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忍び寄る隣人 クスハ ~ 第13話 ~

《火星 小バーム・SPACE AREA》

[小バーム]

リヒテル「何!?  妹が…エリカが行方不明だと?」
バルバス「も、申し訳ございません!  火星でリヒテル様をお待ちの際、外に出て 戦闘に巻き込まれた模様で…」
ライザ「その後、戦場を捜索したのですが 残念ながらお姿は発見出来ませんでした。 おそらく、地球人に捕らわれたものかと」
バルバス「そ、それならば、 まだご存命の望みが…」
リヒテル「黙れ、バルバス!  余の妹が地球人ごときに捕らわれ おめおめと生き長らえると思うか!?」
バルバス「は…はあ…その通りで…」
リヒテル「エリカも誇り高いバームの女だ。 父を殺した地球人の手に落ちるなど、 死に勝る屈辱…」
リヒテル「かような羽目に陥らば、 エリカは自らの手で死を選ぶに違いない。 よいか、余の妹のことは忘れろ」
マルガレーテ「お待ちください、若!」
リヒテル「マルガレーテか…」
マルガレーテ「若はたった一人の 妹君であるおひいさまを… エリカ様をお見捨てになるのですか?」
リヒテル「黙れ、マルガレーテ!  今は地球攻略こそが、余に課せられた 最大にして唯一の使命なのだ」
マルガレーテ「嘆かわしい…。亡きお父上 リオン大元帥がお聞きになられたら、 どれほどお悲しみになることか…」
マルガレーテ「加えて、ボアザンや 素性も知らぬゼーラの輩の力を借りるなど バームの誇りはどこに行ったのです?」
ライザ「マルガレーテ!  リヒテル様とエリカ様の乳母と言えど、 口が過ぎるぞ!」
マルガレーテ「………」
リヒテル「余もエリカの身を案じている。 …だが、今は成すべきことがあるのだ。 それはエリカもわかってくれよう…」
ライザ「偵察部隊の報告では、 現在、地球は本星とその周囲との間で 勢力争いの只中にあるとのことです」
リヒテル「ならば、この好機に 地球へ攻撃部隊を送り込む」
リヒテル「ライザ、 ボアザンのド・ベルガン殿と協力して 地球侵攻の第一陣を早急に準備せよ」
ライザ「はっ!」
リヒテル「バルバス、 そなたは地球人共の戦艦を追撃せよ」
バルバス「お任せ下さい、リヒテル様」
マルガレーテ(ああ…おひいさま…。 どうか…どうかご無事で…)

《移動中 火星から地球へ・SPACE AREA》

[大空魔竜・個室]

エリカ「う…うん…」
一矢「…気がついたかい?」
エリカ「こ…ここは…?」
一矢「心配しなくていい。 ここは大空魔竜の中だ。 今、この艦は地球に向かっている」
エリカ「大空魔竜…? 地球…?」
一矢「俺は竜崎一矢。 火星で倒れていた君をここまで 運んだ者だ。…君の名前は?」
エリカ「エリ…カ…」
一矢「エリカか…。 君にぴったりのきれいな名前だ…」
エリカ「………」
一矢「…もう少し君のことを 聞かせてくれないか?  火星での所属とか、家族のこととか…」
エリカ「わ…わからない…!」
一矢「え…?」
エリカ「な…何も覚えていない…。 自分が誰であったのかも…ああ…!」
一矢「落ち着いて、エリカ。 今はショックで思い出せないだけだよ。 焦らなくてもいいんだ」
エリカ「………」
一矢「今はゆっくり身体を休めてくれ。 また、見舞いに来るよ」
エリカ「ありがとう…ございます…」

[大空魔竜・ブリーフィングルーム]

