら、新生ラングランにおいて 至尊の冠を頂く御方が殿下であれば…… 少々不安がこざいます」
ノボス「カークス!」
フェイル「……では、誰ならば良いと言うのだ?」
カークス「新生ラングランの王として相応しい御方…… それは、テリウス殿下でございます」
フェイル「!!」
カークス「では、殿下……」
テリウス「ああ……元気そうだね、フェイル兄さん」
フェイル「テリウス!? どういうことだ、いったい!?」
テリウス「さっき、カークスが説明した通りだよ。 僕は、新ラングラン王国の初代国王になる」
ノボス「馬鹿な!  テリウス殿下の王位継承権は、第三位ですぞ!  フェイル殿下やモニカ王女を差し置くなどと!」
カークス「先程も申し上げたように、フェイル殿下は 新国王としていささか不安……」
カークス「いつ雲隠れされるやわからぬようでは…… おっと、言葉が過ぎましたかな」
カークス「ましてや、モニカ王女は現在も行方知れず…… となれば、やはりテリウス殿下を 推戴するのが筋でありましょう」
ノボス「無礼な! 伝統ある王室を汚す気か、カークス!」
フェイル「……もういい、ノボス」
ノボス「殿下……!?」
フェイル「カークス…… テリウスの即位を認めれば、同盟を結ぶのだな?」
カークス「然様で」
フェイル「よかろう。テリウスの即位を認める」
ノボス「で、殿下! それでは!」
フェイル「ただし、この国にのさばっている シュテドニアス軍を全て撃退した後での話だ。 いいな、カークス?」
カークス「さすがは聡明なフェイル殿下。 そういうことであれば、我らも協力を惜しみませぬ」
カークス「そして、事が片付き次第、 テリウス殿下の戴冠式を執り行います」
カークス「是非、フェイル殿下もご出席下さい。 それでは」
(通信が切れる)
カークス「……ご苦労だった。下がっていい」
テリウス「はっ」
(足音・テリウスが立ち去る)
ラテル「フェイル殿下はお気づきになりませんでしたね」
カークス「モニター越しで、しかもあの短時間ではな」
テリウス「影武者を用意するなんて…… だったら、僕を呼び寄せなくても 良かったんじゃないか」
カークス「下々の者ならともかく、フェイル殿下やセニア王女、 側近達の目は誤魔化せますまい」
テリウス「そんなことを気にするのは、最初の内だけだろ」
カークス「どういう意味ですかな?」
テリウス「いずれ、影武者とすり替えるつもり なんじゃないのか……?」
カークス「……私の目的にご賛同いただければ、 そのようなことは致しませぬ」
テリウス「目的って……フェイル兄さんを排斥し、 僕を操り人形にして、ラングランの支配権を 手に入れることか?」
カークス「それは過程に過ぎませんな」
テリウス「………」
カークス「殿下、今こそ私の真意をお話ししましょう」
カークス「私はラ・ギアス全土を武力で統一し、 強固な軍事政権を打ち立て、泰平を 維持しようと考えているのです」
テリウス「ラ・ギアスを統一するだって……?  シュテドニアス軍をラングランから 追い出せてないのに、よく言うよ」
カークス「彼らの撃退は、時間の問題です」
テリウス「だからって、シュテドニアスやバゴニアと まともに戦争して、勝てると思ってるのか?」
テリウス「例え、お前の下に魔装機神が全部集まったって、 ラ・ギアス全土を統一することなんて無理だ」
カークス「……全ての国が我らの敵になるわけではありませぬ。 各国勢力の思惑を利用し、均衡を崩すのです」
カークス「どこの国にも、王権や与党の衰退、または転覆を 目論む者は内在しておりますからな」
カークス「そして、全土統一に要する戦力ですが…… 魔装機神だけに頼るつもりはありませぬ」
カークス「あれに匹敵……いえ、凌駕する力は 我が掌中にあります」
テリウス「お前が取り込んでいる地上人の兵器がそうだとでも?  もしかして、彼らを大量に召喚したのは……」
カークス「それはむしろ、フェイル殿下の ご意志だったのではないかと睨んでおります」
テリウス「何だって……?」
カークス「存外、あのお方も私と同じようなことを 考えておられるかも知れませんな」
テリウス「………」
カークス「例え、大逆者と誹られようと、ラ・ギアス全土を 戦乱に巻き込むことになろうと、強権によって この世界を統治せねば、真の安寧は訪れないのです」
テリウス「言ってることは立派だけど、魔装機神や魔装機が いくらあったって、無理な話だろ」
テリウス「これ以上、戦乱を拡げたって、 喜ぶのはヴォルクルス教団ぐらいだよ」
カークス「……慧眼ですな、殿下」
テリウス(え……?)
ラテル(どういうことだ?)
カークス「テリウス殿下……今一度、御身のお立場と 我らの大義を慮っていただき、戴冠式に 臨まれますよう」
テリウス(……僕は、このままカークスの 言いなりになるのか……)
テリウス(でも……そうしなきゃ、この男は僕を……)
テリウス(クリストフ……僕は……)

