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ティーバの封印 ~ 第18話 ~

《神聖ラングラン王国 サイツェット州 ティーバ市》

[神殿跡]

アルバーダ「……ここがティーバの神殿か。 まさか、堂々と地上にあるとは思わなかったぜ」
サフィーネ「あら、言ってなかったっけ?」
アルバーダ「ま、聞いてなかったからな」
エルマ「見た所、放棄されてから だいぶ時間がたっているようですが…… 結構目立つ建物ですし、本当にこんな所に封印が?」
セレーナ「そういうのって、もっとわかりにくい所にあるのが セオリーなんじゃないの? 特に破壊神なんかを 封じ込めてるのは」
シュウ「封印という物は多種多様ですよ。 わざとわかり易い所に設置するケースもあります」
アハマド「今回はどうなんだ? ヴォルクルス関連の神殿は、 地下にあるものだと思っていたが」
シュウ「あの建物は、言わばカムフラージュで…… 封印は地下深くにあります。よほど詳細な調査を しない限り、わからないでしょうがね」
ヨン「その調査が行われている可能性は……」
サフィーネ「心配ないわ。見ての通り、誰もいないでしょ。 この手の遺跡は結構あるし、ラングラン軍も いちいち調べてる余裕なんてないから」
アハマド「確かにな。一連の騒動が始まる前は、 俺達魔装機操者にもヴォルクルス神殿の 調査依頼がいくつか来ていたぐらいだ」
サフィーネ「……あなた、後でここのことをチクる気でしょ」
アハマド「結果次第だな」
サフィーネ(どうだかね)
ガエン(地上人とは言え、正魔装機の操者だ。 シュウがどのようなつもりであっても、 ただで帰すわけにはいかん)
ヨン「ところで、あの…… 前からお聞きしたかったことがあるんですが」
サフィーネ「何かしら?」
ヨン「ヴォルクルスの封印って…… いつ、誰がそれを行ったんです?」
アルバーダ「おっ、言われてみりゃ気になるな」
チカ「言われなきゃ、気にならなかったんですか」
アルバーダ(迂闊なことを聞くわけにはいかなかったしな)
サフィーネ「その質問は微妙ねぇ。 教団の人間にとっては、面白い話じゃないし」
モニカ「あら、別によろしいじゃありませんか」
テリウス「そうさ、有名な伝説だろ」
セレーナ「伝説? 勇者が魔王を倒したとか、そういう感じの?」
モニカ「ええ。 5000年前、剣神ランドール・ゼノサキスが ヴォルクルスと戦い、封印したのですわ」
ヨン「5000年前って…… そんな昔にも魔装機のような兵器が 存在していたんですか?」
モニカ「その手の類の物はなかったはずです」
アルバーダ「じゃあ、何か? ランドールは生身で ヴォルクルスを封印したのか?」
モニカ「伝説では、そう言われておりますわ」
アルバーダ「とんでもねえリーサル・ウェポンだな。 ハリウッドで映画にしたら、売れるかもよ。 『ラングラン戦記』ってタイトルでどうだ?」
チカ「地上世界で映画化ですか?  ロイヤリティはちゃんと入ってくるんですかねぇ」
アルバーダ「お前が受け取るわけじゃあるめえし」
シュウ「……現在、ランドールの名は聖号となっています。 マサキは功績を認められ、それを賜与されていますよ」
アルバーダ「へえ……あいつ、こっちの世界じゃ偉いんだな」
エルマ「マサキさんのデータを更新しておく必要がありますね」
セレーナ「ええ、特技は方向音痴だけじゃないってね」
エルマ「どっちも特技じゃないですよ!」
アハマド「貴様らはマサキを知っているのか?」
アルバーダ「直接会ったことはねえが、俺達の業界じゃ サイバスターは結構有名でな」
アハマド「ふん……奴のことだ、甘い正義感で 方々に首を突っ込んでいると見える」
アルバーダ「マサキとは反りが合わねえようだな?」
アハマド「俺は、俺の信じた道を歩んでいるだけだ」
サフィーネ「二人には、風系の精霊と契約した機体に 乗ってるっていう共通点があるのにね」
セレーナ「ふ~ん、そうなんだ」
ヨン「ところで…… ここの封印は、どうやって解除するんですか?」
シュウ「解封の咒文を使います。 モニカ、テリウス、手伝っていただきますよ」
モニカ「わかりました」
テリウス「でも、僕は解封の咒文なんて……」
シュウ「この咒文記憶素子を額に貼り付けて下さい」
テリウス「これって、カークスの所から抜け出す時に使った……」
シュウ「インプットされている物が違いますがね。 では、地下神殿へ向かいましょう。 皆さん、機乗して下さい」
アルバーダ「ん? このまま行くんじゃねえのかよ?」
シュウ「フッ……私達はランドールではありませんからね」
ガエン「その例えを持ち出した理由を聞かせてもらおうか」
シュウ「生身では危険だということですよ。 地下神殿内は封印から漏出する瘴気で 満たされているでしょうから……」
シュウ「私やあなた、サフィーネならともかく、 アルバーダ達には耐えられませんよ」
アルバーダ「マジかよ」
シュウ「あと、物理的な封印……つまり、地下神殿直上の 岩盤を破壊しなければなりませんからね」
アルバーダ(こっちとしちゃ、万が一の時は グランゾンよりシュウ自身とやり合う方が 好都合なんだがな)
アハマド(……この男がシュウに時折向ける眼差し…… 間違いないな)