ナナ「どうだった?  お兄ちゃんが助けた女の人の様子…」
一矢「意識は取り戻したよ。 今はOVAがついてくれている」
一矢「けれど、エリカという名前以外は 思い出せないそうだ」
健一「記憶喪失か…。 戦場でのショックが原因だろうな」
「…だったら、いいんだがな」
ナナ「え…? どういうこと?」
「向こう側には大使以外の人間も何人か 来ていた。それに加え、あの混乱だ…」
「本当に記憶をなくしているか 知れたもんじゃない」
一矢「……!」
京四郎「言えてるな。避難民の身元は まだ全員が確認されたわけじゃない」
比瑪「それって、もしかして……」
京四郎「ああ、バームのスパイかも知れん。 こちらの様子を探るために送り込まれた という線は充分考えられるからな」
ナナ「あんなきれいな女の人が…!?」
京四郎「わからんぜ。 きれいなバラにはトゲがあるってな」
レミー「そそ。あたしみたいにね」
キリー「…レミーはトゲだけだろ?」
レミー「あ~ら、そういうこと言ってると 刺さっちゃうわよ? トゲが」
真吾「…ご両人、 茶化していい空気じゃないようだぜ」
一矢「…彼女は… エリカはスパイなんかじゃない!」
「どうしてそう断言できるんだ?」
一矢「…根拠はない。 だが、彼女がスパイだなんて 俺にはどうしても思えないんだ」
京四郎「フン。 ゲーテ曰く『恋は盲目』か…」
キリー「さらに、 『一目惚れと勘違いは紙一重』…」
真吾「それ、誰の格言なんだ?」
キリー「俺のオリジナルさ」
レミー「ダメだ、こりゃ」
京四郎「一矢…今のお前は父を失い、 さらに女の色香にたぶらかされ 正常な判断力を失っている…!」
一矢「京四郎! 俺がまともな 判断力を失っているって言うのか!?」
京四郎「ああ。そうやってムキになって 突っかかって来るようじゃあな」
健一「二人とも、そこまでだ。彼女の 素性は今後、調べていけばわかる。 今、争ったって何にもならないぞ」
一矢「く…」
(足音・一矢が立ち去る)
ナナ「お兄ちゃん…」
京四郎「放っておけ。 今の一矢は親父を亡くしたショックで 女に走ったふぬけだ」
真吾「それに、エリカって子には 正直腑に落ちない点もあるしな」
比瑪「どういうことなんです?」
真吾「考えてもみろよ、 あの子は会談場の近くにいたんだぜ?」
キリー「そう、 一般人は立ち入り禁止の場所にな」
比瑪「あ…!」
「服装を見れば、軍人じゃなさそうだが… それだけに怪しい」
レミー「…あの子、地球人じゃないかもね」
比瑪「でも、 バームの人って翼が生えてるんでしょ?  あの人にはそんなのなかったわ」
「…引っ掛かるのはそこだけだ。 でも、それさえ何とかすれば… 他は地球人と変わらない」
比瑪「疑いすぎじゃない?」
「…人間ってのは、血を分けた 家族でさえ平気であざむくものなんだぞ。 …そう簡単に信用できるもんじゃない」
「ましてや、 それが別の星の人間なら……」
比瑪「勇…」
健一「………」

[大空魔竜・個室]

