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折れた翼、砕けた爪 キョウスケルート ~ 第1話 ~

新西暦 179年
太陽系冥王星外宙域

〔戦域:暗礁宙域〕

(アラート・爆煙。ヒリュウはバグスに囲まれている。側にジガンスクードもいる)
ダイテツ「本艦の 被害状況を報告せよ!」
ショーン「第4から第9ブロック、 第2艦橋大破。第1、第2主砲、 共に使用出来ません」
ダイテツ「ジガンスクードは!?」
ショーン「正体不明機に 包囲されて身動きが取れません」
ダイテツ「ぬうっ…!」
ショーン「艦長、 彼我戦力差が大きすぎます。 ここは撤退すべきでしょうな」
ダイテツ「おのれ…!  手も足も出んとは、このことか!」
ショーン「虫に似たあの物体は 明らかに我々より高度な技術で 作られています」
ダイテツ「ならば、異星人…!?」
ショーン「…おそらくは。その上、 多勢に無勢……さらに、敵機の 大きさと数から考えて…」
ショーン「母艦、あるいは移動要塞が 近くにいるのかも知れません。 …このままでは非常に危険です」
ダイテツ「うぬっ…!  ようやく人類が太陽系外へ 足を踏み出したというのに…!」
ショーン「お気持ちはわかります。 ですが、ここは撤退を」
ショーン「これ以上、 ヒリュウに損害を受ければ……」
ショーン「地球どころか、 火星へ戻ることも 不可能になりますぞ?」
ダイテツ「…やむをえん!  ジカンスクードを回収し、最大戦速で この宙域から離脱する!」
ダイテツ(この屈辱……忘れんぞ!!)


新西暦と呼ばれる時代。

人類が宇宙へ本格的に進出してから
2世紀近くがすぎていたが、
人々の生活そのものは21世紀初頭と
さほど変わらない時代…。

その理由は、落下した2つ隕石による被害と
混乱のため、人類の進歩が一時的に
停止したからであった。

そして、新西暦179年。
3つめの隕石『メテオ3』が、南太平洋
マーケサズ諸島沖に落下した。

地球連邦政府の調査団による調査の結果、
その隕石は人工物であることが判明。
そこには人類にとって全く未知の物質と技術の
情報が封印されていた。

それらは『EOT』と称され、
『EOT特別審議会』と『EOTI機関』による
厳重な情報管理の下、調査が進められた。

そして、EOTI機関の代表者である
ビアン・ゾルダーク博士は、研究結果から
地球外知的生命体による侵略の危機を
地球連邦政府や地球連邦軍に示唆…
それを受けて人型機動兵器、
通称『パーソナルトルーパー』の開発が
開始された………。

《極東支部司令部》

ハンス「…以上だ。お前には、 この機体のテストをしてもらう」
キョウスケ「中佐…質問が」
ハンス「何だ? 言ってみろ」
キョウスケ「資料を見ました。 この機体…ビルトラプターは、 可変時の安定精度が極めて低い…」
キョウスケ「とても実戦テストが できる代物だとは思えません」
ハンス「実戦テスト?  馬鹿なことを言うな。標的の戦車には ペイント弾しか装填させておらん」
ハンス「せいぜい機体が 汚れるぐらいだ。貴様が 掃除すればよかろう?」
キョウスケ「…実弾でなければいいと いうわけではありません」
ハンス「貴様、 私の命令が聞けないというのか?  あ? キョウスケ・ナンブ曹長」
キョウスケ「いえ。…やれと言われれば やります。そこに命を賭けることに 異論はありません」
キョウスケ「ただ、 被弾するにせよ、回避するにせよ… 危険はつきまとうことになります」
キョウスケ「今の不完全な状態では、 戦闘データも満足に取れません」
キョウスケ「にも関わらず、貴重な 新型パーソナルトルーパーのテストを 強行する意味があるのかと…」
キョウスケ「そう疑問に思っている だけです」
ハンス「事情を知らぬ一兵士が 生意気な口を利くな」
キョウスケ「しかし、 ゲシュペンスト2号機は 無理なテストがたたって…」
キョウスケ「機体ごと行方不明に なったと聞いていますが?」
ハンス「実験を重ねてこその戦果だ。 そんな噂に踊らされるとは、 案外肝の小さい男だな」
キョウスケ「……」
キョウスケ(現状では、制空権を 確保出来るパーソナルトルーパーの 開発が急務だというのに…)
ハンス「さっさとテスト場へ向かえ、 キョウスケ・ナンブ曹長」
キョウスケ「…了解、失礼します」
(扉が開閉する)
ハンス(気にいらんな…あの男。 まあいい、欠陥機を押しつけられた のだからな…)
ハンス(…マオ社に負い目を作る 絶好の機会…あの男には、そのための 生け贄になってもらわねばな…)
ハンス(クク…フフフ…)