(明るい森の中)

アルバーダ「……さて、ここに来て何日か経ったが…… どっちにも動きがねえな」
セレーナ「そうね。 いっそのこと、シュウと合流した方が良くない?」
アルバーダ「そういうわけにもいかねえ。 カークス軍の本陣が近いんだ…… 全員で固まってたら、見つかり易くなるぜ」
エルマ「あの……セレーナさん、アルバーダさん。 気になる映像を受信したんですが……」
セレーナ「映像?」
エルマ「ええ、何かの放送みたいです」
セレーナ「アウトプットできる?」
エルマ「ラジャ」
(モニターオン)

(中継映像:神殿の礼拝堂)

アナウンサー「……厳かな雰囲気の中、神聖ラングラン王国 第288代国王、テリウス・グラン・ビルセイア陛下の 戴冠の儀が行われようとしています」
アナウンサー「大神官ザボド卿の即位宣言が、 静寂の中にこだましています」
(ザボドとテリウスが現れる)
ザボド「……において、精霊の祝福と共にあり、 そなたが母、ナタリア・ゾラム・ラクシュミーと そなたが父、アルザール・グラン・ビルセイアの……」

(明るい森の中)

モニカ「そんな……テリウスが戴冠式を……!」
セレーナ「あの王子様の王位継承権って、 第三位じゃなかったっけ?」
モニカ「え、ええ」
アルバーダ「おいおい、 兄貴と姉貴をすっ飛ばしてんじゃねえか」
モニカ「私はともかく、 あのようなことをお兄様がお認めになるはずが……」
ヨン「先程の映像は、ラングラン王都から 放送されているものなんですか?」
モニカ「いえ、別の場所だと思います……」
セレーナ「じゃあ、どこで誰が……?」
ガエン「おそらく、カークスだろう」
アルバーダ「ふん……こいつは一波乱ありそうだな。 シュウとサフィーネが動くかも知れねえ。 いつでも出られる準備をしとこうぜ」
セレーナ「ええ、わかったわ」

〔戦域:荒地周辺〕

(北西端にウィーゾルとグランゾンがいる)
サフィーネ「シュウ様、カークス軍本陣で動きがありますわ」
シュウ「ええ、こちらでもキャッチしています」
チカ「敵襲ってわけじゃなさそうですねぇ」
サフィーネ「あっ、本陣からガディフォールが飛び出しましたわ」
シュウ「……もしかしたら、 彼が決意したのかも知れませんね」
チカ「彼って……テリウスですか?」
シュウ「ええ」
チカ「まさか、そんな。 『ツァオ・ツァオの話をすれば、ツァオ・ツァオが やってくる』なんてことは……」
シュウ「直接確認します。 サフィーネ、あなたはここで待っていて下さい」
サフィーネ「シュウ様お一人では危険ですわ」
シュウ「いえ、あなたは退路を確保しておいて下さい。 いいですね?」
サフィーネ「わかりました」
シュウ「では、行きますよ、チカ」
チカ「はい、ご主人様」
(グランゾンが撤退)