(扉が開閉する)
OVA「あら、一矢さん」
一矢「エリカさんの具合は?」
OVA「…相変わらずです。 こちらの問いかけにも ほとんど答えてくれません…」

エリカ「………」
一矢「エリカ…気分はどうだい?」
エリカ「一矢…さん…」
一矢「一矢でいいよ。その代わり、 俺も君のことをエリカって呼ぶよ」
OVA「じゃあ、一矢さん。 私はケン太君の所へ行って来ますので…」
(扉が開閉する・OVAが立ち去る)
一矢(…OVA、 気を遣ってくれたのかな…?)
エリカ「………」
一矢「そうだ!  君にプレゼントがあるんだ」
エリカ「え…これ、お花…?」
一矢「大空魔竜の中で育てた花だよ。 理由を話して分けてもらったんだ」
エリカ「きれい…」
一矢(君もきれいだ…)
エリカ「一矢…?」
一矢「あ…その…やっと笑ったね…」
エリカ「ありがとう…。 あなたの優しさが嬉しくて…」
エリカ「でも、 あなたは寂しそうな瞳をしている…」
一矢「そうかい…?」
エリカ「ごめんなさい…。 何だか無理をしているように見えて…」
一矢「火星で…父さんを亡くしたんだ…。 バーム星人に殺されて…」
エリカ「………」
一矢「平和を愛する父さんを 卑怯者呼ばわりして殺したバーム星人… 俺は奴らを絶対に許せない…!」
一矢「君が記憶喪失になったのも バーム星人の攻撃のためだ。 …奴らを倒すために俺は戦うつもりだ」
エリカ「………」
エリカ「でも、それでお父様は お喜びになるでしょうか…?」
一矢「え…?」
エリカ「あなたのお父様が亡くなられた 事情は私にはわかりません…」
エリカ「ですが、平和を愛するお父様が 仇討ちをお喜びになるとは 思えないのです…」
一矢(…その通りだ…。 俺は怒りのあまり、父さんの教えを 忘れるところだった…)
エリカ「出過ぎたことを言って ごめんなさい。でも、あなたの… 一矢の瞳があまりに悲しそうだったから…」
一矢「いや…ありがとう、エリカ。 君の言葉で目が覚めたような気がするよ」
一矢「そうだよな…。復讐のために戦って、 あの父さんが喜ぶはずがない…」
エリカ「一矢…」
一矢「不思議だ…君を前にすると自分の心に 正直になれる…。こんなことは初めてだ…」
エリカ(私も、この人を前にすると 自分の心を素直に語ることが出来る…)
エリカ(でも…何故なの…?  何故、この人の話を聞くと、 私は言いようのない不安を感じるの…?)
エリカ(まるで、この人の側にいては いけないかのような…)

[大空魔竜・ブリーフィングルーム]

大文字「…火星の件は バーム側の陰謀ですと?」
リリーナ「はい。こちら側にはリオン大元帥を 暗殺する理由がありません」
剛健太郎「さらに、あのタイミングで 毒を盛れる者はどう考えても……」
レディ「あの会談が バーム側の内部抗争に利用されたかも 知れないということですね?」
剛健太郎「ええ。極東支部の三輪長官の ように、バーム星人の中にも今回の会談に 反対していた勢力がいると思われます」
大文字「ならば、リオン大元帥が 暗殺された今、その勢力が…」
(アラート)
大文字「どうした!?」
ミドリ「木星船団の輸送船が バーム軍の攻撃を受けているようです!」
大文字「木星船団? こんな宙域に?」
レディ「現在、木星圏への船団派遣は 一時的に中断されているはずですが…」
大文字「…相手がバーム軍とあっては 見逃すわけにいきません」
大文字「総員、第1種戦闘配置!  これより木星船団の救援に向かう!」
ピート「了解!  避難民は中央ブロックへ避難急げ!  大空魔竜、発進する!」


第13話
忍び寄る隣人

〔戦域:サウザンスジュピター周辺暗礁宙域〕

(バーム軍がいる場所に大空魔竜が出現、出撃準備)
バルバス「フン、 やはり現れおったな…地球人の戦艦め」
ピート「ミドリ、 木星船団から救助信号は出ているか?」
ミドリ「ううん、何も。 こちらからの呼びかけにも応えないわ」
ピート「…妙だな、応戦している気配もない。 護衛のモビルスーツがいないわけじゃ ないだろうに」
大文字「詮索は後回しだ。諸君、木星船団の 艦を救出してくれたまえ!」
バルバス「ベルガンの力を借りるまでもない。 貴様らはこのバルバスの手によって、 ここで死ぬのだ!」
一矢「そうはさせるか!」
バルバス「む…?  貴様は確か、竜崎一矢…」
一矢「こっちには 元々お前達と戦う気なんてなかった…!」
一矢「だが、 攻撃をやめないと言うのなら 俺は父さんの仇を討つためじゃなく…」
一矢「仲間達や地球を守るために戦う!」
バルバス「フン、ちょうどいい。 貴様を討ち取り、リオン大元帥への 手向けにしてくれる!」
鋼鉄ジーグ「手向けだと?  冗談を言うんじゃねえ…あれはお前達が 仕組んだ暗殺だろうが!」
バルバス「暗殺だと!? 馬鹿を言うな!」
鋼鉄ジーグ「何だと…!?」
バルバス「会談を持ちかけたのは我々だ。 それが、何故にあの場所で大元帥を 暗殺せねばならんのだ?」
鋼鉄ジーグ「それはこっちの台詞だぜ。 そんなことをすれば、お前達から 総攻撃を受けることぐらいわかってる…」
鋼鉄ジーグ「俺達の方こそ、 あそこで大元帥を殺す理由がねえ!」
バルバス「な、なるほど…」
一矢「父さんやリオン大元帥は お前達の内部抗争に巻き込まれて 殺されたんじゃないのか?」
バルバス「馬鹿な!  リオン大元帥は立派なお方だ! 暗殺を 目論む者などいるはずがない!」
「…立派だからこそ、 命を狙われたんじゃないのか?」
バルバス「な、何!?  バームの長たるあのお方を…!?」
「…自分の目的のためなら、家族を 利用することすら厭わない連中だっている。 ましてや、それが権力がらみなら…」
バルバス「う…ぬ…!」
レミー「案外、当事者だったりして」
キリー「そりゃないだろう。 小細工が出来そうなタイプじゃないぜ」
レミー「そうねえ。 見た目はケルナグール系だもんね」
バルバス「ええい、うるさい!  どのみち、貴様らのせいであることに 間違いはないのだ!!」
バルバス「ここで貴様らを討ち、 禍根を断ち切ってやる!」
(作戦目的表示)