第18話
ティーバの封印

〔戦域:ヴォルクルス神殿周辺〕

(南端で出撃準備)
シュウ「……封印の力が最も強いのは、ここですね」
アルバーダ「ゴールに到達か」
エルマ「位置は地下神殿の最深部です。 でも、地上部と経年劣化の差があります」
セレーナ「ええ……上と違って、ここは機能しているみたい」
エルマ「しかし、エネルギー反応はありません」
セレーナ「霊的なものだからじゃない?」
エルマ「どうして、セレーナさんにわかるんです?」
セレーナ「女の子はスピリチュアルなことには敏感なのよ」
エルマ「またまた女の子なんて、そんな……」
アルバーダ「……俺に霊感はねえけどよ、 寒気というか、嫌な予感がするぜ。 瘴気のせいか?」
エルマ「空気は淀んでいますが、 毒性を持った成分は検出されていませんよ」
アルバーダ「成分とか、そういう問題じゃねえ…… 勘でヤバいってわかるんだ。 そこの王子様もそうみてえだぜ」
テリウス「……こ、この下にヴォルクルスが 眠っているのか……!?」
シュウ「事と次第によっては、そういうことになりますね」
ヨン「そうならない場合もある、と……?」
シュウ「私もルオゾールも、ヴォルクルス様の解封を本格的に 行うのは今回が初めて……探りつつの施行ですから、 想定外の事態が発生する可能性はありますよ」
テリウス「そ、そ、想定外って……」
モニカ「声が震えてるわよ、テリウス」
テリウス「そ、そりゃそうさ。 姉さんは怖くないのかい……?」
モニカ「シュウ様の傍にいる限り、怖いものなんてないわ」
チカ「あらら、言い切っちゃった」
シュウ「では、解封を始めましょう。 モニカ、テリウス。咒文記憶素子を付けて下さい」
モニカ「はい」
テリウス「わかった」
サフィーネ「シュウ様、私に何かお手伝いできることは?」
シュウ「今はまだ結構ですよ。 ……テリウス、『煉獄変断章』第六段、レギウスが マナクの親子に投げかけた言葉は?」
テリウス「そんなもの、知るわけ…… 『光強ければ、また闇も深く、遍く光照らさば、 遍く闇に覆われん』」
テリウス「え!? 何でこんなこと!?」
シュウ「咒文記憶素子のおかげですよ。 では、続いてモニカ……『煉獄変断章』第二段を」
モニカ「はい。 『我が神に比ぶるものなし、  我、唯一にして全てなり』」
テリウス「『その名を讃えよ、我が神の名を。 畏れよ、その名を』……」
サフィーネ「え? その咒文は……!?」
(奥の祭壇に黒い煙のような物が湧き上がる)
サフィーネ「シュウ様、違います!  第二段ではなく、第十二……!!」
(ヴォルクルス(上)が大量に出現)
ヨン「あ、あれがヴォルクルス……!?」
アルバーダ「1体じゃなく、ゾロゾロ出て来やがるとは……!  ハロウィンかっつーの」
セレーナ「お菓子をくれなきゃ、命を取っちゃうぞって?  冗談じゃないわよ」
ガエン「……我らの崇める神……あれが……」
サフィーネ「シュ、シュウ様、先程の咒文は!」
シュウ「……すみません、私のミスです。 解封には成功しましたが、ヴォルクルス様の 分身を誤った形で召喚してしまったようです」
ガエン「何……!?」
アルバーダ「誤った形って、どういうこった?」
シュウ「完全なお姿ではないということですよ」
ガエン「大司教ともあろう者が 何故、咒文を間違えたのだ!?」
シュウ「言ったでしょう、探りつつの施行だとね」
ガエン「貴様、まさか……!?」
(祭壇中央のヴォルクルスの目が光り、味方機の周りに爆煙)
ガエン「ぬううっ!」
テリウス「こ、攻撃して来た!!」
サフィーネ「そ、そんな!」
セレーナ「寝起きでご機嫌斜めって感じね」
アルバーダ「俺達地上人組はともかく、 信者のシュウ達まで攻撃すんのかよ」
アハマド「誤った形で、とはそういう意味でもあるのか」
アルバーダ「見境無しかよ。まさに破壊神だな。 今の所は化け物にしか見えねえが」
サフィーネ「こ、これでは……!」
シュウ「……仕方ありませんね」
サフィーネ「えっ!? まさか、ヴォルクルス様を……!?」
ガエン「貴様、正気か!?」
シュウ「ここで死ぬわけにはいきませんからね。 我らの神と言っても、あれは知性のない ただの分身ですから」
サフィーネ「し、しかし、ヴォルクルス様を手に掛けるなんて!」
シュウ「出来ませんか、私の頼みでも」
サフィーネ「う……!」
アルバーダ「こっちは異議なしだぜ。 食うのは好きだが、食われるのは御免被る」
アハマド「分身とは言え、ヴォルクルスはこの上ない強敵…… シュウ、貴様の言葉に偽りはなかったな」
テリウス「ぼ、僕もやるよ……こんな所で死にたくない……!」
サフィーネ「………」
シュウ「サフィーネ、無理はしなくてもいいですよ。 戦いたくなければ……」
サフィーネ「わ、私は……」
サフィーネ「私は、ヴォルクルス様の下僕である以上に シュウ様、あなたの部下です! 私も戦いますわ!」
シュウ「ありがとう……あなたは部下ではありませんよ。 前にも言いましたが、私の大切な仲間です」
サフィーネ「シュウ様……!!」
シュウ「では、ガエン……あなたはどうです?」
ガエン「貴様の判断は、教団に対する背信行為、反逆だ。 看過するわけにはいかん」
シュウ「ここで私を拘束して、その後はどうするのです?」
ガエン「貴様を拘束した上で、本部の指示を仰ぐ」
シュウ「その前に、 あなたはヴォルクルス様の分身に屠られますよ」
ガエン「それが神意なら、やむを得まい。 いずれ、ヴォルクルス様が完全に復活なされたら、 世界の新生のため、等しく死が与えられるのだからな」
シュウ「あなた、本気でそう思っているのですか?」
ガエン「………」
シュウ「ならば、言い方を変えましょうか。 ガエン、ここでヴォルクルス様の分身を始末なさい。 これは命令です」
ガエン「う……命令ならば……従おう……」
アハマド「何だ? 先程までの威勢はどうした?」
ガエン「命令には従う……それだけのことだ」
シュウ「では、あの分身達を片づけましょう」
(作戦目的表示)