第15話
テリウスの決意

〔戦域:草原〕

(ガディフォールが出現、ガディフォール2機とブローウェルが出現。 先に出現したガディフォールが振り返る)
ラテル「お止めなさい、テリウス殿下。 それ以上抵抗されるのなら、我々は強硬手段に 訴えざるを得ません」
テリウス「く……来るなっ!」
ラテル「やれやれ…… レスリー、影縛りの用意は出来たか?」
レスリー「あと1分いただけますか」
ラテル「30秒だ」
テリウス「ち、近づくなっ! ぼ、僕は本気だぞ!!」
ラテル「よろしいですか、殿下。命令では、生死を問わぬと 言われておりますが……我々は、あなたを無事 連れて帰ろうと思っているのです」
ラテル「しかし、駄々をこねられるようでしたら、 御身の保証は……」
ミラ「アクロス少佐、 こちらへ地上人の戦艦が接近中です!」
ラテル「ちっ、気づかれたか。 ライオネス少尉、アハマド殿に連絡を」
ミラ「了解!」
(ブローウェルが黒い煙のような物をテリウス機に向かわせ、 ブローウェルとテリウス機が黒い煙のような物に覆われる)
テリウス「な、何だ!?」
レスリー「……影縛り、完了しました」
テリウス「えっ!? う、動けない!?」
レスリー「無駄ですよ、テリウス殿下。王族と言えど、 この影縛りから逃れることは出来ませぬ。 大人しくなさいますよう」
(南側にハガネが出現。所属している機動兵器が出撃)
フェイル「あのガディフォールに乗っているのは、 テリウスか!」
ノボス「テリウス殿下はカークスの下から脱走を……!」
セニア「しかも、魔装機を奪って……あの子が……」
フェイル「マサキ、テュッティ、テリウスを助けてやってくれ。 それで、カークスの目論見を打破できる」
マサキ「わかったぜ!」
ラテル(援軍が来るまで時間を稼ぐしかないか)
テュッティ「……あなた方はカークス軍の部隊ですね。 私は魔装機神ガッデスの操者、 テュッティ・ノールバックです」
ラテル「よく存じ上げていますよ。 私はラテル・アクロス。階級は少佐です」
ラテル「で、このような所へわざわざいらっしゃるとは…… どういうご用件でしょうか?」
エクセレン「あらら、堂々としらばっくれたわねぇ」
アヤ「時間稼ぎが目的なのかも知れないわ」
テュッティ「……アクロス少佐、私達はそこにいらっしゃる テリウス殿下を取り戻しに来たのです」
テリウス「テュ、テュッティ……」
ラテル「お待ち下さい、テュッティ殿。 テリウス殿下は我々にとっても重要な御方。 お渡しするわけにはいきません。例え……」
マサキ「例え、殺してでも……か?」
テリウス「く……うううううっ!!」
(テリウス機が影縛りの呪縛を解き、少し後退する)
マサキ「何っ!?」
テュッティ「え!?」
レスリー「馬鹿な、影縛りを破るなど……!  いくら王族の魔力が高いとは言え、人間技では!」
フェイル「テリウス……!」
テリウス「はあ、はあ……僕は……僕は、もう嫌だ!!  人の言いなりに動くのはもう……」
(北端にグランゾンが出現)
シュウ「その力……私が預かりましょう」
プレシア「!!」
マサキ「シ、シュウ!?」
フェイル「クリストフ……! 何故、ここに!?」
セニア「もしかして、目当ては!?」
プレシア「シュ、シュウ……!!」
マサキ「落ち着け、プレシア!」
テリウス「ク……クリストフ……」
シュウ「テリウス、あなたの力を見せていただきましたよ。 それだけの力があれば、何も怯えることはないのです。 さあ、私の下へおいでなさい」
テリウス「ぼ……僕が? 僕なんかの力が……?」
シュウ「ええ、あなたの力が必要なのです。 しかし、無理強いはしません。 あなた自身の意志が重要なのです」
セニア「クリストフ! あなた、何を言ってるの!?」
テリウス「……ぼ、僕は今まで……いつも誰かの陰に 隠れていたような気がする……」
テリウス「でも……クリストフ……僕の力が必要なら…… 僕と言う存在が必要なら……」
テリウス「僕を……僕を連れて行ってくれ……!」
シュウ「わかりました」
セニア「テリウス、本気なの!?」
マサキ「シュウの戯言に耳を貸すんじゃねえ!」
テリウス「セニア姉さん、マサキ…… 僕はクリストフと一緒に行く。 もう決めたんだ……邪魔しないでくれ……!」
フェイル「待て、テリウス!  お前は王位継承権を放棄する気か!?」
テリウス「に、兄さん……兄さんでも 僕を止めることは出来ない……」
フェイル「……!」
シュウ「では、行きましょう……テリウス」
(グランゾンが高速でテリウス機に隣接してから、 グランゾンとテリウス機が西端まで移動し撤退)
マサキ「あ、あの野郎!!」
ラテル「くっ! まさか、あの男が邪魔に入るとは!」
フェイル(テリウス……!)
マサキ「モニカ王女に続いて、テリウス殿下まで……!  シュウめ、いったい何を考えてやがんだ!?」
セニア(クリストフ……あなた、テリウスに 何をさせるつもりなの……?)