〈2PP〉

エリカ「あ、あれは…!」
ケン太「どうしたの、エリカ姉ちゃん!?」
エリカ(知っている…。 私はあのロボットを知っている…)
エリカ(だけど、思い出せない…!  ああ…そうじゃない…!  私はそれを思い出したくない…)
OVA「大丈夫ですか!?  顔が真っ青ですよ!」
エリカ「い、いえ……何でもありません…」

〈ガルンロール撃墜〉

バルバス「う、うぬうっ…!  やるではないか、地球人共め…」
バルバス「だが、覚えておれよ!  次こそは必ず!!」
(ガルンロールが爆発、撤退)

[大空魔竜・ブリッジ]

ミドリ「…バームの部隊の反応、消えました」
大文字「木星船団からの応答は?」
ミドリ「依然、ありません」
レディ「…やはり、怪しいな」
リリーナ「ここ最近、木星圏へ出発した 輸送船団はいません。となれば、 向こう側から来た艦と言うことに…」
レディ「ええ。 大文字博士、調査をした方がよいのでは?」
大文字「わかりました。 いったん木星船団から離れ、 調査メンバーを選抜しましょう」

[大空魔竜・ブリーフィングルーム]

万丈「…わかりました。 木星船団の艦へは僕が行きましょう」
レディ「では、頼む」
トッポ「万丈兄ちゃん、おいらも行くよ!」
万丈「ダメダメ。トッポはビューティや レイカと一緒に留守番だ」
トッポ「え~!? そんなのつまんないよ!」
万丈「あのね、 遊びに行くんじゃないんだから」
トッポ「チェッ。せっかく、 トビアと計画を立ててたのにさぁ」
万丈「トビアって…ああ、機械工学科の。 でも、それを聞いたら なおさら連れて行けないね」
ノイン「…万丈、 私を止めるような真似はしないな?」
万丈「もちろん、君なら大歓迎さ」
ノイン「では…ヒイロ、デュオ。 お前達も同行を頼む」
ヒイロ「了解した」
デュオ「潜入捜査なら、俺達の出番だからな」
(扉が開閉する)
カラス「…では、 私もご一緒させて頂きましょう」
ノイン「…ここは 民間人立ち入り禁止区域だが?」
カラス「申し訳ございません。うっかり 迷い込んでしまいました。その時に 皆さんのお話が聞こえましたもので…」
万丈「お気持ちはありがたいのですが… あなたが僕達に同行する理由は何です?」
カラス「私は若い頃、 サウザンスジュピターの艦内に 入ったことがありましてね」
カラス「何かあった場合、先方の艦内構造に 詳しい人間がいた方がいいと思いまして」
万丈「…なるほど、それは助かります。 じゃあ、ご協力をお願いしましょうか」


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