〈vs ヴォルクルス〉

[シュウ]

シュウ「あなた達はただの分身…… 戦うことに何の躊躇いもありませんよ」

[サフィーネ]

サフィーネ「シュウ様の……シュウ様のためなら、 例え、ヴォルクルス様の分身が相手でも!」

[モニカ]

モニカ「おぞましい姿…… とても神だとは思えませんわね……!」

[テリウス]

テリウス「ううっ、こんなことになるなんて…… でも、やるしかない、やるしかないんだ……!」

[ガエン]

ガエン「あれが我らの神の分身……ならば、本当のお姿は……」

[アハマド]

アハマド「ふふふ、俺の選択は間違っていなかった。 こいつは手応えがありそうだ!」

[アルバーダ]

アルバーダ「ふん、あんなのが神だと?  ただの化け物じゃねえか!」

[セレーナ]

セレーナ「……シュウが私達を引き入れた理由、 何となくわかったかも」
エルマ「もしかして、今回のような状況を想定して……?」
セレーナ「ま、単純に 囮か盾にするつもりなのかも知れないけどね」

[ヨン]

ヨン「未知のエネルギー反応……アインストとは違う……!  データを取っておかなければ!」

〈敵機全滅〉

セレーナ「ふう……モンスター退治は何とか終わったわね」
シュウ「手違いはありましたが、解封には成功しました。 これで残るはトロイアの封印のみ」
ガエン「シュウ……今回の件も上に報告するぞ」
シュウ「構いませんよ。 あなたの主は、既に知っているかも知れませんがね」
ガエン「………」
シュウ「では、ここを出て、いったんアジトへ戻りましょう」