〔戦域:荒地周辺〕

(北東端にウィーゾルが待機している。ウィーゾルにシグナル)
サフィーネ(シュウ様が戻って来られた……)
(ウィーゾルの西側にグランゾンとガディフォールが出現)
シュウ「待たせましたね、サフィーネ」
サフィーネ「シュウ様、やはりそのガディフォールには テリウスが乗っていたのですね」
シュウ「ええ」
サフィーネ「……久しぶりね、テリウス」
テリウス「サフィーネか……」
サフィーネ「ふふっ、逡巡したとは言え、よく決断したわね。 褒めておいてあげるわ」
シュウ「チカ、追っ手は?」
チカ「マサキ達は追ってきませんが、 カークス軍の別働隊が接近中です」
シュウ「フッ……カークスは本物の方を消すつもりですね」
テリウス「……!」
シュウ「そして、あなただけでなく……フェイルロードも。 そうすれば、一気に片が付きますから」
テリウス「あ、ああ、そうさ……あの男はそこまでやるだろうさ」
チカ「ご主人様、追っ手が来ましたよ!」
(西側にカークス軍が出現)
シュウ「テリウス、あなたはそこにいて下さい」
テリウス「だけど、いくらお前達でもあれだけの数を……」
シュウ「心配することはありませんよ。 それに、援軍も来るでしょうから」
テリウス「援軍……?」
シュウ「ええ、私の仲間がね」
テリウス(仲間って……サフィーネ以外にも誰かいるのか?)
シュウ「サフィーネ、 敵機をテリウスに近づけてはなりませんよ」
サフィーネ「わかっておりますわ、シュウ様」
(作戦目的表示)

〈敵機を10機以上撃墜〉

(中央あたりで出撃準備)
アルバーダ「よう、取り込み中みてえだな。手を貸すぜ?」
シュウ「おや……あなた達、私を追って来たのですね」
ガエン「ふん、想定内だったのだろうが」
シュウ「フッ……」
モニカ「シュウ様、あのガディフォールは……」
シュウ「あれには、テリウスが乗っていますよ」
モニカ「え……!?」
テリウス「モニカ姉さん、何でこんな所に……!?」
モニカ「あなたと同じで、 私もシュウ様に助けていただいたのよ」
テリウス(シュウ?  ああ、クリストフの地上での名前か)
モニカ「そして、シュウ様のお力になると決めたの。 後悔はしてないわ」
ヨン「あの、テリウス王子って、 戴冠式に出ておられたんじゃ……?」
テリウス「あれはカークスが用意した僕の影武者さ」
セレーナ「え?  そのことがバレたら、大問題になるんじゃない?」
アルバーダ「ああ、カークス将軍の立場はなくなるな」
シュウ「話の続きは、 この場を切り抜けた後にしましょう」
ヨン「は、はい」
(作戦目的表示)

〈敵機全滅〉

チカ「ご主人様、追っ手は全ていなくなりましたよ」
シュウ「では、このまま離脱できますね」
アルバーダ「これで当面の目的はクリアできたってわけだ」
シュウ「ええ」
テリウス「それで、これからどこへ行くんだ?  僕は何をすればいいんだ?」
シュウ「ひとまず、アジトへ戻ります。 ここから早急に立ち去らなければ、カークス軍どころか 鋼龍戦隊と再接触しかねませんからね」
テリウス「わかったよ、クリストフ」
モニカ「テリウス、シュウ様をその名でお呼びするのは お止めになりなさい」
テリウス「姉さん、言葉遣いが変だよ。 それに、シュウって名前はどうも慣れないんだけど」
サフィーネ「そういう問題じゃないわ。 シュウ様がそう呼べと仰っているんだから、 絶対なの」
シュウ「……しばらくの間は構いませんよ。 さあ、アジトへ向かいましょう」
サフィーネ「わかりましたわ」


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