第1話
折れた翼、砕けた爪

〔戦域:伊豆基地周辺〕

オペレーター「ビルトラプター、 フライヤーモードで離陸しました」
オペレーター「ターゲットドローンの 配置完了。AI設定確認、異常なし」
イルム「よう、準備はいいか?  キョウスケ」
(ビルトラプターが出撃)
キョウスケ「いつでも構いません」
イルム「よし。データは こっちで取っておいてやる」
キョウスケ「よろしくお願いします、 イルムガルト中尉」
イルム「ビルトラプターは、 初の可変型パーソナルトルーパーだ。 くれぐれも無茶するなよ」
イルム「レイカー司令の留守中に 事故でも起こしたら、後で 面倒なことになるからな」
キョウスケ「了解です」
ハンス「では、始めろ。…好きにやって かまわん。どうせペイント弾だ」
キョウスケ「…了解」
ハンス(そう、当たれば落ちる…な)

〈初戦闘〉

[キョウスケ]

キョウスケ「…機体バランスが 取りにくい…。月の人間の重力感覚が おれ達とは違うせいか…?」
キョウスケ「どうもなじまんが… 仕方がない。やってみるか…!」
(戦闘)
キョウスケ「ペイント弾…!?  いや、今のは…実弾か…!」
キョウスケ「ハンス中佐! こちら キョウスケ・ナンブ曹長です。 ハンス中佐…!」
オペレーター「中佐、パイロットから エマージェンシーコールです!」
ハンス「つなぐな。試作機なのだから、 調子が悪いのは当たり前だ。それに、 最近の若いのは泣き言ばかりで困る」
イルム「何言ってんです、中佐!  ドローンに実弾が装填されてるって 話、俺は聞いてませんよ!」
ハンス「フン…いちいちそんなことを お前に報告する義務があるのか?」
イルム(! こ、こいつ…!)
キョウスケ「…くっ、どういうことだ?  …どうあれ、切り抜けなければ ならんということか…!」

〈敵機全滅〉

ハンス(…頃合いか)
ハンス「キョウスケ曹長、 なかなかの腕前だな。次は… 緊急時変形テストをしてもらおうか」
イルム「何だって!?  あんた、どういうつもりなんだ!?  今の状態で変形なんかしたら…!」
キョウスケ「中佐、説明して下さい!  何故、ドローンに実弾が…!」
ハンス「いいからテストを行え。 それとも、怖いのか?  あ? キョウスケ・ナンブ曹長…」
キョウスケ「…了解。 ラプターの緊急時変形を試します」
キョウスケ(どうやら… はめられたらしいな)
キョウスケ(ちっ、運を天に 任せるしかないということか)
イルム「やめろ、キョウスケ!  戻って来い!!」
ハンス「中尉、越権行為だぞ」
イルム「ふざけるな!  あんた、キョウスケを殺す気か!?」
ハンス「口の利き方に気をつけろ、 イルムガルト中尉…」
キョウスケ「…くっ、ままよ…!」
(橋の下、海上へ移動し変形・稲妻が落ちる)
キョウスケ「変形…しきらない…ッ!」
キョウスケ「ぐ、うおおっ!」
(ビルトラプター爆発)
イルム「キョウスケッ!!」
オペレーター「緊急事態発生!  ビルトラプターが海中に!!  曹長! キョウスケ曹長っ!」
ハンス「何ということだ。…おお、 あのような優秀なパイロットを 失ってしまうとは…」
ハンス「これはマオ・インダストリーに 厳重な注意と抗議をせねばならん」
ハンス「イルム中尉、 すぐに機体を回収し、月へ送り返せ」
イルム「!」
ハンス「いいか、今回の件はマオ社の 責任だ。そのことをリンに…貴様の かつてのパートナーに伝えておけ」
イルム「あ、あんたは…!」
オペレーター「中佐!」
ハンス「何だ?  指示が聞こえなかったのか?  ビルトラプターを回収して…」
オペレーター「パイロットの 生存を確認しました!!」
ハンス「な…何だと!?  あの爆発でか!?」
イルム「キョウスケ!  応答しろ、キョウスケ!!」
キョウスケ「う…うう…」
ハンス(ぐ、ぐうう… 何という悪運の強い奴…!)
ハンス(やむをえん…。事故を理由に あの男…この極東支部から 放り出すしかあるまい…面倒な)
キョウスケ「どうやら…無事…らしい。 う……アバラは何本か…持って いかれてるか…」
キョウスケ「また…生き残ったらしい。 …やれやれ…」


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