《神聖ラングラン王国 トロイア州 グリモルド山》

[ヴォルクルス神殿 内部]

サティルス「……報告があった。 クリストフ殿がティーバの神殿で 解封に成功したものの……」
サティルス「誤った手段でヴォルクルス様の分身を 解き放たれたらしい」
ルオゾール「手段を誤るなど、よもやシュウ様がそのような……」
サティルス「事実だ。ガエンが目の当たりにしておる。 しかも、クリストフ殿は躊躇うことなく ヴォルクルス様の分身に手向かい……」
サティルス「その全てを討ち滅ぼしたそうだ」
ルオゾール「何と……畏れ多いことを……。 これでは、我が神やあのお方に申し訳が立たぬ。 シュウ様を問い質さねば……」
サティルス「いや、その必要はない」
ルオゾール「何?」
サティルス「あのお方のお咎めはなしだ。 むしろ、貴公らの成果を評価しておられる」
ルオゾール「それは誠か?」
サティルス「うむ。このまま事を進めよと…… そして、そちらに靈装機を送るよう命じられた。 邪魔者を寄せ付けぬための壁となろう」
ルオゾール「承知した。私の方の準備は整いつつある。 ヴォルクルス様の真の復活は、もう間もなくだ……」

《神聖ラングラン王国 バオダ州》

[地下神殿跡]

ヨン「アルバーダ少尉、セレーナ少尉。 シラカワ博士からの伝言で、4時間後に ここを発つとのことです」
セレーナ「4時間後……そんなに余裕はないわね」
エルマ「いよいよヴォルクルスを復活させるんですよね……。 分身があのような姿なら、本体は……」
セレーナ「ま、相当な怪物でしょうね。 ラ・ギアスを滅ぼすってんだから」
エルマ「ガエンさんの言葉から推測すれば、 ヴォルクルス教団はそれを良しとしているようですが」
セレーナ「等しい死を、とか言ってたわね。 こっちにとっちゃ、冗談じゃないけど」
ヨン「あの……シラカワ博士も それを受け入れるつもりがないような気がします」
アルバーダ「……何故、そう思う?」
ヨン「サフィーネさんやガエンさんと違い、 ヴォルクルスの分身と戦うことに 躊躇しなかったからです」
アルバーダ「シュウは誰が相手でもそうじゃねえか」
ヨン「私、思うんですが…… シラカワ博士は、ティーバの神殿でのようなケースを 想定して、私達を引き入れたんじゃないでしょうか」
エルマ「ボクも同じ考えです」
アルバーダ「奴がヴォルクルスと戦う気だってのか?  いったい、何のために?」
セレーナ「二度も死にたくないからじゃない?」
ヨン「その可能性もありますが、 シラカワ博士はヴォルクルスの力を 独占する気なのでは……?」
アルバーダ「……!」
ヨン「おそらく、ヴォルクルスを復活させても、 簡単にその力を得られるわけではないのでしょう」
ヨン「下手をすれば、ティーバの神殿の時のように 分身が襲い掛かってくるかも知れません。 あるいは、教団が敵になる可能性も……」
セレーナ「だから、私達を仲間にした……」
アルバーダ「……俺達は奴の盾代わりか」
セレーナ「あるいは、人身御供かもね」
アルバーダ「奴はヴォルクルスの力を手に入れて、 何をするつもりだってんだ?」
ヨン「教団の実権を手に入れるとか、 ラ・ギアス全土を支配するとか…… 他にも色々考えられますが……」
ヨン「実際の所は、シラカワ博士本人に聞いてみないと……」
アルバーダ「……よし、直接問い質すか」
セレーナ「本気? 迂闊な詮索は禁物でしょ」
アルバーダ「わかってる、冗談だ。 ちょいと腹ごしらえをしてくらあ」
(足音・アルバーダが立ち去る)
セレーナ(ナーバスになってるわね……仕方ないか)
ヨン「私達、無事に地上へ戻れるんでしょうか……?」
セレーナ「生き延びたければ、ここから出て 鋼龍戦隊に合流した方がいいんじゃない?」
ヨン「い、いえ、それは……」
セレーナ「私達のことは気にしなくていいわ。 何だったら、脱出を手伝ってあげるけど?」
ヨン「そ、そういうわけにはいきません」
セレーナ(やっぱり、 この子にも事情があるみたいね、シュウ絡みの)


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